元義母からの電話は、怒号で始まりました。「嫁のくせに、息子の飯も作らずにどこにいるの!」でも、私はもう彼らの家族じゃない。3年前に離婚して、1年前に再婚したんです。真実を伝えても「そんなの嘘だ!」と聞く耳を持たず、ついには実家にまで乗り込んできて「浮気女を出せ!」と大騒ぎ。門扉を蹴って怒鳴る彼女の後ろで、元夫は腕を組んで黙ったまま。この時、私は夫の俊介が静かにスマホを構えているのに気づきまし…

元義母からの電話は、怒号で始まりました。「嫁のくせに、息子の飯も作らずにどこにいるの!」でも、私はもう彼らの家族じゃない。3年前に離婚して、1年前に再婚したんです。真実を伝えても「そんなの嘘だ!」と聞く耳を持たず、ついには実家にまで乗り込んできて「浮気女を出せ!」と大騒ぎ。門扉を蹴って怒鳴る彼女の後ろで、元夫は腕を組んで黙ったまま。この時、私は夫の俊介が静かにスマホを構えているのに気づきまし...

電話の向こうから、元義母のヒステリックな声が飛び込んできた。
「どうして家にいないの?5分以内に息子の飯を作りなさい!」
私は冷静に答えた。
「今、夫と家にいますけど。」
「え?何をバカなこと言ってるの?息子なら私の隣にいるわよ。あなたは息子の嫁でしょ。」
「もう申し上げたはずです。私は3年前に安幸さんと離婚しました。そして1年前に別の方と再婚しています。」
義母の声が一瞬止まった。それから、怒りと困惑が混ざった声でまくし立てる。
「そんなの嘘に決まってるじゃない!安は、あなたが海外出張に行っただけだって言ってたわよ。戻ってきたらまた一緒に住むって話じゃない!」
「その話は全て嘘です。私は海外出張なんてしていません。離婚してから実家で生活していました。」
「そんなはずない!だって今日が帰ってくる日だって安が言ってたわよ!何を説明しなさい!」
「説明することなんてありません。全て安幸さんが作り上げた嘘なんです。もう一度言いますが、私たちは3年前に離婚しています。」
義母は完全に息子の作り話を信じ込んでいた。離婚という現実を受け入れられず、私がいつか戻ってくると妄想にすがっていたのだ。そして、息子はその事実を母親に隠し、都合のいい嘘で取り繕っていた。
「信じたくないならそれで結構です。ただ、これ以上私の生活に干渉しないでください。それが最後のお願いです。」
「お願い?嫁のくせに自分勝手なことばかり言って!私は認めないからね!」
私はこれ以上、義母の罵倒に付き合う気になれなかった。
「これで終わりにしてください。それでは。」
そう告げて電話を切った。義母がこの事実を受け入れる気がないことは分かっていたし、信じてもらおうとするつもりもなかった。それでも、彼女の声に残る怒りは耳に焼きつくように響いた。このまま終わるはずがないことも、容易に想像できた。

数日後、私は実家へと車を走らせていた。両親から電話があり、義母と安幸が突然実家に乗り込んできたというのだ。「お前の娘を出せ!」と騒ぎ立て、門扉を蹴りながら喚いているらしい。
実家に到着すると、目の前には予想以上の光景が広がっていた。義母が門扉を蹴り上げながら怒鳴り声をあげ、安幸はその後ろで腕を組んで不機嫌そうな表情を浮かべている。
「夏美を出しなさい!浮気女が何を考えているのか聞いてやる!」
義母の声が近隣に響き渡り、すでに何人かのご近所さんが家の周りに集まっていた。母が玄関先で困惑した表情を浮かべ、父が「いい加減にしろ!」と義母に向かって声を張り上げている。その様子に義母はひるむどころか、さらに声を荒げて反論している。
この状況を見て、改めて確信した。私が離婚を選んだのは正解だったのだと。

