「お前が社長だって? 女だろ」——夫に捨てられ、義家族に搾取された私は、彼ら全員の人生を狂わせた男の、かつてない上司になっていた。復讐は思った以上に甘美だった。

「お前が社長だって? 女だろ」——夫に捨てられ、義家族に搾取された私は、彼ら全員の人生を狂わせた男の、かつてない上司になっていた。復讐は思った以上に甘美だった。

「お前が社長だって? 女だろ」

広也が信じられない顔で言い放つ。彼は昔から私を見下していた。それなのに、今の私は彼の人生を左右できる立場にいる。自分がどれほど軽んじていた相手が、実は自分よりはるかに上の存在だったと知った時の彼の表情は、見ていて実に痛快だった。

「女性でも社長をされている方はたくさんいらっしゃいますが。ああ、そうだ。先ほどの返答がまだでしたね。最低な浮気男なんて誰が助けてやるものか。さっさと私の会社から出ていけ」

笑顔でそう告げると、広也は力が抜けたように崩れ落ちた。そのまま警備員に引きずられ、外に放り出された。彼が私の会社に乗り込んできたのは、義母に「妻子ある男を助けろ」と言われてのことだったらしい。何を今さら。

あれから遡ること数年前。私は広也と結婚し、彼の両親と一緒に暮らしていた。姑は口を開けば私を叱りつけ、夫の広也は働かず、私の給料を遊興費に使い込んだ。挙句の果てには浮気をして、その相手と逃げられた。私は全てを失い、途方に暮れた。義家族にいいように搾取された結果、私は一文無同然となっていた。そんな時、祖父が手を差し伸べてくれたのだ。

「お前さんには、もう少し人生をやり直す力があるはずだ。うちの会社を継がないか」

祖父は私にチャンスをくれた。私は各部署を定期的に移動しながら、経営の全てを学んだ。役職者たちには顔を覚えてもらい、信頼を築いていった。そして半年ほど前、正式に社長の座を引き継いだ。社員の中で私の正体を知っているのは役職者だけ。一般社員の広也には知らされていなかった。

私が社長だと知らずに「俺は社長の旦那だったんだぞ。なぜ知らせなかった」と喚く広也。夫婦なら話しても良かったかもしれない。しかし、彼は自分のミスで実績が下がると、私に嫉妬し、義母に会社名や電話番号を教えた。私が選抜から漏れそうになった時も、彼は「お前はどうせ受からないよ」と笑っていた。私という人間を対等に見ていなかったのだ。

「確かに私は広也さんを愛して結婚しました。しかし彼は違いましたよね」

義母からの電話も、予想通りの内容だった。「あなたが社長なら、夫をこの会社に再就職させなさい」と言ってきたのだ。あれだけ私を酷い扱いをしておいて、よくそんな図々しい要求ができるものだ。義母は泣き落としに切り替えた。

「こんな年寄りを苦しめて楽しいの?」

「楽しくはありませんね。私は嫌がらせや他人の不幸を笑うような悪趣味はありませんので。いい加減にしなさい」

義母は私の実の親ではない。広也の母親だ。彼女は私に「偽物の娘」と何度も言った。私は彼女たちに一切の情を向けずに、徹底的に打ちのめすと決めた。祖父はそれを試していたのかもしれない。大企業の社長は、情に流されてはいけない。いざという時は冷徹な決断も必要だからだ。

「訴えたところで無駄です。足を引っ張ると分かって引き入れるほど甘くありませんので。これ以上連絡してきたら、次は業務妨害として弁護士に依頼しますから」

そう言って電話を切った。義母は既に高額な慰謝料を支払っていた。これ以上請求されるのは御免だろう。彼女が連絡してくることは、もうないはずだ。

あれから数ヶ月。私は社長業に忙しくしている。広也たちが今どこで何をしているかは、興信所を通じて知っている。広也は会社に未練がましく乗り込んできたことが業界中に知れ渡り、知り合い全員に白い目で見られた。仕事を探しても断られ続け、精神的に追い詰められた。ある日、彼は「長男なんだからなんとかしろ」と怒鳴ってきた義父に手を出し、病院送りにした。当然逮捕され、今は刑務所にいる。

