新居に引っ越した日、家の中がなぜかピカピカに掃除されていた。誰かが住んでいた形跡しかないのに、俺が買ったばかりの家だ。不思議に思って廊下を進むと、突然小さな双子が飛び出してきて、「泥棒!…

新居に引っ越した日、家の中がなぜかピカピカに掃除されていた。誰かが住んでいた形跡しかないのに、俺が買ったばかりの家だ。不思議に思って廊下を進むと、突然小さな双子が飛び出してきて、「泥棒!...

都会で生まれ育った俺は、子供の頃からずっと田舎で暮らしたいという夢を抱いていた。青い空と緑に囲まれて、静かに暮らす。それが俺の理想だった。その夢を叶えるために、俺は必死に働いて金を貯めた。3年前にはフリーランスに転向し、収入も安定してきた。そしてついに、田舎にある中古の家を購入した。引っ越しの準備を進め、いよいよその日を迎えた。

新居の前に車を停め、ドアを開けて中に入った瞬間、俺は深呼吸をした。空気が違う。ここでこれからの人生を送るのだと思うと、自然と笑みがこぼれた。

だが、家の中を見渡したとき、なぜか違和感を覚えた。掃除は引っ越しが終わってからする予定だったのに、床はピカピカに磨かれ、窓も拭き掃除がされている。誰かがここを掃除したかのように、家の中は綺麗だった。

「おかしいな……」

俺は首をかしげながら、廊下の奥へ進んでみた。すると、次の瞬間――

「え、誰? ラバ!」

大きな声が家じゅうに響き渡った。声のする方を見ると、そこには小さな女の子が2人、俺のことを指さして立っていた。

「どうしてここに入ってきたの? 泥棒さん、この家には何もありませんよ」

双子だろうか。そっくりな顔をした少女たちは、俺を泥棒と勘違いしているらしい。

「ちょっと待て。ここは俺の家なんだけど。君たちは誰だ?」

俺は音を立てずに子供たちに詰め寄った。すると、今度は奥から大人の声が聞こえてきた。

「ちょっとやめなさい。ひょっとして、ここの家主の方ですか?」

そう言って現れたのは、男性と女性、それともう一人の大人。合わせて3人が、俺に向かって頭を下げた。

「あの、あなたたちはどうしてここにいるんです?」

俺はそう尋ねたが、3人ともなかなか顔を上げようとしない。よく見ると、彼らの服はボロボロで、みんな痩せている。何かわけがあるに違いない。俺はとりあえず、彼らの話を聞くことにした。

「すみません。実は私たち、この家に住んでいたんです。ここを追い出されたわけではなく、家主が変わると聞いて……でも、どうしてもここを離れたくなくて」

「離れたくない? どういうことだ?」

「この家は、私たちにとって特別な場所なんです」

男の人が声を震わせながら言った。彼らは、この家に思い出があり、ここを離れるのが辛いのだと話した。子供たちは、この家で生まれ育ったらしい。

「家主が変わるなら、私たちは出て行くしかないと思っていました。でも、あなたが新しい家主だと聞いて、もしかしたら……と思ったんです」

「もしかしたら、って何だ?」

「私たちを、ここに住まわせてもらえないでしょうか?」

男性が必死に訴える。女性も子供たちも、俺の顔を見つめながら、必死に頼み込んでくる。

「条件は何でも飲みます。家賃だって払えます。ただ、この家を離れたくないんです」

俺は、頭を下げ続ける家族を見ながら、複雑な気持ちになった。確かに、彼らの事情は理解できる。だが、ここは俺が夢を叶えるために手に入れた家だ。簡単に譲るわけにはいかない。

「悪いけど、ここは俺の家なんだ。君たちの事情は分かったけど、俺もこの家に住むために引っ越してきたんだ」

「お願いします!」

男の人が、今にも泣き出しそうな声で言った。子供たちも、目に涙を浮かべている。

「俺たち、他に行く場所がないんです。この家を失ったら、本当に終わりなんです」

その言葉に、俺は返す言葉を失った。

「それに、あなたは都会から来たんですよね? 田舎の生活は、そう簡単なものじゃないですよ。私たちがいても邪魔にはしません。むしろ、いろんなことを教えられます」

俺はしばらく沈黙した。彼らの真剣な眼差しと、子供たちの必死な様子を見ていると、心が揺れた。この家を買ったのは、理想の田舎暮らしを実現するためだ。だが、この家族の事情を聞いてしまうと、捨て置けない気持ちにもなる。

「……わかりました。一度、考えさせてください」

俺はそう言って、その場を離れた。家に一人になったとき、俺は窓から見える田園風景を眺めながら、この先どうするべきか悩んでいた。

数日後、俺は再びあの家族のもとを訪れた。すると、彼らは俺の顔を見るなり、緊張した面持ちで立ち上がった。

「あの、どうなりましたか?」

「ああ。俺が決めたことなんだが……」

俺は深呼吸をして、言葉を続けた。

「この家は、俺が買った。だから、ここに住む権利は俺にある。だが、君たちの事情も分かった。だから、こういうのはどうだ?」

「こういうの?」

「俺がここに住みながら、君たちにもこの家の一部を使ってほしい。住み慣れた場所を完全に離れるのは辛いだろうし、君たちの思い出を壊すつもりもない」

男の人の目が輝いた。

「本当ですか!」

「ああ。ただし、ルールは守ってくれ。俺のプライバシーを尊重してくれれば、それでいい」

「もちろんです! ありがとうございます!」

家族全員が、深く頭を下げた。子供たちも、嬉しそうに笑顔を見せた。

それから俺は、その家族と一緒に田舎暮らしを始めることになった。最初は不便なこともあったが、彼らがいろんなことを教えてくれた。畑の耕し方、地元の人との付き合い方、季節ごとの行事。俺が憧れていた田舎の暮らしは、想像以上に豊かで、温かいものだった。

そして数年後、俺は気づけばこの土地のことなら誰にも負けないくらい詳しくなっていた。都会で夢見ていた静かな生活は、騒がしいけれども、確かにここにあった。俺は自分の選択が正しかったと、心から思えたのだ。

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