同窓会で、中学時代にずっと俺を馬鹿にしてきた男が、酒を注いでくれた幼なじみの美女に向かってこう吐き捨てた。「そいつに構うなよ。母子家庭育ちの貧乏人が、よくこんな場所に来れたな。お前が恥ずかしくないのか?」その瞬間、彼女は俺の腕を掴み、「あんたなんかに、私の好きな人が何を言われても平気よ」と言い放った。十年前に彼女に酷い嘘をつかれた俺は、もう誰も信じられなくなっていた。なのに、彼女は「今度こそ…

同窓会で、中学時代にずっと俺を馬鹿にしてきた男が、酒を注いでくれた幼なじみの美女に向かってこう吐き捨てた。「そいつに構うなよ。母子家庭育ちの貧乏人が、よくこんな場所に来れたな。お前が恥ずかしくないのか?」その瞬間、彼女は俺の腕を掴み、「あんたなんかに、私の好きな人が何を言われても平気よ」と言い放った。十年前に彼女に酷い嘘をつかれた俺は、もう誰も信じられなくなっていた。なのに、彼女は「今度こそ...

かつてないほど楽しい時間を過ごしていたその瞬間、背中に大きな衝撃が走った。

「こいつに酒なんて注ぐなよ。どうせタダで飲み食いしに来たんだから」

振り返ると、中学時代ずっと俺を馬鹿にしていた中島が、ニヤニヤしながらグラスを掲げていた。あの頃の記憶が蘇り、体が硬直する。

「どうせ会費も払えないんだろ? なんなら俺が払ってやってもいいぜ。高卒の底辺に奢ってやるよ、大卒エリート様がな」

あの日の屈辱が鮮明に蘇り、俺は何も言えずに立ち尽くした。すると突然、一人の美女が俺の腕に絡みついてきた。

「立花君、お仕事の話をしましょう。二人で静かなところで」

堀内さん──当時、俺を励ましてくれたクラスメート。しかし、俺には彼女にまつわる苦い記憶があった。彼女に腕を引かれるまま、俺はその場を離れた。この一夜が、俺の人生を変えることになるとは、まだ知る由もなかった。

俺の名前は立花優一、25歳。とある中小企業で営業をしている。母からの電話で、中学の同窓会の案内が届いていることを思い出した。出たくない。それが正直な気持ちだった。

俺は母子家庭で育った。母は自分の食事を抜いてでも俺に食べさせてくれた。そんな母の存在が、中学時代の俺は恥ずかしかった。授業参観に来た母の姿を見て、クラスメートに笑われた。情けない話だが、あの頃の俺は家庭環境を理由にクラスでいじめの標的になっていた。中島という男が、特に酷く俺をからかってきた。

高校に進学すると、中島とは離れた。大学に行けなかったのは悔しかったが、働き始めてからはそれなりに充実した日々を送っていた。しかし、心のどこかで母子家庭でなかったらという思いを抱えていた。

そんな俺が、同窓会に行かないといけない理由ができた。仕事の関係だ。

俺の会社は旅館やホテル向けのアメニティグッズを製造している。ある日、有名温泉旅館グループ「堀内リゾート」から、直接会って話がしたいとオファーが来た。担当に指名された俺は意気込んで訪れたが、そこにいたのは中学時代のクラスメート、堀内ミユだった。

彼女は社長令嬢で、今回の取引相手だった。俺は立場をわきまえ、丁寧に対応したが、彼女からの要求はエスカレートしていく。無理なスケジュールでのサンプル提供など、振り回されっぱなしだった。そして、一年が経った頃、彼女から「同窓会の日に仕事の話をしましょう」と言われ、俺は会費を払うために渋々同窓会に出席することになった。

同窓会当日。地元の旅館で開かれた会は、意外にも楽しかった。久しぶりに会う友人たちは皆、温かく迎えてくれた。こんな日もあるんだと思い始めた矢先、中島が現れたのだ。彼の嫌がらせは止まらず、静かな場所で話をしようと言った堀内さんに連れられて、俺はその場を離れた。

堀内さんは、何だか様子が変だった。「今、お付き合いしてる人はいるの?」と聞かれ、戸惑う。彼女の距離感が、昔の記憶を呼び起こす。俺は彼女に騙されたことがあった。中学3年の卒業式の日、彼女に校舎裏に呼び出され、告白された。本気で喜んだ。しかし、それは中島たちによるドッキリだった。「バーカ、本気になってんじゃねえよ」「堀内が、お前なんかを好きになるわけないだろ」と笑われ、堀内さんも「好きじゃないわ、立花君なんて」と言い残して走り去った。それ以来、俺は彼女に近づけないでいた。

今、目の前で笑う彼女に、俺はあの日のことを問いただす勇気が出なかった。ただ、昨夜の泊まりの話や、温泉に行こうという誘いに、俺は戸惑いながらも従うしかなかった。

夜、待ち合わせ場所に現れた堀内さんは、浴衣姿でとても綺麗だった。案内された共同浴場で、俺は心臓がはち切れそうだった。帰り道、旅館の自室の前まで来た時、堀内さんが突然立ち止まった。

「立花君、私、あなたのことが好きなの」

冗談だと思った。またドッキリの類だろうと。俺は冷たい口調で言い放った。

「いい加減にしてくれるかな? また中学の時みたいに俺を騙そうとしてるんだろ。そういうのはうんざりなんだよ」

彼女の目から、ぽろりと涙がこぼれた。嘘をついているようには見えなかった。廊下からクラスメートの声が聞こえ、俺はとっさに彼女を自分の部屋に引き入れた。

部屋の中、彼女は静かに打ち明けてくれた。あの日、卒業式の日の告白は本気だった。しかし、中島たちに現場を見られ、告白を邪魔された挙句、嘘の告白だと決めつけられ、彼女は「好きじゃない」と嘘をついて逃げてしまったのだという。「信じてもらえなくて当たり前。私が悪いんだもの」と寂しそうに笑った。

