「使用中の札を見落として、勢いよくシャワー室の扉を開けた。そこにいたのは、俺が心から尊敬する無表情の上司、三佐さんだった。一糸まとわぬ姿で。動揺して立ちすくむ俺の下半身は、残酷なほど正直で……それを見た彼女は、にこりともせずにこう言った。『一緒に浴びましょう』。尊敬していたはずの彼女が、その日を境に『女性』に変わった。そして、彼女が浴室で俺に語った意外すぎる本音——『私、藤井君のことが好きな…

「使用中の札を見落として、勢いよくシャワー室の扉を開けた。そこにいたのは、俺が心から尊敬する無表情の上司、三佐さんだった。一糸まとわぬ姿で。動揺して立ちすくむ俺の下半身は、残酷なほど正直で……それを見た彼女は、にこりともせずにこう言った。『一緒に浴びましょう』。尊敬していたはずの彼女が、その日を境に『女性』に変わった。そして、彼女が浴室で俺に語った意外すぎる本音——『私、藤井君のことが好きな...

シャワー室の扉を勢いよく開けた瞬間、俺の世界は音を立てて変わった。

湯気の向こうに立っていたのは、俺が心の底から尊敬する直属の上司、三佐さんだった。しかも、彼女は一糸まとわぬ姿で。

俺は藤井智行、32歳。激務で有名な会社で働くサラリーマンだ。毎日終電ギリギリまで働き、泊まり込みなんて日常茶飯事。それでも辞めたいと思ったことは一度もない。この仕事が好きだし、いつか独立するために経験を積んでいるところだから。

それに、もう一つ頑張れる理由があった。それが三佐さんだ。

三佐さんは40歳。仕事はデキるし、指示は的確で、ミスをしても責めずに一緒に原因を考えてくれる。どんなに忙しくても表情一つ変えず、いつも穏やか。俺は彼女に心からの尊敬の念を抱いていた。恋愛的な意味じゃない。純粋に「こんな大人になりたい」と思える、俺の目標だった。

あの日も、仕事量が尋常じゃなかった。いくらやっても終わらない。気づけばオフィスは誰もいなくなり、俺一人だけが残されていた。

「ああ、今日は泊まり込みか…」

覚悟を決めて、一区切りついたところで体を休めようとシャワー室に向かった。頭は仕事のことでいっぱいで、視野が狭くなっていたんだと思う。だから「使用中」の札を見落としていた。

服を脱ぎ捨て、勢いよく扉を開ける。その瞬間、俺は固まった。

三佐さんがいた。

湯に濡れた体。普段からスタイルがいいとは思っていたけど、こんな姿を直視してしまうなんて。あまりの美しさに、目が離せない。

「なら藤井君もシャワー使うのなら、一緒に浴びましょう」

彼女はまったく動じずにそう言った。そして、俺が立ったまま固まっていることに気づいたのか、目線を下げて、ほんの少しだけ困ったような、でもどこか面白がっているような表情を浮かべた。

俺の下半身は、とっくに元気になっていた。

「これは修行だ…!」

動揺を隠すように、俺は変な気合いを入れて浴室内へ入った。

「藤井君、今日は大変だったよね。疲れたでしょ?」

彼女は俺の背中にシャワーをかけながら、普段と変わらない優しい声で話しかけてくる。俺の方が恥ずかしくて、どこに視線を置けばいいのか分からない。

「背中、洗ってあげるね」

そう言って彼女の手が俺の背中に触れた瞬間、俺の体はさらに反応してしまった。心地よすぎて、「もっと触れてほしい」なんて言葉が口から出そうになる。ダメだ、俺は何を考えているんだ。

「はい、背中洗い終わったわよ」

あっという間に終わってしまい、少し残念に思う自分が情けない。今度はお返しをしなきゃと、俺が彼女の背中を洗う番になった。

「本当に? じゃあお願いね」

彼女は余裕の笑みを浮かべる。今度こそしっかりしようと気合いを入れたのが運の尽きだった。ボディソープのポンプを押しすぎて、勢いよく飛び出した液体が、彼女の顔面に直撃してしまった。