深呼吸をして冷静さを保とうとしながら車を降りると、義母の視線を一心に受けた。彼女は私の姿を認めると、目を剥いて叫んだ。
「ようやく出てきたわね!」
義母は門扉を蹴るのをやめると、両親に向かって声を張り上げた。
「この娘の夏美が浮気してるんでしょ!安幸がいるのに何をしてるのよ!」
母は凜とした態度で答えた。
「夏美が浮気?そんなことあるわけないでしょう。それにもう安幸さんとは…」
「何を言ってるの!安がそう言ってるのよ!夏美は浮気しているんだって!」
それを聞いて、ついに父が一歩前に出た。
「いい加減にしなさい!夏美は安幸さんと3年前に離婚しています。それから1年前に別の男性と再婚しました。浮気なんてありえない話だ。」
しかし義母はその話を一切受け入れる様子を見せなかった。安幸はその場で頷き、義母の言葉に同意するように黙って立っていた。
母がため息をつきながら義母に目を向けた。
「あなたたちが離婚を認めたくないのは分かります。でも私たちは事実を話しているだけです。信じたくないのはあなたたちの問題です。」
義母は母の冷静な態度にさらに苛立ったようで、「黙りなさい!私は嫁の浮気を追求しに来てるの!」と再び怒鳴り始めた。

その時だった。車のエンジン音が近づき、やがて私の夫である俊介が現れた。俊介は落ち着いた表情で車を降り、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
「どうも、俊介です。」
彼は義母と安幸に丁寧に頭を下げ、穏やかな声で名乗った。その瞬間、義母の表情が一変した。
「あんたは誰?夏美の浮気相手ってことかしら?人様の嫁を奪うなんてどうかしてるわね。」
「いえ、私は夏美さんの再婚相手です。浮気相手ではありません。人の話も聞かずに勝手に決めつけてどうかしているのは、あなたの方じゃないですか?」
その落ち着き払った態度に、義母も安幸も言葉を失った。だが、義母はすぐに顔を真っ赤にして一歩踏み出し、俊介を鋭く睨みつけた。
「何を能々と名乗ってるのよ!安幸の大事な嫁を奪っておいて、よくそんなしらじらしいこと言えるわね!」
「さっさと夏美を返しなさい!あの子は安幸の嫁で、これからも安幸と一緒にいるべきなのよ!」
義母の言葉は、今度は私に向けられた。
「夏美さんも何を考えてるの?家庭を壊してこんな男と一緒になるなんて!」
しかし、俊介は冷静さを失わず、穏やかに立ったまま、その怒号を静かに受け止めていた。

「浮気相手というのは誤解です。僕は正式に夏美さんと結婚し、彼女の夫として暮らしています。」
俊介は義母の激しい非難を一切気に留めることなく、ゆっくりと口を開いた。その穏やかな声は、義母の勢いを一瞬だけ柔らげたようだった。
「夏美さんはかつてあなたと同居していました。その際、あなたは『家事は嫁の勤め』として全ての家事を夏美さんに押し付けていましたよね。それだけならまだしも、彼女が一生懸命こなしていた家事に点数をつけるという行為までしていたそうじゃないですか?それが夏美さんにどれほどの負担とストレスを与えてきたか、考えたことはありますか?」
俊介の指摘に、義母の表情が微妙に変わった。しかし彼女はすぐに反発の姿勢を見せる。
「さらに、夏美さんがあなたとの関係をよくしようと贈り物までしていたことをご存知でしょう。それをあなたは気に入らないという理由だけで捨ててしまった。そんな態度を取り続けながら『安幸の大事な嫁』と煽るのは、あまりに矛盾しているとは思いませんか?」
俊介の声は冷静でありながら正確だった。彼が指摘したのは、義母が長年に渡り行ってきた嫁いびりと、それに加担していた安幸の態度、贈り物を捨てた行為、家事に点数をつける嫌がらせと決めつけて私を追い詰めた過去だ。
「そんなの作り話よ!そもそも証拠がないわよね。証拠がないならただの言いがかり!それに離婚だなんて話も信じられるわけがない。夏美はまだ安幸の嫁よ!浮気の慰謝料も払ってもらうからね!」
「何もかも認めない。そういうことですね。分かりました。では、この書類をご覧ください。これを見てからも同じことが言えますか?」
そう言って、俊介がバッグから取り出した書類を差し出すと、義母の顔からさっと血の気が引いた。それは3年前、私が安幸と離婚した際に義母当てに送った内容証明郵便の写しだった。そこには安幸との離婚の詳細、不貞行為に対する慰謝料請求の記録がしっかりと記されている。郵便局による公式な保管記録も添えられており、これ以上ないほど確実な証拠だった。
内容を知らされていない義母は、書類を初めて目にして言葉を失った。そして、怒りを抑えつけるように震える声で安幸に問いかけた。
「安幸?これは一体どういうことなの?本当に夏美さんと離婚してたの?」
安幸は「それは…その…」と言葉を濁すばかりだ。義母の追求に、何も言い返すことができない。目をそらし、ただ肩を震わせるばかりだった。
「あなたは安幸さんのこと、何も知らないんですね。」
俊介が静かに言った。
「内容証明郵便は日付や内容が送り主と郵便局に5年間保管されます。あなたが知らなかったのは、自分の行いのせいです。よく思い出してみてください。これまでの自分のことを。」
義母が内容証明郵便の存在を知らなかった理由は単純だった。彼女は送られてきた封筒の中身を確認することなく捨ててしまっていたのだ。それは以前、私が贈り物をした時と同じだった。手紙でもプレゼントでも、私から送られたものは全て不要なものだと決めつけ、開封すらしないままゴミ箱に放り込む。今回の内容証明郵便もその例外ではなかった。

