葬式帰りに寄った居酒屋で、10年ぶりに同級生に会った。コイツは今も変わらず、高校時代みたいに俺を馬鹿にした。「ここが俺の課長の証拠だ」と、彼が出してきた名刺を見て、俺は凍りついた。まさか、それがあの会社の名刺だったなんて。あの日の夜、俺は彼に見下されながらも、心の中で静かに決めていた。「いつか、思い知らせてやる」と。そして、その日は思ったより早くやってきた。俺が新しい部長として親睦会に出席し…

葬式帰りに寄った居酒屋で、10年ぶりに同級生に会った。コイツは今も変わらず、高校時代みたいに俺を馬鹿にした。「ここが俺の課長の証拠だ」と、彼が出してきた名刺を見て、俺は凍りついた。まさか、それがあの会社の名刺だったなんて。あの日の夜、俺は彼に見下されながらも、心の中で静かに決めていた。「いつか、思い知らせてやる」と。そして、その日は思ったより早くやってきた。俺が新しい部長として親睦会に出席し...

「下っぱの真っ先は、まだ空いてるか?」そう言ってきたのは、高校の同級生だった。あの日、久しぶりに帰省した町の居酒屋で、俺は一人でカウンターに座っていた。祖父の葬儀を終え、実家へ戻る途中のことだ。懐かしさと寂しさで何となく足を運んだその店で、まさか一番会いたくない奴に会うとは思わなかった。

俺は小学三年生の時、父の海外赴任に付いてアメリカへ渡った。三年間の滞在は、幼い俺にとって驚きの連続だった。言葉が通じず、学校でも発音を笑われた。クラスに一人だけいた日系の男の子だけが助けになって、教科書を一緒に読んでくれた。帰国した後、父は交通事故で亡くなった。明るくて大好きだった父を失い、母は泣き崩れた。俺は母を支えなければと、泣くことさえできなかった。それ以来、明るかった性格は暗くなり、学校にも行けなくなった。

それでも、母方の祖父が支えてくれた。祖父は壁職人で、母と俺と一緒に長屋で暮らしていた。母はフルタイムで働き、俺は英語だけは好きだったので、祖父に甘えて英会話教室に通い始めた。高校は母の強い勧めでなんとか合格した。しかし、そこで出会ったのが誠治だった。彼は金持ちの家の坊っちゃまで、俺をパシリにし、「長屋の貧乏人」と嘲笑った。俺は黙って耐えるしかなかった。

高校時代、バイト帰りに商店街で誠治たちと鉢合わせたことがある。「おい、貧乏人はバイトか。油くせえな」と笑われた。確かに、ファミレスのキッチンで揚げ物やハンバーグを扱えば、油の匂いが体に染みつく。俺は無視して自転車をこいだ。その頃、バイトで貯めた金で中古のパソコンを買った。これが全ての始まりだった。プログラミングに興味を持ち、独学で学び始めた。学校が嫌いだった俺は、祖父と母に相談して大学には行かず、祖父の取引先のIT企業に紹介してもらった。会社は都会にあり、一人暮らしを始めた。最初は雑用ばかりだったが、夜はひたすらプログラミングに没頭した。二十歳でスマホアプリを開発し、特許を取得して社長に宣伝してもらった。会社は成長し、入社十年で課長にまでなった。

その二年後、祖父が病に倒れた。俺は急いで実家へ帰ったが、最期に会うことはできなかった。祖父の葬儀の後、俺は駅前の居酒屋へふらりと入った。そこで誠治に背中を叩かれたのだ。「よお、久しぶりだな。相変わらず貧乏くさい顔してるぜ。どうせ今も無職かフリーターだろ」誠治は相変わらずだった。俺が今はIT企業で働いていることなど、言う価値もなかった。その時、彼が部下たちに見せびらかした名刺に、俺は驚いた。それは、俺が働く会社のものだった。誠治は同じ会社の社員だったのだ。

