「俺は中身も知らずに、兄の手紙を握りしめていた。『お願いだ。母も、兄も、みんな守ってくれ』って、最後の電話の声が耳に残ってる。なのに、彼女は言ったんだ。『あなたの兄は、何も知らないのよ』って。でも、私が知っている事実が、その後もっと残酷なものだった。」…

「俺は中身も知らずに、兄の手紙を握りしめていた。『お願いだ。母も、兄も、みんな守ってくれ』って、最後の電話の声が耳に残ってる。なのに、彼女は言ったんだ。『あなたの兄は、何も知らないのよ』って。でも、私が知っている事実が、その後もっと残酷なものだった。」...

「あら、貧乏人様。お似合いの格好じゃない?」
彼女の言葉には、刺すような嘲笑が込められていた。薄汚れた作業着姿の俺は、この場にそぐわない存在だと、彼女は言いたいのだろう。
俺は兄に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、立ち去ろうと口を開きかけた。その瞬間、兄が俺の肩に手を置いた。
「ケジ、ちょっと待て。ここは俺に任せろ。」
兄の目には、揺るぎない怒りと決意が浮かんでいた。この目を見た時、俺は兄に全てを任せるのが最善だと悟った。

俺の名前は小泉ケジ。27歳の建築作業員だ。
鉄骨を組み立て、コンクリートを流し、電動ドリルで壁に穴を開ける。何もなかった場所に建物が立ち上がっていく瞬間、俺は言葉にできない喜びを感じる。これが俺の生きがいであり、誇りだ。
兄の名前はヒシ。都内の一流企業の社長で、成功したビジネスマンだ。いつもスーツ姿で、その立ち振る舞いには自信が溢れている。
仕事は違っても、夢を追い求める者同士。それが俺たち兄弟の絆だと思っていた。
兄はかつて、俺にビジネスの道を強く勧めたこともあった。
「お前には才能がある。一緒に会社を大きくしよう。」
だが、俺は断った。今の仕事に喜びを感じているからだ。兄はその意思を尊重してくれた。
俺たちは幼い頃から助け合い、互いを尊重し合ってきた。だからこそ、今も変わらず兄弟でいられるのだと信じていた。

ある日、仕事を終えて帰路につこうとした時、背後から温かい何かが俺を包んだ。
振り返ると、兄が俺の肩に手を回していた。兄はいつもの眩しい笑顔で言った。
「久しぶりだな、ケジ。今日、ちょっと遅くなるかもしれないけど、一緒に食事でもどうだ?」
兄が告げた場所は、都内の高級料亭。ビジネスの場でよく使う、洗練された料理が並ぶ場所だった。
俺は気遅れして、断ろうとした。だが、兄は笑いながら言った。
「いいだろ?今日は特別な日だからさ。」
特別な日。それが何を意味するのか、俺はその時まだ知らなかった。

食事の間、兄はいつも通り明るく振る舞っていた。だが、何かが違う。俺の目には、兄が何かを隠しているように映った。
「兄貴、何かあったのか?」
俺がそう尋ねると、兄は一瞬、表情を曇らせた。だが、すぐに笑顔を取り戻した。
「いや、何でもない。ただ、久しぶりにお前と話したかったんだ。」
その言葉は、妙に空回りしているように感じた。

しばらくすると、兄が箸を置き、真剣な表情で俺を見た。
「ケジ。今日、お前に伝えたいことがある。」
その口調に、俺は背筋を伸ばす。兄がこんなに真剣な顔をするのは珍しい。
「俺はな、お前のことを誇りに思っている。これからも、お前はお前の道を進んでくれ。」
その言葉は、まるで別れを告げるかのようだった。
「何を言ってるんだ。俺たち、これからもずっと兄弟だろう?」
俺がそう言うと、兄は悲しげに微笑んだ。
「ああ。どんなことがあっても、俺たちは兄弟だ。それは変わらない。」
だが、その言葉の裏に、何かが隠されていることは明白だった。

次の日、俺は兄の会社のニュースを見て、言葉を失った。
「株式会社ヒシ・グループ、突然の事業撤退を発表。社長の小泉ヒシ氏、引責辞任。」
俺はすぐに兄に連絡を取った。だが、電話は繋がらない。
兄のマンションを訪ねても、管理人から「先日、引っ越されましたよ」と言われるだけだった。
何が起きているのか、全く分からなかった。
俺は兄の元妻である美沙に会いに行った。美沙は兄の失敗を冷たく語った。
「あなたの兄は、会社の金を横領していたのよ。」
俺は信じられなかった。
「そんなはずない。兄貴がそんなことをするはずがない。」
美沙は嘲笑を浮かべて言った。
「あなたは本当に純粋ね。兄のことを信じ続けるなんて。」
その時、俺の携帯に一通のメッセージが届いた。
「ケジ。真実を知りたいなら、俺の部屋にある金庫を開けてくれ。パスワードは、お前の生年月日だ。」
兄からの最後のメッセージだった。

俺は兄の部屋に急いだ。金庫を開けると、中には一通の手紙と、古びた写真があった。
写真には、幼い俺と兄が笑顔で並んでいた。その写真の裏には、兄の文字でこう書かれていた。
「お前と出会えたことが、俺の人生の最高の幸せだった。」
手紙を開くと、そこには衝撃の事実が綴られていた。
「ケジ。俺はお前の実の兄ではない。お前は、幼い頃に養子として迎えられたんだ。だが、俺にとってお前は、本当の弟以上の存在だった。」
その先を読むと、俺の手は震えていた。
「お前の実の父親は、俺たちの会社のライバル企業の社長だった。だが、彼は事故で亡くなった。そして、その事故の背後には、俺たちの父親が関わっていた。」
俺は手紙を握りしめ、声をあげて泣いた。

「これは俺の贖罪の手紙だ。お前に真実を伝えることで、少しでも罪を償いたかった。」
手紙の最後には、こう書かれていた。
「ケジ。お前がこの手紙を読む頃、俺はもういないかもしれない。だが、もし許されるなら、いつかまた、兄弟として会いたい。」
俺は金庫の中から、もう一通の封筒を見つけた。
そこには、ある弁護士の連絡先が書かれていた。
「お前の実の母親が生きている。」
その言葉を見て、俺は息を飲んだ。
俺の人生は、何もかもが偽りだった。
兄は何を知っていたのか。
そして、実の母親という人物は、一体誰なのか。
俺は携帯を手に取り、弁護士に電話を掛けようとした。
だが、その瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
恐る恐る扉を開けると、そこには見知らぬ女性が立っていた。
「あなたがケジさん?私は、あなたの実の母よ。」
俺はその場に立ち尽くした。
兄が伝えたかった真実は、まだ終わりではなかった。

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