三年間、村の者たちは私を「疫神」と呼び、叔父と叔母は毎日のように私を殴り、蹴った。あの雨の夜、女は私の口を無理やり開け、白い薬を流し込みながら言った。「お前の親が死んだ時、お前も一緒に死んでいればよかったものを!」その言葉が、あの日からずっと心に刺さっている。私は泣きわめき、許しを乞うた。だが、彼らの足音が闇に消えた瞬間、私は涙を拭った。そして、呟いた。「三年待った」それから、私は復讐のため…

三年間、村の者たちは私を「疫神」と呼び、叔父と叔母は毎日のように私を殴り、蹴った。あの雨の夜、女は私の口を無理やり開け、白い薬を流し込みながら言った。「お前の親が死んだ時、お前も一緒に死んでいればよかったものを!」その言葉が、あの日からずっと心に刺さっている。私は泣きわめき、許しを乞うた。だが、彼らの足音が闇に消えた瞬間、私は涙を拭った。そして、呟いた。「三年待った」それから、私は復讐のため...

その晩、雨は止む気配を見せなかった。女は置かれた白い子薬を手に、口元に冷たい笑みを浮かべながら、相米の口を無理やりこじ開けた。

「この薬を飲めば、お前の体は一層縮まり、指一本動かせなくなるだろう。その方が私にとっても好都合だ」

女に逆らえる者は、この屋敷には誰一人いなかった。家人も、親類も、そして村の者たちでさえ、女の言うままだった。

嵐がシナノの山々を揺らし続けるその夜、坂の奥深く、人気ひとつ感じられない会いに、一丁の籠が乱暴に下ろされた。籠かきの足音が遠ざかると、荒れ果てた住小屋の軒先から、滝のように雨水が流れ落ちた。稲光が走るたびに、崩れかけた土壁の輪郭が浮かび上がった。

戸が乱暴に開け放たれると、雨音さえ突き破るような女の金切り声が響いた。

「とっとと出てきなさい、このグズが!」

引きずり出されたのは、今年で十三になる千太郎だった。女は千太郎の襟首を容赦なく掴み、ぬかるみへ突き飛ばした。

「怖い、家に帰りたい……」

震えながらすがりつく千太郎を、男は履いていた下駄の底で踏みにじり、蹴りつけた。三年もの間、溜め込んでいた憎しみの全てをぶちまけるように。

「お前の親が死んだ時、お前も一緒に死んでいればよかったものを!」

女が千太郎の首を掴み、声を荒げた。

「この疫神が、三年もお前の始末をさせられて、どれほど胸が悪くなったか分かるか?」

女は千太郎を小屋の奥へ突き飛ばし、最後に一言だけ、ある言葉を投げつけて去っていった。

「お前の父も母も、あの崖の下でさぞ叫んだであろうな。あの二人のように、跡形もなく消えてしまえ」

籠かきの掛け声が遠ざかり、松明の灯りが雨の中で小さくなり、やがて闇の中へ消えていった。千太郎はその後もしばらく泣き続けた。肩を震わせ、しゃくり上げる声が、雨音の合間に哀れに響いた。

だが、それも籠の足音が完全に聞こえなくなるまでのことであった。辺りに人の気配が完全に消えたその刹那、千太郎の鳴き声が嘘のように止んだ。

千太郎はゆっくりと身を起こし、丸めていた背筋を伸ばした。うろだったはずの瞳に、鋭い光が宿った。

「三年待った」

千太郎はそれだけ呟いた。それ以上の言葉はいらなかった。

物語は三年前へと遡る。その頃の千太郎は、村中の誰からも弱虫と嘲られていた。父は山仕事中に崖から落ちて即死した。三日後、母は後を追うように、同じ崖から身を投げた。村人たちは口々に「親の因果が子に報い」と囁いたが、誰もが知っていた。両親の死は、偶然ではなかった、と。

千太郎は叔父夫婦のもとへ引き取られた。叔父は酒に溺れ、叔母は陰で千太郎を「疫神」と呼んだ。彼らは、千太郎が隠し持っていた僅かな金品を奪い、毎日のように折檻した。掃除もさせず、食事も満足に与えず、夜は納屋の隅で眠らせた。