義母は顔を真っ赤にして安幸を問い詰めた。
「安幸、一体どういうことなの?なぜこんな重要なことを私に隠していたの?本当に離婚なんてしたの?」
しかし安幸は、言い訳にもならない言葉をつくだけで視線を落とすばかりだった。その態度が全ての答えを示していた。
私は義母を見据えて話を始めた。
「彼は自分のプライドと、あなたに対する信頼を失わないために離婚のことを隠していたんです。義母さんにとって立派な息子であり続けたかったのでしょう。私も最初は直接お話ししようと思っていました。でも安幸に『絶対に言うな』と口止めされてしまったんです。だからあえて、内容証明郵便という形で伝えたんです。」
私が義母に内容証明郵便を送ったのは、安幸が離婚の事実を隠すことを予測していたからだ。もし直接伝えても、彼が否定するだろうことは目に見えていた。正式な手続きを踏むことで、少なくとも義母が知る機会を得るはずだった。だが義母はその郵便を確認することなく捨ててしまい、事実は長らく埋もれることになった。
真実が安幸ではなく、私や俊介の手から明かされたことに、義母は大きな屈辱を覚えたのだろう。彼女の怒りは爆発した。
「ま、待ってくれよ、母さん!黙っていたことは謝るよ!でもそれには理由があったんだ!俺は夏美と再婚するつもりだったんだ!夏美も俺と再婚すると約束してくれたから!」
「再婚ですって?わざわざ離婚した上で?意味が分からないわ!ちゃんと説明しなさい!」
「手紙だよ!手紙で再婚の約束をしたんだ!」
私は静かに口を挟んだ。
「安さんから送られてきた手紙や写真は、全てお義母さん当てに送り返していました。」
「は?そんなもの私のところには届いてないわよ!」
「そうですか。まあ、そうなるでしょうね。あなたは私から送られてきたものを、ろくに確認もせず捨てていましたから。おかげで処分する手間が省けました。感謝しています。」
「ふざけないで!そんなもの私に送るなんて非常識にも程があるわ!」
「非常識ですか?それは安幸さんに言ってください。現実と妄想の区別もつかず、離婚した相手に3年間も突きまとったんですから。そんな息子のことを知らずに喚いているあなたも非常識だと思いますけどね。」
「母さん、ひどいよ!せっかく送った手紙と写真を捨てるなんて!」
「知らないわよ!大体、あなたが私に何も相談しなかったからこんなことになってるんじゃないの!」
「俺のせいだっていうのか!」
「当たり前でしょ!こんな馬鹿げた状況、私のせいだって言うの?」
義母と安幸の間で激しい言い合いが始まった。二人は互いに責任を押し付け合い、言葉の応酬はどんどん激しくなるばかりだった。その様子を見ながら、私は静かにため息をついた。似た者同士の親子じゃないか。自分に都合よく事実をねじ曲げて、価値観を押し付けてくる。結婚したら嫁は自分たちの所有物になるとでも思っていたのだろう。

