父が突然亡くなり、一週間の弔い休暇を終えて会社に戻った瞬間、社長は笑いもせずにこう言った。「一流大学のエリートを採用したから、高卒のお前は首だ」…

父が突然亡くなり、一週間の弔い休暇を終えて会社に戻った瞬間、社長は笑いもせずにこう言った。「一流大学のエリートを採用したから、高卒のお前は首だ」...

父が急死して、わずか一週間の弔い休暇を終えて会社に戻ったその日、二代目社長は言い放った。

「おい、何を一週間も休んでおる。呑気で困るわ。お前はもう来なくていい。一流大学のエリートを採用したから、高卒は首だ」

まだ父の死で胸が痛む俺に、社長からは悔やみの言葉すらなかった。俺は何も言わず、退職届けを準備した。

俺、白川健二、三十歳。高校を卒業してからこの光自動車部品で働いてきた。最初は工場勤務だったが、先代社長の計らいで総務の事務所に移り、以来十年、パソコンを使った全てのLINE業務を一手に担ってきた。営業にも同行し、顧客情報も工場の生産状況も、全部俺が把握していた。

それなのに、この新しい社長は違った。名門大学を卒業したと自慢する、傲慢な男だ。

「おい白川、お前はどこの大学を出たんだ?」

「いえ、大学には行っていません」

「はあ? 高卒だと? この会社は本当に無能な高卒や中卒ばかりだな。親父も何を考えていたんだか」

先代社長のことまで悪く言う。俺は唇を噛んだ。

以前の社長は本当に良い人だった。俺が二十歳の頃、商業高校を出ているという理由で事務所の仕事を任せてくれた。ゆと――小学校からの親友で、家計のために中卒でこの会社に入った平井ゆとも、いつも「頑張れよ」と笑顔で応援してくれた。

ゆとは母子家庭で、看護師の母さんを支えていた。俺は父の会社を継ぐつもりで商業の勉強をし、大学には行かなかった。父は「社会勉強のためにどこかでしっかり働けよ」と送り出してくれた。