「何度言ったら分かるんだ、この出来損ないが!」

叔父は、千太郎が何かを言おうとするたびに、手近な物で叩いた。叔母は、千太郎の服が汚れていると言っては、その服を破り捨てた。

千太郎の唯一の友は、村外れに住む爺だった。爺は千太郎に、山の生き方、薬草の見分け方、そして、人の心の読み方を教えた。

「お前の中には、思いやりと強さが共存している。それを隠すことはない」

爺は千太郎にそう言ったが、千太郎はただ俯くだけだった。

やがて、爺が病に倒れた。千太郎は毎日、爺の小屋に通い、介抱した。婆は爺のために薬草を煎じたが、効き目はなかった。

死の間際、爺は千太郎の手を握り、こう言った。

「お前は、この村で最も強い人間になる。そして、その時が来たら、必ず故郷に帰るのだ」

千太郎は頷いた。それから、爺は息を引き取った。

その後、千太郎は村を出ることを決意した。だが、叔父はそれを許さなかった。

「どこへ行く気だ、この恩知らずが!」

叔父は千太郎を足蹴にした。叔母も笑いながら、千太郎の顔に唾を吐きかけた。

その夜、千太郎は納屋を抜け出し、村を離れた。彼は山道を一人で歩き、三日目の夜、大きな町に辿り着いた。そこで彼は、薬問屋の手伝いを始めた。持ち前の真面目さと、爺から教わった薬草の知識で、彼はすぐに重宝された。

数年後、千太郎は故郷の村に戻る決心をした。旅の途中、彼は旅籠で、叔父夫婦が村で評判を落としていることを知った。叔父は借金に追われ、叔母は呪い師のまがい物として村人から恐れられていた。

千太郎の心は揺れた。復讐すべきか、それとも許すべきか。十分に迷った後、彼は決意を固めた。

「許す。だが、ただでは済まない」

村に戻った千太郎は、山の麓の岩場に隠れ、三日間、叔父夫婦の動向を見張った。ある晩、叔父が酔って家に帰る途中、千太郎は遂に行動を起こした。

「久しぶりだな、叔父さん」

千太郎が声をかけると、叔父は驚いて目を見開いた。

「な、なんだ、お前は……」

「俺だよ、千太郎だ」

千太郎は叔父の襟を掴み、地面に引き倒した。叔父は酔いが醒め、必死に逃げようとしたが、千太郎の腕から逃れられなかった。

「もう許してくれ! 済まなかった!」

叔父の叫び声は、山に響いた。だが、千太郎は無表情だった。

「謝るなら、お前の妻にも言い聞かせろ」

千太郎は、叔父の家に向かった。家の中では、叔母が震えていた。彼女の後ろには、育ち盛りと思しき少年が立っていた。

「その子は、誰だ?」

千太郎が問うと、叔母は泣きながら答えた。

「私と、あの人の子だ。お前を追い出した後、生まれた……」

千太郎は、少年の顔をじっと眺めた。彼の目は、叔父の目と瓜二つだった。

「お前の両親は、あったことを謝っている。だが、俺が受けた仕打ちは、忘れられない」

千太郎は、叔父夫婦を山の中腹にある小さな庵に連れて行った。そこで、彼らにこう言った。

「ここで、静かに暮らせ。俺は、村に来ることはない。だが、もし俺の前から消えずに、村で顔を見せることがあれば、その時は容赦しない」

叔父夫婦は、庵に残った。千太郎は、彼らに食事を届けることを約束したが、村には戻らなかった。

千太郎は、隣村に移り住み、薬草医として働き始めた。彼の評判は瞬く間に広がり、多くの人々が診察を求めて訪れた。ある日、彼の庵に、ひどく汚れた少女が連れてこられた。彼女は、身寄りがなく、どこかの村から追い出されたと言った。

千太郎は、彼女を預かった。彼女の名は、お雪といった。

「お前も、辛い目に遭ってきたのか」

千太郎が問うと、お雪は頷いた。

「私は、家族を皆殺しにされました。生き残ったのは、私だけです」

千太郎は、お雪を弟子として育てた。彼は彼女に薬草の知識を教え、山の生き方を教えた。二人の間には、次第に信頼が生まれた。

数年後、お雪は立派な薬草医になり、千太郎と共に診療所を開いた。彼らは、村人に慕われ、幸せに暮らした。

ある日、千太郎の元に、手紙が届いた。差出人は、叔父だった。

「お前の許しを請う。妻は先立った。我々は、お前に詫びる。お前のことを、心から謝りたい」

千太郎は、手紙を読み終え、長い間、静かにしていた。お雪は、黙って彼の隣に立っていた。

「……行くのか?」

お雪が問うと、千太郎は、ゆっくりと首を振った。

「いや。もう、過去は終わったことだ」

千太郎は、手紙を火に投げ入れた。紙は燃え上がり、灰になった。

「お前がくれた、この平穏が、俺の全てだ」

千太郎は、お雪の手を握った。二人の瞳には、共に過ごした日々の暖かさが宿っていた。

それからも、二人は山の麓で、静かに生き続けた。

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