同窓会の会場で、久しぶりに顔を合わせた宮野が、にやにやしながら言った。
「100円で許してやるから、うちの銀行に預けてくれよ」
中学の同窓会で、大手銀行に勤める同級生が、焼きもちを焼いたような口調で言ってきたのだ。
「本当に100円でいいのか?」
「ああ、日雇いの貧乏人でも、100円くらいは預けられるだろう」
彼は俺を、日雇いのその日暮らしと見下している。
最も、彼が俺を見下すのは今に始まったことではない。小中学生の頃から、俺は「お化け屋敷の貧乏人」と呼ばれていた。
「本当にお前は何も変わっていないんだな。けど、俺は変わったんだよ。分かった。それなら100円だけ残して、解約させてもらうよ」
「100円でいいって言われたから、仕方ないよな」
俺はにっこりと笑って答えた。
同級生はそれに、「貧乏人がかっこつけるな」と笑う。
まあ、笑いたければ好きなだけ笑うといい。女にも気持ちよく笑えるのは、今日が最後になるのだから。
俺の名前は花沢剛。その日、俺の元に中学の同窓会の知らせが届いた。今年40歳の節目だということもあり、同窓会が開かれることになったようだ。
普通、こんな時は懐かしい思い出に浸るのだろう。しかし、俺はこの知らせを見ても、あまりいい気はしなかった。中学生の時にした嫌な思い出が原因だ。
俺は幼い頃に両親を亡くし、おじいちゃんとおばあちゃんに育てられた。突然両親が亡くなったことで、他に引き取ってくれる人もおらず、2人が俺を育ててくれることになった。しかし、おじいちゃんとおばあちゃんの家計は決して余裕があったわけではなく、2人でギリギリの状態だった。古い民家で3人で暮らすことになったが、生活は貧しいものだった。
小学校の途中から転校することになった俺は、転校生ということもあり、なかなか学校にも馴染めずにいた。おまけに、服や持ち物も綺麗なものはあまり買ってもらうことができず、次第に貧乏だとからかわれるようになった。
お金をかけないようにと、おばあちゃんが、切れなくなった服をリメイクして新しい洋服を作ってくれたりした。今思えばすごくありがたいことだが、当時の俺は、みんなが着ているような普通の洋服が着たかった。
しかし、生活が貧しいことを幼いながらも理解していた俺は、何も言えない。友達と遊びたいと思っても、ゲーム機がないせいでなかなか参加できない時もあった。
学校に行けば、貧乏であることを馬鹿にされて笑われる生活を送っており、学生時代にいい思い出がないのだ。
同窓会の知らせが届いてから、しばらく出席するかしないかを考えていた。その結果、参加を決めた。悪い思い出ばかりが先行してしまうが、全く友達がいなかったわけではない。少ないながら気の合う友人もおり、そんな彼らと会いたい気持ちもあった。考えるうちに、今更遠い昔のことを思って参加しないのもどうかと思えてくる。そうして、せっかくだし同窓会には参加をしようと決意をしたのだ。
そして迎えた同窓会当日。会場に着き、懐かしい友人と久しぶりの再会を果たすこともできた。
俺は中学を卒業してから仕事に忙しく、あまり顔を合わせていなかったため、何十年もの間の色々な話で盛り上がった。やはり今日は来てよかったと感じる時間だった。
「おい、もしかして、お前、剛か?」
突然隣に寄ってきて、俺の名前を呼ぶ人の声。それによって、楽しい時間が終わった。
その口調だけで誰だかわかる。彼は宮野秋夫。俺を貧乏だとからかっていた張本人だ。振り向くと、彼の周りには、小学校の頃から宮野と一緒になって俺を馬鹿にしていた取り巻きたちもいた。宮野は、最初から少し馬鹿にしたような口調で、嫌な思い出が蘇ってしまった。
俺は色々な感情をぐっとこらえ、大人の対応をする。
「ああ、宮野、久しぶりだな」
「おいおい、貧乏人のくせに軽々しく名前呼ばないでくれよ」
親しげに話すように接するが、宮野は嫌な顔をしながら笑う。
「随分とおっさんになったな。お化け屋敷の貧乏人」
「うわあ、それ懐かしい」
「こいつの家、人が住めるようなとこじゃなかったもんな」
宮野たちは俺の悪口を言い、ケラケラと楽しそうに俺を馬鹿にして笑っている。30年も経った今でも「貧乏人」と呼ばれたことに、少し驚いてしまう。そして同時に、宮野の性格は何も変わっていないのかと呆れてしまった。
