「高卒は一生雑用係な。嫌ならやめれば?」
溝口はそう言い放った。俺が何年もかけて作り上げた企画書を盗まれ、手柄を横取りされた抗議をしたその場で。エリート大卒の彼は、俺の顔すら見ずに書類を閉じた。
俺、シーナ47歳。地元の工業高校を出て、父の小さな工場で駆動部品の研究に没頭してきた。10年かけて開発した技術は特許も取得し、父の工場を守れるはずだった。だが取引先の生産体制が変わり、父は工場を畳んだ。そして2年後、父は亡くなった。手元に残ったのは、父が最後まで握っていた測定器具一本だけだった。
その年のうちに中堅メーカーへ転職し、技術者として改良案をいくつも出してきた。だが、開発企画課のリーダー溝口に提出した時点で、資料に残る名前はすべて彼のものになる。現場を知らない男が、俺の仕事で評価され続けている。
今回もそうだった。俺の新企画が役員会で承認され、溝口が手柄を誇っている。別の同僚が不審に思い、溝口に発案者を尋ねた。
「資料の書き方は私に一任されています。まとめて役員会が通せる形にしたのは私です」
俺は震える手を膝の下に隠した。同じ手が二度目も通用すると思っているのか。次に俺が企画書に仕込んだものは、180億の契約の場で奴の正体を暴くことになる。だが、その仕掛けに気づいたのは、まさか俺自身が追い詰められる形になるとは――。



