出勤は拒否させていただきます。6時間も待たされた挙げ句に、佐々木はそう言って去ろうとした。俺は納得がいかず食い下がった。「理由は何ですか?」「お答えしかねます。」「ここまで待たせといて、ふざけてるんですか?ちゃんと理由を説明してください。説明もなしに納得なんてできません。」俺の言葉に、佐々木は心底嫌そうな顔をして、あろうことか舌打ちをしていった。
下ろす金ないでしょ、こいつ。俺は明らかな嫌がらせ行為を繰り返す佐々木に、とうとう怒りが我慢できなくなり、ある決意を固めた。そして、佐々木は自分の軽率な行動を深く後悔することになる。
俺の名前は北川深夜。フリーランスでWEB系の仕事をしていて、在宅で仕事をしつつ、母と2人で暮らしている。元々はIT企業に勤めていたが、母が体調を崩しがちになったので独立して個人で仕事を始めたのだ。
俺の父は俺が幼い頃に事故で亡くなり、それから母は女手1つで俺を育ててくれた。俺は早く母を楽にさせたいと思って高卒で働こうとしたが、母は将来のために大学に行くべきだと言って譲らなかった。だから俺は母の願いを叶えつつ負担をかけないために、一生懸命勉強に取り組んで奨学金を獲得して大学に進学。その後、真面目に大学に通ってIT関連で大手と言われる会社に就職したのだ。
仕事は充実していたし、やりがいもあった。しかし、俺にとってはたった1人の家族である母の方が大切だ。仕事をやめて母と暮らすと最初に話した時は反対されたが、俺は今回は譲らなかった。それに、ゆくゆくは独立したいと考えてはいたのだ。
俺は仕事は好きだったが、人付き合いが得意な方ではない。たくさんの人に囲まれて切磋琢磨しながらというよりは、1人で静かに黙々と仕事に打ち込んだ方が断然向いていた。それを理由に俺は母を説得し、母を助けながら一緒に暮らすことになったのだ。
今のところ母の体調は安定していて、日中は友達と出かけたりしている。俺は母と家事を分担し、家事をしていない時間は実質でパソコンに向かって仕事に励んでいる。最初は反対していた母も、だんだんと俺と過ごす時間を楽しく思ってくれるようになったみたいで、最近は笑顔も増えた。
そんなある日、大手企業のプロジェクトの仕事が舞い込んできた。相手先の担当者が佐々木という男だった。最初の印象は悪くなかったが、仕事が始まると、佐々木は約束の時間を守らず、納品物の確認も遅く、こちらが何度も連絡をしても返事すら返ってこないことが増えた。俺は在宅で仕事をしているため、時間の融通は利く方だが、それでも納期に間に合わせるために徹夜をすることもあった。
ある日、佐々木から「この案件、明日までに修正して納品してもらえますか?」と連絡が来た。俺は「わかりました。何時までにお届けすればいいですか?」と聞いたが、返事はなかった。それでも俺はできる限り早く対応しようと、その日のうちに修正を済ませ、翌朝、佐々木に連絡をした。「修正完了しました。ご確認お願いします。」しかし、返事はない。昼になっても、夕方になっても、返事はなかった。俺は何度も電話をかけ、メールも送ったが、すべて無視された。
俺は仕方なく、翌日も待つことにした。次の日も、佐々木からの連絡はなかった。3日目になって、ようやく佐々木から「すみません、確認できていませんでした。今日の午後に確認します」という返事が来た。俺はホッとしたが、その「午後」が来ても、連絡はなかった。
それからも、佐々木との連絡は断片的で、こちらの質問にはほとんど答えず、頼んだ修正も期限ギリギリに送ってくるありさまだった。俺は我慢の限界を感じながらも、仕事だからと堪えていた。
そして、あの日だ。佐々木から「今日の15時に納品してください」と連絡が来た。俺は15時に納品できるよう準備を整え、14時にはすべて完了させて、佐々木に連絡をした。「納品します。確認してください。」しかし、返事はなかった。15時になっても、16時になっても、返事はなかった。俺は電話をかけ、メールを送り、何度も「いつになれば確認できますか?」と聞いたが、返事はなかった。
19時、20時、21時、22時。俺はずっと待っていた。23時になっても、返事はなかった。俺は流石に腹が立ってきたが、それでも最後の連絡をしようと電話をかけた。すると、佐々木は電話に出た。俺は「今どういう状態ですか?納品したファイルを確認してもらえていますか?」と聞いた。佐々木は「いや、まだ確認できていません」とだけ言った。俺は「それなら、いつ確認できますか?」と聞いたが、佐々木は「明日になります」と冷たく言い放った。
俺は思わず怒鳴りそうになったが、ぐっと堪えて、「わかりました。明日の何時頃ですか?」と聞いた。佐々木は「午前中には確認します」と言って、一方的に電話を切った。俺はその態度に、今までの我慢が一気に爆発しそうだったが、母に見せてはいけないと思い、必死に落ち着かせた。
翌朝、俺は佐々木の連絡を待った。しかし、昼になっても、夕方になっても、返事はなかった。俺は再度電話をかけた。しかし、今度は電話に出ない。何度かけても、メールを送っても、返事はない。俺はその日もずっと待ち続けた。
そして、次の日の朝。俺は覚悟を決めて、佐々木の上司に直接連絡を取ることにした。執拗な遅延と無視が続き、プロジェクト全体に支障が出る可能性があることを伝えるためだ。しかし、佐々木の上司から返ってきたのは、「佐々木は『出勤を拒否した』と言っている」という、理解不能な返事だった。
俺は「どういうことですか?納品したのに、確認すらしてくれなくて、今日まで待たされていたんです。それで出勤拒否って、ありえないでしょ」と食い下がった。しかし、佐々木の上司は「本人がそう言っているので、こちらとしてもどうしようもない。すみませんが、ご自分で佐々木に確認していただけませんか?」と、まるで他人事のように言うだけだった。
俺は呆然とした。何が起きているのか、まったく理解できなかった。そして、先ほど、あの日、佐々木と直接話をした。俺は6時間も待たされた挙げ句、出勤拒否されたのだ。しかも、理由すら説明せず、挙げ句には舌打ちまでしていく。「下ろす金ないでしょ、こいつ。」俺はそう呟いた。
俺の中で、何かがプツンと切れた。今までの我慢、積み重なった怒り、そして、仕事をなめきった佐々木の態度。俺はもう、許すつもりはなかった。
俺はある決意を固めた。佐々木の会社がどうなるか、自分がどうなるか、もう知らない。この仕打ちを、絶対に許すつもりはない。俺はパソコンを開き、佐々木の会社に関する情報を集め始めた。そして、佐々木の上司に送ったメールの記録、電話の着信記録、すべての証拠をまとめ始めた。
佐々木は自分の軽率な行動を深く後悔することになる。俺はそう確信して。



