「17億だと?零細企業に払う金はない。契約は中止だ」―取引先の新任部長は、俺を「底辺企業の社長」と見下し、一方的に契約を打ち切ってきた。だが、この横柄な男は知らない。俺の会社が、彼らの主力製品の製造に欠かせない、特許取得済みの17の技術を独占的に提供していることを。契約中止の通達を送った翌日、血相を変えた部長が俺の会社に飛び込んできた。「すまない。契約を撤回してくれ!」と。青ざめて頭を下げる…

「17億だと?零細企業に払う金はない。契約は中止だ」―取引先の新任部長は、俺を「底辺企業の社長」と見下し、一方的に契約を打ち切ってきた。だが、この横柄な男は知らない。俺の会社が、彼らの主力製品の製造に欠かせない、特許取得済みの17の技術を独占的に提供していることを。契約中止の通達を送った翌日、血相を変えた部長が俺の会社に飛び込んできた。「すまない。契約を撤回してくれ!」と。青ざめて頭を下げる...

取引先の新部長は、俺の会社を「底辺企業」と呼び、17億の契約を一方的に打ち切った。前の部長とは正反対の、他人を表面的にしか判断できない男。この横柄な男は、すぐにその報いを受けることになる。俺は、青ざめていく部長を冷めた目で見ていた。

俺の名前は太田、45歳。社員わずか11名の零細企業の社長だ。電子部品の制御装置などを開発・製造しているが、社員数が少ないため、俺も営業に混じって働いている。元々人と接するのが好きな性格で、それが功を奏し、取引先の坂本部長とは良い関係を築いていた。甘いもの好き同士、初対面で意気投合し、以来、内緒でお茶を楽しむ仲だったのだ。

そんな坂本部長が、業界ナンバーワンの会社へ転職することになった。寂しいが、実力を認められたのだから喜ばしいことだ。ところが、後任として紹介された名前を聞いて、俺は眉をひそめた。島岡課長。2年前、因縁のある相手だった。

あの時、俺は新しい制御装置の開発依頼を求め、島岡課長の会社を訪れた。しかし、いきなり「11人しかいない零細企業に頼めるか」と馬鹿にされ、こちらが提示した相場の金額も「ボランティア団体じゃないんだ」と一蹴された。デザインについても「貧乏企業はセンスも貧困なのか」と貶された。結局、会話にならず、依頼は中止となった。坂本部長に告げ口しなかったのは、関係を壊したくなかったからだ。

その島岡課長が、次期部長になるという。不安がよぎったが、坂本部長は「詳しいことは知らないが、頭の良い大学を出ているらしい」と言うだけだった。

2ヶ月後、島岡部長が就任した。部品の納品を兼ねて挨拶に伺うと、部長は2年前と同じ嫌な笑みを浮かべ、会議室に俺を呼んだ。そして、勝利を確信したように言い放った。「17億だと?零細企業に払う金はない。契約は中止だ」と。さらに、「坂本部長が残した引き継ぎ資料なんて見る価値もない。無能なくせに転職したのは、卑怯な手を使ったからだろう」と、俺への侮辱以上に許せない言葉を口にした。

俺の体は一気に熱くなった。しかし、感情的になるのを抑え、静かに言った。「なるほど。わかりました。では契約中止にしましょう。17億のコストカットができますよ」。少し嫌味を込めてそう言うと、部長は「路頭に迷えばいい」と捨て台詞を残した。俺は何も反応せず、会議室を後にした。

2日後、俺は慌ただしく準備を進めていた。今日は大事な来客があるからだ。そこへ、女性社員が困った顔で報告してきた。「島岡部長がいらっしゃいました。会いたいとのことですが」。招かれざる客だ。予定まで時間があったため、先に厄介な問題を片付けることにした。

会議室に勢いよく入ってきた島岡部長は、顔色が悪い。「おい、一体どういうことだ?お前のところの制御技術が、うちの主力製品の製造ラインに使われているって」。唾を飛ばす勢いで怒鳴る部長に、俺は呆れた目を向けた。「逆になぜ知らなかったんです?部長でしょ?」。俺は静かに続けた。「本社と交わした契約内容は社外秘で、限られた人間しか知らないものでした。しかし、坂本部長からの引き継ぎ資料にはきちんと書かれていたはずです。本社が使っているうちの制御技術17個全て、特許取得済みだと」。

我が社は部品を納入しているだけではない。島岡部長の会社の主力製品の製造ラインに、特許取得の17個の制御技術が使われているのだ。7年前に他国へ情報を盗まれた経験から情報漏洩に敏感な彼らの会社は、技術を社外秘として扱っていた。そして、この技術は唯一無二で、他所では再現不可能。だからこそ、ライセンス料も17億という高額だったのだ。「契約中止とのことでしたので、昨日のうちに手続きを進めました。特許停止の通達を該当部署に送付済みです」。俺がそう言うと、部長は「特許の使用再開をキャンセルしてくれ」と慌て始めた。

「お断りします。すでに別の契約先を見つけています。アメリカの大手企業です。世界市場の50%を閉めている会社ですよ」。俺の言葉に、部長の目は見開かれた。アメリカの企業との繋がりは半年前にできたものだ。担当者の村下さんは真面目で勉強熱心な人物で、こちらも是非一緒に仕事をしたいと思っていた。今回の契約中止の連絡を聞いた村下さんからは、すぐに「明日早速伺ってもいいですか?」と嬉しそうな電話があった。

「そんなの契約違反だ。訴えてやる」と脅す部長に、俺は淡々と返した。「法的手続きと契約書の内容に則り、通達を送付しています。我が社が責められる要因は1つもありません」。即座に返され、部長は言葉に詰まった。やがて、聞いてもいないのに打ち明け始めた。「主力製品が作れなくなれば、売上が70%も減ると上層部に言われた。特許の使用再開ができなければ、俺は責任を問われる。頼む。契約中止は撤回してくれ」。顔色は真っ青で、指の先まで震えていた。

しかし、俺は一切容赦しなかった。「お断りします。俺はあなたのことを信用していない。それに、あなたは今の今まで俺に一度も謝っていない」。そう言うと、部長は慌てて頭を下げた。「す、すまない。この通りだ」。腰が折れるのではないかという勢いで。その姿を、俺は冷めた目で見ていた。「今更遅いんですよ。あなたがどうなろうと知ったことではありません」。力なく膝をつく部長を、俺は社員たちに頼んで外へ追い出してもらった。

時間になり、村下さんがやってきた。今日も社員全員分の手土産を抱えて。坂本部長と同じ、人への気遣いが自然に滲み出る人だ。話し合いの結果、正式にアメリカ本社との独占契約が成立した。「ありがとうございます。これから末永くよろしくお願いします」。笑顔で握手を交わし、話し合いは無事に終了した。

その後、情報通の社員から島岡部長の噂を聞いた。責任を追求され、表向きは自己都合退職となったらしい。会社は市場シェアを20%も落とし、来期はかなりの赤字になるだろうという。ある日、外回りの帰りに立ち寄ったコンビニで、見覚えのある男とすれ違った。島岡部長だ。スーツはくたびれ、手には転職情報誌を持っていた。部長は俺に気づくことなく、コンビニを後にした。俺も声をかけることはなかった。

さて、会社に戻るか。仕事は山積みだ。俺は足早にコンビニを出て、自分の会社へと戻った。

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