庭でバーベキューの準備をしていると、誰かに見られているような気配がした。振り返ると、物陰から小さな女の子が二人、こちらをじっと見つめていた。年は四歳くらいだろうか。服はどちらもボロボロで、双子らしい顔立ちだった。
「そんなところで何してるの?」
声をかけると、二人は何も言わずに走り去ってしまった。驚かせてしまったかと少し後悔したが、あの切ない表情が頭から離れなかった。お腹が空いていて、焼き肉の匂いに誘われて来たのかもしれない。そう思うと放っておけなくて、もしまた来たら食べさせてあげようと決めた。
翌週も同じようにバーベキューを始めると、またあの双子が現れた。今度は「一緒に食べない?」と声をかけてみる。
「いいの?」
「もちろん。みんなで食べた方が美味しいから」
二人は顔を見合わせて、嬉しそうに走ってきた。名前はカノンとシノン。どちらも礼儀正しく、「いただきます」をちゃんと言ってから食べ始めた。
「ママはお仕事なんだ」「寝る前にたくさんお話ししてくれるんだよ」
母親への愛情をたくさん話してくれた。この子たちの母親はどんな人なのか、とても気になった。
「今度はママも連れておいで」
そう伝えると、次の週末、双子は本当に母親を連れてやってきた。初めましてと名乗った女性は、ひろ子といった。疲れているのか顔色は優れなかったけれど、きれいな人だった。
「あれ? もしかして、君は……?」
話をしていて気づいた。子供の頃、夏休みにこの町へ来ていた時、公園で一緒に遊んでくれたあの子だと。
「淳くん……? あの時の淳くんなの?」
「そうだよ。覚えていてくれたんだね」
懐かしい記憶が一気に蘇ってきた。人見知りで一人で遊んでいた俺に、明るく話しかけてきてくれた少女。彼女の笑顔は今でも鮮明に覚えている。
バーベキューをしながら、ひろ子の話を聞いた。夫は暴力を振るう人で、子供たちを連れて家を飛び出してきたらしい。今はこの町で帰ってきて、飲食店と清掃のアルバイトを掛け持ちしながら必死に暮らしているのだという。自分はろくに食事も取れず、体調も崩していた。
「本当は毎日お腹いっぱい食べさせてあげたいんですけど……」
「ひろ子が倒れたら、この子たちはどうなるんだ? まずはひろ子がちゃんと食べないと」
話を聞いているうちに、俺の中で子供の頃の恩を返したいという気持ちが強くなった。
「今度は俺が助ける番だと思ってる。できることがあったら何でもするから」
ひろ子は深く悩んだ末に、小さくうなずいた。
「分かった。じゃあ……ちょっとだけ力を貸してくれる?」
翌日から俺は動き始めた。役所に行って補助金制度や保育サービスの情報を集め、ひろ子の家を訪ねて資料を渡した。
「こんな制度があったなんて、全然知らなかった」
「保育サービスのお迎えは、俺がやってあげるよ。在宅勤務だから問題ないし」
「でも、そんなことまでお願いできないわ」
「負担だと思ってるなら、こんなことできないんだ。これからは一人で頑張らなくていいんだよ」
俺の言葉に、ひろ子は目に涙を浮かべていた。それから少しずつ、生活は変わっていった。補助金の申請が通り、子供たちは保育施設に通い始めた。俺が迎えに行って、ひろ子の仕事が終わるまで一緒に過ごすのが日課になった。夕飯をみんなで食べるのが、新しい習慣になった。
「毎晩ご馳走になって、ごめんね」
「お礼を言いたいのは俺の方だよ。子供たちがいてくれて、毎日が楽しいんだ」
「家族になったみたいで楽しいよね」
「うん、本当の家族みたい」
子供たちの言葉に、俺は胸が熱くなった。ひろ子も、以前より顔色が良くなっていた。
「職業訓練のこと、ずっと気になってて。ウェブデザインの資格を取ってみようと思うの」
「そうか。俺も応援するから」
ひろ子は仕事を続けながら訓練を受け、半年後には見事に資格を取得。地元のデザイン会社への就職も決まった。楽しそうに働くひろ子を見るのが、俺は本当に嬉しかった。
そして半月後、俺はある決意を固めて、久しぶりにバーベキューを提案した。買い出しも準備も、みんなで一緒に行う。肉や野菜を焼きながら、俺は「話がある」と言った。
「俺はひろ子のことが好きなんだ。三人のことを本当の家族みたいに思ってる。よかったら、俺と本当の家族になってくれませんか?」
最初は再会が嬉しくて、子供の頃の恩返しがしたいと思っただけだった。でも、一生懸命働くひろ子の姿を見ているうちに、一人の女性として惹かれていた。
「私はずっと前から、淳くんのことが好きだった。子供の頃から、淳くんは素敵な人だと思ってた」
「私たちと家族になってください」
その言葉に、俺の胸は熱くなった。
「ありがとう。絶対、三人を幸せにしてみせるから」
こうして俺たちは本当の家族になった。三人が俺の家に引っ越してきて、週末には四人でバーベキューをしている。小さな頃のように、みんなで写真を撮るのが新たな習慣だ。一年前まで一人だったバーベキューが、今では四人で囲む。壁には増えていった家族写真が並んでいる。これからも、この家族の思い出をたくさん増やしていきたい。



