夫のケトは大学時代から有名なイケメンで、いつも違う女の子を連れているプレイボーイだった。そんな彼に声をかけられたのは、私が父の会社の社長令嬢でありながら、誰も信じないほど地味だったからだ。
「清楚で上品な君が素敵だと思ってたんだ」
真顔で言われて、私はその場で付き合いを承諾してしまった。卒業と同時に結婚し、長女も生まれて、私は最高に幸せだった。
しかし、長女が3歳の頃、父の会社が倒産した。するとケトの様子がおかしくなった。帰りが遅くなり、出張が増え、香水の匂いがする。私や娘に興味を失ったように、まともに口も聞いてくれない。
さらに姑は「結婚式が派手だったから騙されたわ。お金目当てだったのに、もう価値がない」と罵るようになった。
それでも私は離婚を避けたかった。社会経験もなく、パソコンすら指一本で打つ程度の私に、働きながら子育てをする自信がなかった。何より、まだケトを愛していた。
ある日、突然テレビ局の人が訪ねてきた。「盗聴機が発見されたんです」と言う。高性能の探知機に反応が出たという。半信半疑で家に入れると、リビングのぬいぐるみから本当に盗聴機が出てきた。
そのぬいぐるみをくれたのは義母だった。父の会社が潰れた後だ。
「どうしよう。夫に言うべき?」
悩んでいると、ケトが帰宅した。事情を説明すると、彼は「母さんが俺たちを別れさせようとしてるんだ」と推理した。
「さつきが浮気してないか、証拠を掴もうとしたんだろう」
「私が浮気なんてするわけないでしょ。ケトならいざ知らず」
思わず叫ぶと、ケトは驚いた顔をした。「俺が浮気?そんなことするわけないだろ」
「じゃあ、香水の匂いや増えた残業は何?」
「残業で会社でシャワーを浴びただけだよ。濡れた髪で電車に乗ったから、香水の匂いがつきやすかったんだ」
本当に信じていいのか。テレビ局の人がまだいるのに、私たちは言い争ってしまった。
ケトは「このまま盗聴機を外すのは簡単だけど、一芝居打たないか」と提案した。私と大喧嘩して、私が浮気を自白する。義母がそれを聞いて警察に通報してくるだろうから、そのまま義母を警察に突き出すという。
「直接言ってほしい」と頼んでも、ケトは「母さんを野放しにしたら、また何かしてくる。警察のお世話になるのが一番だ」と言って、勝手に芝居を始めた。
「さき、お前浮気しただろう。トイレの便座が上がってたぞ」
「え、えっと、それはケトが…」
「ごまかすんじゃない。白状しろ。この浮気女が」
小学生の学芸会みたいな芝居を、ケトは一人で続けた。私が呆れて黙っていると、彼は「俺の愛が重いのか」と言い、皿を割ったりテーブルをひっくり返したりした。
「さき、やめろ。俺を殺す気か。助けてくれ。愛してるんだ。頼む、俺を捨てないでくれ」
30分近くそんなことをしていると、玄関のドアが激しく叩かれた。警察と義母だと思って開けると、そこには義母だけが立っていた。
「さきさん、今の全部聞いたわよ。あなた浮気してたのね」
ニヤニヤしながら叫ぶ義母。警察がいない。ケトを見ると、彼は私に向かって笑った。
「そうなんだ母さん。やっとこいつに白状させたよ」
その時、ようやく気づいた。義母とケトはグルになって、私を浮気という理由で離婚させようとしていたのだ。盗聴機が発見されたから、急遽ケトが芝居をして、義母がそれを録音し、私の浮気をでっち上げるつもりだった。
「今、銀崎の社長さんの娘とお付き合いしてるのよ。だから、1日も早く離婚してほしいの」
義母が言った。
「こんな臭い芝居の録音が証拠になるわけないでしょ!」
怒鳴っても、義母は「音声を加工できる人を知ってるから大丈夫よ」と笑う。
パニックになっていると、ケトが離婚届を投げつけた。「これ書いて、すぐ出ていけよ」
二人は出て行った。悔しくて、怒りでケトへの愛情が完全に消えた。復讐を考えていると、テーブルの上の名刺が目に入った。さっきまでいたテレビ局のクルーの名刺だ。
私はその携帯番号に電話をかけていた。
「こりゃ面白いことになるかもしれませんよ。協力しますから、仕返ししてみませんか?」
彼はワクワクした表情で提案してきた。顔と声を分からなくしてくれれば、今回のことを好きに使っていいという約束で、私は彼の助けを借りることにした。
まずは義母。探偵を使って彼女の行動を数週間追ってもらった。すると、音響関係の仕事をしているらしい男性と、真っ昼間から頻繁に密会しているのが分かった。義父が仕事人間で家庭を顧みないとは聞いていたが、よくもそこまで堂々と。
次にケト。私とまだ離婚が成立していないのに、例の社長令嬢はもちろん、何人もの女性と夜のお付き合いをしているのが発覚した。探偵に写真を何枚も撮ってもらった。
テレビ局のクルーも探偵に同行し、高性能なカメラと録音機で証拠をたっぷり掴んでくれた。
私はそれらを持って、ケトと義母を喫茶店に呼び出した。
「離婚届を書いて持ってきたんだろうな」という二人に、私は黙って証拠の画像や映像を見せ、録音を聞かせた。
「お母さん、お父さんにしっかり報告しましたからね。ケト、この写真の女性全員に、画像と慰謝料の請求書を郵送しておいたから」
二人は真っ青になった。
「もちろん、私も慰謝料をもらうわよ。それと、子供の養育費もね」
私がそこまで言うと、ケトは叫びながら私に飛びかかってきて、拳を振り上げた。痛かったけど、私は抵抗せず、何度か殴られるままにしていた。後ろの席にこっそり控えていたテレビ局のクルーに、ばっちり撮影してもらわないとね。
その後、警察が到着し、ケトは連行されていった。もちろんそれも撮影。
二人は初犯ということで実刑は食らわずに帰ってきたが、その頃には彼らの人生は終わっていた。義母は義父から離婚を要求され、ケトは社長令嬢と破局。今では二人して古く狭いアパートで細々と暮らしながら、朝から晩まで働き、慰謝料や養育費の借金を返しているようだ。
私は娘を連れて実家に帰った。父の会社はなくなったけれど、負債はほとんどなかったし、人望のある父には友人知人が仕事を紹介してくれていた。私もすぐに仕事探しを始め、今はバリバリ働いている。
テレビの件は、半年後、全国ネットで放映された。役者さんが再現ドラマをし、探偵やテレビクルーが撮った画像や録音も、顔にぼかしを入れ、声はボイスチェンジャーで加工した上で流してくれた。
放映当日、ケトに放送時間をメールし、爆笑しながら見ていたら、ケトと義母の両方からすぐに鬼電がかかってきたが、無視した。顔はぼかされているものの、髪型や服はばっちりだったから、二人とも簡単に特定され、ご近所さんから白い目で見られているだろう。
視聴率がかなり良かったって、テレビ局から連絡があったしね。