転校した小学生の頃から、古い民家に住んでいた俺に「お化け屋敷の貧乏人」というあだ名をつけてからかってきていた。それは、小学校を卒業しても変わらず、中学生になっても続いた。今でも鮮明に思い出してしまうほど、俺にとっては嫌な思い出だ。
その頃の俺は、宮野にも宮野の周りの取り巻きにも、何も言い返すことができなかった。密かに将来は大物になって見返してやると、宮野への反発心を持っていたのは、懐かしい思い出ではある。勉強を頑張って、いい高校に行くことだけを考えて、何を言われてもこらえて生活していたのだ。
しかし、そんな俺の目標は叶わず、高校に行くどころか、中卒で働くことを余儀なくされてしまった。
中学生になると、おじいちゃんもおばあちゃんも高齢で、体を壊したりすることが増えてきていた。度々病院にかかり、お金も以前より厳しくなって、俺を高校に通わせるのが難しくなったのだ。
「そういや、お前って、貧乏すぎて高校行けずに、中学卒業してすぐに就職してたよな。どうよ?低学歴の生活って」
宮野は、俺が中卒で就職したことを覚えていて、そう言って馬鹿にしたように笑う。
宮野が大きな声で俺をからかうせいで、宮野たち以外の人たちもこちらの様子を見ていた。
周囲の人たちは、宮野の昔と変わらない俺への対応に苦笑いしながらも、誰も止める人はいない。
この状況も、俺には慣れっこだった。
俺には友人はいたが、宮野を注意する人は、小学生の頃から誰1人としていなかった。なぜなら、宮野の家はお金持ちで、住んでいた町では大きな影響力を持つ家だったのだ。宮野が学校で悪さをしても、先生たちも注意することができないほどだ。
1度、俺がからかわれているのを見て、入ってくれた同級生がいた。しかし、その子はその後急に引っ越して転校することになった。きっと宮野が両親に話し、その子の家族を町から追い出したのだと、誰もが思っていた。そのため、俺の友人たちも含めて、同級生は誰も宮野の俺への態度を注意することができなかった。
「中卒じゃ、まともな仕事にも就けてないんだろうな。今は何をして生計を立ててるんだ?物乞いか?」
「まあ、今は色々やっているよ」
「色々って何だよ。どうせ日雇いとかだろうな。その日暮らしで生きていくのも大変だな」
俺が質問に対して答えると、宮野は決めつけて笑い出す。不愉快ではあったが、何か言ってもまともには取り合ってもらえないというのは分かっていたので、俺は黙った。そう思うなら勝手に思っていればいいと、開き直って宮野を眺める。すると宮野は自分の話を始めた。
「低学歴は大変だな。いや、俺はいい高校、大学に行ってよかったよ。俺はお前と違って優秀だから、銀行に就職して、今は課長職についているんだ」
その銀行の名前は、誰もが聞いたことのある大手で、それを聞いた周りの人たちも「すごい」と口々に言葉をもらす。
「日雇いのお前なんかができないような暮らしを送っているよ」
そう言ってスマホを取り出し、海外旅行に行った写真を見せびらかしている。宮野は毎年夏と冬の2回は最低でも海外に遊びに行くようで、泊まるホテルもその土地で1番いいホテルに泊まるのだと自慢していた。
「わあ、ここのホテル、すっごく高級なところよね。1度は泊まってみたいわ」
「このくらい、俺からしたら全然大したことないけどな。俺は小さい頃からよく言っていたし」
「やっぱり大手銀行の課長にもなると、こんな生活ができるんだな」
写真を見て羨ましがる周囲の人たちの声に、宮野は満更でもなさそうな顔をしながら自慢を続けた。
「まあ、正当な評価をもらってるだけだけどな。その分仕事も忙しくて困っちゃうよ」
「課長は大変そうだもんな」
「本当、俺がいないと困るってみんなに言われてるし、大変なんだよ」
取り巻く同級生に、宮野はドヤ顔をしながら嬉しそうに答えていた。
俺は隣でただ聞いているだけだったが、これ以上宮野たちと話していても、せっかくの同窓会が時間の無駄になってしまうと思う。別の場所で友人たちと会話しようと、その場を離れようとした時、宮野はまた俺に向かって話しかけてきた。
「まあ、金持ちの子供は優秀に育って、大人になっても金持ちでいられるんだよ。お前は、生まれた時から一生、貧乏な人生を歩むしかないんだよ」
