同窓会の会場で、中学時代に俺を「お化け屋敷の貧乏人」と呼んで笑っていた宮野が、相変わらずの嫌な笑みを浮かべて言った。「100円で許してやるから、うちの銀行に預けてくれよ。」
俺は笑みを浮かべて答えた。「本当に100円でいいのか?」
「ああ、日雇いの貧乏人でも100円くらいは預けられるだろう。」
宮野は俺を日雇いのその日暮らしと見下していた。小中学生の頃からずっとそうだった。俺は貧乏で、古い民家に住んでいた。おばあちゃんがリメイクした服を着て、ゲーム機も持っていなかった。学校ではいつも笑いものにされていた。
「本当にお前は何も変わっていないんだな。けど、俺は変わったんだよ。」
宮野は笑った。「貧乏人がかっこつけるな。」
「まあ、笑いたければ好きなだけ笑うといい。今日が最後になるからな。」
俺の名前は花沢強し。40歳の節目に開かれた同窓会に、久しぶりに友人に会いたくて参加した。だが、宮野が現れてから、楽しい時間は終わった。
宮野は大手銀行の課長だと自慢し、海外旅行の写真を見せびらかした。周りの同級生は感嘆の声を上げたが、俺は黙って聞いていた。
「お前みたいな貧乏人は、生まれた時から一生貧乏な人生を歩むしかないんだよ。」
その言葉に、俺は腹が立った。家族のことを悪く言われた気がしたからだ。
「恨むなら、お前を置いて亡くなった両親と貧乏な祖父母を恨むんだな。」
俺は睨みつけた。「俺は自分の家族の元に生まれたことを恨んだことはないし、これからも恨むことはないよ。」
「ふん、貧乏人がかっこつけちゃって。」
「かっこつけるとか、そんなんじゃない。俺は本心を言ってるだけだ。」
同級生が気を遣って宮野の話を変えようとしたが、宮野はまた俺に話を向けた。「お前も相談に乗ってやってもいいぞ。なんせ俺は大手銀行の課長だからな。」
「ありがとう。けど、今は特に困ってない。宮野に話すことがあれば相談させてもらうよ。」
宮野は大笑いした。「何冗談を真に受けてるんだよ。お前がうちみたいな大手に相談することなんて、一生来ないだろう。そもそも銀行口座持ってるのか?100円で許してやるから、うちの銀行に預けてくれよ。」
俺は宮野の顔をじっと見つめた。「本当に100円でいいのか?」
「ああ、日雇いの貧乏人でも100円くらいは預けられるだろう。」
「分かった。それなら100円だけ残して、口座は解約させてもらうよ。」
「なんだ、口座持ってたのか。大した金額も入ってないだろうに、強がるなよ。」
俺は最後に一つだけ伝えた。「課長に言われたから仕方ないよな。いくら入っていたかは、まあすぐに分かると思うよ。」
宮野はポカンとしていたが、すぐにまた笑い出した。俺はその場を立ち去った。
翌日、俺は宮野が勤める大手銀行に出向いた。受付で担当者と話したいと伝えると、奥の応接室に案内された。
「花沢様、お世話になっております。今日はどうされましたか?」
「今日は預金口座を解約したいと思いまして、他の銀行に移します。」
担当者は驚いた顔をした。「と言いますと、花沢様の預金全てということですか?」
「ああ、プライベート用の口座に100円だけ残して、残りの口座も全て解約します。」
担当者は言葉を失っていた。俺は昨日の同窓会での出来事を全て話した。宮野の名前も隠さずに伝え、「課長に言われてしまったので仕方ない」と伝えた。
担当者は慌てて支店長を呼び、二人は何度も謝罪してきた。「不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございません。どうかもう一度考え直していただけませんでしょうか?」
こんなに焦るのも無理はない。俺はこの大手銀行に100億もの金額を預金しているのだ。
実は、俺は今不動産投資家として成功している。中学を卒業した後、ガソリンスタンドやコンビニでバイトを掛け持ちして働いた。中卒を雇ってくれるところが見つからず、そうするしかなかった。朝も夜も必死に働き、お金を貯めて通信制の高校に入学し、高卒資格を取得した。おかげで地元の不動産屋に就職できた。そこで不動産の知識を深め、投資に興味を持った。勉強が楽しくて、少しずつ資産を増やしていった。今では建築会社と共同で不動産開発プロジェクトを計画したり、富裕層向けのアドバイザーをしたりしている。