「あっ!」

慌ててシャワーで洗い流そうとしたけど、今度は水が目に入ってしまったらしい。彼女は苦しそうに顔をしかめる。

「すみません! 目に入りましたか?」

指で顔の水滴を拭いながら、必死に謝ることしかできなかった。情けなくて、情けなくて。それなのに、俺の下半身は相変わらず元気なままだ。本当に自分が嫌になる。

「藤井君、さっきからテンパってるよね。少し落ち着こうか」

そう言って彼女は、俺の体をそっと抱きしめてくれた。同じボディソープの匂いなのに、彼女からは特別な香りがする。それがやけに心地よくて、少しだけ冷静さを取り戻せた。

「すみません。失敗ばかりで…」

「失敗? ボディソープのこと? それ以外にもなんか色々とあるけど」

彼女はくすっと笑った。

「私は何も気にしてないわよ。そんなことより、落ち着こっか」

そう言われて、俺は彼女から離れようとした。けど、彼女はそれを許さなかった。

「え、まだでしょ? だってほら、全然落ち着いてないじゃない」

そう言いながら、彼女の手が俺の体に触れる。余計にドキドキしてしまう。

「そ、そこはその…簡単には落ち着かないというか…とにかく、もういいんです!」

「私としたら、落ち着くよ」

彼女は俺を抱きしめていた手を少し緩め、至近距離で見つめてきた。そして、そのまま流れるように、俺の唇にキスをしてきた。

柔らかくて、温かい唇。心臓の音がやかましいくらいに鳴っている。

「一緒に落ち着こう」

彼女はそう囁き、再び寄り添ってくる。俺はもう、何も考えられなかった。

「みささんは落ち着いてますよね。俺だけ勝手にテンパって…」

「私、そんなに落ち着いてるように見える?」

彼女は首をかしげながら、そう聞いてきた。

「はい…普段通りに見えます」

「そっか。これでも結構緊張してるんだよ。ちゃんとしたいと思ってる」

そう言って、彼女は俺の手を握ってきた。導かれるままに彼女に触れると、彼女は小さく吐息を漏らす。

一度触れてしまったら、もう止められなかった。何度もキスをして、抱きしめ合って、俺の理性は確実に崩れていく。もう何も考えたくない。ただ、彼女を求めていた。

そして、俺たちはその場で一つになった。表情は相変わらず穏やかな三佐さんだったけど、ほんのりピンクに染まった頬が妙に色っぽくて、とても可愛く感じた。

しばらく経って、少し照れくさそうに「先に上がるね」と言って浴室を出ていく彼女の後ろ姿を見て、俺は幸せな気持ちに浸っていた。浴室を出ると、三佐さんが待っていた。何も言わずに彼女に触れると、彼女は静かにそれを受け入れてくれて、再び深く愛し合った。

すべてが終わり、並んで息を整えた後、彼女が俺に質問を投げかけてきた。

「ねえ、わざとだったの?」

「え?」

「シャワー室に入ってきたの、わざとだった?」

「いや、違います! 仕事のことで頭がいっぱいで、何も見ずに入っちゃいました」

「なんだ、てっきりわざとかと思ってた。扉を開けてすぐに元気になってたから、そういうつもりなのかなって」

「ああ…いや、わざとじゃないです」

俺は戸惑っていた。ずっと彼女のことを尊敬の対象として見てきたのに、今はもう「女性」としてしか見られない。そんな自分の感情の変化に戸惑いながら、彼女に尋ねた。

「みささん…さっき、結構緊張してたって言ってましたけど、本当ですか? いつもメンタルが安定してて、そういうところがすごいなって思ってました」

「うん。別に意識してるわけじゃないのよ。昔から感情があまり表に出ないから。よく言えばメンタルが安定してる。悪く言えば、感情のないロボットみたいな感じかな」

彼女は小さく笑った。

「嬉しくても悲しくても、表情には出ないのよ。だから、私ってつまらない女なんだよ。さっきお風呂で一緒になった時も、本当はすごくドキドキしてた。もう緊張でおかしくなりそうだった」

そう言って、彼女は続けた。

「本当はね、藤井君が来てくれて嬉しかったんだよ。それに、本気でしたいとも思った」

「…え?」

「分かりやすく言うと、藤井君のことが好きってこと」

俺は言葉を失った。

「女として見られてないのは、普段の態度で分かってた。でも、シャワー室に来た時、チャンスだと思ったの。こんなロボットみたいな人間だけど、よかったら今後は少しだけ女として見てくれると嬉しい」

そう言う彼女の表情は、少しだけ柔らかかったように思う。俺はそっと彼女の手を握った。

「確かに、今までは尊敬する上司としてみてました。仕事もできるし、性格もいいし。それに、可愛くてスタイルだってすごくいい。本当に完璧だから、みささんのようになりたいと思ってました。だから、変な下心を持つのは失礼だと思ってて」

「うん」

「だから、女性として見ていなかったのは事実です。けど…こういう関係になって、今は女性としてしか見れなくなって、少し自分の気持ちに戸惑ってます。でも、好きって言ってもらえて、すごく嬉しいです。可能なら、もっとみささんのことを知りたいです」

俺が正直な気持ちを伝えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。その後、俺たちは手を繋いだまま、一緒に軽い仮眠を取った。

