「お前だろ。うちの金を取ったのは。」
店長の怒鳴り声が響いた。立川さんがレジの前で、顔を真っ赤にして睨まれていた。立川さんは、以前俺が落とした財布を警察に届けてくれた人だ。そんな人がお店のお金を盗むはずがない。
「い、いくらうちが貧乏でも、お店のお金を盗むようなことは絶対にしません。信じてください。」
立川さんの声は震えていた。でも店長は聞く耳を持たない。
「ああ、なんだこの貧乏人が。」
店長が立川さんの前に立ちはだかり、今にも殴りかかりそうな勢いだ。周りには従業員や客が数人、心配そうに見ている。
俺は思わず口を開いていた。
「ちょっと、あまりに失礼じゃないですか。あの彼女がやったという証拠はあるんですか?お祝い?」
店長が振り返り、俺を睨んだ。その目は、明らかに敵意を向けていた。
「お前も同類か。この時計屋の息子め。」
そう、俺は佐野。この地域で代々続く時計店の息子だ。昔は繁盛していたらしいが、今は大手チェーン店に押されて、店は傾きかけている。俺自身、時計に情熱を失っていた。
ある日、営業で車を走らせていた。やる気のない俺は、昔馴染みの得意先で雑談をして、昼飯を食った後、車の中で眠り込んでしまった。目を覚ました俺は、飲み物を買おうとズボンのポケットに手を入れた。
財布がない。鞄の中も探したが、見つからない。どこに落としたんだ?
俺は、さっき立ち寄った交番の近くに落としたかもしれないと思い、急いで車を発進させた。交番が見え、車を停めて中に入る。
「すいません。」
だが、交番には若い警官が一人いただけだった。俺は事情を話したが、警官はそっけない態度だ。
「財布ですか。届けられてなければ、見つかってないですね。後で電話してください。」
いや、もしあの店に落としてたら……。俺は思い当たった。さっきの得意先だ。
店に戻ると、店の前で騒ぎが起きていた。店主が、レジの前で少女を怒鳴りつけている。その少女が、立川さんだった。
俺は思わず、飛び込んで言った。
「ちょっと待ってください。証拠もないのに決めつけるのはおかしいですよ。」
店主は俺を見て、鼻で笑った。
「あんたには関係ないだろ。この貧乏人の盗人野郎、さっさと消えな。」
立川さんは、涙をこらえている。俺は彼女の目を見て、確信した。彼女はやっていない。
俺は店主に詰め寄った。
「もし間違いだったら、どうするんですか?彼女の名誉はどうなるんですか?」
店主は一歩下がったが、まだ頑なだ。
「だったら、あんたが弁償するのか?レジの中の金が消えてるんだ。犯人を探してるんだ。」
俺は深呼吸した。そして、静かに言った。
「それなら、俺がここで働いて、その分を返します。ただし、彼女に謝ってください。もし彼女が無実だったら、あなたが謝るんです。」
店主は呆気に取られた。だが、周りからは「可哀想に」「そんなことあるわけない」という声が聞こえてきた。
その時、立川さんがふと何かに気づいた。
「あ、ちょっと待って。レジの下に、なにか落ちてる……。」
彼女がしゃがんで拾い上げたのは、あきらかに彼女のものではない、店の会計書類の束だった。しかも、その束の間に、レジから消えたはずの札が挟まっているではないか。
店主の顔色が変わる。
「なんだ、これは……。」
俺と立川さんは顔を見合わせた。どうやら、これは誰かの罠だったようだ。そして、それは俺にとっても、大きな事件の始まりだった。



