「中卒が作ったゴミ部品は不要だろう」――そう言って、俺が2ヶ月かけて作り上げた試作品をゴミ箱に投げ捨てたのは、47億円の大型案件の担当者だった。飲み会で「低学歴の貧乏人」と侮辱された俺は、それでも仕事を続けた。だが、彼は自分のミスを俺に押し付け、遂には手塩にかけた作品を壊した。その作品は、国内で俺とたった一人の人物にしか作れない、超精密加工が求められる代物だった。部長がその事実を知った時、彼…

「中卒が作ったゴミ部品は不要だろう」――そう言って、俺が2ヶ月かけて作り上げた試作品をゴミ箱に投げ捨てたのは、47億円の大型案件の担当者だった。飲み会で「低学歴の貧乏人」と侮辱された俺は、それでも仕事を続けた。だが、彼は自分のミスを俺に押し付け、遂には手塩にかけた作品を壊した。その作品は、国内で俺とたった一人の人物にしか作れない、超精密加工が求められる代物だった。部長がその事実を知った時、彼...

中卒の俺が作った部品はゴミだと言い放った取引先の部長。その傲慢な男が、47億円の大型案件をぶち壊しにしようとしている。俺はもう我慢の限界だった。

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「中卒が作ったゴミ部品は不要だ。」

そう言い放った部長は、俺とチームメンバーが必死に作り上げた試作品をゴミ箱に投げ捨てた。物を作る人間の思いを、自分勝手な理由で踏みにじる。部長は俺が最も嫌うタイプの人間だった。しかし、俺は知っていた。近いうちに、この部長には天罰が下ると。

俺の名前は清水。30歳。小学校5年生の時、祖父が経営していた精密部品の工場が潰れた。原因は大手の取引先だ。

「こんな貧乏工場で作ってるものなんて、他の会社でも作れる。」

そう言われ、技術を買い叩かれ、値下げを要求され続けた末に、経営不振で倒産した。結果、我が家は多額の借金を背負うことになった。この時のことは、今思い出しても腹立たしい。

中学生になった俺は、新聞配達で生活費を稼いだ。その後、精密部品の製造を手掛ける技術系の企業に就職。一生懸命働いて、25歳の時に借金を完済した。苦労して育ったこともあり、お金と物の大切さを人一倍学んだと自負している。

学生時代の恩師からも「物を粗末にすることは、作った人の思いも踏みにじることだから、どんなものもできる限り丁寧に使うように」と言われていた。借金を返済してお金に余裕が生まれた今でも、無駄遣いはせず、壊れたものは直して使い続けている。

ある日のこと、俺は大型案件の打ち上げに参加していた。少し手伝った程度だが、案件責任者の石川部長に誘ってもらったのだ。最初はみんな楽しくお酒を飲んでいたけれど、ある人物のせいで徐々に空気が悪くなる。

「おい、もっと飲めよ。」

顔を赤くして自分の部下に絡んでいるのは、取引先の仙田部長だ。今回の案件は、仙田部長の会社との合同事業で、打ち上げにはお互いの会社の社員が多数出席している。周りの人たちは困った様子で仙田部長の相手をしていた。

俺は遠くから事態を見守りつつ、「酒癖が悪い人なのかな」と頭の片隅で考える。すると、近くにいた仙田部長の会社の若い人たちが、ひそひそ声で話しているのが聞こえてきた。

「仙田部長、親のコネで大学に進学したんだろう。親の会社を継がなかったらしいな。しかも副社長と同じ大学っていう理由だけで昇進したって聞いたぞ。」
「案件が成功したのも、俺たちがサポートしたからであって、あの人は何もしてないよな。」

この会話だけで、仙田部長がとんでもない人物だというのが分かった。俺も止めに入ろうかと悩んでいると、仙田部長は近くにいた俺の後輩の女性社員に絡み始める。後輩社員は、これが初めての大きな案件で、無事に成功させるために連日残業で対応していた。