その後のことだ。会社の部長が病で退職し、後任として俺に白羽の矢が立った。部長として最初に出席するのが、部署の親睦会だった。場所は、あの居酒屋の大広間。俺はうまくいきすぎた偶然に、逆に警戒した。そして当日、俺は早めに会場へ向かった。社員たちがぞろぞろと入ってくる。俺は前の方に座り、挨拶を交わしていた。そこへ、誠治が現れた。俺を見た瞬間、彼の顔が歪む。「おい、なんでお前がここにいるんだ?俺の名刺を見て、羨ましくて中途入社でもしたのか?よくもまあ、入社できたもんだな」俺は静かに返した。「誠治、もう学生じゃないんだ。いい加減、落ち着いたらどうだ?」「はあ?何を偉そうに。フリーターか無職だったお前が」「俺はフリーターでも無職でもない」「みんながいるからって、恥ずかしがらなくてもいいんだぜ。ずっと貧乏で、今も長屋暮らしなんだろ」「長屋暮らしの何が悪いんだ?俺がどこに住もうが、俺の自由だろ」

誠治の部下らしき青年が、慌てて口を挟んだ。「課長、今日は部長を迎える大切な日です。知り合いかもしれませんが、少し落ち着いてください」「んだと?お前まで俺に逆らうのか?お前は高卒でもいいんだよ。愛想がいいからな。こいつは高校の時から暗くて、顔を見るだけでむかつくんだ」俺は小さくため息をついた。すると、社長が息を切らして駆けつけてきた。「金本君、遅くなってすまない。突然弟が倒れてしまって、朝から病院にいたんだ」「いえ、とんでもないです。はじめまして。私が金本です。これからお世話になります。本日はお忙しい中、ありがとうございます」俺が頭を下げると、社長は言った。「おい、誠治。金本君と席を替わってくれないか。こちらの金本君が、新しい部長だ」一瞬、誠治の顔が赤くなった。「では、皆さんにご紹介します。こちらの金本君が、新しい部長です」俺は立ち上がり、軽く一礼した。「ただいまご紹介に預かりました金本です。皆さん、これから精一杯頑張ってまいりますので、よろしくお願いします」乾杯の音頭が飛び、全員がビールを手にした。誠治は、自分の席が俺の隣になったことに動揺していた。

翌日、オフィスに出社すると、社長が皆に告げた。「これからは、この部署でも海外との取引が増えてくる。ぜひ英語を鍛えておいてほしい。分からないことは、金本部長に尋ねるように」誠治は立ち上がり、嫌味を言った。「高卒の英語なんて知れてるだろうが。分からないことは、反対に俺に聞けよ」俺はまた深いため息をついた。そして、コピーや雑用を押し付けられていた三山という部下が、俺に相談に来た。「部長、ご相談があるのですが… 」夜、居酒屋の個室で彼はスマホのSDカードを差し出した。「これ、今までのは田課長からの暴言と嫌がらせの音声です。僕も高卒で入社したんですが、毎日『高卒の無能』と言われて。トイレ掃除もさせられていましたし。経費で飲みに誘われて、『どんどん飲め』と無理やり飲まされて… 」俺は音声を聞いた。確かに、ひどい内容だった。「分かった。このカード、貸してもらえるかな。社長に相談してみるよ」翌日、俺は社長に音声を聞かせ、経理に不当な領収書がないか調べてほしいと伝えた。社長は深くため息をついた。「金本君、よく知らせてくれた。誠治は、私の甥なんだ。私は彼を甘やかしすぎたな。この件は、経理のことが判明次第、君に任せる。私も高卒だ。うちの業界では、学歴は関係ない」

数日後、社長からメールが来た。経費の不正が確認されたという。俺は誠治を呼び出し、音声を聞かせた。事務所内は静まり返り、全員が成り行きを見守っていた。そこへ社長が現れ、経費の書類を突きつけた。「おい、誠治。今までの経費は一体何だ?社員との親睦で、これは使えないだろう。損害賠償してもらう。あと、お前の社員への暴言の音声も聞いた。俺も高卒だが、文句があるか?お前はもう、クビだ。後のことは金本君に任せる」そう言って社長は去っていった。俺は誠治に言った。「は田君、そういうことだ。君は今すぐ、デスクを片付けて事務所から出ていってください」誠治は顔を真っ赤にして、デスクを片付け、去っていった。

その後、誠治は失業し、貯金もなく、親にも見放されたらしい。金融会社から借金をして会社へ損害賠償を支払いながら、昼も夜もアルバイト生活を送っているとのことだった。一方、俺は新しい部長として部署をまとめ、海外との契約も順調に進んだ。そして、総務にいた可愛い事務員さんから告白され、今は結婚を前提に付き合っている。祖父が見せてくれた道を、俺は精一杯歩いてきた。あの日の居酒屋での再会が、すべての転機になった。

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