そして、彼女はこんな話もしてくれた。中学2年の春、一人教室でテストの結果を見て泣いていた時、通りかかった俺がハンカチを渡してくれた。完璧を求められるプレッシャーに押し潰されそうだった彼女に、俺は「すごいじゃん。俺なんて10点しか取れなかったよ」と言ったという。その言葉で救われたのだと。それが彼女が俺を好きになったきっかけだった。

俺はその記憶が全くなかった。しかし、その言葉が母からよく言われていたことに気づいた。「どんなに俺が悪い成績を取っても母は怒らず、すごいと褒めてくれた」。その優しさが、無意識のうちに彼女にも向けられていたのだ。

母の愛に改めて気づかされ、胸が熱くなった。俺が母子家庭を恥じていた一方で、母は俺に自信を持って生きてほしいと願っていた。彼女のおかげで、ようやく母に顔を見せられる気がした。

そして、俺たちは互いの気持ちを確かめ合った。翌朝、同じ布団で寝ている堀内さん(ミユ)の寝顔を眺め、幸せな気持ちでいっぱいになった。しかし、同級生たちが部屋に押しかけてきて、事態は思わぬ方向へ。彼らは「おめでとう」と祝福してくれた。実は、俺たちが両思いだということは、同級生のほとんどが知っていたらしい。

そこに現れた中島が、またミユに告白して醜態を晒す。しかし、今の俺は違った。

「俺は、母子家庭で育ってよかったと思う。ミユのおかげで、はっきりと目が覚めた。母は二人分の愛情を注いでくれた。それが俺を作ったんだ。俺は母子家庭だったことを誇りに思う」

俺の言葉に、ミユも同級生たちも頷いてくれた。中島は場の空気を読めず、退散していった。

その後、ミユから明かされた仕事の話は、俺をヘッドハンティングしたいというものだった。彼女の父も俺の頑張りを認めてくれているらしい。俺は今、ミユと同じ会社で働き、彼女は恋人であり頼れる先輩だ。

そして、約10年ぶりに実家へ帰った。母は昔と変わらない笑顔で「おかえり」と言ってくれた。ミユは母に、「優一さんを幸せにします。それがお母様への恩返しでもあると思うので」と伝えた。母は泣きながら、俺もミユも抱きしめてくれた。

もしも母子家庭に生まれていなかったらと考えたこともあった。しかし、もう二度とそんな風に思うことはない。人の幸せは、生まれた場所ではなく、どんな生き方をするかで決まるのだと気づいたから。

仕事帰り、俺は馴染みの喫茶店に立ち寄った。常連客の山田さんが、店のカウンターで何やら話し込んでいる。話を聞くと、公園で子供が倒れたらしい。慌てて現場に駆けつけると、そこには見覚えのある少年の姿があった。俺がバイトをしているゲーム店の常連の少年、清光だ。彼は意識を失っている。俺はすぐに救急隊員に彼の病名と症状を伝え、処置をする。

「あの、あなたは一体……」

顔を青くする清光の母・せいさんに、俺は自分の正体を明かさなければならなかった。人生最高難易度の局面に、俺は戦いを挑もうとしていた。

俺の名は坂木原。今は商店街の小さなゲーム店でバイトをしているが、かつては病院で働いていた。いや、今も医者だ。この商店街から逃げるようにして来た。原因は、ある患者を救えなかった過去と、医者である父に失望されたこと。俺は医者を辞めて、この場所に逃げ込んできた。

清光は、家が母子家庭で、余命が長くないことを知っていた。それでもゲームを諦めず、人生を楽しもうとしている。ゲームのボスを倒すために何度も挑戦する清光の姿に、俺は勇気をもらっていた。

「俺も手伝う。清光君が悔いのない人生を送れるように、俺にできることがあるなら何でもする」

そう誓った矢先の出来事だった。清光が倒れたと聞き、病院に駆け込んだ。俺の父が院長を務めるその病院で、俺は清光の手術を志願する。

「お願いします。あいつの手術、俺にやらせてください」

「医者として失敗したお前に任せられるわけがない」

父の言葉に、過去の記憶がフラッシュバックする。あの日、救えなかった少年の顔。父に「失望した」と言われた時の絶望。足が震えた。

しかし、せいさんの「あの子はあなたが大好きなんです。あなたがいてくれたら、きっと頑張れますから」という言葉で、清光の諦めない姿を思い出した。

「父さん、俺は完璧な人間じゃない。でも、諦めないって清光から学んだんだ。あいつの戦いに最後まで付き合うと約束した。だから頼む」

父は渋々頷き、条件を出した。「失敗したら、お前の医師免許を剥奪する」と。しかし、俺は失敗するつもりはなかった。手術は成功した。清光は目を覚ました。

その後、父は俺に言った。「すまなかった。俺はお前の人生をないがしろにしてしまった。ゲームがお前の武器だと気づかなかった。お前の好きなように生きなさい」。父は初めて俺に笑いかけた。母にも会いに行くと言った。

清光の退院後、俺はせいさんにプロポーズした。赤いバラの花束を100本、渡して。彼女は顔を赤くしながら、そっと花束を受け取り、「はい」と頷いてくれた。この世に完璧なものなんて存在しない。それでも、俺は新しく得た大事な家族と、この先どんな困難があっても絶対に諦めない。

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