直後、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。その音は、義母と安幸の騒ぎに終止符を打つかのように響く。俊介がすでに警察に通報していたのだ。
「は?なんで警察なんて呼んだの?私たちを犯罪者扱いするつもり?」
「勝手なことすんなよ!面倒なことになるじゃないか!」
「あはは。何を言ってるんですか。犯罪者扱いなんてしていません。お二人は、紛れもなく立派な犯罪者ですよ。先ほど、お義母さんは門扉を蹴っていましたよね。これは明らかに器物損壊に該当します。安幸さんは3年間に渡り、夏美さんに手紙や写真を送り続けていた。こちらはつきまとい行為に該当しますね。くだらない親子喧嘩はやめにして、パトカーに乗る準備をしてください。」
「は?そんなことしていないわ!証拠もないくせに偉そうなことを!」
その言葉に対し、俊介は黙ってスマホを取り出した。画面には、義母が門扉を蹴る様子がしっかりと記録されていた。そして私はバッグの中から、安幸が送り続けてきた手紙と写真を取り出す。実は証拠のために半分だけは手元に保管しておいたのだ。
義母と安幸は、自分たちの行為が記録されていたことに完全に動揺していた。
「こんな証拠、嘘に決まってる!」
「そんなつもりじゃなかったのよ!」
必死に言い訳を始めたが、俊介は冷静さを失わない。完全に追い詰められた義母と安幸は、突如としてその場から逃げ出そうとした。しかしすぐにぴたりと動きを止めてしまう。いつの間にか周囲にはご近所の人々が集まっており、彼らの行動をじっと見守っていた。
「もう証拠なんて必要ないだろう。これだけの証人がいるのだから。」
逃げ場を失った義母と安幸は、さらに強引な行動に出る。義母は集まった人々の間を無理やり突き抜けようとし、肘を使って突き飛ばした。安幸もそれに続き、ご近所さんの肩を押しのけて道を切り開こうとした。しかしその行動は周囲の怒りを招くだけでなく、決定的な瞬間を生み出すこととなった。
まさにその瞬間、パトカーのサイレンが再び響き渡り、警察官たちが現場に到着した。制服姿の警察官たちが凜とした態度で近づき、義母と安幸の前に立ちはだかった。彼らは逃げようとする二人をしっかりと静止し、暴力行為やこれまでの一連のトラブルについて事情を尋ねた。義母は声を荒げて抗議しようとしたが、彼女の口から出る言葉は明らかに自己弁護に終始しており、警察官たちには通じなかった。
最終的に、義母と安幸は現場から連行され、パトカーの中へと押し込まれた。二人が最後に見せた表情は、何とも哀れなものだった。その場に残されたご近所さんたちは、安堵のため息をつきながら互いに視線をかわしていた。去っていくパトカーの赤いランプが遠ざかるにつれ、その場に残った私と両親は、静かな解放感を感じていた。

私たちは俊介に感謝を伝えるため、言葉をかわし始めた。
「俊介さん、本当にありがとう。あなたがいなければ、どうなっていたか分からなかったわ。」
「俊介さんのおかげで助かった。本当に感謝してる。」
父も同じように頭を下げた。俊介は穏やかな微笑みを浮かべながら首を振った。
「そんなに改まらないでください。僕がやるべきことをしただけです。家事を丸投げされ、理不尽ないびりにも耐え続けて、離婚した後もあんな風にしつこく突きまとわれて。夏美さんがどれだけ苦しい思いをしたのかを考えると、なんとかして守りたいと思ったんです。」
実は俊介の職業は弁護士だ。今回の内容証明郵便の写しやスマホでの証拠の撮影、手紙や写真を半分残しておくことなども、すべて俊介の提案だった。それは安幸や義母に法的な責任を認識させるためだった。
「それでも、ここまでしっかり準備してくれるなんて。俊介さん、本当にありがとう。」
震えながら言葉を絞り出すと、俊介は少し照れたように笑いながら答えた。
「夫婦や家族は寄り添うものだと思うんだ。彼らのように、決して一方的であってはならない。僕は自分が正しいと思うことをした。その結果、夏美さんを救えた。こんなに嬉しいことはないよ。僕にとっては、夏美さんが幸せでいてくれることが一番大事だから。それに、弁護士の仕事は困っている人を助けることが本分だからね。こちらこそありがとう、夏美さん。僕を信じて頼ってくれて。」

