同窓会で、高校時代から俺をいじめ続けてきた男が、婚約指輪を見て大声で笑った。「陰キャのお前の婚約者なんて、どうせブスだろ?…

同窓会で、高校時代から俺をいじめ続けてきた男が、婚約指輪を見て大声で笑った。「陰キャのお前の婚約者なんて、どうせブスだろ?...

同窓会の会場で、梅本が俺の婚約指輪を見つけて、大声でからかい始めた。あの頃と変わらない、人を傷つける笑い声だった。

「陰キャのお前の婚約者なんて、どうせ大したことないブスだろ。今すぐ呼べよ。存分に冷やかしてやるからよ」

高校時代からずっと、梅本はこうやって俺を笑いものにしてきた。俺は平静を装ったが、指輪をはめた左手は、いつの間にか固く握りしめられていた。どう応じたものかと考えあぐねていると、入口の方でざわめきが起こった。

視線を向けると、上品なワンピースに黒髪をエレガントにまとめた女性が立っている。周囲の空気が一瞬で変わった。俺の携帯が震えていることに気づいた。彼女、リサさんからの着信だった。

「ごめんね、連絡してたんだけど、場所が分からなくて。えっと、間に合ったかな?」

梅本は、顔を真っ赤にして言葉を失っている。それも当然だ。だって、俺の婚約者は、堀田製薬の社長令嬢で、社長秘書の堀田リサさんその人なのだから。

俺は、昔からどこか冴えない男だった。親の影響か、小さい頃からテレビで流れる栄養補助食品のコマーシャルが好きという変わった子供だった。栄養の仕組みや未知の成分の話が、不思議と面白かった。それが高じて、成分分析の研究施設で働き、今では自社ブランドのサプリメントやドリンクを開発する会社の社長をやっている。要するに、みんなが安心して飲めるサプリメントを作りたいというのが、俺の目標だった。

同窓会の案内が来た時、正直、行く気はあまりなかった。嫌な思い出がたくさんある場所だったからだ。だが、同僚に背中を押され、参加することにした。

会場では、子供を連れて来ている同級生たちが楽しそうにしていた。おもちゃみたいなやり取りを見ていると、まあ悪くないかと思えた。そして、トイレから戻った時、一人でポツンと座っている小さな女の子に気がついた。

「お嬢ちゃん、パパかママとはぐれちゃったのかい?」

「おじさんも一人なの? だったら私が遊んであげる。私、ロミだよ」

そう言って、このロミちゃんは「しりとり」をしようと言い出した。相手が小学生だと思って舐めていたら、これが強い。ザンビアの首都はルサカ、みたいな知識で返され、俺がいくつも頭を抱えるほどだった。

「ロミちゃん、すごいな。おじさん、負けちゃいそうだよ」

時間を忘れて遊んでいると、ロミちゃんが突然言った。

「せいたさん、そろそろ行くね。またしりとりしようね」

そう言うと、彼女は人混みへと消えていった。まるで一瞬の夢のようだった。俺が呆然としていると、今度は悪夢の主が現れた。

「相変わらずの陰キャだな。痛み。よくこんな所に来られたな」

そう言って、座った途端に絡んできたのが、高校の同級生・梅本浩司だった。彼は学生時代から俺を見下して笑いの種にする男で、今もそれは変わっていなかった。

「俺は順調すぎて自分でもビビるわ。エリート街道まっしぐらで、いい女と結婚して子供もいる。お前みたいな奴が、いじめられてた奴が、俺たちの同窓会に来るのがおかしいんだよ」

そして、彼は俺の指輪を見て、こう続けた。

「指輪ぉ? 婚約指輪だって、見せびらかしてるのか? お前みたいな陰キャの婚約者なんて、どうせ幼い見た目で、何の取り柄もない女だろ? 今すぐ呼べよ。みんなで盛大に冷やかしてやるからさ」

気がつくと、会場全員が俺たちの方を向いていた。いや、正確には、入口の方を見ていた。そこに立っていたのは、リサさんだった。彼女は周囲の視線を気にせず、俺と梅本の前まで歩いてきた。

