父が亡くなって半年後、十年以上音信不通だった姉が「今日からここで暮らすから」と笑顔で実家に戻ってきた。遺産目的かと思いきや、姉の本当の狙いは私の夫だった。夫は姉にべったりになり、ある日突然私に「女性として見られない」と離婚を告げ、二人で海外へ逃げた。呆然とする私に、姉からLINEが届いた。「最初からトビ太さんをもらうつもりで戻ったの」ーーその時はただ泣くしかなかった。しかし一年後、母から渡さ…

父が亡くなって半年後、十年以上音信不通だった姉が「今日からここで暮らすから」と笑顔で実家に戻ってきた。遺産目的かと思いきや、姉の本当の狙いは私の夫だった。夫は姉にべったりになり、ある日突然私に「女性として見られない」と離婚を告げ、二人で海外へ逃げた。呆然とする私に、姉からLINEが届いた。「最初からトビ太さんをもらうつもりで戻ったの」ーーその時はただ泣くしかなかった。しかし一年後、母から渡さ...

父が亡くなった後、音信不通だった姉が突然実家に戻ってきた。私はてっきり遺産目当てだと思っていた。でも、姉の本当の目的は私の夫だった。夫と姉は二人で金を持って海外へ逃げた。私は裏切られ、呆然とするしかなかった。しかし、それから一年後、私はあの二人に思いもよらない形で報いることになる。

私はタカコ、三十歳。何年か前、家族の中で大きな問題が起きた。当時の話を聞いてほしい。

学生時代、私は両親と二歳上の姉、ワシミの四人で暮らしていた。こう言うと語弊があるが、お金に余裕がある恵まれた環境で育ったと思う。しかし、そんな家庭で姉は中学生の頃から学校をサボり始め、親のお金をこっそり抜き取っては遊び歩いていた。何度も注意されると、「うるさい! お前らには関係ないだろ!」と怒鳴り散らしていたのを今でも覚えている。

姉は普段から素行が悪く、真面目だった父とはとても仲が悪かった。高校を卒業すると、姉は一人でどこかへ引っ越してしまった。今思えば、親は未成年の姉の居場所くらい知っていたのだろう。母の話では、多少の仕送りはしていたらしい。しかし、それでも姉とは連絡が取れなかったようだ。

元々性格が正反対で、仲が良かったわけでも、悪かったわけでもない私たちは、連絡が取れないことに特に困らなかった。いないことも気にせず、これまで過ごしてきた。

それから私が二十七歳になった頃の話。当時、私には結婚を考えている彼氏のトビ太がいた。トビ太は四歳年上で、髪が少し長めの男性だった。本人曰く、髭や髪の毛の生えるスピードが速いらしい。これが後の夫になる人だ。

結婚を七ヶ月後に控えた私は、父の知り合いが運営するドレスショップへ両親と一緒に下見に行った。今思えば、この時が幸せの絶頂期だったと思う。これから幸せな生活を送っていくんだと心を躍らせていた翌月、父が突然倒れてしまったのだ。

父は一時的に回復したものの、半年後に亡くなった。当然、結婚は延期。悲しみにくれていたところに、今まで顔を出さなかった姉が突然現れた。

「ヤッホー。今日からここで暮らすから」

そんな呑気な言葉と共に、小さな荷物だけを握りしめて実家にのこのこ現れた姉。父の遺産は、遺言書に書いてあった内容の通り、母と私がほとんどを相続し、残りの一部を姉が相続した。

「父さんとは仲が悪かったけど、あんたとは仲が悪かったわけじゃないからね。お母さんから連絡が来て、あんたの結婚式くらいには参加したいと思って急いで戻ってきたのよ」

そう話す姉を見て、きっとお金に困って帰ってきたのだろうなと思った。本人が言うには、今まで家に顔を出さなかったのは父がいたからで、帰りたくなかったわけではないらしい。仕事はどうしたのか聞こうと思ったが、十年以上会っていなかった再会でそんなことを聞くのは野暮だと思い、やめておいた。

数ヶ月後、私はトビ太と結婚した。夫とは友人経由で知り合い、付き合って一年という短い期間での結婚だ。だから、夫にはあまり家の事情を伝えていなかった。母と姉のいる実家へ顔を出した時、私に姉がいることを初めて知った夫は驚いていた。

