うちの夫は、親の前では優しい息子のフリをして、家では私を「無能」「価値ゼロ」呼ばわりしてきた。ある日、彼は若い愛人を連れてきて、こう言い放った。「お前は子供も産めないし、仕事もしてない。役立たずは捨てる。今日で離婚だ」。私は動揺しなかった。だって、彼が不妊だという検査結果も、彼が隠している浮気の証拠も、全部知っていたから。でも、彼はまだ気づいていない。私が愛人との電話を繋いでいることにも、そ…

うちの夫は、親の前では優しい息子のフリをして、家では私を「無能」「価値ゼロ」呼ばわりしてきた。ある日、彼は若い愛人を連れてきて、こう言い放った。「お前は子供も産めないし、仕事もしてない。役立たずは捨てる。今日で離婚だ」。私は動揺しなかった。だって、彼が不妊だという検査結果も、彼が隠している浮気の証拠も、全部知っていたから。でも、彼はまだ気づいていない。私が愛人との電話を繋いでいることにも、そ...

「おい、またその本か。お前、仕事もせずにこんなの読んでるから、頭がおかしくなるんだよ。価値ゼロのくせに」

夫・修平は、私がソファで読んでいた小説を指差し、鼻で笑った。その隣には、若い女・ミナが腕を組んで立っている。義母までが、その女の肩に手を置き、まるで後継者を紹介するかのような顔をしていた。

「京子さん、あなたにはもう、この家での居場所はないのよ。子供も産めない、仕事もしていない。ただの役立たずじゃない」

私は深く息を吸った。胸の奥で何かが冷たく固まっていくのを感じる。でも、動揺してはいけない。この日のために、私はずっと準備してきたのだから。

「皆さん、旦那さんはお元気かしら?」

私が静かにそう問いかけると、ミナの顔が一瞬強張った。しかし、すぐに笑みを取り繕う。

「何言ってるの?私に旦那なんているわけないでしょ。修平さんがいるわ。それに、私、修平さんの赤ちゃんを妊娠してるの」

彼女は誇らしげに自分の腹を撫でた。修平も、まるで自分がこの場の主導権を握っているかのように、得意げな笑みを浮かべる。

「京子、お前は現実が見えていないんだよ。小説なんかに夢中になって、妄想と現実がごっちゃになってるんだ。そんなお前には、もうついていけない」

「そうよ、京子さん。修平さんには私のような若くて美しい女性がふさわしいの。あなたはもう、ここから出て行って。私たちはすぐにでも結婚できるわ」

義母とミナの言葉が重なる。かつて私が大切にしてきた家庭は、いつの間にか他人のものになっていた。でも、私はすべてを知っている。修平が何も知らないように、彼らが私をただの邪魔者だと思っているように、私はずっと彼らの嘘を見抜いていた。

「皆さん、まだ理解していないようね。あなたは既婚者なのに浮気している。それを知った旦那さんが、今、怒っているの。その事実を、もう一度しっかり受け止めた方がいいわ」

私がそう告げると、ミナは再び表情を硬くした。しかし、それも一瞬のこと。彼女はすぐに余裕の笑みを取り戻した。

「そんな嘘、信じるわけないでしょ。さっさと出ていきなさいよ」

修平も続けて私を嘲笑う。

「不妊の被害妄想も、ここまでくると手に負えないな」

「被害妄想ね。そんなことを言っていられるのも、今のうちよ」

私はバッグの中から、一枚の書類を取り出した。それを三人の前に差し出す。

「これは、不妊検査の結果よ」

その瞬間、三人の表情が一変した。修平は書類を受け取り、目を見開く。

「そんなことありえない。俺が不妊だなんて」

「半年前に検査したのよ。あなたは協力的じゃなかったから、あなたの検体をなんとかして手に入れたわ。その結果、不妊なのは修平、あなたの方よ」

部屋の空気が凍りついた。義母も、ミナも、言葉を失っている。ミナのお腹の子供が、修平の子供であるはずがない。その事実が、ようやく彼らにも理解でき始めたのだろう。

「みなさん、その子供、本当に修平の子供なのかしら?」

私の言葉に、ミナは唇を震わせた。

「違う!修平さんが父親に決まってる。そんな検査結果、偽造されてるに決まってるわ!」

「偽造ですって。この検査結果は、あなたたちもよく知っている地元の病院で行われた正式なものよ。疑うなら、今すぐ電話して確認してもらっても構わないわ」

ミナは真っ青になり、口を閉じた。

「皆さん、あなたの旦那さんが激怒していたと伝えたわよね。その意味、わかりませんか?」

私は静かにスマホを取り出し、画面をちらりと見せた。そこには、通話中の表示がある。私たちが話し始めた時から、私はミナの旦那・正尾に電話を繋いでいたのだ。これまでのやり取りは、すべて彼に聞かれていた。