「ごめんね、遅れちゃって。あなたが選んでくれたワンピース、着てみたんだけど、どうかしら?」

「ああ、すごく似合ってるよ。試着した時よりも、ずっと綺麗だ」

俺たちがそんな会話をしていると、青ざめた梅本が口を挟んだ。

「あ、あなたは? まさか、堀田製薬の社長秘書様では? どうしてここに?」

「私は堀田理沙と申します。せいたさんの婚約者です」

梅本は、幽霊でも見たかのような顔をした。

「ありえない……。こいつが、堀田製薬の社長令嬢と婚約? 図書館にこもってただけの陰キャで、何の取り柄もないこいつが?」

「あの、あなた、何も分かってないです」

リサさんは、テーブルを叩いて梅本を遮った。

「せいたさんの学生時代は、私も話に聞いただけだけど、あなたの言葉で分かったわ。あの頃の経験が、今の彼の真面目さに生きてるんです。それに、彼の会社の研究技術があるからこそ、うちの会社も成長させていただいているんですから」

「会社? お前、会社なんてやってたのかよ?」

「ああ、説明してなかったな。俺、今夜美生物研究所って会社の社長なんだ。珍しい酵母菌の総合研究施設でね、独自に開発したブレンドを商品化して、最近ちょっと話題になってるんだ。その関係で、堀田製薬と付き合いがあるんだよ」

梅本は驚きで言葉を失った。すると、今度は別の女性が、豪快な足音を立てながら近づいてきた。

「ちょっとあなた、私、明日仕事早いって言ったわよね。子供ほっぽって、何やってるのよ」

「あ? かず、関係ないだろ」

「あれ? せいたおじさんだ! ロミ、またしりとりしようね」

ロミちゃんの言葉に、梅本と一緒にいた女性、かずさんが俺を見て言った。

「うちの娘がご迷惑をおかけしました。私、こいつの妻で、梅本かずと申します。ロミ、もう帰るわよ。では、お世話になりました」

そう言って、ロミちゃんを連れて帰ってしまった。梅本は、どこかで何もなかったかのように振る舞っていたが、俺はリサさんと二人で、静かに乾杯を交わした。

リサさんとの出会いは、今から約2年前。私が独立したばかりの頃、堀田製薬の社長と話す機会があり、その時に初めて彼女と会った。当時の彼女は、やたらと元気がなく、自信を失っているように見えた。送迎の際、彼女が一度も顔を上げないことが気になって、思い切って話しかけた。

「あの、すみません。もしかして、顔のニキビでお悩みですか? ……怒られたら申し訳ないんですけど」

リサさんは顔を真っ赤にして、俯いた。

「おっしゃる通りです。数日前から顎に大きなニキビができてしまって。社長秘書という立場で、いつも完璧でなければならないのに、それに答えられない自分が恥ずかしくて」

彼女は、父である社長からの期待や、完璧でなければならないというプレッシャーに苦しんでいた。自分を責め続ける彼女に、俺は試作段階のサプリメントを渡した。

それがきっかけで、ニキビが治った彼女が会社に礼を言いに来てくれた。その時、彼女の目には、前とは違う強い光が宿っていた。そこから、俺たちは時々食事に行くようになり、半年後に俺は彼女にプロポーズをした。彼女が、子供が欲しいと涙ながらに話してくれた時、妊娠するのが難しいかもしれないと言われた時も、俺の決意は変わらなかった。

俺は彼女の手を強く握り、こう言った。

「俺が欲しいのは、目の前にいる、あなただけだ。今までの人生で、あなた以上の存在に出会ったことはない。一緒に歩いていこう」

あの同窓会から数日後、俺の会社は堀田製薬と新製品の検査段階を迎えようとしていた。そんな中、堀田社長から突然の呼び出しが入った。

「これはどういうことだ!」

社長室に投げつけられたのは、ネットニュースの記事のプリントアウトだった。見出しにはこう書かれている。

「堀田製薬の事業パートナーはイカサマ研究者。社長令嬢もたらし込み済み」

「落ち着いてください。これは根拠のないデタラメな記事です」

リサさんも必死に訴えてくれたが、社長は厳しい顔を崩さなかった。

「堀田製薬には、すでに問い合わせやクレームが殺到している。会社にまで被害が及んでいるんだ。本当に、お前に娘を任せられるのか疑わしくなってきた」

「必ず、この記事の出所を突き止めて、解決してみせます」

自分の会社に戻り、頭を抱えていると、受付の方が困惑した声を上げた。

「社長、あの、小さなお客様が」

そこにいたのは、ロミちゃんだった。

「せいたさん、ロミ、しりとりの続きをやりに来たよ」

なんと彼女は、俺が以前渡した名刺を見て、一人で電車に乗ってここまで来たというのだ。

「ロミちゃん、一人で来たのか? お母さんは?」

「パパとママはいつも忙しいし、喧嘩ばっかりで、家にいたくないの。だから、ロミ、帰らない」

彼女は小さいのに、周囲の状況をよく理解していた。親の喧嘩を聞くのが辛くて、家にいたくないと言うのだ。たまらず、俺はロミちゃんを家に送ることにした。梅本には、メールを送っておいた。

