夫のテルは、何の相談もなく新築一軒家を建て、義両親との同居を決めた。私に一切の相談もないまま、彼は言い放った。
「来週から俺の両親も同居させることにした。そのための新築一軒家だからな。分かったらさっさと準備しろ。嫌ならお前が出ていけ」
私は静かに笑みを浮かべて答えた。
「分かったわ。ばっちり準備しておくから任せて」
夫は満足そうに笑った。「俺は明日から1週間出張に行ってくる。引っ越しの準備はお前が全部やっておけ。俺の荷物は丁寧に扱えよ」
私は心の中で笑っていた。夫は本当に愚かな男だ。
1週間後、夫は義両親を連れて新居へやってきた。私は準備を済ませ、新居の前で待っていた。義両親は私に頭を下げて言った。
「裕子さん、同居を提案してくれてありがとう。今日からお世話になるよ。本当に嬉しいわ。もう私たちは年だけど、できることは自分たちでするからね」
私は義両親に笑顔を向け、新居の中へ案内した。夫と2人きりになった瞬間、夫は得意げに言った。
「ご苦労様だったな、裕子。じゃあ先に俺の荷物から片付けろ。丁寧に扱えよ」
私はにっこりと笑って言った。
「もう全部終わったわよ。あなたの荷物はあなたの愛人に送っておいたわ。丁寧にね」
夫の顔色が一瞬で変わった。「は? 何て言った?」
「だから、あなたの荷物はあなたの愛人に送っておいたのよ。丁寧にね」
夫は怒り狂った。
「お前、自分が何を言ってるのか分かってるのか? ふざけたこと言ってんじゃねえ!」
大声で怒鳴る夫の声は当然、義両親にも聞こえていた。何事かと慌てて戻ってきた義母が心配そうに言った。
「テル、どうしたんだ? そんなに大声で怒鳴るなんて。一体何があったの? そんなに強く言ったら裕子さんがかわいそうよ」
夫は必死に言い訳を始めた。
「いや、荷物を片付けてたんだけどな。裕子があまりにも荷物を雑に扱うもんだから見ていられなくなって……腹が立ってしまって」
「裕子さんが雑? 本当かしら」
義両親は半信半疑の様子で、私のことを確認しようとした。私ははっきりと告げた。
「テルの荷物は彼の愛人に送りました。そう伝えたら大声で叫び始めたんです」
義両親は驚いた。「愛人? どういうこと?」
夫は必死に否定した。「違う! 裕子は何か勘違いしているんだ。俺に愛人なんかいるわけないじゃないか!」
しかし、私は動じなかった。「新築一軒家を立てること、お2人と同居することも、テルは私に相談なく決めたんです。そして、同居を断ったら家を追い出すと脅されていたんです」
義両親は困惑し、夫を問い詰めた。夫はさらに言い訳を重ねるが、私は反撃の時だと胸ポケットからボイスレコーダーを取り出した。
「ねえ、テルさん、これが何だか分かる?」
「なんだよそれ。分かるわけないだろ」
「これはボイスレコーダーよ。ここに私が嘘をついていない証拠が残されているから、再生するわね」
夫は慌てて止めようとしたが、私は再生ボタンを押した。そこには1週間前の夫の言葉が録音されていた。
「来週から俺の両親も同居させることにした。そのための新築一軒家だからな。分かったらさっさと準備しろ。嫌ならお前が出ていけ」
音声を聞いた夫は顔面蒼白になっていた。「なんだよこれ。なんでこんなものがいつの間に……!」
実は私は、普段から夫にいびられていたため、証拠を集めるために常にボイスレコーダーを持ち歩いていたのだ。義両親の表情が険しくなり、夫に向かって言った。
「裕子さんはこんなにいい人なのに、テル、あなたは何を考えているの? 全く、このバカ息子が!」
夫はさらに言い訳をしようとするが、私は別の音声を再生した。そこには夫が私に暴言を吐く姿が収録されていた。さすがに夫は観念して謝罪した。
「分かったよ。お前をいびっていたことを認めるよ。本当に悪かったよ。ごめん」