俺は宮野に何を言われても、もう大人にもなり、そんなことで傷つくことはなかった。しかし、その言葉だけは、俺の大事な家族のことを悪く言われている気がして、腹が立ってきてしまう。
俺が宮野を睨みつけると、宮野はその俺の顔を見て面白がっているのか、さらに悪口がヒートアップしていく。
「恨むなら、お前を置いて亡くなった両親と、貧乏な祖父母を恨むんだな」
「俺は自分の家族の元に生まれたことを恨んだこともないし、これからも恨むことはないよ」
「ふん。バカバカしい。日雇いしかできない貧乏人が、かっこつけちゃって」
「かっこつけるとか、そんなんじゃない。俺は本心を言ってるだけだ」
「あ、そう。まあ、いい家に生まれることができたのも才能のうちって言うしな。所詮、お前にはそんな家族がお似合いってことだな」
いつもは言い返さない俺が言い返したこともあり、周囲の人たちは、ヒートアップしていく俺たちを見て困っている様子だった。
ヒートアップする俺たちを止めようと、気を遣ってくれたのか、同級生の1人が宮野に話しかける。
「あ、あのさ、融資の相談とか、大手銀行でも話聞いてくれるかな?」
「融資なんか、会社でもやってるのか?」
「ま、まあ、小さい会社だけど、最近融資を考えているんだ」
「そうなんだ。大手銀行の俺からしたら、小さい会社なんて考えられないけど。日雇いのこんなやつよりは100倍マシだな。でも、大手銀行が小さい会社なんて相手にしてくれるはずないよね。普通は相手にもしてもらえないだろうな。仕方がないから、俺が話を聞いてやるよ。感謝して欲しいわ」
同級生に対しても偉そうにしている宮野に、すごく気分が悪くなるが、同級生の気遣いには感謝した。中学の頃ならありえなかったが、やはりみんな大人になっているのだ。
だが、そんな同級生の気遣いを無にするように、宮野がまた俺へ水を向ける。
「おい、お前も、仕方がないから相談に乗ってあげてもいいぞ。なんせ、俺は大手銀行の課長だからな」
「ありがとう。けど、今は特に困ってないから。宮野に話すことがあれば、相談させてもらうよ」
俺が冷静な口調でそう答えると、宮野はお腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。
「何、冗談を真に受けてるんだよ。お前がうちみたいな大手に相談することなんて、一生来ないだろう。そんなことはそもそも、銀行口座持ってるのか?100円で許してやるから、うちの銀行に預けてくれよ」
その言葉に、俺は宮野の顔をじっと見つめる。
「本当に100円でいいのか?」
「ああ、日雇いの貧乏人でも100円くらいは預けられるだろう」
「分かった。それなら、100円だけ残して、解約させてもらうよ」
「なんだ、口座持ってたのか。大した金額も入ってないだろうに、強がるなよ」
何を言っても馬鹿にして笑い続けている宮野に対して、俺は最後に1つだけ伝える。
「課長に言われたから、仕方ないよな。いくら入っていたかは、まあすぐに分かると思うよ」
宮野は、何を言っているんだと言わんばかりの顔でポカンとしていた。しかし、すぐにまた強がりだと思ったのか、笑い出す。
そんな宮野の後ろで、俺はその場から立ち去った。
翌日、俺は宮野が勤めている大手銀行に出向いた。受付で「担当者と話したい」と伝えると、奥の応接室に案内される。
「花沢様、お世話になっております。今日はどうされましたか?」
「今日は預金口座を解約したいと思いまして、他の銀行に移します」
担当者は、突然やってきた俺に驚いていたが、俺の言葉でますます驚いたようで、目をまん丸に見開いている。
「と言いますと、花沢様の預金すべてということですか?」
「ああ、プライベート用の口座に100円だけ残して、残りの口座もすべて解約します」
100円だけ残すという奇妙な話に、担当者はポカンとして言葉を失っていた。
俺はそんな担当者に、昨日の同窓会での出来事をすべて話す。宮野の名前も隠さずに伝え、「課長に言われてしまったので、仕方ない」と俺は伝えた。俺の話がすべて終わっても、なかなか言葉が出ないようで、すごく動揺しているのが伝わってくる。
「大丈夫ですか?話、分かっていただけましたか?」
