「透けてますよ、ナミさん。下着、なんでつけてないんですか?」…

「透けてますよ、ナミさん。下着、なんでつけてないんですか?」...

「透けてますよ、ナミさん。下着、なんでつけてないんですか?」

目が泳いで、まともにナミさんの顔が見られなかった。言った瞬間、自分も顔が沸騰するほど熱くなった。

「あっ、やだ…私ったら」

ナミさんは慌てて胸元に手を当て、しゃがみ込んだ。

俺は竹中カイト、21歳の大学3年生。バイトとサークル活動で忙しくも充実した日々を送っている。実家は大学から通える距離で、父と母と弟との4人暮らし。実家暮らしは何より楽だった。

その日の午後、授業を終えて家に戻ると、母が言った。

「ねえ、明日の午後って暇でしょ?」

「まあ…暇だけど」

嫌な予感がした。こういう時は決まって面倒なことを頼まれる。

「明日、町内会の掃除があるのよ。お父さんは仕事だし、弟は部活で遅いし…」

母は腰を痛めていた。先日、庭の草刈り中にぎっくり腰になってしまったのだ。正直気が進まなかったが、母を行かせるわけにはいかない。

「ああ、そう。じゃあ俺が行こうか」

しぶしぶながら、俺は初めての町内清掃に参加することになった。

「助かるわ。ありがとうね。でもね、きっと行けばいいことあるわよ」

「何だよそれ。お菓子でももらえるのか? 子供じゃあるまいし」

「違うわよ。でも、あなたにとっては何よりのご褒美かもね」

母は含みのある笑顔で俺を見た。ご褒美という言葉に弱い俺の性格を、母はよく知っている。

当日、午前の授業を終え、俺は集合場所の公民館に向かった。懐かしい。公民館の前には、小学生の頃よく遊んだ小さな公園がある。かつては子供の声が絶えなかったが、今はベンチに空き缶や吸い殻が放置され、錆びたブランコが風に揺れるだけだった。

「誰もいないな」

誰かが背後から声をかけてきた。

「ねえ、もしかして、さゆりさんの息子さん?」

振り返ると、長い黒髪のすらりとした美女が立っていた。大きな瞳に、すっと通った鼻筋。見れば見るほど美しい女性だ。年は俺と同じくらいか、それとも少し上か。

「え? なんで分かるんですか?」

「やっぱり。そっくりだもの」

女性はおかしそうに笑った。

「さゆりさんにはいつもお世話になってるの。町内の掃除にはいつも参加してたけど、今日はさゆりさん来ないの?」

「あ、母は今腰を痛めてて、代わりに息子の俺が来ました」

「そうなんだ。偉いね。よろしくね」

女性はにっしりと微笑むと、公民館の中に入っていった。

しばらくすると人が集まり、町内会長の指示で掃除の場所割りが発表された。

「一緒だね。はい、これゴミ袋」

さっきの女性が俺のところに駆け寄ってきて、大きなゴミ袋を渡してくれた。

「私、ナミ。よろしくね」

「お、俺はカイトです。竹中カイト。よろしくお願いします」

「カイト君、いい名前だね。よし、早速公園のゴミ拾いと草取り、頑張ろう」

こうして初めての町内清掃が始まった。草取りをしながら、ナミさんが話しかけてくる。

「それにしても、若いのに偉いよね。普通、そのくらいの年の子って町内会の集まりとか嫌がるでしょ」

「そうっすかねえ…」

「うちの息子も、カイト君みたいにいい子に育ってくれたらいいんだけど」

「え? 息子?」

思わず大声を出してしまった。

「いるよ。今3歳。21の時に産んだの」

「え、すごい。俺の歳で、もうお母さんだったんですか?」

「え? カイト君、今21歳なの? 高校生くらいだと思ってた」

ナミさんは驚いた顔をした。

「俺、童顔なんで、コンビニでビール買う時もいつも身分証を求められます」

そのやり取りで、俺たちは一気に打ち解けた。でも、少しがっかりしている自分がいた。あまりに綺麗なナミさんに惹かれていたが、彼女は既婚者で、3歳の子供もいる。真剣な恋愛なんて望めない事実に、内心ひどく落胆していた。