「あんな綺麗なお姉さんがいたんだな」

「ああ、うん」

私も驚いたが、姉は十年以上会わないうちにとても綺麗になっていた。本人が言うにはプチ整形らしいが、それでも綺麗になった姉を羨ましくも思った。

夫はどうやら姉を気に入ったようで、姉が困っていればすぐに助け、姉の召使いのように動き回っていた。

「ワシミさん、喉渇いてませんか? お茶と水、どちらがいいですか? 他の飲み物が必要なら買ってきますよ」

私にはお茶すら入れてくれたことがないのに、いつもニコニコと姉に話しかけている。

「いや、こんなにブランド品を身につけて似合う人、なかなかいないですよ。美人でお金もあって優しくて、文句のつけようがないですね」

なんて褒めている。姉も褒められて悪い気はしないようだった。初めは夫も、美人が目の前にいればそうやって尻尾を振るのだろうと思った。私も好きなイケメン俳優が目の前にいれば同じように尽くすだろうし、自分の姉だと思って大して気にしていなかった。

そんなある日、夫からふと質問された。

「今更なんだけど、実家ってすごいお金持ちだよね。お父さんって何してたの?」

「不動産とか株とか投資してたらしいよ。元々は大手の企業の役員だったしね」

「へえ。じゃあ遺産もたくさんあったでしょ。お前ももらってるんじゃないの? お金あるなら俺にも少しくらい分けてくれよ。いくら相続したんだ?」

夫の質問に、私は嘘の金額を教えた。

「たった十万だけ。お母さんと、あとはお姉ちゃんが相続した」

「ああ、そりゃ妻であるお母さんにほとんど行くよな。じゃあお姉さんがブランド物をたくさん持っているのは遺産のおかげか。なるほど、納得したよ」

夫は独り言のようにブツブツ呟いて、自分の部屋へと戻っていった。嘘の金額を教えた理由は、夫の金遣いの荒さにもある。「少しくらい分けてくれよ」と笑っていた夫だが、冗談半分、本気半分。むしろ本気度の方が高かったかもしれない。あればあるだけ使う人だから、大金なんて渡すことはできないし、財布も別々に管理していた。

この日から、夫の姉への態度は日に日に度を超えるものになっていった。そして、結婚してからもうすぐ二年を迎えようとしていた頃、私は夫に離婚を言い渡された。

突然のことに驚いた私は、離婚したい理由を聞いた。

「タカコのことを女性として見ることができない。君との子供が欲しいとも思わないし、離婚するなら早い方がいいだろう」

夫からそう言われて、私は女性として見られていないことにショックを受けた。悲しい気持ちだったが、愛されていない結婚に意味はないと考え、私は離婚を受け入れた。

そんな私に、さらに衝撃的な出来事が起こる。それは、元夫と姉が再婚して海外に逃げたことだ。元夫の浮気相手は、姉だったのだ。

それを知ったのは、元夫が家を出ていき、二人で暮らしていた部屋に一人残された時だった。呆然としていると、母から電話がかかってきた。

「知っているかもしれないけど、ワシミとトビ太さん、再婚したらしいの。二人で新しい人生を歩むとか言って、さっき出ていったわ」

母の言葉に、私は言葉が出なかった。その電話を受けて初めて、元夫が私を捨てて姉を選んだのだと知る。そして、タイムリーなLINEの通知。

「トビ太さんは私のことが好きみたい。奪っちゃってごめんね。遺産を受け取る前に、友人からあなたが結婚するって聞いたから、遺産の分配額も文句言わないで了承したのよ。意味わかる? 最初からトビ太さんをもらうつもりで一時的に戻ったの。こんな簡単にいくとは思ってなかったけど、あなたは父さんからの愛を受けていたし、お金もあるのだから問題ないわよね。さようなら」

姉の裏切りに、私は悲しさを通り越して笑えてきてしまった。そして色々と考えていくうちに、なぜ私がこんな悲しい思いをしなくてはならないのか、なぜこんな仕打ちを受けなければならないのかと腹が立った。私は姉の連絡をブロックした。