「本当に申し訳ございませんでした」
声をかけると、担当者は勢いよく立ち上がり、深く頭を下げて何度も謝罪をしてきた。
「謝罪は結構ですので、解約をお願いします」
「申し訳ございません。少々お待ちください」
そう言うと、担当者はスマホを取り出し、どこかへ連絡を入れた。するとすぐさま、応接室の扉が開き、支店長がやってきた。担当者から連絡を受けて慌ててきたようで、焦ってきたのが分かるほど顔色が悪い。
「不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございません。だけは、なんとかもう1度、もう1度考え直していただけませんでしょうか?」
支店長も担当者と同じように、何度も俺に謝罪をしてくる。
こんなにも担当者と支店長が焦って、必死になって謝るのも無理はない。俺はこの大手銀行に、100億もの金額を預金しているのだ。
実は、俺は今、不動産投資家として成功している。ここまでの道のりは決して楽なものではなかった。
中学を卒業した後、近所のガソリンスタンドやコンビニでのバイトを掛け持ちして働いていた。中卒を雇ってくれるところが見つからず、その時の俺はそうするしかなかったのだ。朝も夜も必死に働き、そうしてお金を貯めて、通信制の高校に入学して高卒資格を取得した。おかげで、地元の不動産屋に就職することができた。そこで不動産の知識を深め、そのうちに不動産投資に興味を持った。俺は仕事以外でも、不動産についてや投資についての勉強に励んだ。高校に行くことができなかったこともあってか、俺は勉強することがすごく楽しかった。それから勉強を続け、自信がついた俺は、まずは小さなものから投資を開始。最初は微々たるものだったが、少しずつ資産を増やし、投資するものを増やしたり大きくしたりして、着実に資産を増やしていった。
最近では、建築会社と共同で不動産開発プロジェクトを計画したり、富裕層向けの不動産のアドバイザーをしたりしている。
ちなみに、宮野に「お化け屋敷」と馬鹿にされていた家も、今では古民家カフェとして人気で、安定した収入源になっている。おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなった後、相続したはいいものの、仕事の都合もあって住むことができなかった。それでも、どうにかこの家は残したいと思い、少しお金をかけてリフォームし、人に貸して古民家カフェをやってもらうことにしたのだ。こんな風に、一言では説明できないほどいろんなことをして財を成しているので、宮野には「色々している」と答えていた。
「少し時間をいただけないでしょうか?」
「時間ですか?」
「宮野に対してきちんと対応させていただきますので、それまでお時間を。その上で、今一度ご判断願います」
何度も頭を下げ、お願いをされて、少々申し訳ない気分になる。俺もこの人たちを困らせたいわけではない。大げさな対応をしてしまったのではと反省する。店長と担当者の提案である、1週間の猶予を設けることを了承し、ひとまず解約を留まることにした。それに、ほっとしたように2人は、俺にもう1度頭を下げる。
「宮野は他にも色々と問題がありまして、しっかり調査して、対応させていただきます」
これ以上は何も教えてくれなかったが、何かあるのだろうと感じ取った俺は、家に帰り、ある人に連絡をした。俺には、この大手銀行で働く仲のいい友人がいたのだ。今回の件を話し、支店長の言葉が気になったことを伝えると、宮野についての評判を教えてくれた。
どうやら宮野には、以前から部下への高圧的な態度や、お客様からのクレームなど、多くの悪い評価が上げられているという。優位を理由に顧客と諍いを起こし、融資を通すためと言って個人的にお金をもらっているという噂も、出てきているらしいのだ。上層部も宮野を問題視しており、近々左遷になるのではないかと言われているそうだ。友人は、もしかしたら今回の一件をきっかけに、厳しい処分が下されるかもしれないと呟いた。
1週間後、俺は約束の時間に先週の応接室へと足を運んだ。そこには担当者と支店長の他に、本社の役員もいて、3人は俺に先日同様、不快な思いをさせたと謝罪をしてきた。
