大晦日の夜、私は夫の実家の台所でおせち料理の準備をしていた。そこへ酔っ払った夫が現れ、私が作った料理を次々とゴミ箱に捨てながら吐き捨てた。「主婦のくせにまずい飯作んなよ。本当にお前は使えねえな」 私は静かに言った。「それ、あなたの愛人の手料理よ」 夫の顔色が一瞬で変わった。「は? 愛人? 今、愛人って言ったか?」…

大晦日の夜、私は夫の実家の台所でおせち料理の準備をしていた。そこへ酔っ払った夫が現れ、私が作った料理を次々とゴミ箱に捨てながら吐き捨てた。「主婦のくせにまずい飯作んなよ。本当にお前は使えねえな」 私は静かに言った。「それ、あなたの愛人の手料理よ」 夫の顔色が一瞬で変わった。「は? 愛人? 今、愛人って言ったか?」...

カフェに足を踏み入れた瞬間、見慣れた背中が目に入った。夫の克人が、見知らぬ女性の前で跪いている。義両親と一緒に、私はその光景をただ眺めていた。

「君は俺の運命の人だ。結婚してほしい。一緒に幸せになろう」

店内に拍手が響く。私も祝福の声を上げた。「おめでとうございます。何があっても幸せに」

ああ、なんて皮肉なんだろう。この男性が、私の夫でさえなければ。

夫は私との記念日のデートを「出張だ」とドタキャンしていた。全部、嘘だったというわけだ。

義父が低い声で呟く。「あれは克斗で間違いないな」

義母も怒りを込めて頷く。「信じたくないけど、どこからどう見てもうちのバカ息子だわ」

「ごめんなさい、清美さん」

「いいんです。実は私、前から知っていました。克斗さんが浮気してるって」

義両親が驚いた顔をする。私は静かに続けた。「まさかこんなところでプロポーズしてるとは思いませんでしたけどね」

夫の浮気相手は、私の名刺を受け取り、嬉しそうに微笑む。彼女の左手の薬指には、夫から受け取ったばかりの指輪が輝いていた。

「お似合いですよ」

私がそう言うと、彼女は幸せそうに「ありがとうございます」と答えた。

「ちょっと、こっち来い」

夫が私の腕を掴み、店の隅に引っ張っていく。彼は怒りをあらわにしていた。

「なんでお前がここにいるんだよ」

「あなたにデートをドタキャンされて予定が空いたから、お父さんとお母さんとお出かけしてたの。そしたら、あなたがいきなりプロポーズを始めたものだから、びっくりしちゃったわ」

「え、親父とお袋も来てるのか?」

義両親が現れ、夫を問い詰める。「克斗、さっきのはどういうことだ? 清美さんがいるだろう?」

夫は開き直った。「結婚したい人にプロポーズして何が悪いんだよ。俺は清美と離婚する。そして佳織と再婚するんだ」

義父が激怒する。だが、私は冷静だった。想定内のことだから。

「いいですよ。もう私たち、離婚してますから」

夫が絶句する。「は? 離婚はこれからだろ?」

「離婚届はもう提出したわ。あなたのスーツをクリーニングに出そうとしたら、ポケットから記入済みの離婚届が出てきたの。だから私もサインして、役場に持っていったのよ」

夫は呆然とした後、意地悪な笑みを浮かべた。「ま、手間が省けて助かったぜ。お前のことだから離婚したくないって騒ぐかと思ったが、案外物分かりがいい女なんだな」

義両親は絶縁を宣言したが、夫は気にしない。「佳織と結婚できれば何も問題ないから」

私はぽつりと呟いた。「へえ。まず年上の女性が好みだったのね」

夫は顔の前で手を振る。「とんでもない。俺はあんなババアなんか好みじゃねえよ。佳織は金目当てだ。俺の会社の社長令嬢なんだ。佳織と結婚すれば、俺はいずれ社長になれる。まさに逆玉の輿ってやつだな」

