あるクリスマスイベントで、私は娘のシュリと楽しんでいた。夫は仕事で来られず、少し寂しかったが、娘の無邪気な笑顔に心が温まっていた。しかし、その穏やかな時間は、一人のママ友の出現によって壊されることになる。
桃山ユカ。夫がヤクザの組長の息子ということを笠に着て、いつも周囲を脅して従わせている女だ。彼女は会場で酔っ払い、他の参加者にからみ始めた。誰も彼女に逆らえず、皆が怯えた表情でやり過ごそうとしていた。
「私の夫はヤクザなの。桃山組長の息子よ。私が夫に頼めば、あなたたちだけじゃなく家族だってこの町にいられなくしてやれるわ」
ユカの脅しに、会場は水を打ったように静まり返った。私はため息をついた。彼女のそんな態度には慣れっこだったが、できれば関わりたくない。私は娘との時間を楽しもうと決意した。
しかし、ユカは私を見つけて近づいてきた。酔いが回った様子で、ウイスキーの瓶を手にしている。「あら、サンじゃない。影が薄いから気づかなかったわ。お酒、飲みなさいよ」
「いえ、娘と一緒なので今日は結構です。乾杯ならお茶でできますし」
「はあ? 私に逆らうわけ? ヤクザの夫を持つ私の言うことが聞けないってこと?」
ユカの脅しはエスカレートしていった。周りの参加者は私たちのやり取りを怯えた様子で見守るだけだった。娘のシュリもユカの剣幕に怖がって、私の背後に隠れてしまった。
「ゆかさん、少し静かにしましょう。みんなが怖がっています。お酒を無理強いするのは良くないですよ」
「何よ、その言い方は。まるで私が悪者みたいじゃない。そうだわ、土下座して謝りなさいよ。私の気分を害したんだから」
私が土下座を拒否すると、ユカは歪んだ笑みを浮かべ、手に持っていたウイスキーの瓶を、私の背後にいたシュリの頭に傾けた。黄金色の液体が、娘の髪や服を伝って落ちていく。
「土下座しないならこうしてやるわ。ほら、泥水するまで飲みなさいよ。クソガキ」
「何てことを! 未成年なんですよ! 何かあったらどうするんですか!」
私は泣き出すシュリを抱きしめ、ユカに抗議した。しかし、ユカは鼻で笑うだけだった。「ちょっとお酒がかかったくらいで何騒いでるのよ。すぐに土下座しなかったサンが悪いんでしょ」
私が娘を連れて帰ろうとすると、ユカは行く手を阻んだ。「待ちなさいよ。土下座しなさいって言ったでしょ。従わないなら、私の旦那に言いつけて、あなたたちも娘もこの町にいられなくしてやるから」
その時だった。私の腕の中で泣いていたシュリが、突然泡を吹き始めた。強いお酒によるショックで、失神してしまったのだ。
「まあ、お酒が強すぎたのね。可哀想に。ダメな母親のせいで」
ユカは嘲笑うように言った。私はもう限界だった。この瞬間、私は決意した。
「許さない」
私は小さく呟き、娘を抱きしめたまま携帯電話を取り出した。そして、桃山組の事務所に電話をかける。一コールで繋がり、電話口からは組長の声が聞こえてきた。
「お久しぶりです。今あなたとあなたの息子の破門が決まったから、取り急ぎ連絡させてもらったわ」
私はそう伝えると、電話を切り、ユカに向き直った。彼女は状況を理解できずにいた。私は彼女の耳元に近づき、低い声で囁いた。
「とりあえず、外に出ましょうか」
「な、何よ。ここで言えばいいでしょ」
「ここでもいいですけど、恥をかくのはユカさんの方ですよ。いいんですか? ユカさんの人生を終わらせたくなかったら、おとなしく外に出ろと言っているの」
私の冷たい言葉に気圧されたのか、ユカは渋々ながら外に出ることに同意した。私たちが会場の外に出ると、そこには黒塗りの高級車が複数台待機していた。車の扉が静かに開き、屈強なスーツ姿の男たちが降りてくる。
「お疲れ様です」
「夫には連絡してあるから、シュリを病院まで送って。それと、ユカさんと話があるから、彼女は別の車に乗せて」
私の指示に、組員たちは無駄なく動き始めた。ユカは状況を飲み込めず、混乱しながらも、抵抗むなしく車に押し込まれていった。私も同じ車の助手席に乗り込む。
「ちょっと、どこへ向かうつもり? 私の夫がヤクザだって分かってるんでしょうね。桃山組長の息子なのよ。あんたたち、覚悟してなさいよね」
「ええ、十分分かってるわ。すぐにどこへ行くか分かるから、少し黙っててくれない? うるさくて仕方ないわ。ちょっと眠らせてあげて」
ユカの金切り声に顔をしかめ、後部座席の組員に指示を出すと、ユカは腹を殴られて気絶した。しばらくして車が目的地に到着した。ユカを起こすと、彼女は自分が桃山組の事務所の前にいることに気づいた。
事務所の中には、組長とユカの夫であるマサシがいた。彼らは私の姿を見るなり、土下座して謝罪してきた。
「お父さん、マサシ! どうして土下座してるの? この人、私をバカにしたのよ。この町にいられなくしてやってよ!」
「本当に何てことをしてくれたんだ! よくここに命があったまま来れたな。竜崎組の組長に感謝しろ!」
