高級寿司店で家族と昼食をとっていると、隣の席で見知らぬ親子がひどく侮辱されている光景を目にした。ママ友の美ゆさんが、ボロボロの服を着た母子に向かって大声で罵声を浴びせている。地域のボスママとして君臨する美ゆさんは、夫がヤクザの若頭であることを鼻にかけ、いつも周囲を見下していた。私の夫も息子も、その光景に戸惑いながら黙っている。
美ゆさんは、その親子が味噌汁しか注文しないことに気づくと、さらに嫌味を浴びせる。「貧乏人が高級店に来るな」と笑いものにするのだ。母親が静かに意見を言おうものなら、美ゆさんは激昂して席を立ち、その顔面を思い切り殴りつけた。母親は床に倒れ込み、声を上げて泣き出した。幼い息子も、自分たちが邪険にされていることに気づき、涙を浮かべている。
私は、これ以上見ていられなくなった。スマートフォンを取り出し、組長に電話をかける。この店は私たちの知る縄張りの中にあり、組長の親戚が経営している。この場所でトラブルを起こした相手が、佐々木組の若頭夫妻であると報告すれば、組長は必ず動くはずだ。
電話の後、組長がすぐに店へ現れた。彼は店内に向かって大声を張り上げた。「この店に迷惑をかけている客がいるそうだな。一体、どのドイツだ?」美ゆさん夫婦は組長の姿を見て慌てふためく。彼らはなんとか無関係を装おうとしたが、組長の鋭い視線はすぐに彼らに向けられた。私は組長に告げる。「あの親子を侮辱したのは、あの席の美ゆさん夫婦です。佐々木組の若頭とその妻です。」
美ゆさんは必死に否定するが、私は真実を語る。そして、私が無藤組の若頭であり、組長が私の上司であることを明かすと、美ゆさんの顔色が変わる。「テルコさんが、なぜそんなことを黙っていたんだ!」と責め立てる美ゆさんに、私は蔑んだ目を向ける。自分の仲間が相手に暴行を加えているところを見て、黙っていられるわけがない。
すると、組長が美ゆさん夫婦に近づき、怒りを込めた声で問い詰める。「お前たちか、無関係の客を殴ったのは。組長として、この地でそのような行為が許されると思うか?」美ゆさんは必死に言い訳をするが、組長の視線は冷たかった。
その時、まだ幼い息子が組長に近づき、感謝の言葉を伝えた。組長はその子の顔を見て、突然動きを止める。その子の名を尋ねると「蝶の久し」と答える。すると、組長は驚いた表情を浮かべ、子どもとその母親をじっと見つめる。そして、確信を得たように言った。「お前は…恵だな。私はお前の父親だ。」彼はかつて離婚した娘であり、現在の母親が、この親子だったのだ。長く離れ離れだった家族が、偶然にもこの店で再会することになった。
組長は切れかけた怒りを再び美ゆさん夫婦に向ける。「俺の娘を侮辱し、殴った者には相応の代償を払ってもらう。」美ゆさん夫婦は半狂乱になり、互いに責任を擦り付け合う。私が彼らの襟首を掴み、顔面を殴って黙らせた。組長は、美ゆさん夫婦に慰謝料として1000万円を支払うよう命じた。さらに、佐々木組を襲撃して解散させたという報せが入る。組長はあっさりとした口調で告げる。「お前たちは、もうヤクザの妻でも、若頭でもない。無職の夫を持つただの夫婦だ。」
そして、借金を抱えた美ゆさん夫婦をこの店で3年間働かせると言い放つ。彼らの家を取り上げ、狭いアパートへと追いやった。部屋の中では、夫婦が互いに責め合う声だけが響いていた。その後、私たちは組長とその娘、孫と共にこの寿司店で食事を楽しむことになった。その席で、幼い息子が美ゆさんが働かされている姿に気づく。「あのおばさん、すごく怒られているね。」と息子が言うと、組長は優しく答える。「彼女は今まで偉そうにしていただけで、ろくに仕事を覚えなかったからね。悪いことをすれば、必ず自分に返ってくるんだよ。」
窓の外では、夕日が沈み、店内には私たちの笑い声と、美味しそうな寿司の香りが満ちていた。



