椅子に縛りつけられた男が、恐怖で顔を引きつらせながら叫んだ。
「おい、この縄を解け! 無理な話ね。秋山組は解散させる。二度とヤザの組長だからって好き勝手できないようにするわ。」
私は秋山という男に向かって、静かにそう言い放った。ついさっきまで、この男は私を「独身女」「地味な女」と嘲笑い、殴り、見下していた。しかし今、立場は完全に逆転していた。
私の名前は森園ヤコ。森園組というヤクザのレディース組長をしている。女だという理由でヤクザの世界で舐められないよう、普段から気を張っていた。だからこそ、心を休めるための休日に、一人で行く居酒屋の時間が好きだった。
今日は行きつけの居酒屋、かつて私の部下だった山田の店でのんびり酒を楽しもうと歩みを進めていた。初めは山田の様子を見る目的で来ていたものの、完全にはまってしまったのだ。そして今日は土曜日だからか、いつもより店内は少し賑やかだった。
賑やかな連中のうちの男が、二人組の女性客に執拗に絡んでいた。
「おう、そこの美人さんたち。一緒に飲もうぜ。女二人で飲んでるってことは、男からの誘いを待ってるってことだろ?」
「何言ってるんですか? やめてください。今日は久々に友達と会って飲んでるんです。そういうお誘いは断っています。」
「はあ? いいじゃねえかよ。減るもんじゃないんだし。ちょっといっぱいくらい飲もうって言ってるだけだろ。なんだよ。秋山組長の誘いを断るってのか。声をかけられただけでもありがたいと思え。」
秋山組長と呼ばれた男には、子分のような男もひっついていて、一緒になって女性たちと酒を飲もうと必死に誘っていた。初めは女性たちも酔っ払いに絡まれているだけだと思っていたようだが、どんどんエスカレートして、女性たちも困った様子だった。
私は久々の休日ということもあり、一人静かに飲みたいと思っていたので、だんだんと男性たちが無粋になっていく様子に嫌気がさしていた。今は店の主である山田は買い出し中で、この居酒屋には森園組の組長ということを隠して飲みに来ている。だからこそ、できるだけ騒ぎにならないよう気をつけていたのだが、あまりのうるささに、つい口を出してしまった。
「ちょっとうるさいわね。こんなとこでナンパするんだったら、出ていったらどう?」
しかし、秋山と呼ばれる男は私を無視し、再び女性たちに話しかけていた。
「なんだこの女。ま、いいや。おい、いつまで無視してんだよ。いい加減諦めろ。何をそんなに渋ってんだ。奢ってやるって言ってんだろ。」
「しつこい人ですね。もう放っておいてください。」
「だとよ。随分偉そうじゃねえか。てめえ、秋山組長に対してなんて口の聞き方してんだ。痛い目に会いたいってのかよ。」
ついに男たちは席を立ち上がり、女性たちを脅し始めた。それを見た周りの客たちも止めに入ったが、秋山は止めに入った男性を殴った。そのため、すっかりと店内は静かになってしまった。
「おい、俺に説教しようなんて思うなよ。これに邪魔すんじゃねえ。見てるお前らもだ。分かってんのか? 俺は秋山組の組長の秋山って言うんだ。一般人のお前らは知らねえかもしれないが、ここら辺では有名なヤクザの組長だ。俺に逆らえば消してやる。」
「そうだぞ。この秋山組長を敵に回したら人生終わるぜ。どうせ勝てる奴なんていねえんだから黙ってろってんだ。」
そんなことを言いながら、男たちはヤクザの組長と子分ということを振りかざしていた。そのせいで、女性たちを助けようとする者は誰もいなくなり、客はどんどん帰って行ってしまい、ついには私と女性たちと男たちだけが残った。
「ここはナンパするような場所じゃないんでしょ。出会いが欲しけりゃ、よそに行きなさいよ。」
「さっきの話を聞いてなかったのか? 俺はヤクザの組長だ。どうにかなりたくなかったら黙って消えろって言ってるんだ。」