後輩の頑張りを知っていた俺は、仙田部長のせいで台無しにさせたくないと思い、慌てて駆け寄り2人の間に割って入る。

「やめてください。」

「あ?なんだ、お前は。」

仙田部長は目と眉を吊り上げ、俺に絡み始めた。

「えっと、清水さんですよね。お手数をおかけして申し訳ございません。」

部長の隣にいた部下らしき若い男性は、慌てた様子で部長に俺のことを伝える。

「取引先の清水さんですよ。今回の案件を手伝っていただきました。この方、とても腕がいいんですよ。」

「そういえば、中学を出てすぐ働きに出たと聞きましたが。」

よほど慌てているのか、いらぬことまで口にしている。それに、この人が語っている俺の経歴は少し語弊があった。訂正しようと口を開きかけた瞬間、

「はっ、要するに低学歴の貧乏人ってことか。」

仙田部長が嫌な笑みを浮かべ、俺を攻撃し始めた。

「俺は家が医者で金持ちのエリートだぞ。副社長にも可愛がられている。お前みたいな奴は、俺に指図できる立場じゃねえんだよ。」

そう言いながら、持っていたコップの中身を俺にかけてきた。寸前で避けたので被害はなかったけれど、俺が避けたのが気に食わない部長はヒートアップする。

「お前、表出ろ。」

手を出されそうになったが、石川部長が俺を逃してくれた。

「これ以上騒ぎになる前に、帰った方がいい。」

暴れる仙田部長を複数の社員が抑えつけている間、俺は急いで打ち上げ会場を後にした。

「色々な意味ですごい人だったなあ。」

家に戻る途中、ため息をつきながらつぶやく。できれば、2度と関わりたくない相手だと思った。

この事件から半年後、石川部長に呼び出された俺は、ある仕事を任されることになった。47億の大型案件だ。

「内容を確認し、チームリーダーにはお前が適任だと判断した。責任は重大だ。やってくれるか?」

「はい。」

石川部長は俺を信頼して、重要な仕事を任せてくれた。その期待に答えたいと思い、迷うことなく了承する。

今回の案件は、仙田部長の会社からの依頼だ。一瞬戸惑ったけれど、石川部長から渡された書類によると、担当者の欄には「渡辺」と書かれていた。仙田部長は今回の案件に無関係のようだ。ほっと胸を撫で下ろしつつ、翌日早速取引先へ打ち合わせに向かった。

今日は渡辺さんと顔合わせをしつつ、案件について軽く話をする予定だ。ところが、案内された会議室で俺を待っていたのは、偉そうにふんぞり返っている仙田部長と、申し訳なさそうな様子の渡辺さんだった。

「担当者が変更になった。」

仙田部長がぶっきらぼうに告げる。その後の打ち合わせは散々だった。自分に恥をかかせた俺のことをしっかり覚えていて、1時間の打ち合わせはほぼ部長の嫌みで幕を閉じる。

打ち合わせ終了後、会社の外まで追いかけてきた渡辺さんが、謝罪と合わせて今回の件について教えてくれた。

「仙田部長、ここ半年ほどは業績が一切ないんです。その上、部下に対する高圧的な態度が上層部にバレて、立場が危ういと噂になってまして。本人もかなり焦っているんでしょうね。なんとしても業績を出したくて、担当者を無理やり変更したんです。」

事情は分かったが、納得はできない。仙田部長が担当者になることで、今後何かしら問題が起こるのは間違いないだろう。あの時の飲み会で、仙田部長の部下はこう言っていた。

「部長って、副社長の後ろだけで昇進しただけで、仕事は全然できないよな。」

もしあの言葉が本当だったら、この案件は失敗に終わるだろう。しかし、俺に担当者を変えさせる権限はなかった。

「そうですか。わかりました。」

渡辺さんの説明にも、こう返すしかない。会社へ戻る道すら、何度もため息が漏れた。

案件着手の直後、仙田部長は早速問題を起こす。部長の連絡ミスが原因で、作業の遅延が出たのだ。しかし、部長はこれを俺のせいにする。

「お前がちゃんと確認しないからだ。」

一方的に怒鳴られても、俺は何も言えなかった。相手はこちらに仕事を依頼している立場で、しかも大手企業だ。一方我が社は、社員数60名の中小企業。まともに相手をしたところで、勝てる可能性はほぼなかった。

仕方ない。俺が残業して対応しよう。チームメンバーに迷惑はかけられない。仕方なく俺が遅れた分をフォローしたけれど、おかげで家にまともに帰れない日が1週間ほど続いた。

俺が苦労している間、部長はさらなるミスを重ねる。他社へ材料を依頼する際、発注ミスをして2倍量を注文したのだ。そのせいで仙田部長の会社は余分な在庫を抱えるはめとなり、案件の予算も圧迫される。すると、部長は今度は部下の渡辺さんのせいにした。さらに、その責任の一部を俺にも押し付けようとする。

仙田部長は俺の会社に電話をかけ、上司である石川部長に嘘を吹き込もうとした。

「今回の件は部下の渡辺の責任ですが、清水さんの確認漏れも原因では。」

仙田部長はよほど口がうまいらしい。電話を受けた石川部長は、一瞬だけ言葉に詰まっていた。たまたま近くにいた俺は、この会話を耳にして、「まさか石川部長も俺を疑っているのか」という不安に襲われる。

