大口取引先の新社長に「この工場ボロすぎませんか?」と馬鹿にされ、そのまま一方的に契約を打ち切られた。しかも、彼女は再開発計画のために僕の工場を潰そうとしていた。賃金も命もかけた技術の誇りを守るため、僕はある決断を下すことにした。あの日、彼女が土曜の深夜に高級車で乗り込んできて言い放った言葉を、私は絶対に忘れない。 「強がらないで。もうあなたに逃げ道はないわよ」 — CTA:…

大口取引先の新社長に「この工場ボロすぎませんか?」と馬鹿にされ、そのまま一方的に契約を打ち切られた。しかも、彼女は再開発計画のために僕の工場を潰そうとしていた。賃金も命もかけた技術の誇りを守るため、僕はある決断を下すことにした。あの日、彼女が土曜の深夜に高級車で乗り込んできて言い放った言葉を、私は絶対に忘れない。 「強がらないで。もうあなたに逃げ道はないわよ」 --- CTA:...

この工場ボロすぎませんか?まるで廃墟に来たみたい。こんなボロいところで作ってるネジをうちが使っていたとか信じられないんですが。

大口取引先である新社長の彼女はそう言って僕の工場を馬鹿にした。なんだこの人は。祖父の代から続く工場をけなされて嫌悪を感じる。だが衝撃はそれで終わらなかった。

「契約を打ち切らせてもらいます」

「え、どうしてですか?理由を聞かせてください」

「海外の最先端企業と契約することにしたんですよ。全自動で機械が生産するため、あなたの会社の半分の価格で仕入れられるんですよ」

「待ってください。うちの工場で作っているネジは職人たちが汗水かけて技術を追求しているんです。品質の良さはピカイチなんです」

「そういうのは求めていないんです。今はコストの時代です」

社長は理解を示そうとするどころか、すでに完成して納品待ちのネジまで受け取りを拒絶してきた。結果、仕事場を失った大量のネジを抱えてしまう。新社長のわがままのせいでどうして僕たちがこんな目に。

悔しさを感じるが、それより前に工場の社員たちの生活を守らなければいけない。どうすればいいのか。

そうだ。いい方法を見つけたかもしれない。僕は急いで行動に移そうと、ある場所に連絡してアポの予約をした。これで社員たちの生活を守り、あの新社長を見返すことができる。

僕の名前は三崎太郎。40歳の時、ネジ工場の3代目社長に就任し、日々奮闘している。今の会社は僕の祖父が立てた会社で、高度経済成長期の流れに乗るような形で設立され、その勢いのまま父に受け継がれ僕に回ってきていた。

まだまだ死偽舗というにはほど遠いのかもしれないが、技術は確実に継承されており、その評価は業界内でも高い。ありがたいことに「緩みにくいネジなら三崎工場」だと言ってもらえている。

ありがたいことに多くの取引先にも恵まれ、経営に関しては心配することが全くない。そのおかげもあって、僕はさらにネジの技術向上に力を入れることができていたのである。

取引先の中でも特別よくしてくれているのが死偽おもちゃメーカーだ。おもちゃメーカーの社長である井上さんと父が同じ学校出身だった。そのことをお互いが会社をついで社長になってから気がつき、一気に意気投合したそうだ。

「おもちゃを作る上で一番大切にしていることは安全であることなんだ。どんなにコストを下げて安くしたって、安全でなかったら元も子もないからね」

素晴らしい考えだ。僕たちはそんなメーカーの期待に答えられるように、一切狂いのないネジを作り上げることを目標にしているんだ。お互いがお互いのビジョンに共感し合っていたおかげで、父はネジの技術向上に全力を捧げ、井上社長はマーケティングに力を入れて品質を落とさず、いいおもちゃが作れるように尽力した。井上社長は僕たちの作るネジが一番正確で美しくて安全だと誇ってくれていて、おもちゃのほとんどに自社のネジを使ってくれていた。

経営が安定していると話していたが、大半はこのおもちゃメーカーのおかげでもあったのである。

「本日の納品は以上になります。今日もありがとうございます」

「どうしても新商品の売れ行きに間に合わせたくて無理を言ったにも関わらず、助かったよ」

「お任せください。ご要望にお答えできるように日々ネジ作りに励んでおりますので」

「太郎君は本当に頼もしいな。お父さんも安心して自分の第二の人生を楽しんでいるだろう」

僕の父は会社を継ぐ前から南国で暮らすというのを第二の人生の目標として計画を立てていたのだ。そして僕が会社経営を勉強してしばらくすると「じゃあ、後は任せたよ」と言わんばかりに海外に飛び立ったのである。

「そうだといいのですが。社長は第二の人生とか考えておられるんですか?」

「全然だよ。僕はこの仕事が好きでやってるからね。死ぬまで現役でいたいと思ってるよ」

井上社長はそう言って笑った。こういう人から信頼されていることが僕の誇りだった。この関係を絶対に壊してはいけない。

その日の夜、僕は家に帰ってからも仕事のことが頭から離れなかった。納品書を確認しながら、来月の生産計画を練り直す。順調だ。このままいけば、今年もいつも通り乗り切れるだろう。