「いきなり話しかけてきて何なの。お一人様で寂しいからって構って欲しいのか。誰がお前みたいな独身女を相手にするかよ。」
私は静かに酒を飲みたいんだ。ただ静かにして欲しいだけ。別に相手して欲しいわけじゃない。一人が好きなんだ。
「負け惜しみも大概にしろや。」
秋山という男は、私が一人で飲みたいと言ったのに、若い女性客にしか話しかけられなかったことに嫉妬と勘違いしたようだ。
「負け惜しみ? あなたたちのような下品な男とは一生飲みたくもないわ。」
「てめえ、言わせておけば。俺に逆らったらどうなるか分からせてやらねえとな。」
秋山は私の肩を掴んできた。私は一般人として居酒屋に来ていたのに、あまりのうるささに言い過ぎたと後悔した。秋山と私が一触即発となり、女性たちは恐怖に震え、私が巻き込まれないようにと慌てて秋山の誘いを受けることにした。
「さあ、その言葉が出てよかった。面倒な女たちだな。」
しかし、秋山の次の言葉が決定的な引き金となる。
「そうか。そうか。俺たちと飲む気になったのか。なあ、お前、酒持ってこいよ。どうせ寂しい独身女なんだろ。残念だったな。酒をさっさと持ってこいよ。秋山組長を待たせるんじゃねえ。ああ、そうだ。先に言っておくが、逆恨みなんてするなよ。俺たちと酒を飲むのに選ばれなかったからって、変な気を起こすんじゃねえぜ。」
そう言って秋山はガハハと笑っていた。私は込み上げる怒りのままに秋山に制裁を加えようとしたが、手を止めた。なぜなら、この居酒屋の店主である山田はちょうど買い出し中のため、下手にここで私が怒りに任せて暴れてしまっては、山田に顔向けできないからだ。そのため、ここは我慢し、私は適当に酒を作り、秋山たちに持っていった。
「さっさと持ってこい。遅いんだよ。気が効かない女だな。お前、普段から地味な格好してるんだろ。きっと寂しい独身女なんだな。」
私を馬鹿にし、秋山はお構いなしに私の作った酒を煽った。
「え、まずいな。おい、お前、酒も上手く作れねえのかよ。なあ、下手くそすぎやしねえか。」
「本当だ。こんなまずい酒、飲めたもんじゃない。こんなもん秋山組長に飲ませるなんて。」
すかさず秋山の子分は秋山に同調した。
「そんなこと言われても、私は居酒屋で働いたこともないんだから仕方ないじゃない。でも、お酒が飲めたら何でもいいのかと思ってたけど、違うんだね。」
「てめえ、わざとやったんだな。舐めてんのか。」
「秋山組長。こいつ、一発やってやらねえと分かんねえっすよ。」
そして、秋山は私に掴みかかってきた。すると、女性たちが私を助けようと思ったのか、秋山たちに向かって言葉を発した。
「やめてください! その人に手を出さないで!」
しかし、女性たちの抵抗も虚しく、子分の言葉に遮られてしまった。
「若い女は呼んでないんだよ。あんまり秋山組長を怒らせるんじゃねえぞ。」
子分の男はそう言うと、女性にかなりの勢いで平手打ちをし、ついに女性たちは黙ってしまった。
「やれやれ。面倒な奴らに口出ししちゃったわね。」
私がそう言って席に戻ろうとした瞬間、私は秋山に殴られてしまった。
「おい、お前、舐めた口聞いてんじゃねえぞ。」
そして、私は秋山の拳を何度も浴びせられ、床に倒れ込んでしまった。子分の男もそれに便乗し、私を容赦なく殴った。
「ああ。だから調子に乗るなんて言ったのに。あんな強気なことを言うから、てっきりやり返してくると思いましたけどね。口だけ一人前ってことですね。」
女性たちは私の体を起こし、必死に解放しようと駆け寄ってくれた。
「おい、お前らも同じようになりたいのか?」
しかし、子分の男が静止すると、女性たちは黙り込んでしまった。ヤクザの組長とその子分に睨まれたら、一般人なら誰でも反抗なんてできないのだ。
「そんなことを、あなたたちがしなくていいんだ。お前らが相手するのは礼だけでいいんだよ。この独身女、完全にビビっちまったようだな。固まって動かなくなってやがる。まあこれで秋山組の組長のすごさが分かっただろうな。」