電話を切った石川部長は、俺にこう言った。

「念のため、確認してくれないか?」

「わかりました。」

信頼している相手に疑われるのは、とても傷つくことだ。その夜、悔しさで一睡もできなかった。布団の中で何度も仙田部長の声が蘇り、証拠を探すペンを持つ手が震える。自分を信じてくれていたはずの人にまで疑いの目を向けられる。それがこんなにも応えることだとは知らなかった。

翌朝、俺はかなり落ち込みつつも、仙田部長の言っていることが嘘だと証明する証拠を見つけ、石川部長に提出しつつ説明した。

「あの方は、俺を貶めています。自分のミスを俺にすり付けるのが目的なんです。」

「とんでもない人だな。すまない。お前を疑うような真似をして、本当に悪かった。」

石川部長は深く頭を下げてくれた。

「いえ、構いません。部長がそう言ってくださるだけで、十分です。」

疑いは晴れたが、この出来事は俺の心に傷となり残った。

それから2ヶ月後、仙田部長の妨害やミスのすり付けもありつつ、ようやく試作作品が完成した。会議室で待っていると、苛立っている様子の仙田部長が入ってくる。続けて入ってきた渡辺さんが、耳打ちで事情を教えてくれた。

「別の案件の打ち上げで、酒に酔って騒いで店から注意されたんです。酒の失敗はこれまで何度もあって、上層部からも厳重注意されたんですよ。」

「それでよく部長が勤まるな」と思ったが、副社長の後ろ盾が相当強力なのだろう。そんなことを考えていると、スマホを見ながら部長が机に手を置こうとする。部長の手の先には、俺が机に置いていた試作品があった。試作品は尖っている部分が多く、触る時は注意が必要だ。

部長はよそ見をして机に手を置き、体重をかけようとしていたので、試作品が思いきり刺さってしまった。

「いっ、たあ。」

そう叫んだ次の瞬間、

「なんでこんなところにゴミを置いてんだよ。」

そう叫び、作品をゴミ箱に投げ捨てたではないか。

「何するんですか?」

慌ててゴミ箱から試作品を引っ張り出すが、詳しく見るまでもなく壊れていた。大切な試作作品が。

「ああ、それ試作品だったの?」

仙田部長は一切悪びれず、ニヤニヤと笑いながらこう続けた。

「中卒が作ったゴミ部品は不要だろう。」

部長の言葉を聞きながら、俺はあることを思い出していた。大手に買い叩かれて潰れた祖父の工場だ。倒産が決まった時、祖父は泣きながらこう言っていた。

「あいつらは俺の会社だけでなく、俺たちの思いも踏みにじったんだ。」

この時俺の中に湧いたのは、激しい怒りだ。それと同時に、この2ヶ月の記憶が頭の中で次々と弾ける。連絡ミスを押し付けられ、残業で深夜まで家に帰れなかった日。発注ミスの責任まですり付けられそうになった。石川部長にまで疑われ、一睡もできなかったあの夜。積み重なった理不尽が、今この瞬間に限界を超えた。

この仕事に携わる人間を侮辱した扱いし、その思いまで軽く扱う。祖父の件もあり、俺はそういう人間が一番許せないタイプなのだ。そして、仙田部長は祖父の会社を潰した奴らと似ている。爆発しそうになる怒りを抑えながら、俺は口を開いた。

「もう我慢の限界です。契約は破棄してください。俺個人にそれを決める権限はありませんが、今日のことは会社に正式に報告させていただきます。」

「え。」

驚いた声を出したのは、渡辺さんだ。仙田部長も目を丸くしていたが、すぐに厚かましい笑みに戻った。

「はっ、上等だ。別の会社に依頼すればいいだけの話だからな。」

俺は試作品を鞄に入れると、黙って会議室から出ていく。渡辺さんは申し訳なさそうな顔をしていたけれど、部長の手前、俺を追いかけることもできない。会社を出た後、俺はため息混じりにつぶやく。

「あの試作品は、俺にしか作れないのに。」

そう言ったところで、俺に訪ねる人もおらず、そのまま会社を後にした。

翌日、昨日は仙田部長の会社から直帰だったため、石川部長には電話で報告だけしていた。出社後、部長に改めて報告する。

「そうか。仕方ない。47億の大型案件だ。社長には報告しなければならん。社長はあと1時間したら会社に来るとのことだ。それまで、俺はことの次第をまとめた報告書を作る。」