「花沢様に不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。あれからもう少し調査の方を、事実確認をさせていただきました。宮野は自分の発言を認めましたが、花沢様への謝罪を拒否したことで、こちらも相応の処分をさせていただきました」
「処分ですか?それはどういった?」
尋ねると、厳しい顔で返答があった。
「解雇処分をさせていただきました」
正直、そこまでの処分をされるとは思っても見ませんでした。
「彼はどうにも花沢様へ謝罪するということが、プライド的に許さなかったので、全く反省の様子もなく。我々は、課長としての責任を果たすどころか、お客様にそんな思いをさせる宮野を働かせておくわけにはいけないと考えました。上層部で話し合いの結果、決まった処分になります」
俺への謝罪を頑なに拒否するとは、彼らしいと言えばそうなのかもしれない。
「彼の業務妨害にあたる行為は、これが初めてだったわけではなく、以前から色々な問題を起こしていたことが、この度の調査で発覚いたしました」
俺はこの言葉を聞いて、友人に教えてもらった話を思い出す。役員の話す表情から見ても、色々なことが重なり、やむを得ない処分だったのだろうと考えた。
役員たちは顧客である俺に詳しくは話してくれなかったが、後日再度友人に話を聞いたところ、やはりその通りだった。「宮野の態度に困っている人が山ほどいたから、みんな感謝していると思う」と言われたほどだ。
俺は、銀行の宮野に対し断る姿勢を示してくれたことや、3人の謝罪に誠意を感じ、口座を解約しないことを決めた。
「これからも末永くよろしくお願いします」
俺は3人に見送られて、銀行を出る。
「おい、てめえ」
その瞬間、怒声を浴びせられた。外で、宮野が俺を待ち構えていたのだ。どうやらどこかで、俺が今日ここに来ることを突き止めていたらしい。
「お前、どうしてくれるんだ?お前のせいで首になったじゃないか」
宮野はガタガタと震えながら激怒している。今までに見たこともないほど鋭い目つきで、俺を睨みつけていた。まさか自分が馬鹿にしていた貧乏人に、こんな目に合わされるとも思っていなかったのだろう。
「俺はお前を解雇してくれなんて頼んでない。お前に言われた通り、口座を100円だけにするために、解約を申し込んだだけだ」
「調子乗りやがって、ふざけんなよ。人の人生めちゃくちゃにしやがって」
「すべて自分の責任だろう。お前に散々ひどいことを言われても、何をされても、俺はお前のせいにしたことは1度もないぞ」
「うるせえな。お前みたいな貧乏人の成り上がりは、やることが汚ねえんだよ」
己の自尊心を保つためか、俺をけなすようにして吠える。本当に反省の色の見えない宮野の姿に呆れてしまう。
「そうやって、人のことを馬鹿にして生きるのは、やめにしろよ。無駄なプライドを捨てて、人としての誠意を身につけた方がいいと思うぞ」
俺は最後に、同級生として宮野を諭そうとした。しかし、宮野は俺の言葉に全く聞く耳を持たず、怒り狂って俺に襲いかかってきた。この瞬間、駆けつけた警官と警備員に宮野は取り押さえられ、俺は怪我をしなくて済む。それでも収まらない宮野は、しまいには警察を呼ばれてしまっていた。
後から同級生に聞いた話だが、その後、宮野は警察沙汰を起こしたことで、親から勘当され、妻からも離婚されてしまったそうだ。逮捕された上に、警察沙汰を起こしてしまっては、そうなるのも無理はないのだろう。そしてその後は、行方知らずになってしまったそうだ。
俺は宮野に対して復讐したいと思っていたわけではないが、こうなったことに同調することもなかった。ただ自分を振り返り、諦めずに、人のせいにすることもなく、コツコツと頑張り続けてきて良かったと改めて感じる。
俺はもうすぐ、家族で海外旅行に行く予定を立てている。今は妻と子供と3人で暮らしており、幸せいっぱいだ。
お父さんやお母さん、そしておじいちゃんとおばあちゃんがもう近くにいないことは悲しく思うが、俺はこの家に生まれてこられて良かったと思っている。
昔と比べると生活も変わり、いい暮らしをしているが、それに胡坐をかかず、宮野のようにならないよう、これからも身の周りのことに感謝して生きていこうと思う。