「そうですよ。秋山組長の邪魔をしたらどうなるか、今頃身に染みてますよ。勝手に一人で酒でも飲んでりゃ、こんなことにはならなかったのに。バカな女ですね。」
「ところで秋山組長、この女はどうするんですか?」
「そうだな。埋めるか?」
「分かりました。連れて行きます。」
大声で拘束されたように見せ、私はこのまま秋山たちを安心させた後で、一気に地獄へ落としてやろうと決めた。そこに、タイミングよく店主である山田が買い出しから帰ってきた。
「森園の姐さん、店番ありがとうございました。って、あれ? 何だ? 客がいなくなっちまった。珍しいな。なんかあったのか?」
そして、山田は子分に連行される私を見て焦る。
「おい、お前たち、その人に何するつもりだ? なんでそんなことになってるんだ?」
山田は私を見て驚愕するも、状況をすぐに把握し、女性客たちを店の外へ避難させた。
「お前たち、早めに謝った方がいいぞ。」
「はあ? 何言ってるんだ。秋山組長がこの独身女を倒したんだよ。組長の方が強いに決まってるだろう。訳のわからないことを言ってるのはお前の方だ。」
「苦しむより、自分で行く方が楽だ。本当に悪いこと言わねえから。さっさとその人を離して、お詫びした方が身のためだぞ。」
「頭おかしいんじゃねえか。こいつ、口だけの独身女だぜ。恐れる必要なんてないだろ。まあでも、一般人には俺みたいなヤクザの組長のすごさが分かんねえか。」
山田が謝罪するように言っても、秋山の私への侮辱は止まらなかった。私は森園組の組長として、今まで一度も喧嘩に負けたことがなかった。ただの酔っ払いだろうが客だろうが、手を抜いてしまったのが悪かった。
そこで、拘束されていた腕を振りほどき、私は余裕をかましていた子分を一瞬にして制圧し、次に秋山に向けて反撃に出た。
「山田がさっき言った意味が、この後分かることになるかもしれないわね。」
「なんだと? っていうか、今一瞬過ぎて何が何だか。いきなり何の真似だ?」
「秋山組長、やってやってくださいよ。こいつ、調子に乗ってますよ。」
「よくもそんな、やられた状態から生意気な口が聞けるもんだな。」
「生意気? 何を言ってるのかしら? 言わせておけば、どうせまた口だけなんだろう?」
秋山は怒りで肩を震わせていた。
「くそ、舐めたことばっかり言いやがって。」
そう言うと、秋山が殴りかかるが、私は軽くかわした。秋山は開いた口が塞がらないようだった。
「どういうことだよ。」
「山田、お客さんも全員帰ったようだし、暴れても構わないわね。」
「ええ、大丈夫です。」
私が秋山の胸倉を掴み、顔面を殴ると、秋山は苦悶の声を上げて崩れ落ちる。そのまま顔面を何発も殴りつけ、あっという間に黙らせた。
「そんな実力で、よく組長なんて務められたのね。子分のあなた、言ったわね。あなたのとこの組長は、いつもこんなもんなの? 今まで出会った組長の中でもひどいわよ。」
「なんだと? 今のはわざと殴られただけですよね。秋山組長!」
「当たり前だろうが。たまたま当たっただけだ。パンチが顔面に当たったくらいで調子に乗るなよ。やり返してやる。」
秋山は懐からナイフを取り出し、大声をあげた。
「そんなもの使っても、勝てないものは勝てないわよ。ビビって私が土下座するとでも思ったの? できるもんならやってみなさい。ただ、さっきからナイフを持つ手が震えてるわね。人にナイフを向けたことが、あんまりないのかしら。」
「そんなこと言われて、秋山組長がビビるわけがねえだろ。適当なこと言ってんじゃねえぞ。」
子分の男がつっかかってきたが、秋山は誰がどう見てもナイフを持つ手が震えていた。慣れないナイフでどうにかできると思ったのかしら。私も舐められたものだわ。隙をついて秋山からナイフを奪う。
