「本当に一緒に入っていいんですか?」——そう聞いたとき、誠さんの目が泳いだ気がした。幼い頃から通うこの銭湯で、彼女はいつも笑ってくれた。両親を亡くした俺にとって、誠さんだけが「可哀想な子」扱いをしなかった唯一の人だった。大人になった今、異性として好きだと伝えた。長い沈黙のあと、彼女は「言ってなかったんだけど…」と口を開いた。その先の一言で、俺の10年以上の想いが崩れ去った。彼女の口から出た言…

「本当に一緒に入っていいんですか?」——そう聞いたとき、誠さんの目が泳いだ気がした。幼い頃から通うこの銭湯で、彼女はいつも笑ってくれた。両親を亡くした俺にとって、誠さんだけが「可哀想な子」扱いをしなかった唯一の人だった。大人になった今、異性として好きだと伝えた。長い沈黙のあと、彼女は「言ってなかったんだけど…」と口を開いた。その先の一言で、俺の10年以上の想いが崩れ去った。彼女の口から出た言...

「本当に一緒に入っていいんですか?」

そう聞いたとき、誠さんの顔がほんの少し赤くなった気がした。この銭湯に通い始めて何年になるだろう。物心つく前からだ。そして、ここに来る目的は湯に浸かることだけじゃなくなっていた。

俺は30歳のフリーランスのウェブデザイナーだ。地元を離れたことはない。この町には1万人しか住んでいなくて、高齢者やパソコンが苦手な人が多い。俺はその人たちの力になろうと、安い報酬でホームページや広告を作ってきた。口コミで仕事は広がり、今ではデザインの仕事だけで食っていけるようになった。

そんな俺の楽しみは、幼い頃から通うこの銭湯に来ることだ。ここを切り盛りしているのは誠さん。35歳で、昔はおばあさんの手伝いをしていた幼なじみみたいな存在だ。

小学生の頃、両親を事故で亡くした。周りはみんな気を使って優しくしてくれたが、それがかえって辛かった。「可哀想な子」と見られるのが我慢ならなかった。でも誠さんだけは違った。普通に話しかけてくれて、普通に笑ってくれた。それが本当に救いだった。

その頃から誠さんのことが好きだった。大人になってからは、異性として見るようになっていた。

「付き合ってよ。私たち何年の付き合いだと思ってるのよ」

そう言った誠さんの言葉に、俺は期待と不安で胸が張り裂けそうだった。

「NGなんですか?」

俺の問いかけに、誠さんは何も答えなかった。その沈黙がやけに長く感じられた。

「あの…誠さん?」

もう一度呼びかけると、彼女はゆっくりと口を開いた。

「私、言ってなかったんだけど…」

その先の言葉を聞くまで、俺はまさか自分がこんな思いをすることになるとは思ってもみなかった。

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