「な、何を言ってるの? 竜崎組って、まさかあの最大規模の組織? 嘘よ! サンが? だって今まで一度も言ったことなんて……」
「私は誰かさんみたいに権力を振りかざして周りを従わせるような真似はしないのよ。卑怯ですからね。まだ自分の立場が分かっていないようね。ちょっと痛めつけてやってちょうだい」
私の命令で、組員たちがユカを容赦なく殴り始めた。ユカは悲鳴を上げ、やがて血と涙で床を汚していった。
「やめて! ごめんなさい! 土下座するから許して!」
私は組員に殴打を止めさせ、床にうずくまるユカを見下ろした。「謝って土下座すれば済むと思っているの? 違うわね。まずはシュリの治療費として1000万円払ってもらいましょうか」
「1000万!? そんなお金、払えないわ! 気を失っただけじゃない! ぼったくりだわ!」
「ぼったくりですって? シュリにあんなひどい仕打ちをしておいて、ようやくそんな言葉が出てくるのね。まだ正気じゃないみたいだから、酔いを覚ましてあげましょう」
私は組員に熱湯の入ったバケツを持ってこさせると、抵抗するユカの頭を掴み、湯の中へ顔を突っ込んだ。何度も何度も。顔を上げ、また突っ込む。ユカは息も絶え絶えに懇願した。
「ごめんなさい! 払います! 払いますから! でもそんなお金、本当にないんです! マサシ、お父さん、助けてください!」
ユカの叫びにも、組長もマサシも冷たい目を向けるだけだった。「自業自得だろう。こんなバカなことをする女とやっていけるはずがない。離婚させてもらう。組長、どうか破門だけはご勘弁を。息子も縁を切ると言っています」
「家族がしでかした罪を償うことより、自分の立場が大事なのね。残念だけど、私が一度決めたことは曲げないわ。あなたたちの破門は決定事項よ。それに、私の大事な娘を失神するまで追い込んだこと、お金の問題だけじゃないの。治療費は払ってもらう。でも、私はユカさんに同じ目に合わせないと気が済まないの」
組員が私に瓶を差し出した。私はそれを受け取ると、蓋を開けてユカの顔を見つめた。
「これは、すぐそばで火をつけると爆発する液体よ。ここに来る途中で用意させておいたの。ウイスキーをシュリは頭からかけられたんだから、ユカさんにもかぶってもらわないとね」
私は瓶の中身をユカの顔に浴びせた。そして、ポケットからライターを取り出して見せた。「このまま火をつけたら、失神どころか顔は焼け爛れて、下手すれば死ぬかもしれないわ。この事務所ごと消し飛ぶかもしれないわね」
「ひっ! 助けて! 何でもしますから! 殺さないで!」
「もう遅いわ」
私はユカの顔にライターを近づけて火をつけた。ユカは悲鳴を上げて気絶した。組長とマサシはユカを見捨てて逃げ出そうとしたが、私はライターの火を消して冷たく笑った。
「あら、こんなことで気絶するのね。爆発すると思った? まさか。ここで爆発事件を起こすほど、私は愚かじゃないわ。中身はただの水よ」
私は笑いながら、空になった瓶を組員に渡した。ユカが死んでいないと分かると、組長とマサシは力が抜けたように床に崩れ落ちた。
私は気を失ったユカを連れて、桃山組の事務所を後にした。そして、自分の事務所へと向かう。
ユカが意識を取り戻すと、私は冷たく言い放った。「あなたの家、車、財産、すべて処分させてもらったわ」
「なんで! そんなこと! 私はもう十分罰を受けたじゃない!」
「治療費1000万円を支払ってもらい、あなたにはこの町から出て行ってもらう。それだけじゃ済まないわ。今ここで、ナイフであなたを殺すことだってできるのよ」
私はテーブルの上にあったナイフを手に取り、ユカの首に近づけた。冷たい鋼の感触に、ユカは悲鳴を上げて首を振った。
「待って! すいませんでした! どんな罰でも受けます! 二度とこの町に現れませんから! 命だけは!」
「分かればいいの。でも、これで許したわけじゃない。ユカさんは、今後、竜崎組の監視のもと、一から自力で生活しなさい。誰もあなたを助けてくれない。遠い見知らぬ土地で、もがき苦しみなさい」
こうして、ユカはその日のうちに、見知らぬ土地へと送り届けられた。彼女は夫と離婚し、娘も両親に引き取られたが、ユカ自身は両親からも絶縁された。頼るものも、家も、お金もない。無一文で、彼女は過酷な生活を強いられることになった。プライドの高さが災いし、住み込みの仕事も長く続かなかったらしい。
一方、私たちの町は穏やかさを取り戻していた。ユカのいなくなったことに安堵した町の人々は、私が話をつけてくれたのだろうと、会うたびに感謝してくれた。
ユカがああまで落ちぶれることになったのは、彼女自身の行動の結果だとは思う。もっと早く、誰かが彼女を止められていれば、違ったかもしれない。しかし、私は今、この町で、愛する娘と夫と共に、これからも静かに暮らしていけることを、心から安堵していた。