そんなある日、父と久しぶりに酒を飲んだ。父は言った。

「この前、部品を健二の会社に注文したんだが、今までの値段では売れないと言われてな。別の工場で注文したよ。新しい社長が出てきたんだが、すんなり断った」

「そうか……今の社長は学歴主義みたいで、俺や工場の人間を見下してくるんだ。雰囲気もピリピリしててさ」

「なるほどな。先代の息子はいい大学でも出ているのか?」

「ああ、自分で有名大学卒だと自慢してる」

父は「めげずに頑張れよ」とだけ言った。

それから間もなく、社長は部品を勝手に値上げした。取引先は少しずつ減っていく。俺は社長に進言した。

「いきなり部品の値段を上げると、取引先の人が困惑しています。なんとかならないのですか?」

「はあ、この高卒が偉そうに。今の物価の上がり方をよく見ろ。世間知らずで困るわ。やはり高卒の無能はな。偉そうに口応えしてないで、さっさと工場でも手伝ってこい」

俺は工場へ出た。全てのLINEの生産状況を確認すると、やはり生産はかなり減っていた。

そんな時、スマホが鳴った。おばさんからだった。「父が突然倒れた」と。俺は病院に駆けつけたが、遅かった。突然の心筋梗塞だった。

冷たく暗い部屋で父は眠っていた。俺の頬を涙が伝う。なんで。この前はあんなに楽しく飲んでいたのに。

葬儀を終え、遺産相続の手続きで忙しくしていた。父は五十代だった。もっと元気でいてほしかった。

そして一週間後、出社したその日に、あの言葉だ。

「一流大学のエリートを採用したから高卒は首」

俺は退職届けを社長に叩きつけ、事務所と工場の皆に挨拶をして会社の門を出た。するとすぐにゆとから電話が来た。

「一体どうしたんだ? なぜ健二が?」

「ああ、社長が一流大学のエリートを採用したから、俺はいらないそうだよ」

「そんな! 健二がいないと、全てのLINE業務が危なくなるじゃないか。俺、ちょっと皆に言ってみるよ」

俺は昼間から父のいない家に帰った。食欲はなかった。コーヒーを一杯入れて、今後のことを考える。

正直、父の遺産はかなりあった。遺言書には「会社を継いでほしい」と書かれていた。父は以前から心臓の調子が悪かったことを、俺は父の死後に知ったのだ。

仏壇の前に座り、父と母の写真を並べて、俺は会社を継ぐことを決意した。父の会社へ向かうと、そこはガランとしていた。父の机の顧客名簿を見る。ずっとお世話になっている地域の顧客たちだ。

幸い、俺は二十歳を過ぎてから、いずれ父の後継者になるために整備士の資格を取っておいた。

誰もいない事務所で大きく呼吸をすると、またスマホが鳴った。ゆとだ。

「皆に伝えたよ。そしたら、生産量も落ちてるし、健二がいないなら全員がこの会社をやめるって言い出したんだ」

「え? その後、みんなはどうするんだ?」

「それはみんなで考えるよ。とりあえず、今みんなで退職届けを書いてるところだ」

「そっか。今さ、父の会社にいるんだ。俺、父の後を継ぐよ」

「え、健二が起業するの? じゃあ、そのように皆に伝えるよ。健二、ありがとう」

「退職届けを出しても、一ヶ月有給を消化してほしいんだ。すぐ父の遺産で工場を作るからさ」

ゆとからのLINEで、営業の人も工場長も、その日のうちに全社員が退職することになったと連絡が来た。俺は少し笑った。社長はどんな顔をしているだろう。

すぐにゆとが俺のいる父の会社に来て言った。

「もう最高だったよ。あの偉そうな社長が、豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔しててさ!」

そう言って大爆笑していた。

その直後、俺のスマホに社長から電話がかかってきた。

「おい、白川。一体お前は何をしたんだ? 社員全員が退職になったじゃないか」

「社長さん、僕は何もしていませんが。それに、入社以来、苗字で呼ばれるのも久しぶりです。僕はもう退職したので、あなたとは関係ありません」

俺はそう言って、ぶちっと電話を切ってやった。それでも何度もかかってくるので、サイレントモードにして無視した。

その後、ゆととどんな工場にするか相談し、すぐに建設会社へ電話した。製造機械も購入しないといけない。工場は三週間で出来上がる予定だ。

俺は名刺を新しく作り、父の得意先に挨拶に行った。ゆとの話では、社員たちは真面目だったので一ヶ月の有給があるらしい。その間に引き継ぎもするそうだ。

翌朝起きると、社長からの不在着信が百件を超えていた。俺は折り返してみることにした。

「白川です。何度もお電話を頂いていますが、一体何のご用ですか?」

「ああ、白川君か。ちょっと工場が回らない状態なんだ。社員たちに聞くと、全部白川君からの連絡を待ってるとのことだ。今からこちらに来てくれ」

「いや、私は忙しいので行けません」

「はあ。何が忙しいんだ? そもそも高卒で、まだ仕事も決まってないんだろ?」

「いえ、すでに仕事中なんですよ。勝手に首にしておいて、すぐ来いなんて、本当に失礼な方ですね。私は全てのLINE業務を担っていました。あなたはそれを知らなかったと」

