「私、あなたに嘘をついていたの。本当にごめんなさい」…

「私、あなたに嘘をついていたの。本当にごめんなさい」...

「私、あなたに嘘をついていたの。本当にごめんなさい」

そう言った彼女の顔を見て、俺はなぜか笑みがこぼれた。怒る気持ちなんて一切なかった。

俺の名前は強兵。学生時代の頃、はっきりした理由は分からないが、俺はそれなりにモテていた。特にイケメンでもないのに、女性受けが良かった。正直、彼女には困ったことがなかったし、人並みにはいろんな経験もしてきた。

しかし、付き合った女性とはいつも振られて終わるのが俺のテンプレだった。付き合い始めは「真面目で優しいところが好き」と言われるのに、いざ付き合ってみると「優しすぎてつまらない」に変わってしまう。

彼氏が優しいに越したことはないはずなのに、優しすぎてつまらないとはどういうことなのか。優しくしなければ「女性に優しくない」と言われるし、そもそも優しくないと付き合ってもらえない。俺は好きな人に嫌われたくないから優しくしているだけなのに。

恋愛経験を重ねれば重ねるほど、女性というものが分からなくなっていった。そんな俺も25歳になった。

ある日、親友とカフェでコーヒーを飲んでいた時のことだ。

「強兵、最近彼女とはどんな感じなんだ?」

「あの彼女とは別れたよ」

「え、付き合って1年くらいは経ってたよな」

「1年と2ヶ月くらいかな」

「ひょっとして、また振られたのか?」

「そうだよ。その通りだ。理由もいつもと同じだよ」

「まさか」

「挙げ句の果てには『他に好きな人ができた』って。写真も見せられたけど、なんかイケてないやつだったな」

「マジかよ。強兵の何がダメなんだろうな」

「それはこっちが聞きたいよ。いつもいつも俺の方が振られてばっかりでさ」

「おいおい、そんなに落ち込むなよ。強兵ならまたすぐに彼女ができるって」

「うーん。なんかしばらくはいいかなって感じ。人に優しくするのにも疲れたっていうか」

「やっぱり趣味が同じ人と付き合った方がいいのかな」

「同じ趣味って……まさか、あれのことか?」

「うん、あれのこと」

「おいおい、それはさすがに無理だろ。俺は男だからなんとなく理解できるけど、女性がお前の趣味を理解するのはちょっと厳しいんじゃないかな」

「やっぱりそうかな」

「そりゃそうだろう。アブノーマルなプレイをしたいなんて趣味は、普通は理解されないって」

俺の密かな趣味は、世間一般から見れば少し変わった部類に入るものだった。今までの彼女にはもちろん話したこともないし、実行したこともない。ただ、内心ではずっとやってみたいと思っていた。

「ちなみに今までの彼女にはどうしてたんだ?」

「やるわけないだろ」

「それもそうか。普段からそういう特殊なことを考えてる彼氏なんて嫌だもんな」

「おい、声がでかいよ」

「すまん、すまん。まあ、でもお前の趣味を理解してくれる女性なんて、そう簡単には現れないと思うぞ」

「それは俺も分かってるつもりなんだけどな。でも、やっぱりもう普通のには飽きたっていうか」

「でもそれって贅沢な悩みだよな。普通のができない男だって、この世には大勢いるんだからさ」

「まあな」

この日はカフェで友人と一日中そんな話をしていた。この友人とは高校からの付き合いで、今でも仲のいい親友だ。こいつにだけは、他の人には打ち明けられないことも相談していた。俺の一番の理解者でもある。

「まあ、お前の趣味を打ち明けるかどうかは別として、新しい彼女を作ればいいじゃないか」

「うーん……」

するとそこに、カフェの店員が偶然やってきた。

「お待たせいたしました。ご注文の品をお持ちしました」

「ありがとうございます」

俺が注文したコーヒーを受け取ろうとした時だった。

「もしよければ、これに連絡をいただけますか?」

「え?」

俺はコーヒーと一緒に一枚のメモを受け取った。そこには店員の連絡先と思わしき番号が書かれていた。

改めて店員の顔を確認する。その店員は俺より年上で、30代くらいの女性で、めちゃくちゃ綺麗な人だった。

「どうしてこんなに美人が俺なんかに連絡先をくれたんだろう」

驚いていると、店員はそのまま去っていった。もらったメモに目をやると、それはレシートの裏だった。たった今書いてくれたのかな、と思っていると、一連の流れを見ていた友人が口を開いた。