事件が警察沙汰にまで発展したことで、安幸の人生は大きく変わった。彼が勤めていた会社では、警察に連行されたことがあっという間に知れ渡り、その余波で解雇処分が下された。安幸が会社で見せていた傲慢な態度や不正が発覚していた過去の行動も相まって、会社からの信頼は完全に失っていた。一方の義母も、事件後に体調を大きく崩した。元々持病を抱えていた彼女だが、安幸の解雇や世間の非難が重なり、精神的にも肉体的にも耐えられなくなったのだろう。現在では介護を必要とする生活を送っているらしい。
皮肉なことに、私が義母の世話をしていた時期が、彼女にとって最も安定していた時間だったのかもしれない。そもそも私が安幸や義母と同居していたのは、義母の体調を気遣ってのことだった。しかし同居が始まると、義母は「家事は嫁の勤め」という固定観念を振りかざし、全ての家事を私に丸投げした。義母が求めていたのは介護の支えではなく、都合のいい奴隷だったのだ。掃除から料理、洗濯に至るまで、彼女は自分で何一つ手を動かすことはせず、私の働きを監視するかのように見下ろしていた。そして私がどれだけ努力をしても、「ここが甘い」「これは失敗だ」といった嫌味な評価をつけ、私の心をじわじわと蝕んでいった。
それでも私は義母との関係を良好に保とうと努力した。彼女の好きなものを調べ、些細なプレゼントを渡すこともあったけれども、その全ては彼女によってゴミ箱に捨てられていたことを後に知る。さらに安幸は母の味方だった。私がどれだけ苦しい思いをしているかを伝えようとしても、「母さんはお前のことを思って言っているんだ。それくらい我慢しろ」と言い放ち、私を孤立させた。今振り返れば、義母の体調を気遣った私の気持ちは完全に利用されていただけだった。安幸と義母にとって、私という存在は単に自分たちの生活を楽にするための道具でしかなかった。
義母が自分の行いの結果として介護が必要な生活を送っているのは皮肉であり、安幸がそれに付き添う生活を余儀なくされているのも自業自得と言えるだろう。

その後、俊介と私は新居に引っ越して新しい生活を始めた。新居で二人で築き上げる家庭は、これまで私が経験してきたものとは全く違うものだった。部屋の窓から差し込む朝の光や、食卓で交わす何気ない会話が、こんなにも穏やかなものだとは思いもしなかった。俊介は、私がこれまで味わうことのなかった本当の優しさを日々教えてくれる存在だ。
ある日の夕方、俊介が仕事から帰ってくると、私はキッチンで夕食の準備をしていた。
「お疲れ様。いい匂いがするね。」
「お帰りなさい。今日は俊介さんの好きなハンバーグよ。」
「ありがとう。でも、無理しないでね。体調はどう?」
「大丈夫。最近はつわりも落ち着いてきたから。」
俊介は私の手を優しく握りかけた。
「そろそろベビー用品を見に行こうか。この子のために一緒に選びたいんだ。」
「そうね。どんな部屋にしようかしら。明るい色がいいかな。」
「きっとこの子は、夏美さんみたいに優しい子に育つよ。僕たちの愛情をたっぷり注いで、のびのびと育ててあげたいね。」
俊介は安幸とは全く違う。私の気持ちを第一に考え、一緒に未来を描いてくれる。過去の辛い記憶も、俊介との温かい日々に包まれて少しずつ色あせていく。
「この子が生まれたら、毎日が今よりもっと賑やかになるのね。」
「そうだね。きっと笑い声が絶えない家庭になるよ。夏美さんと出会えて、本当に良かった。」
夕日が窓から差し込み、二人の影を長く伸ばしていく。私たちの前には、希望に満ちた未来が広がっている。義母や安幸との見苦しい争いは過去のもの。これからは俊介と共に、新しい家族として歩んでいくのだ。
「俊介さん、ありがとう。あなたと一緒なら、どんな未来も怖くない。」
「こちらこそ、夏美さんとこの子と三人で、幸せな家庭を築いていこう。」
二人で見つめる空は、明日への希望で満ちていた。

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