梅本の家に着くと、そこはどこか寒々しい雰囲気だった。干しっぱなしの洗濯物、物が散乱したソファ、溜まった洗い物。俺が何か言う前に、ロミちゃんは俺の服を引っ張った。

「せいたさん、ロミのお願い聞いてくれる?」

そう言って、彼女は俺を奥の部屋へと案内した。そこには、ログイン画面が開きっぱなしのパソコンがあった。

「このパソコン、パパの。ロミ、知ってたの。パパが悪いことしてるって」

彼女が見せてくれたのは、ニュースサイトの匿名情報提供フォームへの投稿履歴だった。俺を陥れるための根拠のない悪口や、リサさんをたぶらかしたといった中傷の書き込みが、時系列でしっかりと記録されていた。IPアドレスも、投稿時間も、全てが梅本のパソコンから送信されていた。

その時、玄関が乱暴に開く音が聞こえた。梅本とかずさんが帰ってきたのだ。

「痛み、お前、人の家で何やってんだ!」

俺は、ロミちゃんの頭を撫でながら、静かに梅本を指さした。

「梅本、お前だったんだな」

「何のことだよ!」

「お前が書き散らかしてた、ネットの書き込みの履歴が全部ここに残ってるんだよ。俺を貶めるために、でたらめな情報を投稿してたんだろ?」

梅本は、最初は否定していたが、証拠を突きつけられると、ついに観念した。

「うるせえ! 俺は昔と同じで、お前みたいな奴に負けたくなかっただけだ!」

彼は、学生時代から抱えていた劣等感を吐露した。自分は注目されるべきなのに、いつも目立たない俺が結果を出すことへの嫉妬。そして、今も、自分は仕事も家庭もうまくいっていないのに、俺が幸せそうなのが許せなかったのだ。

「嫁はうるせえし、家に帰りたくもねえ。娘は不登校だし、俺の言うことなんか聞きゃしねえ。全部お前のせいだと思ったんだよ!」

その時、後ろで聞いていたかずさんが口を開いた。

「……私のことは、何と言ってもいい。でも、娘のことを、そんな風に言うのはやめて」

「お前だって、家族のことを考えてる振りして、仕事に逃げてるだけだろ!」

夫婦喧嘩が始まりそうになった時、俺は間に入った。

「二人とも、やめてくれ。そもそも、ロミちゃんが学校に行けなくなった理由を、ちゃんと考えたことがあるのか?」

俺は、ロミちゃんがギフテッドかもしれないと二人に伝えた。彼女の圧倒的な知識量と記憶力、数字に関する能力の高さ。そして、彼女が周りの子供たちとの感覚の違いに苦しみながら、不登校になっていることを説明した。

「ロミは、ただわがままを言ってるんじゃない。誰よりも敏感で、考えすぎてしまうんだ。学校の環境が合わなくて、苦しんでるんだと思う」

それを聞いたかずさんは、ロミちゃんを抱きしめて泣いた。

「ごめんね、ロミ。気づかなくて、ごめんね」

すると、玄関のチャイムが鳴った。そこには、リサさんが立っていた。彼女は、梅本を見て、きっぱりと言った。

「梅本さん、あなたが、せいたさんをネットで中傷していたことは、すべて確認が取れています。ニュースサイトにも、あなたの会社にも、この件を正式に発表し、裁判も起こす予定です」

「頼む! それを取り下げてくれ! 俺が会社を辞めさせられたら、家族が路頭に迷う!」

すると、かずさんが静かに前に出た。

「その心配は要りません。私はロミを連れて、実家に帰ろうと思っています。もう一度、きちんと向き合いたいんです。娘のこと、自分のこと。そして、あなたのことも。今のまま一緒に暮らしていても、冷静に考えられそうにないから」

結局、梅本は会社から左遷処分を受け、遠方の営業所に飛ばされたという。ただ、記事の内容に根拠がないと分かり、騒動が大きくなることはなかったそうだ。

あれから半年後、俺たちは堀田社長に結婚を認めてもらった。彼はこう言った。

「君の、リサを守るという言葉を信じている。娘を頼んだぞ」

そして、最近、リサさんが妊娠していることが分かった。あの日、ロミちゃんに褒められた風のような出会いが、俺の人生を大きく変えてくれた。これから先、どんなことがあっても、愛する人を守るために、誠実に生きていこうと思う。

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