「お前、本当にモテるんだな」

「しかもさっきの店員さん、めちゃくちゃ美人だったじゃないか。多分俺たちより年上だけど、色気がやばかったよな」

「強兵、お前どうすんだよ。連絡するのか?」

「年上と付き合うどころか、アプローチされるのも初めてで、ちょっと思考が止まってる」

今まで付き合ってきた女性は、当然俺の性格を知った上で告白してきていた。しかし今回に関しては、俺のことを全く知らない人からアプローチされたわけで、つまり俺の外見を気に入ってくれたということだろうか。

でも俺は別にイケメンでもなければ、おしゃれでもない。だからこそ今まで付き合ってきた女性は、俺の内面を知った上で好きになってくれていた。

超絶美人からのいわゆる逆ナンに、俺は正直困惑していた。でも、あれほどの美人から連絡先を渡されて、嬉しくないわけがない。

その日の晩、俺は早速その女性に連絡してみた。

「知らない番号からだし、電話に出てもらえないかもしれないな」

そう思っていたが、すぐに電話は繋がった。

「あ、もしもし。今日連絡先をいただいた者ですが……」

「え、本当に連絡してきてくれたんですね。ありがとうございます。私は望美と申します」

「望美さん、本当に連絡先を渡す相手が僕で合っていますか? 一緒にいた友人の方じゃないですか?」

「え? どうしてそんなことを聞くんですか?」

「いや、望美さんのような綺麗な女性からこういうことをされるのは初めてで、何かの間違いなんじゃないかって」

「間違ってないです。私は強兵さんに興味があったから、連絡先をお渡ししたんです」

「そうだったんですね。僕なんかに興味を持ってもらえて嬉しいです」

「私の方こそ、連絡をしてもらえて嬉しいです。ありがとうございます」

その後、俺たちは自己紹介や趣味など互いの情報を交換した。驚いたことに、望美さんは俺より10歳も年上で35歳だった。

彼女との会話は想像以上に楽しくて、気づけば1時間以上も電話をしていた。

「あの……もし強兵さんが良ければ、今度お食事でも行きませんか?」

「いいんですか? もちろん行きたいです」

「本当ですか? よかった。じゃあ、今週末はいかがですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

こうして俺たちは週末に食事をすることになった。

仕事関係の人以外で、出会ったばかりの人と食事に行くことなんてないので、俺は緊張していた。

そして週末がやってきて、俺は待ち合わせの場所に向かった。すでに望美さんは待っていてくれて、店員の時とはまた雰囲気が違っていた。

「強兵さん」

「望美さん、早いですね。もしかして待たせてしまいましたか?」

「いえ、ちょっとそこの本屋さんに行きたくて、少しだけ早く着いちゃったんです」

「そうだったんですね。じゃあ、行きましょうか」

俺たちは店に向かったのだが、どうやら緊張していたのは俺だけでなく、彼女もだったらしい。

「なんか、こういうのって緊張しませんか?」

恥ずかしそうにそう言う彼女が、とても可愛く感じた。軽くお酒を飲みながら食事をすることで、俺たちの距離はすぐに縮まり、互いに楽しい時間を過ごすことができた。

「じゃあ、そろそろ行きますか」

「そうですね。今日は本当に楽しかったです」

「僕も楽しかったです。もし良かったら、また食事しませんか?」

「もちろんです。また行きましょう」

その日から俺たちは頻繁にやり取りするようになり、すぐに次に会う予定を立てた。望美さんと会う頻度も増えていき、気づけば敬語を使わなくなるほどに仲良くなっていた。

そんなある日のこと、珍しく望美さんの方から飲みに行きたいと誘ってきた。彼女に何かあったのかと心配になりながら、店に向かった。そして彼女から話を聞くと、想像をはるかに超える内容に、俺は驚いた。

「実は私、あることで悩んでいて、今日はそれを強兵君に打ち明けようと思ったの」

「悩み? どうしたの?」

「実は私……不感症っていうか……」

「え?」

「その……何をしても、イくことができないっていうか……」

「そ、そうなんだ……」

何を言われても対応できるように、ある程度の覚悟はしていたのだが、さすがに自らの不感症を告白されるとは思っていなかった。

「それでね、もし良かったら……強兵君にお手伝いをしてもらえないかなって」

「お、お手伝い? いいけど、僕なんかに何かできるかな?」

「そのプレイをして、私がイけるかどうかを試してみてほしいの」

「ああ、そういうことね。分かった。やってみるよ」

って、はあ。あまりの衝撃的な発言に、俺は取り乱してしまった。

「えっと……僕が望美さんにプレイをして、感じるようになりたいってことかな?」

「そういうことなの。ダメかな?」

望美さんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。彼女のその表情を見ると、それだけ思い悩んでいたことが伝わってきた。