義父は全身を骨折し、自力で立つこともできない状態だ。入院中は看護師の世話を受けられるが、退院後は相当苦労するだろう。義母は息子の逮捕と夫の大怪我で逃げ出した。しかし、ずっと専業主婦だった彼女を受け入れてくれる場所もなく、今は公園でホームレスと暮らしているという噂だ。

そしてあの日、カフェでの出来事。陽太とユア、そしてまおとお茶をしていた時のことだ。アン里が突然現れた。髪はボサボサで爪もボロボロ。何年も前のブランド品の服を着て、明らかに身なりが衰えていた。広也と逃げたホストは彼女にお金を使わせ、最終的には持ち逃げして資産家の娘と結婚したらしい。捨てられたアン里は、ユアを連れ戻そうとしていた。

「この子には十分すぎるほどのお母さんがいるんだから」

陽太がそう言うと、アン里はユアを指差した。

「まさかこいつと再婚したの?」

「違う。柚希さんはあくまで友達だ」

「じゃあ誰なの? 私から奪った女は」

その時、背後から声がした。

「泥棒猫なんかに負けないわ」

振り返ると、そこにまおが立っていた。彼女はニヤリと笑いながらも冷たい目をしていた。まおはアン里の後任として、ユアの新しい母親になったのだ。陽太とまおはユアを守るために連携し、やがて互いに気持ちを確かめ合った。アン里が親権を手放したので、裁判沙汰にはならなかったが、二人の絆はその経験で深まっていた。

「なら一結婚しちゃえってなってね。おかげ様で幸せな家庭を築いています」

まおが嬉しそうに言う。アン里は悔しさのあまり、テーブルに置かれたコップを手にし、中身をまおへとかけた。

「思い通りに行かないからって相手を害するなんて、子供みたいな真似を」と私は彼女を睨んだ。「人に水をかける行為は障害に当たる場合があります。私の友人に手を出したのだから、覚悟しておきなさい」

自分の未来を察したのか、アン里はその場にへなへなと崩れ落ちた。彼女は私が紹介した弁護士を通じて、しっかりと慰謝料を請求された。多くの目撃者がいたのもあり、アン里は泣く泣く支払いをすることになった。全てを失った彼女は借金して元ホストを探し出し、家に乗り込んだ。しかし、その相手は既に資産家の娘と結婚していた。結果、アン里は逆に訴訟を起こされ、借金返済を兼ねて過酷な労働環境に放り込まれた。

広也もアン里も義両親も、全て自業自得だ。私は自分を搾取し、見下し、利用した人間たちの末路を思い、すっきりとした気持ちでいた。

「よし、今日の相談も終わり」

私はデスクに積まれた資料をまとめる。社長業は忙しいが、充実していた。結婚の申し出は何度かあったが、私はまだその気になれない。仕事に集中したいからだ。しかし、祖父母はそれを許してくれない。

「今度は私の知り合いの孫を紹介してみないか。結衣ちゃんの花嫁姿をもう一度見たいわ」

祖父は何かと言えば再婚を勧めてくる。正直、うんざりする部分もあるが、心配してくれているのだと思うと悪い気はしない。まあ、のんびり考えることにしよう。

「もうすぐね。それまでに仕事を片付けないと」

近々、陽太とまおの結婚式が行われる予定だ。二人は籍を入れただけで式は挙げないつもりだったらしいが、「結婚式をしてほしい」とユアにねだられたのだ。彼らが家族になった記念日に、家族でお祝いをしようという話になった。私も友人代表として出席する予定なので、それまでに溜まっている仕事を色々と片付けておかなければならない。

「よし、頑張るぞ」

私は立ち上がり、オフィスを見渡した。あの日、無一文で途方に暮れていた自分が、今ここにこうしている。全てを失ったと思った時もあった。しかし、その経験があったからこそ、私は今の私になれたのだ。友人たちの幸せな顔を想像し、私も自然と微笑んでいた。

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