しかし、数日後。井上社長から突然の電話があった。

「太郎君、ちょっと話があるんだが、明日会社に来てくれないか」

「はい、わかりました。何かあったんですか?」

「いや、直接話したほうがいいと思う。明日、時間を作ってくれるかな」

少し迷いのあるような声だった。何か嫌な予感がする。しかし、僕はそのときまだ、この電話がすべての始まりになるとは思ってもいなかった。

翌日、井上社長と向かい合って座ると、彼は真剣な表情で切り出した。

「太郎君。実はだな、君の工場のネジについて、ある懸念が出てきているんだ」

「懸念?どういうことですか?」

「取引先の一つから、最近納品されたおもちゃに使われているネジが緩んでいるという苦情があがってきたんだ」

「そんなこと、ありえません。うちのネジは全て品質チェックを通っています。技術的にも自信があります」

「わかっている。君のことは信頼しているよ。だが、事実として苦情は届いている。原因が何であれ、最初に疑われるのは小さな部品メーカーなんだ」

「まさか、契約を打ち切るおつもりですか?」

「いや、そこまでは言っていない。だが、品質改善のための調査期間を設けてくれないか。その間、取引は一旦保留にさせてほしい」

言葉を失った。あの新社長との契約打ち切りだけでも致命傷だったのに、今度は長年の主要取引先からも距離を置かれようとしている。何かがおかしい。このタイミングで苦情が来るのは偶然とは思えなかった。

「もう一度、調べ直させてください。必ず原因を突き止めます」

「期待しているよ。君の父上の代からの技術力を信じたい。だが…」

井上社長はそこで言葉を濁した。何か言いづらいことがあるようだった。彼は深いため息をつき、ポツリとこぼした。

「実はな。この苦情、うちに直接来たわけじゃないんだ。新しく契約した部品メーカーの担当者が、君の工場のネジの品質問題について、向こうの取引先に流布しているという話を聞いてな。真偽は定かではないが」

新しく契約した部品メーカー。それはあの新社長が持ち上げていた海外の最先端企業のことかもしれない。まさか、僕のネジを貶めるために、そんなことをしているのか?

「ちょっと、待ってください。それはつまり、最初の契約打ち切りも…」

「確証はない。だが、タイミングが出来すぎている。調査してみる価値はある」

胸の内で怒りが燃え上がる。あの新社長が、代々受け継いできた職人たちの技術を、コストだけで否定しただけでは飽き足らず、今度は我々を業界から追い出そうとしているのか。

いや、まだ見えるのは推測に過ぎない。真相を確かめるには、行動が必要だ。僕は井上社長に頭を下げ、会社を出た。

工場に戻ると、社員たちが不安そうな顔で出迎えた。噂はもう広まっているようだ。

「社長、大丈夫ですか?何かあったんですか?」

「大丈夫だ。ちょっとした確認事項ができただけだ。みんな、今まで通り仕事を続けてくれ」

「あの新社長のせいで、うちの工場が悪く言われてるって聞いたんですけど…」

「気にするな。俺がなんとかする。必ず、みんなの生活は守るから」

そう言ったものの、自分の中には焦りと不安が渦巻いていた。しかし、ここで弱気を見せては社員たちを不安にさせるだけだ。

その夜、僕はある人物からの電話を受けた。それは他でもない、あの新社長の彼女だった。

「ねえ、聞いたわよ?あなたの工場、どうやら品質問題で大きな取引先を失いかけてるんだって?」

「何の用です?」

「あなたにチャンスをあげようと思ってね。ウチの会社が買い取ってあげてもいいわよ。もちろん、あなたの工場を、ね」

「まさか、あなたが井上社長に苦情を流したんじゃないのか?」

「あら、人聞きが悪いわね。ただ、あなたたち職人の古いやり方じゃ、もう時代についていけないって言ってるだけよ。機械の力を甘く見ないほうがいいわよ」

その言葉が、僕の何かを引き金のようにして弾けた。この女は、人を踏みつけにして、自分の思い通りに世界を動かしているつもりなのか。

「残念でした。僕の工場に、あなたの思い通りになる価値はありませんよ」

「ふん、どうせすぐに潰れるわよ。見てなさい」

そう言って、彼女は一方的に電話を切った。激しい怒りとともに、心の中に冷めた決意が固まっていく。もう、このまま甘んじて受けるのは終わりだ。彼女の思い通りにはさせない。

翌朝、僕は行動を起こした。まず、ネジの品質に疑いを持たれた原因を調べるために、工場の全記録を洗い直す。そして、同じ規格のネジで、自分自身で耐久テストを行った。

数日かけて調査すると、ある事実が浮かび上がってきた。うちのネジの品質には何の問題もない。むしろ、以前よりも精度が向上していた。だとすれば、井上社長に届いた苦情は、何かの間違いか、あるいは意図的な妨害工作ということになる。