しかし、私は許さなかった。「謝るのはいびりのことだけ? 愛人がいることもそうよね」
すると、今度はスマホを取り出して映像を流した。そこには、私の財布からお金を抜き取る夫の姿が映っていた。
「テルさんがこんなことをし始めたのは、新築一軒家の購入を決めた後からだったわね。調べてもらったのよ。そしたら、あなたが愛人に貢いでいることが分かったのよ」
夫は必死に否定するが、私は大量の写真をばらまいた。そこには夫が愛人と腕を組み、ホテルに入っていく姿が写っていた。義両親は激怒した。
「テルさん、これはどういうことなの? 裕子さんを裏切るなんて許せないわ!」
すると夫は開き直ってしまった。「ああ、うまくやれてると思ったんだけどな。まさかここまでバレてるとは思わなかったぜ」
「俺が一軒家を購入したのは、ゆくゆくはレミと一緒に住むためだよ。そのためには裕子が邪魔だったからな。めちゃくちゃいびってやれば離婚したくなるに決まってるから、それを狙っていたんだよ」
私は呆れて言った。「じゃあ、残されたお父さんとお母さんはどうなるのよ?」
「そんなの決まっているだろう。適当な理由をつけて、父さんにも母さんにも出ていってもらうつもりだったよ」
義両親は怒りが頂点に達した。「このバカ息子が! どこまで自分勝手なことを言えば気が済むんだ!」
だが夫は止まらない。「俺にとってはレミが1番なんだよ。レミのためなら、必要のないお前らを捨てることなんて簡単なんだよ!」
義父が今にも殴りかかりそうになる。私は冷静に夫へ告げた。
「テル、あなた、レミさんに騙されているのよ。レミさんにとって、あなたはATM程度の存在よ」
「なんだと? お前、調子に乗るなよ!」
私は鞄から通帳と1枚の写真を取り出して夫に見せた。そこには、レミから私に慰謝料が振り込まれた記録と、レミが別の男性とタワマンに入っていく写真があった。
「レミさんがテルさんと浮気していることを知って、振り込まれるお金よ。もう慰謝料はもらったのよ。そして、このタワマンにはレミさんと本命の男性が住んでいるの。あなたの荷物も、そこに送っておいたわ」
夫は膝から崩れ落ち、頭を抱えた。「うわ……くそ……」
私は最後に一言告げた。
「人を騙すなら、騙される覚悟もしておくことね」
私はその場を去り、義両親と共に新居を後にした。
その後、夫は新築一軒家で1人暮らしを始めたが、やがてレミに捨てられた。レミは夫を含めた複数の男性と二股をかけており、全ての男に捨てられた後、夫の家に何度も押しかけるようになった。夫は私に助けを求めて電話してきた。
「お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ!」
「何を言ってるのよ。自業自得じゃない」
「レミのやつ、結局は全ての男たちに捨てられたんだよ。そしたら、何事もないかのように俺の家に何度も来るようになりやがった。助けてくれよ」
「もう私には関係ないから、自分でどうにかしなさい。話は終わりよ」
私は電話を切った。その後、義両親とは良好な関係を保ち、彼らからは「私たちのことを本当の両親だと思ってくれていいから」と言ってもらえた。私は新しい人生を前向きに歩き始めた。
数年後、私は両親と旅行に出かけた帰り道、スーパーで信じられない光景を目にした。そこには、浮気をしている夫と、その相手の女性がいた。しかも、その女性は私の友人であるレミだった。さらに、彼らにはベビーカーに乗った子供がいたのだ。
「素敵なご家族ですね。お買い物ですか?」
私は声をかけた。夫は驚き、「よ、よう子? こんなところで何してるんだ?」と動揺した。
「ねえ、出張はどうしたの? あと、そっちの女は誰?」