次の瞬間、玄関のドアが開く音がした。正尾が、静かで確実な足取りで部屋に入ってくる。

「お前、というやつは」

彼の低い声が響く。ミナは後ずさりし、慌てて弁解を始めた。

「ち、違うの、正尾さん。これは過ちよ。修平さんとはただの遊びだったの。寂しかったのよ。あなたがいつも仕事でいないから」

正尾は、彼女の涙にも動じずに言い放った。

「君は前にも同じことを言ったよね。その時も寂しかったと言って浮気をした。そして私はその時、君を許した。二度としないという約束でね。でも、二度目はない。これで終わりだ」

ミナはその場に崩れ落ち、泣き崩れた。修平は、呆然とその光景を見つめている。自分が引き起こした事態の大きさに、完全に飲み込まれていた。

「修平、あなたはずっとこのことを知らなかったの?皆さんが既婚者で、浮気を繰り返していたことを」

修平は震える声で呟く。

「そんなはずはない。彼女が俺を裏切るなんて」

正尾が一歩前に進み、冷静に修平を見つめた。

「修平さん、皆さんはこれまで何度も同じことを繰り返してきました。あなたも、私と同じように彼女に騙されていたんですよ」

その直後、修平の表情が一変した。これまでの傲慢さは影を潜め、彼は震える声で私に言った。

「すまなかった。俺が間違ってたんだ。皆とは別れるよ。お前とやり直したいんだ」

しかし、私は冷静に彼を見つめ返す。

「修平、やり直すなんて無理に決まってるでしょ。むしろ、あなたに対して慰謝料を請求させてもらうつもりよ」

私の言葉に、怒りが修平の表情を歪めた。

「お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ。価値もまともにできず、子供も産めない。お前が何もできないせいで俺がどれだけ苦労してきたか。それなのに、お前は生意気にも慰謝料を請求するだと?お前なんかにそんな権利はない!」

彼は感情を抑えられずに叫び続けた。自分の失敗を、すべて私のせいにするために。

「誰もあなたを落とし入れようとしたわけじゃないわ。あなたが私を裏切り、皆さんと浮気をして家族を壊した。全てはあなた自身の行動の結果よ」

「うるさい!お前は何も分かってない!」

その瞬間、彼は拳を振り上げた。しかし、義母が慌てて彼の腕を掴み、引き止める。

「修平、やめなさい!京子さんも、少しは我慢しなさいよ。修平だって、皆さんに騙されていたんだから」

「お母さんは何を言ってるんですか?修平は私を不妊だと罵り、浮気して捨てようとしたんですよ。その結果、修平自身も騙されただけ。私に責任を押し付けるのは筋違いです。そもそも、お母さんにも責任があるんじゃないですか?修平には皆さんがふさわしいと言って、後押ししていたんですから」

義母は何か言おうとしたが、言葉は次第に弱くなり、黙り込んだ。

修平は怒りのままドアへ向かって歩き出した。義母も慌ててその後を追い、二人は玄関のドアを開けて外へと消えていった。

私はその背中をじっと見送りながら、一言も発しなかった。

「追いかけなくていいの?」

正尾が尋ねる。

「はい。あのまま行かせましょう。もう何も変わらないでしょうから。それに、放っておいても修平は終わりです」

私は深呼吸をし、心の中で呟いた。修平、後悔するのはあなたの方よ。

その後、私は弁護士を通じて離婚が成立し、慰謝料も無事に受け取った。生活は少しずつ落ち着きを取り戻し、かつての修平との生活が遠い過去のことのように思えるほどだった。

しかし、そんな日々の中、ある日突然、修平が私の前に現れた。かつてのエリート然とした彼の面影はどこにもなく、顔は痩せ、服装も見すぼらしくなっていた。目の下には濃い隈があり、髪も乱れている。生活が荒んでいることが、見るからに伺える姿だった。

「京子、話がある」

修平は弱々しく言いながら、私の前に立ち尽くしていた。

「俺は仕事を失ったんだ。正尾さんが経営する会社が、俺の勤めていた会社にとって大事な取引先だったんだ。正尾さんは俺の不倫の件で会社に苦情を入れて、それが原因で社内で調査が始まった。その結果、色々と明るみに出てしまってな。俺は元々、会社で評判が良くなかったんだ。若手社員や女性社員から嫌われていた、パワハラの常習犯だとか言われてな。実際、部下をこき使っていたこともある。俺が結果を出すために彼らを犠牲にしていたんだ。解雇されてから転職を試みたけど、どこも受け入れてくれなかった。俺の評判はすでに業界中に広まっていて、どこへ行っても扉が閉ざされているんだ」