僕は決意した。この真実を突き止めるまでは、誰にも負けない。社員たちのためにも、祖父や父の代から築き上げてきた誇りのためにも、戦うんだ。

土曜の深夜、工場の事務所で一人、書類を整理していると、窓の外からかすかな物音が聞こえた。誰かがいる。慌てて外に出ると、門の前に一台の見覚えのある高級車が停まっていた。運転席から、あの新社長の彼女が降りてくるのが見えた。

「何しに来たんですか?一体、何をする気だ」

「冷静になりなさいよ。ただ、あなたに最後のチャンスをあげようと思って」

「僕はあなたのチャンスなんか必要ない」

「そう?あなたの工場の土地、結局この辺一帯を買収することが決まったのよ。もうすぐ、ここら一体は近代的な工業団地に生まれ変わるの。もちろん、あなたのボロ工場は取り壊しよ」

「そんな権利が、あなたにあるのか?」

「契約書にサインさえすればね。あなたの工場の従業員全員を、うちの系列会社で雇ってあげてもいいわよ。もちろん、給料は今より下がるけど」

「誰がそんな条件を飲むか!」

「強がらないで。もうあなたに逃げ道はないわよ。父が経営する会社が、この地域の再開発計画を進めているんだ。あなたの工場が立ち退かなければ、計画全体がストップする。それだけは分かっているわね」

父?この女の父親が、再開発計画の黒幕なのか。最初から、僕の工場は彼らの計画の障害物に過ぎなかった。土曜の夜に連絡してきたのは、僕を慌てさせて追い詰めるためだろう。

「分かった。」

「お?やっと現実を見たかしら」

「あなたの計画には、一切乗りません。僕は自らの手で、この工場と社員たちを守ります。あのネジに込められた技術が、何よりも価値があることを証明してみせます」

「ふざけたことを言ってるの?あなたにそんな力があるわけないでしょう。高が中小零細企業の社長のくせに」

「その中小零細企業が、あなたたちの計画を壊すかもしれませんよ」

彼女は一瞬、言葉を失ったが、すぐに冷笑を浮かべた。

「面白い。見せてもらうわよ、あなたのその意地が、いつまで持つか」

そう言い残して、彼女は高級車に乗り込み去っていった。車のテールランプが闇に消えるのを見届けながら、僕は拳を強く握りしめた。

「絶対に…みんなを守ってみせる」

翌日、僕はある場所を訪れていた。それは地元の商工会議所だった。そこで資料を集め、地域の法律に詳しい専門家を紹介してもらう。再開発計画に抗うための方法を探るためだ。

すると、思いがけない事実が判明する。この地域の再開発計画は、確かに彼女の父親が経営する会社が推進していた。しかし、強制的な土地収用には、ある条件が必要だった。工場稼働中の土地である場合、労働者の保護や代替地の確保が義務付けられていたのだ。

つまり、僕の工場が稼働を続けている限り、彼らは安易に立ち退きを求めることができない。彼女がこれほど強引に工場を潰そうとしたのも、このことを知っていたからだ。工場が倒産すれば、契約は白紙になってしまい、ただで土地を手放すことになる。

逆に、工場を守り続ければ、彼らの計画に大きな打撃を与えられる。僕にできることがある。それは、この工場をしっかりと営業し続けること。そして、地域の結束を固めること。

僕はすぐに商工会議所のメンバーに相談し、地域の中小企業同士の連携を呼びかけた。新社長の会社との取引を打ち切られたことによる痛手は大きかったが、他の取引先からは、むしろ職人技術を評価する声も届き始めていた。

「三崎工場のネジがなければ、うちの機械は安定して動かないんだ。信用してるよ」

そう言ってくれる会社は、確実に存在した。彼女の策略は、結果的に自分のイメージを損ねることになった。僕の工場は廃墟などではない。ここには、技術と誇りが生きているんだ。

数週間後、井上社長から再び連絡が来た。彼自身の調査でも、うちのネジに品質問題がないことが確認されて、取引は再開されることになった。

「すまなかったな。余計な心配をかけた。あの苦情、どうやら根も葉もない噂だったようだ」

「いえ、こちらこそ調査にご協力いただき、ありがとうございました。おかげで、うちの技術への自信を新たにすることができました」

こうして、僕の工場は危機を乗り越えた。彼女の強引な再開発計画は、地域の反対運動もあって一時的に頓挫した。彼女の父親の会社も、世間の批判を浴びて、計画の見直しを余儀なくされた。

あの日の夜、僕がとった行動は、無意味ではなかった。たとえ相手がどんなに大きな力を持っていようと、最後に物を言うのは信念と、積み重ねた技術なんだ。

冬のある日、工場の前で新しい受注の書類を見つめる僕に、一人の社員が声をかけてきた。

「社長、あの日、本当に諦めなくてよかったですね」

「ああ。俺たちの誇りを、守り抜いたんだ」

そう言って、僕は青空を見上げた。祖父がこの工場を建てた日から、ずっと続いてきた技術の灯。それを絶やさずに、次の世代へと繋いでいくこと。それが僕の使命なのだと、今はっきりと胸に刻まれた。

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