「あ、おい、俺のナイフ。」
「ただの独身女が、なんでこんなことできるんだよ。」
「さあ、ムカつくな。」
「はあ。お前たち、本当に知らないで殴りかかってきたのか? この方は、森園組のレディース組長、森園ヤコさんだぞ。お前らでも、森園組は有名だから知ってるだろう。」
山田の一言によって、秋山と子分は固まってしまった。
「え、森園組って、あの森園組か? なんでそんな人間がこんなところにいるんだよ。」
「いやいや、秋山組長、絶対違いますよ。何かの間違いに決まってますってば。」
「なんでわざわざ嘘をつく必要があるの? さっき秋山組って言ってたけど、私は本家の組長とは知り合いなの。本家の組長には、今すぐ潰すと伝えておくわ。あなたたちみたいなバカがいると、極道の先が思いやられる。」
私は秋山の髪の毛を思いっきり掴み、揺さぶり持ち上げる。
「痛い。申し訳ございません。まさか森園組の組長さんだったなんて。もっと早く言ってくだされば、あんなことはしませんでした。なので、どうか許していただけませんか?」
森園組の組長を敵に回してしまったことで、秋山は泣きべそを書きそうになっている。
「一言でも言ってくだされば良かったのに。」
「まさか、俺たちに何かをしようなんて思ってませんよね。」
「一人でお酒を楽しもうとしたのに、騒ぐは、独身女だとののしるは。最後にはこの森園組の組長を知らなかったから、これまで私にしてきた失礼を許せ、ですって? 冗談じゃないわよ。それに、同じヤクザの組長として、人様に迷惑をかけるような真似をするなんて、本当に恥ずかしいわ。」
そう言って、私は秋山をめった打ちにしてやった。
「秋山組長、まさかここまでやり返されてしまうなんて。でもそういえば、秋山組長がやり合うのを見たことなかったかもな。」
「こんだけ弱かったら、部下に見せられないでしょうね。見たことないって、どんだけ部下に任せっぱなしだったんだか。」
「やめてくれ。頼む。もういいだろ。」
息つく間もなく、私と山田は秋山たちが逃げないように行手を阻んだ。
「何をするつもりなんだ? それ以上近づかないでくれ。俺は弱いんだよ、なあ。お願いだよ。こんなに弱い俺なんだから、やりがいもないだろ。俺は痛いのも苦手なんだよ。俺はもう十分あんたに殴られた。やるなら、子分だけで十分じゃねえか。」
「あ、秋山組長、俺を見捨てるんですか? いつもあんたの代わりに俺が犠牲になってきたでしょう。これが組長なんだから、当たり前の話なら、下っぱは命を捨ててでも組長の身の安全を守るのが勤めじゃねえのかよ。」
なんと、私が目の前にいることも忘れ、秋山と子分は互いを責め始めてしまった。
「ふざけんな。そこまでできるわけねえだろう。俺はあんたの奴隷なんかじゃない。こんなすぐに見捨てるような組長は願い下げだ。」
「ああ、くそ、イライラするな。」
「初めからあんたが俺たちに口出ししなければ、こんなことにならなかったんじゃないのかよ。」
あろうことか、私に対して秋山は自分のことを棚に上げて逆切れしてきた。私は子供のように喚く秋山に心底腹が立ってしまった。そして、思いっきり振りかぶった秋山の腕を掴み、腹部に一発殴った。秋山は苦しそうな声を出していたが、私はお構いなしに連続で腹部を殴り、気絶させた。
一方、子分の男と言うと、組長に裏切られてしまったことがショックだったのか、戦意喪失しているようだった。しかし、子分がどのタイミングでまた殴りかかってくるか分からないため、私は二人を椅子に縛りつけた。さすがに椅子に縛り付けられたら秋山も大人しくなると思っていたが、秋山の怒りはまだ収まらないようだった。
「おい、この縄を解け。」
「無理な話ね。秋山組は解散させる。二度とヤクザの組長だからと好き勝手できないようにするわ。これからもヤクザでいられると思わないでね。あなたたちの居場所はない。本家の組長にもしっかり伝えるから。」