修平が見下していたのは、私だけではなかったらしい。彼はさらに続けた。

「それだけじゃない。家の中でも問題が増えた。家事なんて全然できないから、ずっと母さんに頼りっぱなしだった。でも、母さんともうまくいかなくなって、毎日喧嘩ばかりだ。全てがうまくいかなくなって、今の俺は完全にどん底の状態だ。そうなって初めて気づいたんだよ。幸せの大切さに。お前がいれば、俺はここまで落ちぶれなかったかもしれない。頼む。もう一度やり直させてくれないか?お前が俺を支えてくれるなら、俺はきっとまた立ち直れるんだ。お前がいれば、俺はまた元のエリートに戻れる」

そう言って深々と頭を下げるが、私の心は1ミリも動かなかった。絶対に許さない。後悔させてやると言っておきながら、自分が追い詰められれば簡単に手のひらを返す。そんな人の言葉を信じられるわけがない。

「主婦だったお前が1人で暮らしていくのは大変だろ。心を入れ替えて働くから、許してくれよ」

修平はさらに食い下がってきた。私はその言葉に、少し微笑みながら言った。

「あなたが知らないことがあるわ。私は離婚する直前から、本格的に小説の執筆に取り組んでいたの。あなたがあの時、私のことを馬鹿にしていた小説ね。それがネットで話題になり、書籍化も決まったわ。今の私の収入は、会社員時代のあなたの収入を超えているのよ」

「は?何言ってんだ?そんな嘘をついてまで俺を遠ざけたいのか?」

「そうやって私のことを信じないから、痛い目に会うのよ。ほら、通帳を見せてあげるから確認しなさい」

通帳を手に取った修平は、これでもかと言うほど目を見開いた。そこには、私の言葉が本当だと分かる金額が表記されていた。

「なんでだ?なんで言ってくれなかったんだ?最初から知ってたら、役立たずなんて言わなかった。もっと京子を大事にしたのに」

「笑わせてくれるわね。お金を稼いでいるから大事にするの?私たちは夫婦だったのに、そんなものが基準になるの?そもそも、あなたが浮気をせずに私を見てくれていたら、気づけていたはず。価値ゼロだと見下して捨てようとしていたくせに、今更やり直したいなんて言わないで」

修平は沈黙し、何も言えなくなっていた。彼が自分の過ちに気づいたことは、その表情からも明らかだった。そして、私は最後の一言を彼に告げた。

「修平、あなた、私に『不要物は捨てる』と言ったわよね。私も同じ。もう私の人生に、あなたは必要ないの」

彼は何も言えないまま私を見つめていた。最後に深くため息をつき、黙ってその場を立ち去った。その姿には、かつてのエリート然とした姿はなく、ただ1人の敗北者が立ち尽くすだけだった。

ミナは無事に子供を出産した。しかし、それは彼女にとって喜びではなく、さらなる試練の始まりとなった。出産後すぐ、彼女は正尾から離婚を言い渡された。正尾は子供を引き取り、ミナは実家に戻ることになった。しかし、実家に戻ったからと言って、彼女の生活が楽になるわけではなかった。彼女の家族はその行いに激怒し、親族からも避難された。彼女がかつて求めた自由は完全に失われ、実家での厳しい生活に耐えながら、親族の目を気にする日々を送ることになった。

一方、私は再び正尾に会う機会を得た。彼の腕には、まだ幼い赤ちゃんがすやすやと眠っている。

「改めて感謝を伝えたいと思っていました。あなたが助けてくれなければ、私は今こんな風に落ち着いて生活することはできなかったでしょう。本当にありがとうございます」

正尾は少し首を振り、笑顔を浮かべた。

「いや、京子さんが強かったんだ。私が助けたというより、あなたが自分で立ち上がったんだよ。だからこそ、今こうして穏やかに過ごしているんじゃないかな」

彼は少し真剣な表情になりながら、続けた。

「実を言うと、私がどうして修平やミナを許さなかったのか、もう1つ理由があるんだ。それは、彼らが不妊のことを軽んじて扱ったことだ。出産や妊娠って、当たり前のことじゃないんだよ」

私はその言葉に深く頷いた。彼自身の経験に基づいた、深い思いが込められていた。

「出産というのは命がけの出来事だ。新しい命が誕生するということは、簡単に手に入るものじゃない。私も子供ができるまで色んな苦労をしてきたし、妊娠や出産の大変さを身近で見てきた。だからこそ、不妊を馬鹿にするようなことは許せなかったんだ」

「本当に可愛いですね。命の大切さを、改めて感じました」

正尾は穏やかに頷き、赤ちゃんをそっと抱きしめた。

「この子を守るために、私はこれから頑張るつもりだよ。どんな困難があっても、家族を守るために」

その言葉に、私は心が温まる思いを抱いた。私もまた、自分自身の人生を新たな視点で見つめ直すことができた。過去に縛られることなく、自分の道をしっかりと歩んでいくつもりだ。ミナとは異なる形で、私は新しい人生を選び取ることができたのだった。

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