二人は絶対にうまくいかないだろうと確信していた。理由は明白だ。

半年が経った頃、元夫のトビ太から電話が来た。

「遺産はワシミがほとんど受け取ったんじゃないのか?」

「いきなり何?」

「海外にいるんだけど、ワシミに払わせようとしたら金がないって言うんだ。お前とは連絡がつかないって言うし、俺が仕方なく支払うしかないだろう」

「いや、それでなんで私に連絡するの?」

「お前がワシミに金があるって言ったんだろ。だから当てにしてたのに。お前のせいで金が払えないんだから、今すぐに送金しろ」

私は姉がお金を持っているなんて一言も言ってない。それになんで裏切った人間を助けなきゃいけないの?

「もう電話してこないで」

私は電話を切り、すぐに着信拒否をした。

それからさらに二年後、元夫と離婚してから一年が経った。もちろん拒否しているのもあるが、あれから元夫と姉からの連絡は一切来ることがなく、平穏に暮らしていた。仕事も順調で、休みの日は友人と楽しく過ごしていた私にある訪問者が現れた。

インターホンが鳴り、モニターを確認すると、そこには髭面の怪しげな人が立っていた。「怪しげ」と言うのは言い過ぎかもしれないが、よく言っても汚いおじさんだ。

「どちら様ですか?」

「開けてくれ」

「え、どなたですか?」

「俺だよ、俺」

「俺って誰ですか?」

「元夫の俺だよ。トビ太だよ」

髪の毛をかき分け、自分の顔を晒した男。それはロン毛で髭も伸び放題、体型も太くなり、変わり果てた元夫の姿だった。

「ちょっと話がしたいんだけど」

私は家にあげることに抵抗があり、外で話すことにした。

「何の用?」

「お姉ちゃんは?」

「はあ?」

いや、その実、元夫がボソボソと小声で話す内容によると、あの後、元夫と姉はお金がなくて海外のATMでキャッシングしたそうだ。浪費癖のある元夫は大した貯金もなく、姉のお金を当てにしていた。

「え、それで姉は?」

「知らん。海外からなんとか戻って来れたんだけど、旅行先でのことでワシミとは喧嘩して。その流れでそのまま離婚したよ」

「何それ? 私のことを裏切っといて、すぐに離婚するなんて」

「だからこうして会いに来たんだ。俺ともう一度やり直そう」

「何言ってるの? 誰が何のメリットもなく、浮気症の借金まみれ男と結婚するのよ。それに、あなたの目当てはお金でしょ」

図星を突かれた元夫は顔を歪めながらため息をついた。

「元を言えばお前のせいなんだからな。ワシミに金があるって嘘をつかなければ、今でもお前と結婚してたんだ。俺とやり直さないなら、キャッシングした金を返せ」

「勝手に勘違いしたのはあなただし、それは自業自得でしょ。お金に目がくんで浮気する時点で、そこに愛がないじゃない。結婚する意味なんてどこにあるの?」

「愛? 結婚する意味も何も、そもそもお前の親に金がなければ結婚してなかったんだからな。金なんて余るほどあるんだし、お前みたいなのが使いこなせるわけないだろう。いいから黙って俺に金を渡せよ」

元夫は声を荒げた。

「あなたがそういう態度を取るなら、私からも話があるわ。本当は関わりたくないから話すつもりではなかったんだけど」

私が元夫に話したのは、浮気に関してだ。

「はあ? また浮気をぶり返して何になる? もしかして今更慰謝料を請求しようとしてるのか?」

「知ってる? 離婚して三年までは、浮気の慰謝料を請求することができるのよ」

元夫は目を見開いて驚いていた。

「で、でも証拠なんかないだろ。浮気したなんてどうとでも言えるもんな」

慌てつつも切り返したつもりの顔をした元夫。そんな元夫に、私はスマホから一枚の写真を見せた。

「これでも、まだそんなことを言ってられるの?」

その写真を見た元夫は顔面蒼白になっていた。

「なんでお前が証拠なんて持っているんだよ」

私が見せたのは、元夫と姉の浮気を証拠付ける写真だ。

なぜ写真を持っているのか。それは母から受け取ったものだ。私は元夫と離婚してから頻繁に実家に顔を出すようになった。そんな時、母が突然話し始めたのだ。

「あなたがもう吹っ切れているみたいだから話すけど、離婚する前からトビ太さんとワシミは浮気していたのよ」

「ああ、うん。まあ、そうだろうね。元夫は姉にデレデレしていたから」

母は話を続けた。

「私に話した方があなたのためになるのか、話さない方があなたのためになるのか。そんなことを考えていたら、いきなりあなたとトビ太さんが離婚して。私の考えも整理がつかないまま、二人でどこかへ行ってしまったから、今まで黙っていたの」