隣にいた女性が顔を上げ、私は驚いた。そこには友人のレミが立っていた。彼女は学生時代からの付き合いで、元々夫との出会いも彼女からの紹介だった。
「レミ? どういうこと?」
「違うの! これはたまたま……」
「さっき、この子が夫を『パパ』って呼んでたのを聞いたわ」
レミは観念したように言った。「そのままの意味よ。この子の父親はタクト君」
私たちは近くのファミレスに移動し、2人を問い詰めた。夫とレミは、結婚前から関係を持っていたことを認めた。
「いつからあんたたちは浮気していたの?」
「タクト君が結婚する前からよ。そもそもタクトを紹介してきたのはレミでしょ? よう子に紹介した後、私もタクト君のこと好きになっちゃったの。だから奪っちゃった」
私は怒りで震えた。「つまり、夫と結婚してからの3年間、交際期間を含めるともっと長い期間、2人に騙されていたのね?」
レミは冷笑しながら言った。「親友? 学生の時からあんたのことなんか鼻についていたのよね。地味なくせにブランドバックとか持ってるし、勉強もできて誰からもちやほやされちゃってさ」
さらに夫は言った。「俺はよう子と出会う前からずっとレミのことが好きだったんだ。やっと思いが通じて、レミを幸せにするには社長になるしかないって思って、お前と結婚したんだ」
その時、父が怒りに震えて立ち上がった。
「タクト、お前は首だ。不倫の慰謝料もきっちり払ってもらうぞ」
夫は驚いた。「え、社長? それだけは! レミと子供を養っていかなくてはいけないんです!」
「よう子のパパが社長なの? そんなこと聞いてなかったわよ!」
実は、夫の会社は私の父が代表を務める会社だった。夫は私と結婚したことで「次期社長候補」と言われていたのだ。父はまもなく定年退職するため、来月には発表の予定だった。
夫とレミは開き直って言った。
「分かりました。用は離婚して会社もやめます。タクト君は優秀だから、他の会社でも十分やっていけるわよ。私が支える」
数ヶ月後、私は夫と離婚し、夫は会社を首になった。レミは出産時に仕事をやめており、貯金もなく、両親からは絶縁された。2人には慰謝料をしっかり請求した。
元義両親は息子の全面的な味方で、「息子の新しい人生の邪魔をしないでちょうだい」と言われた。どうやら夫の計画を事前に知っていたらしい。
その後、私は両親と暮らし始めた。新しい生活が落ち着いてきた頃、元夫とレミが家に押しかけてきた。
「話をさせてくれ。子供がいるんだ。お父さんの会社にどうにか再就職させてもらえないか?」
私は断固として拒否した。「何を言ってるの? あなたたちがされたことを、私が許すと思って?」
夫は「お前がSNSで拡散したせいで誰も相手にしてくれなくなった!」と言った。確かに私はこの件をSNSに投稿していた。2人と共通の友達も大勢いたため、全員に知れ渡った。2人は友人を全て失い、その地域で暮らしづらくなって、結局どこかへ引っ越していった。
その後、私は風の噂で、2人が別の地域でそれぞれ必死に働きながら子供を育てていることを聞いた。私は心から思った。子供に罪はないから、その子供だけでも幸せになってほしいと。
そして今、私は双子の母として幸せに暮らしている。夫とは離婚し、私はフルタイムで働いている。父が紹介してくれた会社で、理解のある女性社長のもとで働いている。
「ママ、洗濯物畳んでおくね」
「僕はお片付けするね」
「2人ともありがとう。ママ助かっちゃうな。ご褒美に、今日はアイスがあるぞ」
「やった! アイス大好き!」
双子たちはすくすくと成長し、今では家事の手伝いもしてくれる。仕事しながらの育児は大変だが、この子たちを産んで本当に良かったと思っている。私はこれからもこの幸せを大切にしていこうと、今日も双子たちの寝顔を見ながら誓うのだった。



