68歳の私は、真面目に生きてきた。税金も納めてきたし、人に迷惑もかけなかった。それなのに、ある朝、一通の書留が届いて、私の生活は一瞬で崩れ去った。「生活保護の不正受給」というレッテルを貼られたんです。私は何も悪いことをしていないのに。区役所に行って抗議したけど、担当者は冷たい目で「規則ですから」と言うだけ。あの時、隣にいたお年寄りが私を見て目をそらしたのが忘れられません。助ける人は誰もいませ…

68歳の私は、真面目に生きてきた。税金も納めてきたし、人に迷惑もかけなかった。それなのに、ある朝、一通の書留が届いて、私の生活は一瞬で崩れ去った。「生活保護の不正受給」というレッテルを貼られたんです。私は何も悪いことをしていないのに。区役所に行って抗議したけど、担当者は冷たい目で「規則ですから」と言うだけ。あの時、隣にいたお年寄りが私を見て目をそらしたのが忘れられません。助ける人は誰もいませ...

朝の静けさが嘘のように、その日は突然崩れた。私、登美子は神奈川県の海沿いの町、S区の旧市街に住む68歳。家は40年以上前に建てられた木造で、雨の度に湿った匂いが漂う。髪は後ろで一つに結び、ベージュのウールのジャケットは何年前に買ったのか分からないほど年季が入っていた。人と目を合わせるのが苦手で、いつも足元を見て歩く。世間からすれば、ただの目立たない老女だった。

その朝、一通の書留が届いた。送り主は「区役所・生活保護課」。私は今まで一度もそんなものにお世話になったことがない。手を震わせながら封を開けると、中には一枚の紙。そこには「あなたの生活保護受給資格を、不正受給として取り消す」と書かれていた。私の心臓は一瞬止まった。私は確かに生活保護を受けていたが、それは昨年、夫を失い、貯金も底を突き、医者から薬を処方されても買えない日々が続いた末に申請したものだ。真面目に税を納め、働いてきた人生だった。それがどうして「不正」なのか。

愕然とする私に、追い打ちをかけるように電話が鳴った。区役所の担当者だった。「登美子さん、あなたの銀行口座に、ここ数年で数百万円の入金があるのが確認されました。これを申告しなかった時点で、あなたの受給資格は失効します」と冷たい声で言われた。私は蒼白になった。思い当たる節はあった。数年前、海外に住む兄が亡くなり、その遺産の一部を私の口座に振り込んでくれたのだ。確かに手続きを怠っていた。税務署にも申告していなかった。だが、それは生活を豊かにするためではなく、将来のために少し蓄えただけだった。医療費や火葬代に備えるためだった。

私は窓口に抗議に行った。古びた区役所の二階の受付で、若い男性職員に向かって声を荒げた。「私は何十年もちゃんと税金を払ってきた。この仕組みに救われるべきではないから申請したんだ。それを不正と言うのか!」相手は形式的な返答を繰り返すだけだった。「規則ですので。通知に従ってください。」私は自分を抑えられなかった。「税金の神様みたいな顔をして、話せるんですか? 私の何が悪いんですか!」その時、隣の椅子に座っていた70代の男性が、視線をそらすのが分かった。多くの人が私を見ていた。でも助ける者はいなかった。

区役所からの通知には、不服申し立ての期限が7日とあった。私は弁護士に相談するお金もなかった。近くの無料相談所を頼ったが、担当の若い女性は「残念ですが、手続き上の不備があると、取り消しを覆すのは難しいです」と首を振った。私は家に帰り、夫の遺影の前で泣いた。夫は生前、「お前は真面目すぎる」とよく言っていた。その真面目さが、今は罪になった。

数日後、私は老後の蓄えを使い果たし、スーパーで値引きシールの貼られたパンを買うことになった。そんな自分が情けなかった。すると、ふと我に返って、私は思い切った行動に出る決意を固めた。不正受給で塗り固められたレッテルを、自分で剥がしてみせる。私はあの区役所の職員たちに、自分の人生を取り戻すための一歩を踏み出そうとしていた。だが、その前に、私はあることを知る必要があった。自分の銀行口座に何年も前から、誰かが不正な操作をしていたという噂を耳にしたからだ。それは兄の遺産とは別の話だった。私は、その真相を確かめるために、翌朝、何十年ぶりに髪を整え、きちんとした服を着て、区役所へと足を向けた。

受付には、先日の若い男性職員が立っていた。私を見て、彼は少し顔をこわばらせた。私は深呼吸をして、声をかけた。「あの、以前、電話で話した登美子です。もう一度、話を聞いていただけないでしょうか。」彼は困った顔をしたが、奥の部屋に通してくれた。そこで私は、自分の口座に不正な動きがあった可能性があること、それを自分の不正と決めつけられたのは納得がいかないこと、そして、私は何も隠していないことを、ありのままに話した。彼は書類をめくり、しばらく黙っていたが、「確認します。もう少し詳しい調査が必要です」と言った。私は期待を抱いた。しかし、その後、私はさらなる衝撃を受けることになる。区役所の調査員が、私の家を訪ねてきたとき、告げられたのは「あなたの口座から、あなたの知らない間に、多額の送金が行われていた形跡があります」ということだった。それは、何を意味するのか。私の頭は混乱した。やはり、これは誰かが私を陥れようとしているのか。

私はその夜、眠れなかった。朝の納豆ご飯さえ喉を通らなかった。そして、私は決意した。調べるのはもうやめだ。警察に届けよう。何が何でも、真実を明らかにしよう。私は朝一番に最寄りの警察署へ向かった。刑事に一から事情を話すと、彼は真剣な顔で「それは重大な事件になる可能性があります」と言った。私は翌日、区役所に通知書の再調査を求める文書を提出した。すると、数週間後、驚くべき知らせが届いた。「不正受給の取り消しは誤りである」と。そして、私の口座に行われた不正操作の犯人は、なんと数年前に私を手伝ってくれた近所の知人だったことが判明した。彼は生活保護費を横領した罪で逮捕された。私は涙を流した。私の努力が正当だと証明されたのだ。

その後、私は区役所から正式に謝罪を受けた。そして、私はもう他人の目を恐れるのをやめた。落ち着いた服装で、堂々と歩くようになった。髪もきちんと整え、目線を上げて人と話すようになった。あの静かな海沿いの町で、私は新たな一歩を踏み出した。夫の仏前で「ごめんね、長い間落ち込んでいて」と手を合わせた。人生は時に、予期せぬ理不尽に襲われる。しかし、私はそれを諦めずに抗えたことを誇りに思っている。今日も海辺の散歩道を、私は真っ直ぐ前を向いて歩く。

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