義両親は呆れ果てていた。夫は私を「火葬場くらいにしか思ってなかった」と平然と言い放つ。

「俺はお前らみたいな庶民で終わるつもりはない。必ず佳織を手に入れて社長になって見せるさ」

夫はそう言って、浮気相手の元へ戻っていった。

義両親が私に頭を下げる。「清美さん、あんなバカ息子でごめんなさいね」

「大丈夫ですよ。お父さん、お母さん、安心してください。克斗には必ず報いを受けさせますから」

私は、夫を懲らしめるための作戦を思いついていた。

数ヶ月後、元夫と浮気相手の結婚式の日。私は式場に来ていた。元夫に招待されたわけではない。でも、わけあって入れることになっていた。

式が終盤に差し掛かった時、司会の女性がアナウンスする。「それでは、新郎両親からのビデオレターをご紹介します」

スクリーンに映像が映るかと思いきや、流れたのは音声だった。

「俺はあんなババアなんか好みじゃねえよ。佳織と結婚すれば俺はいずれ社長になれる。まさに逆玉の輿ってやつだな」

あの日、カフェで夫が私に放った言葉。私は録音していたのだ。

会場が騒然とする。元夫は立ち上がり、叫んだ。「やめろ! 今すぐやめろ!」

だが、時すでに遅し。全員が元夫の本性を知ってしまった。

「こ、こんなの、でたらめだ!」

慌てふためく元夫に、花嫁の佳織さんは涼しい顔で微笑んだ。「あら、そんなに慌てなくてもいいのよ。私は前からあなたの本性を知っているから」

「え?」

「今回のサプライズ、実は私も事前に知らされていたの。まあ、知らされたというより、計画したと言ってもいいんだけどね」

「計画って……あなた、清美と繋がってたのか?」

「清美さんが名刺をくれたでしょ。裏に『あなたは騙されている』って書いてあったから、気になって電話してみたの」

佳織さんの父親、つまり元夫の会社の社長が立ち上がる。「よくも私の大切な娘を侮辱してくれたな」

「違うんです、社長! 俺は本気で佳織を愛しています!」

「現に君の声で佳織を騙していたじゃないか。何が逆玉の輿だ」

その時、私はゆっくりと会場の外から歩み出た。

「清美……お前、なんでここに?」

私はマイクを手に取り、自己紹介した。「新郎の元妻です」

そして、改めて元夫の本性を暴露し始めた。「元夫は専業主婦を馬鹿にして、私を『稼ぎがない』と言ってこき使っていました。専業主婦になれと言ったのは元夫なのに、ふざけてますよね」

社長は怒りに満ちた声で言った。「君は会社では真面目にやっていたから評価していた。まさかこんな裏切りに遭うとは思わなかったよ」

元夫は土下座した。「ほ、本当にすみませんでした」

「あら、土下座するには早すぎるんじゃない?」

私はスマホを取り出し、再生ボタンを押した。今度は、別の女性の声が入っていた。

「社長令嬢と再婚するけど、あくまでも金のためだからさ。俺にとってお前が一番なんだ」

元夫は他にも浮気相手がいたのだ。

「お前、どうして知ってたんだ?」

「残業、残業って言って夜遅くまで帰ってこないし、休みの日は一人でどこかに行ってしまうし、あまりにも不審な行動が多いから探偵に調査依頼をしたのよ」

元夫は再び土下座した。「とにかく悪かったと思ってる。この通りだから許してくれ」

「どうせそれも演技でしょ。私を裏切り、佳織さんを裏切り。一体何人の女性を傷つければ済むのかしらね」

社長が震える声で言った。「君と娘の婚約が決まった時は心から嬉しかった。だが、君の本性は救いのないクズだった。会社でも相応の処分を下すつもりだから、覚悟しておくんだな」

元夫は佳織さんにすがりつくが、彼女は冷たく言い放つ。「もうあんたなんかに騙されない。結婚も取り消しよ。それに清美さんへの態度もひどすぎるわ」

追い詰められた元夫は、今度は私に向かって両手を合わせた。「清美、やっぱり俺とやり直さないか? 佳織にプロポーズしたのは金に目がくらんだだけなんだ。俺は気づいたんだよ。金があっても幸せにはなれない。夫婦の間には愛情が必要なんだ。本当に愛してるのはお前だけなんだ」

私は鼻で笑った。「バカじゃないの? もうあなたと一緒になりたいなんて人、誰一人いないわよ」

「そんな清美まで俺を見放すのか。頼むからチャンスをくれよ。今度こそ幸せにするから」

「散々人を不幸にしてきたくせに、何ほざいてるのよ。あなたは何があっても幸せにはなれないでしょうね」

その言葉と同時に、元夫は完全に一人になった。

その後、元夫は会社を解雇された。社長が調査を進めたところ、同僚への嫌がらせも発覚したのだ。さらに、もう一人の浮気相手の旦那さんが会社に乗り込んできて大騒動になり、元夫は職場にいられる状態ではなくなった。そして、私と佳織さん、もう一人の浮気相手の旦那さんから慰謝料を請求され、元夫は借金地獄へと落ちていった。

義両親は改めて私に謝罪してくれた。私は彼らを責めることはなかった。むしろ、私の味方になってくれたことに感謝を伝えた。

数年後、私は縁あって男性と付き合い、プロポーズされた。彼のプロポーズに対して、私はこう答えた。

「一緒に幸せになりましょうね」

あの日、カフェで私が夫に言った言葉と同じ言葉を、今度は心から。

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