しかし、普通の人なら望美さんの依頼に答えを悩むはずなのに、俺の中で答えは一択しかなかった。なぜなら俺は、そういうアブノーマルなプレイが好きだったから。ずっとやってみたいと思っていたから。

「分かった。望美さんがそんなに悩んでるなら、僕が何とかしてみます」

「本当ありがとう。やっぱり強兵君に頼んでよかった」

望美さんはとても嬉しそうにしていたが、おそらく俺の方が喜んでいたと思う。

それからはトントン拍子に話が進み、居酒屋で軽く飲んだ俺たちはすぐにホテルへと移動した。互いにシャワーを浴びて準備を整える。

「本当に僕でいいんだね?」

「うん。強兵君がいいの」

「途中で気が変わったら、すぐに止めてね」

「うん」

「じゃあ、始めるね」

こうして俺たちの長い夜は始まった。

おもちゃを使ってみたり、言葉攻めをしてみたり、どうにかして彼女の気分を高めようと必死だった。そのプレイの一つ一つに、望美さんは感じているような気がした。

「我慢せず、声を出していいからね」

「うん」

望美さんは顔を真っ赤にしながら頷いた。そんな彼女の様子を見てさらに興奮した俺は、どんどんテンションが上がっていった。激しさが増していくと彼女の体はビクンと動き、俺は彼女が頂点を迎えたのだと思った。

「望美さん、ひょっとしてイけましたか?」

しかし望美さんは首を横に振った。

「まだ……イってない」

俺はだんだん悔しくなってきて、いろんなプレイを続けた。声を出しているし、確かに感じてはいるようなのだが、どうしても絶頂には達していないらしい。

やがて彼女からも「ああしてほしい」「こうしてほしい」というリクエストが入るようになり、俺は興奮しながらも彼女の要望に答え続けた。そして俺の気持ちは最高潮に高まり、激しさもピークを迎えると、最終的に俺と望美さんは同じタイミングで果てていった。

しばらくベッドの上で息を整えていると、彼女が口を開いた。

「強兵君、今日はありがとう。最高の夜だったわ」

俺はこの時、ある葛藤をしていた。彼女は俺に悩みを打ち明けてくれたのだから、俺も彼女に悩みを告白するべきじゃないのだろうか。決して気持ちの良い話ではないけれど、彼女が正直に話してくれたのだから、俺も正直になるべきだ。そして俺は彼女に正直に話すことにした。

「望美さん、実は今日の出来事は、望美さんのためだけじゃないんです」

「え? どういうこと?」

「実は僕、昔からこういう変わったプレイに興味があって、望美さんからリクエストを受けて内心喜んでいたんです。だから望美さんのためでもあるんですけど、自分のためでもあるというか……望美さんは悩みを解決するために僕にお願いしてくれたのに、僕には下心があったんです。ごめんなさい」

すると望美さんは首を横に振って、ニコッと微笑んだ。

「ごめんなさい」

「え? どうして望美さんが謝るの?」

「私も本当のことを言うわ。私ね、実は不感症なんかじゃないの。むしろすごくイきやすい体質なの」

「え?」

「正直に言うと……カフェで強兵君とお友達が話していたのを聞いてしまったの。その時、強兵君がアブノーマルなプレイが好きっていうのを聞いて、私もそのプレイに興味があったの。だから無理やり連絡先を渡して、あなたに嘘までついてしまった。下心があるのは私の方なの。本当にごめんなさい」

俺は望美さんの話に驚き、言葉を失ってしまった。

だから望美さんは俺に連絡先を渡してきたのか。でも、彼女が俺に嘘をついていたとはいえ、望美さんと過ごした時間が幸せだったのは事実だ。

そう思った俺は彼女に言った。

「やっぱりな。絶対望美さんはイってたと思ってたんだよね。途中、何度かイったように見えてたけど、イってないって言うから変だなあとは思ってたんだ」

「そうじゃなくて……強兵君は怒ってないの?」

「え? どうして怒るの? 僕はああいうプレイが好きなんだから、実際にできて満足してるんだよ。それに、僕と同じ趣味を持つなんて滅多にいないから、怒るどころか嬉しいと思ってるよ」

「強兵君って、すごく変だねえ……すごく変だけど、すごく優しい」

「それって褒めてるの? けなしてるの?」

「もちろん褒めてるんだよ」

俺たちは互いの顔を見て笑い合った。

「ねえ、強兵君。私と付き合ってくれない?」

「え?」

「私ね、強兵君に会うたびに、あなたのことがどんどん気になるようになったの。まあ、今日一日で完全に好きになったんだけどね。だから、よかったらお付き合いしてほしいなって」