数時間後、目を覚ました俺は隣で眠る彼女の寝顔をじっと見つめた。寝起きの瞬間から、幸せな気持ちでいっぱいになる。そっとキスをしてから、早めに仕事に戻った。

後から起きてきた三佐さんは、俺の仕事を手伝ってくれる。

「あ、すみません。早くから」

「だって、早く終わればまた藤井君と二人の時間ができるかなと思って」

そう言って、彼女は可愛いことを言った。

「私、表情に感情が出ないから、言葉にすることにしたの。もっと私を意識してもらえるようにね。昨日告白もしたし、ここから頑張って攻めていくね」

表情は何も変わらないはずなのに、妙に彼女が可愛く見えてドキドキしてしまった。

その日から、彼女は気持ちを言葉にして伝えてくれるようになった。唐突に「好きだよ」とか「今キスしたいな」とか。そんな彼女の心の声に全部応えたかったけど、仕事が忙しくてデートに誘うこともできない。なのに、仕事の帰り道とかでそういう可愛いアピールを連日されて、俺はどんどん彼女に惹かれていった。

そんなある日。久しぶりに仕事が少なくて、二人揃って定時で帰れることになった。

「今日は一緒に過ごしたい」

会社の出口で彼女は俺の手を握り、そう言った。やっぱり表情は変わらなかったけど、いつも以上に彼女が可愛く見える。俺の鼓動はおかしくなるくらい速くなっていた。

「俺も、一緒に過ごしたいです」

素直に気持ちを伝えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。一緒に夕飯を食べてから、彼女の家へ向かう。二人きりになった瞬間、彼女は俺に抱きついてきた。俺はそんな彼女を抱きしめ返して、キスをした。

「みささん、好きです」

その時、ようやく自分の気持ちを言葉にした。シャワー室の出来事以降、彼女を女性として意識し始めていたのは確かだ。それに加えて、彼女からのアピール。俺の気持ちはどんどん膨らんで、いつの間にか真剣に好きになっていた。

彼女は俺の言葉を聞いて、微かに顔を赤らめた。

「やっと私を好きになってくれたのね」

そう言って、彼女は幸せそうに笑った。その日は、二人で深く深く愛し合って過ごした。表情の変化はなくても、全部を言葉で伝えてくれる素直な彼女が可愛くて仕方なかった。

俺たちの交際は、こうして始まった。

交際を始めてからも、俺たちは言葉にすることを大切にした。これまで俺は、表情で相手の感情を想像したり、雰囲気で察してくれるだろうなんて甘えていた。でも、表情が変わりにくい三佐さんと関係を築くうちに、ちゃんと伝えることの大切さに気づけた。彼女が素直でいてくれるから、俺も素直でいられる。改めて、彼女は人間的に素敵な人だと思った。

そういったこともあってか、俺たちは喧嘩をすることもなかった。意見の違いはあっても、お互いの意見を聞いて、妥協点を見つけて、折り合いをつけていく。彼女は本当に人を包み込む優しさがある。

気づけば、交際してから1年が経っていた。あっという間だったけど、俺たちの関係は変わらない。言葉を交わす習慣は確実に俺たちを深く結びつけていた。

彼女の隣は、とても居心地がいい。この場所にずっといたい。そう思うようになった。だから、俺はプロポーズをしようと決めた。

彼女の好きそうなデザインの指輪をこっそり買って、二人で過ごす夜に伝えた。

「みささん、俺と結婚してください」

「…嬉しい」

彼女はすぐに指輪を受け取ってくれた。

「ありがとう。私もずっと思ってたんだよ。いつも仕事に真摯に向き合って頑張ってる藤井君を見て、元気をもらってた。そして、少しずつ好きになって、自分なりに気持ちを伝えてたつもりだったけど、表情に出にくいから気づいてもらえなかった」

「…そうだったんですか」

「うん。どうしようかと思ってた時に、シャワー室でのことがあったの。あれから、素直に言葉にして伝えようって思ったんだ。そうしたら付き合えるようになって、本当に幸せだよ。いつまでも尊敬してもらえるように、自分磨きを頑張るね」

そう言って、彼女は嬉しそうに笑った。その夜は、二人で深く愛し合い、幸せな時間を過ごした。

こうしてプロポーズは成功し、俺たちは結婚に向けて動き始めた。両家への挨拶、新居探し、二人で協力しながら進めた。新居が決まってから、俺たちは入籍した。

夫婦になってからも、俺たちはたくさんの言葉を伝え合った。新婚生活は充実していて、あっという間に7年が過ぎた。

今も俺と三佐のコミュニケーション方法は変わらない。彼女は相変わらず表情には感情が出にくく、ぱっと見は無表情に見える。だけど、俺にはちゃんと言葉で伝えてくれるから、不安なんて感じたことは一度もない。素直で、まっすぐで、可愛い。そんな彼女のことを、俺は今でも愛している。

そして今、俺たちは二人とも会社を辞めて、独立した。いつか独立したいと思っていたから、夢が叶って嬉しい。今日は最後の出勤日。過去のことを色々と思い出す。

シャワー室でとんでもないことをしたな、と思う。でも、あの一件がなければ、俺と三佐は夫婦になっていなかったかもしれない。結果論ではあるけど、あの時やらかしてよかったと心から思う。彼女との生活は、最高に幸せだから。

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