「すまない。白川君がそんなに頑張ってくれていたなんて、思ってもみなかった。頼む。今から会社へ戻ってくれ」

「お断りしますよ。私はただの高卒ですから。新しく入ったエリートさんに、今後のことを頼めばどうですか? では、失礼します」

俺はそう言ってすっきりした。

その夜、ゆとが来た。「今日は家飲みでもしようか。寒いし、鍋でもする?」 俺たちは一緒に買い物に行き、鍋の用意をしながら乾杯した。ゆとが言う。

「営業の人はもう会社に来てないんだ。だから仕事がなくて、工場は今暇でさ。みんなぼーっと座ってるよ」

「なるほどね。もう少し待っていてくれ。あの社長も新入りを雇うだろう。で、エリート社員は何をしているんだ?」

「それがさ、健二がいないから何も分からず、事務所でぼーっとしてるんだよ。本当に笑える」

工場の建築は順調に進み、三週間後、機械も揃って部品工場が完成した。ゆとが社員たちに声をかけてくれ、新しい「白川自動車部品」に皆が集まった。

結局、あの社長は新入社員を集めたが、営業はエリートが一人で回っていて、工場の仕事がほとんどないらしい。今までの営業社員もうちの会社へ来てくれて、以前の値段で取引先に営業をかけてくれた。こちらは工場が回り出す。

俺は整備の仕事の人も三名雇用した。自分も整備や車検の契約を取りに、父の顧客や新規顧客を求めて一日中走り回る。弁当は弁当屋に頼み、休憩時間は食堂で食べてもらう。喫煙所も別に作ったので、喫煙者は喜んでくれている。

俺は営業に走りながらも、パソコンでホームページを作成した。すると顧客がどんどん増えてきた。

ある日、ゆとと一緒に工場で作業していると、ゆとのスマホに社長から着信があった。ゆとは俺の顔を見て、スピーカーにして電話に出た。

「はい、平井です」

「ああ、平井君か。俺だ。君は確か中卒だったな。就職先がないのではないか。平井君には長い間うちの工場で働いてもらっていた。君なら工場を任すことができる。どうか戻ってこないか。頼む」

「はあ。僕、忙しいんですが。今も仕事中です。いくら頼まれても、二度とあなたの会社には戻る気はありませんよ」

「え? 給料を倍にしてもらってもね。あなたにはずっと中卒だと馬鹿にされてきましたから。大体、あなたの会社は高卒と中卒の社員で守られてきたのではないですか? 勝手に部品の値上げをするから、戻っても仕事がないじゃないですか」

「部品の値段は元通りにした。しかし、今までの取引先が全部なくなっているんだ。学歴のことは申し訳ない。このままではうちの会社が……」

「いや、あなたのお父様には本当にお世話になりました。僕のことを中卒でも大切に扱っていただいて、感謝しておりますが、あなたには散々貶されていましたので、二度と顔を見たくないんですよね。では」

そう言ってゆとは電話を切った。工場の皆は爆笑していた。

それから俺は三十一歳になり、EV会社の部品にも目をつけて工場で生産を始めた。長い付き合いの営業の人柄が良く、たくさんの自動車会社から注文が入り、大忙しになった。社員たちの給料は今までの倍にした。たまには飲み会も開き、貸切りの居酒屋で皆の意見を聞きながら楽しく飲む。アットホームな、以前の社長の時のような会社を心がけ、チームワークも抜群だ。

おばさんも、まだ経理として頑張ってくれている。

一方で、光自動車部品はとうとう赤字になり、倒産してしまった。皆から聞いた噂では、二代目社長は工場を潰すために借金を背負い、奥さんからも離婚されたらしい。

ある日、営業の途中でコンビニに寄った。すると、そこで元社長が働いていた。俺は缶コーヒーだけ買ったのだが、元社長は俺の顔を見て真っ青になる。

「社長、アルバイトですか?」

「ああ、そうだが……」

俺は名刺を渡して言ってやった。「いつでも雇用しますが」

元社長は俺の名刺を見て、ぶるぶると震えていた。

一方で、俺の会社の売上は爆発的に伸びている。少し遠方からもホームページ経由で車検の依頼が来るようになり、うちはかなりの大手企業になった。事務さんに告白されて、プライベートも充実している。

今後も、父が作ったこの会社をしっかり守っていくことを、俺は誓うのだった。

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