「なんでそこまでされなきゃいけないんだよ。俺たちみたいな普通の組員はどうなるんだよ。組が解散させられちゃ、行き場がないだろう。」
「そんなことは私の知ったこっちゃないわ。秋山が今までしてきた報いを受ける時が来たのよ。」
私はさっき秋山から奪い取ったナイフを取り出し、二人に向けた。
「さあ、このナイフでどうしてやろうかな。どこを狙って欲しい?」
「狙うだって? 何をするつもりだ? こんな無防備な格好でやられちゃ、抵抗できないじゃねえかよ。」
「そうだ。あなたたちを狙ってダーツでもしようかしら。私を侮辱して、せっかくの休日も台無しにされて、むしゃくしゃしてるのよ。」
私は秋山の頭を目がけてナイフを振り投げた。
「何するんだよ! 本当にダーツでもやるつもりかよ。もう少しで本当に刺さるところだったぞ。」
「動かない方がいいんじゃないの? 動いたら、刺しどころが悪くて一瞬で死ぬかもしれないわよ。」
「ただじゃおかねえからな。」
「その状況で、お前に何ができるの? やってみなさいよ。」
私はきっと殺気を含んだ視線で睨みつけた。
「誰か助けてくれよ。頼む。本当に申し訳ございませんでした。何でもしますので、許してください。」
秋山の必死な謝罪を無視して、顔面に向けてナイフを振り下ろした。
「ああ、こいつ気を失ってますよ。本当に顔面に振り下ろされると思ったんでしょうね。」
「子分、あなたも秋山みたいに抵抗する気じゃないでしょうね。もし抵抗をするなら、同じことをするからね。」
「抵抗なんてしません。許してください。何でもしますから。」
ガタガタと肩を震わせている様子を見て、私は子分にはこれくらいでいいかと見逃してやった。そして、私は携帯を取り出し、森園組の幹部に店に来るよう連絡をした。連絡をした十五分後、幹部たちは整列し、店の前で待機していた。
「貴重な休みだったものを、急な呼び出しで申し訳ない。そこにいる秋山組の組長とその子分である男を連れて、森園組の幹部からもお灸を据えてくれないか?」
すぐさま秋山たちを連れて、幹部たちは去っていった。
「森園組長、今日はお休みだったのにすみませんでした。今後はもうこんなことする奴はすぐに追い出しますので、これからもこの店を贔屓にしてくださいね。」
「こちらこそ、店で騒いで済まなかったわ。」
後日、私は秋山組の本家の組長に事件の詳細を伝え、秋山組は解散させられた。もちろん、秋山はその後、ヤクザの世界に戻ってくることは許されなかった。知り合いの組に入れてくれと頼み込むも、森園の組長に手を出したとして、誰もそれを了承する者はいなかったという。
さらに、居酒屋の店内破損の賠償一千万円と私への治療費一千万円。合計二千万円を請求された秋山は、金も職も失った。その後、あろうことか秋山は逆恨みし、私の元へ現れた。しかし、部下によって取り押さえられ、その後の秋山の行方は知らず、おそらく後腐れもなく消されたのだろうと噂されている。
後日、無事に二千万円が入金され、私は一千万円を山田に渡した。
「山田、先日の件の賠償金よ。これで破損したものを買ったり、店を回したり、好きに使って。」
「ありがたくいただきます。山田は一千万円を使って店を改装し、より居心地のいい店を作ることができました。これも全て森園組長のおかげです。」
「私はただ金を回収しただけよ。ヤクザの来る店だなんて噂が流れて、この店が潰れたら困るもの。私の行きつけがなくなるのが惜しいからね。」
その後も、私は何事もなかったかのように行きつけの居酒屋として通っている。ただ、今回の事件で私にも心情の変化があった。それは、私は元々一人で静かに酒を飲むのが好きだと思っていたが、案外賑やかな空間も悪くはないと思い始めていることだった。今夜は賑やかな声に耳を傾けながら酒を飲んでみようと、胸を踊らせながら店に向かった。