「まあ、もう何とも思ってないよ。当時はすごくショックを受けたけど、二人の浮気の証拠もないし、今更慰謝料も請求できないしね」

私がそう返事をすると、母はテーブルに一枚の封筒を置いた。

「タイミングを逃してしまったけど、証拠はあるのよ」

母が差し出した封筒の中には、元夫と姉の浮気の証拠写真があった。

「え、これどうしたの?」

「あなたが困った時に役に立てるかと思って、探偵に頼んで証拠を集めていたの。お父さんも、あなたが幸せになるように祈っていたわ。もし必要になった時に使いなさい」

そう言ってくれた。

「ふん。慰謝料を請求しようとしたって、金のない俺からは何も取れないぞ。今はフリーターだからな」

元夫は姉と海外に逃げるために仕事もやめていた。海外にいた間はニート生活。そのまま姉のヒモになろうとしたけどなれず、いやいやアルバイトをしているのだ。

「そう。それならいいわ。アルバイトをしているだけで十分よ。すぐに弁護士から電話が行くでしょうね」

弁護士という言葉を聞いた元夫は、慌て始めた。

「ちょ、ちょっと待って。分かった。今までのことは謝るよ。金に目がくらんで、お前の姉のワシミと浮気をしたけど、後悔してるんだ。許してくれ。土下座でも何でもする」

「土下座したいの?」

「あ、ああ、土下座する。この通りだ。これで許してくれるよな」

元夫は私の目の前で土下座をした。

「土下座したら許すなんて、言ってないけどね。ええ、結婚前はあなたがこんな人だったなんて思ってもいなかった。私が後悔しているのは、あなたとの結婚よ。今後、私に用があるなら弁護士を通してちょうだい」

私の言葉を聞いた元夫は、肩を落としてうなだれていた。結婚当時の面影はなく、落ちぶれた元夫がアスファルトに膝まずく姿を見て、私は不思議と心がすっきりとした気持ちになった。こんな気持ちになるということは、今まで心の奥底では悲しんでいたのだろう。

それから私は弁護士を通じて、元夫に慰謝料を請求した。元夫は長いことごねていたが、最終的に分割で支払うことで同意した。もちろん、姉にも慰謝料を請求。姉はトビ太と離婚してから、知り合いの店で働いていたらしいが、過去に騙していた男性に突きまとわれて逃げた。そうしてお金もなく、当てもなく、ただ彷徨っていただけの姉は、実家に帰ってきた。

「ごめんなさい。幸せそうなあなたが羨ましくて、ちょっとした気の迷いだったのよ」

姉は泣きながら謝ってきた。だけど、私たちは姉の性格を分かっている。とりあえず謝っておけば実家でまた暮らせるだろうと思っているのだ。

「タカコが許したところで、うちには置かないわよ。自分で住み込みで働くなり、なんとかしなさい」

母にそう言われた姉は、「そんなあ……」とテーブルに突っ伏して泣いていた。

「そんな演技も意味がないし、そんな嘘泣きしたところで何の意味もないからね」

母に釘を刺されて顔を上げた姉は、黙って家を出ていった。

それから約一年が経った今も、元夫とワシミから分割で慰謝料を払わせている。お金があるのに、ここまで労力をかけてまでなぜ慰謝料を払わせたいのか。それは、何もなかったことにはしたくないし、何より二人への制裁を与えるためだ。私への慰謝料を払い終わるまで、元夫も姉も必死に働くことだろう。自業自得とは、このことだ。

私は毎月支払われる二人の慰謝料を、自分の趣味への投資に当てていて、とても有意義な生活を送ることができている。

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