ちなみに、宮野に「お化け屋敷」と馬鹿にされていた家も、今では古民家カフェとして人気で、安定した収入源になっている。おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなった後、相続したが住むことができなかった。それでもどうにかこの家を残したいと思い、リフォームして人に貸して古民家カフェをやってもらうことにしたのだ。
支店長と担当者は「宮野に対してきちんと対応させていただきますので、それまでお時間をいただけないでしょうか?」と懇願した。俺は1週間の猶予を設けることを了承し、解約を留まることにした。
家に帰り、俺はこの銀行で働く仲のいい友人に連絡した。宮野についての評判を教えてくれた。どうやら宮野は以前から部下への高圧的な態度や顧客からのクレームなど、多くの悪い評価が上がっているという。有資を理由に顧客と解職し、融資を通すためと言って個人的にお金をもらっているという噂もあるらしい。上層部も宮野を問題視しており、近々左遷になるのではないかと言われているそうだ。
1週間後、俺は約束の時間に応接室へ足を運んだ。そこには担当者と支店長の他に本社の役員もいて、三人は俺に謝罪してきた。「花沢様に不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。あれから本社の方で事実確認をさせていただきました。宮野は自分の発言を認めましたが、花沢様への謝罪を拒否したことで、こちらも相応の処分をさせていただきました。」
「処分ですか?それはどういった?」
「解雇処分をさせていただきました。」
正直、そこまでの処分になるとは思っていなかった。役員は続けた。「彼はどうにも花沢様へ謝罪するということがプライド的に許さなかったので、全く反省の様子もなく、我々は課長としての責任を果たすどころか、お客様にそんな思いをさせる宮野を働かせておくわけにはいけないと考えました。上層部で話し合いの結果決まった処分になります。」
俺は友人に教えてもらった話を思い出した。宮野の態度に困っている人が山ほどいたから、みんな感謝していると思うと言われたほどだ。
俺は銀行の対応に誠意を感じ、口座を解約しないことを決めた。「これからも末永くよろしくお願いします。」
三人に見送られて銀行を出ると、外で宮野が待ち構えていた。「おい、てめえ。」
宮野はガタガタと震えながら激怒していた。「お前どうしてくれるんだ?お前のせいで首になったじゃないか。」
「俺はお前を解雇してくれなんて頼んでない。お前に言われた通り、口座を100円だけにするために解約を申し込んだだけだ。」
「調子乗りやがって、ふざけんなよ。人の人生めちゃくちゃにしやがって。」
「全部自分の責任だろう。お前に散々ひどいことを言われても、何をされても、俺はお前のせいにしたことは一度もないぞ。」
宮野は「うるせえな。お前みたいな貧乏人からのし上がりは、やることが汚ねえんだよ」と吠えた。
「そうやって人のことを馬鹿にして生きるのはやめにしろよ。無駄なプライドを捨てて、人としての誠意を身につけた方がいいと思うぞ。」
俺は最後に同級生として宮野を諭そうとしたが、宮野は聞く耳を持たず、怒り狂って俺に襲いかかってきた。その瞬間、駆けつけた警官と警備員に宮野は取り押さえられた。俺は怪我をしなくて済んだ。宮野は警察沙汰を起こし、親から勘当され、妻からも離婚されてしまったそうだ。その後は行方知らずになってしまった。
俺は宮野に対して復讐したいと思っていたわけではないが、こうなったことに同情することもなかった。ただ、自分を振り返り、諦めずに人のせいにすることもなく、コツコツと頑張り続けてきて良かったと改めて感じる。
俺はもうすぐ家族で海外旅行に行く予定を立てている。今は妻と子供と三人で暮らしており、幸せいっぱいだ。父さんや母さん、そしておじいちゃんとおばあちゃんがもう近くにいないことは悲しく思うが、俺はこの家に生まれてこられて良かったと思っている。昔と比べると生活も変わりいい暮らしをしているが、それにあぐをかかず、宮野のようにならないよう、これからも身の周りのことに感謝して生きていこうと思う。