下書きが完成して一息ついていると、受付の女性から来客を告げられた。

「仙田部長と渡辺さんと、もう1人いらっしゃっています。」

「なんだって。」

アポイントもなしに何の用だ。そう考えながら会議室へ向かうと、そこにいたのは意外な人物だった。

「清水さん、お世話になっております。」

俺は言葉を失った。そこにいたのは、取引先のトップである加賀谷社長だったのだ。

「昨日の件、渡辺から報告を聞きました。」

渡辺さんも我慢の限界だったらしい。昨日、俺が帰った後、直接社長に報告しに行ったのだという。加賀谷社長は呆気に取られた様子で仙田部長を見つめながら続けた。

「仙田君を可愛がっている副社長は、次期社長の有力候補。一方の私は、すでに力を失っていると噂されておりましてね。」

仙田部長は加賀谷社長にも舐めた態度を取り続けていたらしく、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだという。

「今回の部品は、国内で清水さんと、本社の専務である大谷さんにしか作れない代物です。」

加賀谷社長の言葉に、俺はあの試作作品の重みを改めて噛みしめた。あの部品は、寸法の誤差が髪の毛1本分も許されない超精密加工が求められる。素材は熱や衝撃に弱く、削り方1つで内部に見えない歪みが生じ、一瞬で使い物にならなくなる。大谷専務からその加工法を叩き込まれ、数えきれないほど失敗作を作っては怒られ、それでも諦めずに練習して、ようやく身につけた技術だ。生半可な知識と経験では、絶対に再現できない代物だった。

「なんでお前が、そんなものを作れるんだよ。」

仙田部長が困惑した様子で問いかける。

「大谷専務は、俺が高校時代にお世話になった恩師なんです。この会社に就職できたのも専務のおかげで。中卒だなんて、一言も言っていませんよ。」

そう、打ち上げで訂正しようとした経歴とはこれだった。両親が節約して学費を貯めてくれたおかげで、俺は高校に進学できたのだ。

「他人にミスをすりつけるのも、話を聞かずに決めつけるのも、あなたの悪い癖ですね。」

社長が眉を潜めたので、俺はこれまでの経緯を詳しく話した。

「な、なんてこと。お前がゴミ箱に捨てたのはただの試作品じゃない。47億だぞ。国内で2人しか作れない貴重なものなんだ。」

社長が短い悲鳴をあげる。俺が怒られているわけではないけれど、あまりの威圧感に体が震えそうになった。

「も、申し訳ありません。」

とうとう泣き出した仙田部長は、立ち上がると社長に向かい謝罪の言葉を口にする。

「誰に頭を下げてるんだ?相手が違う。ちょっと考えれば分かるだろう。」

仙田部長が俺の方へと体を向け、消え入りそうな声でこう言った。

「大変申し訳ございませんでした。」

怒られてかわいそうという気持ちはあるが、ここで簡単に許しては仙田部長のためにならない。謝罪を受け入れたら、部長はまた同じことを繰り返すだろう。今回の件は、心の底から反省するいい機会だ。

「あなたはずっと自分の失敗から目をそらし、他人のせいにし続けてきた。その悪癖は、本社に大きな悪影響を及ぼすはずです。渡辺さんも。」

「部長がいなければ、部署はもっと円滑に回ります。」

加賀谷社長は、担当者の変更と仙田部長、そして副社長への厳しい処罰を約束してくれた。

「しょ、処罰?謝ったじゃないですか。」

「謝って終わるわけがないだろう。」

力なく椅子に座り込む部長に、俺は静かに言った。

「真面目に仕事をしていれば、こんなことにはなりませんでしたよ。」

呆然自失の部長は、がっくりと肩を落とした。

それから3日後、担当者は渡辺さんになり、仕事が再開された。壊れた試作品の弁償は仙田部長が負担することになり、我が社は修理する手間だけで済んだ。

「仙田部長は、左遷が決まりました。工場長がかなり厳しい方で、単身赴任になるそうです。奥様は離婚も視野に入れているとか。」

渡辺さんが教えてくれた。後日、仙田部長を可愛がっていた副社長も、監督責任を問われ降格になったと聞き、黒幕まできっちり報いを受けたのだと知って、ようやく肩の力が抜けた。

あの飲み会で仙田部長に絡まれていた後輩も「先輩が守ってくれたおかげで、あの案件を最後までやり遂げられました」と、わざわざお礼を言いに来てくれた。一方、俺は渡辺さんとの仕事をスムーズに進め、無事に47億の案件を成功させることができたのだ。

石川部長からは「お前のおかげだ。今回の件、昇進の話も期待しておけ」と声をかけられ、これまでの苦労が報われた気がした。

祖父の工場を潰した奴らのような人間に、二度と大切な仕事も、俺たちの思いも踏みにじらせはしない。そう改めて心に誓いながら、俺は次の仕事に向き合うことにした。

「では清水さん、何かあればいつでもご連絡ください。」

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします。」

笑顔で渡辺さんと固く握手を交わす。この仕事が片付いたら、渡辺さんを誘って飲みにでも行こうかと思っている。

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