「もちろんですよ。こんな僕でよければ、これからもよろしくお願いします」

「本当嬉しい。僕もすごく嬉しいよ」

「じゃあ、この後続きをしよっか」

「そうだね。付き合った記念にやっちゃいますか」

こうして俺たちの交際は始まり、結局その後は夜が明けるまで愛し合った。

望美さんとは夜の相性もいいし、趣味も合うから、順調に交際期間を重ねていった。早速付き合ったことを友人に報告すると、かなり驚いていた。

そんなある日のこと。

「ねえ、今日泊まりに行ってもいい?」

「ああ、ごめん。今日はすごく散らかってるから、また別の日でもいいかな」

「俺は散らかってても全然構わないんだけど」

「私が恥ずかしいからさ。ごめん」

「そっか。じゃあ今日は俺の家に来る?」

「なんか仕事で疲れちゃったから、今日は帰るね。ごめん」

「分かったよ」

最近の望美さんは、どこか俺を避けているような感じがした。ひょっとして俺との行為が嫌になったのかな。そう思いながらも、きっと今だけの感情だから大丈夫だと自分に言い聞かせていた。

しかしその後も、望美さんは家で過ごすことを拒み続けた。俺の不安な気持ちはどんどん大きくなるのだが、その理由が全く見当たらない。ひょっとしたらアブノーマルなプレイに飽きてしまっていて、彼女は優しいからそれを言い出せずにいるのかもしれない。

俺はどうしても真実が聞きたかったから、勇気を出して彼女に聞いてみることにした。

「最近、俺のことを避けてない? もう俺とするのが嫌になった?」

「あ……」

望美さんは焦った表情をしていて、俺の予感は的中したのだと確信した。

「やっぱりそうだったんだね。アブノーマルなプレイが嫌になっちゃったんだね」

望美さんは何も言わず俯いてしまった。俺はこのまま別れることになるんじゃないかと思い、正直怖かった。

「ひょっとして、俺と別れたいと思ってる?」

すると望美さんはさっと顔を上げて口を開いた。

「それは違うの。本当に別れたいとは思ってない」

「じゃあ、どうして……」

望美さんはしばらく考えた末、覚悟を決めたように話し始めた。

「この前、職場の後輩から言われたの。『私達、会う度にやってるってことは、それが目的になってるんじゃないか』って。私はそんなことないと思ったし、強兵君もそんな人じゃないって思ってる。だから後輩にもそう伝えたんだけど……その後輩は強兵君と同い年だったから、変に説得力があってね。『一旦やるのを控えたら』って提案されたの」

「それでも強兵君が私のことを好きでいてくれるなら、それは本物だって……後輩の言葉に揺らいでる私もダメなんだけど。強兵君の本当の気持ちを私も知りたくて、だから避けるようなことをしちゃったの。本当にごめんね」

「そういうことだったんだね」

俺はてっきり望美さんから嫌われたと思っていたから、彼女の本音を聞いて安心した。望美さんが特殊なプレイに飽きちゃったけど言い出せずにいたんだと、勝手に思い込んでいた。

「僕も最初から聞いていればよかったね。確かに趣味が合うから望美とああいうことをするのも好きだけど、望美と付き合ってるのはそれだけが目的じゃない。本気で好きだから付き合ってるし、だからこそこんなに不安になるんだと思う。俺は望美のことしか考えていないし、これからもそれは変わらない。どれだけ望美が俺にとって大きな存在か、分かってほしい」

俺の言葉を聞いて、望美さんの目には涙が浮かんでいた。

「ありがとう。私も好き。強兵君のことが大好き」

俺は望美さんのことを強く抱きしめた。

今回のことで、望美さんは俺に気づかせてくれた。俺は今まで言葉が足りなかったんだ。もしかしたら今までの彼女にも「好き」や「愛してる」という言葉を使っていたら、結果は変わっていたかもしれない。

だから俺は、この日以降、愛情表現を欠かさないよう心がけた。不安にさせるよりかは、鬱陶しがられるくらい「好き」という気持ちを伝えた方がいいと思ったのだ。

そんな危機的状況を乗り越えた俺たちは、今まで以上に愛が深まった気がする。そして俺たちは2年後、結婚をした。

結婚してからも俺たちは順調に仲良くやっている。もちろん今でも、気持ちを言葉で伝えることは忘れないようにしている。これから先、子供ができたり環境が変わったりするのだろうけど、愛する気持ちだけは必ず伝えていこうと思っている。

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