「お子さんは今日はお家でお留守番ですか? 旦那さんが見てるとか?」

「旦那はいないの。離婚してもう2年かな。今は友達が見てくれてる」

「そ、そうなんですか。すみません、無神経なことを聞いてしまって」

「いいのよ。気にしてないから」

ナミさんは笑った。離婚して2年。つまり、今は独身。ほんのりと希望が湧いてくる自分がいた。

「さ、やることやらなきゃ。次はゴミ拾いだよ」

ナミさんは立ち上がり、作業を再開した。その日の掃除は無事終了し、次の日時を伝えられて解散となった。

「じゃあまたね」

元気よく手を挙げて去っていくナミさんに、俺は手を振り返した。気づけば、俺はもう彼女に恋をしていた。

家に帰ると、母がにやにやしながら待ち構えていた。

「ご褒美、あったでしょ?」

「うん。行く」

「お父さんと一緒で、美人に弱いんだから」

「うるさいよ」

俺は慌てて着替えて風呂場に向かった。母の言葉に顔が熱くなっていた。

それから毎月2回の町内清掃に、俺は欠かさず顔を出すようになった。町内会長も班長も高齢だから、若い俺は重宝される。「若いのに素晴らしい」と言われて、くすぐったい気持ちになる。でも、参加する動機が不純だった。ナミさんに会いたい。ただそれだけのために、俺は公民館に通っていた。

数ヶ月が経ち、ナミさんともすっかり打ち解けてきた頃、夏のキャンプに誘われた。

「カイト君も行くよね?」

「ナミさんも行くんですか?」

「うん。息子と一緒にね。健太もすごく楽しみにしてるみたい」

ナミさんが行くなら、行かない理由はない。

「俺も行きます」

「よかった。子供も少ないし、保護者も忙しい人が多いみたいで、参加する人が少ないのよ。カイト君が来てくれたら助かるわ」

こうして、俺はナミさんと一緒に夏のキャンプに参加することになった。

キャンプ当日、朝早くから公民館に参加者が集まった。子供8人、保護者2人、町内の役員数名。テントを運ぶのも重労働で、早朝から照りつける太陽に、町内会長さんは早々に息が上がっていた。

「すまんが、もう若い人たちに任せるよ。健太君はここで私が見ているから」

会長さんはそう言って日陰に座り込んでしまった。キャンプはほぼ初心者の俺。テントの貼り方もろくに分からない。他の保護者と手分けして、なんとか組み立て始めたが、なかなか難しい。ナミさんと一緒に汗だくになりながら、やっと完成させた時は思わず万歳してしまった。

その時、俺は自分の目を疑うような光景を目撃してしまう。今の今までテントを貼るのに必死で気づかなかった。ナミさんの胸元が汗に濡れて透けていて、白いTシャツ越しに下着…いや、つけていないのがはっきりと分かった。

言うべきかどうか迷ったが、このまま気づかないふりをすれば、ナミさんはもっと恥ずかしい思いをするはずだ。俺は思い切って口にした。

「透けてますよ、ナミさん。下着は、なんでつけてないんですか?」

「あっ、やだ。私ったら」

ナミさんは慌てて胸元に手をやり、しゃがみ込んだ。

「窮屈で動きにくいし、あんまり暑くて、さっきトイレで外しちゃったの。忘れてた」

ナミさんの顔は真っ赤だったが、俺はそれ以上に赤くなっていた自覚がある。体中が熱くなり、特に下半身が…こんなところでテントを張っている場合じゃないのに。

「ごめんね、カイト君。私のせいだね」

ナミさんは、それに気づいたのか気づいていないのか、なぜかそっと俺の手を握ってきた。大きく潤んだ瞳で見つめられて、俺は爆発寸前だった。

「ナミさん…」

思わず強く抱きしめてしまった。ナミさんの手が俺の背中に回されたところまでは覚えているが、気がついた時には、立てたばかりのテントの中で、お互いを求め合っていた。テントの外では、他の参加者たちの声がする。見つからないかとヒヤヒヤしたが、それがまた2人を燃え上がらせた。

こんな展開になるなんて、誰が予想しただろう。自分でも信じられない。でも、俺とナミさんは確かに結ばれた。

余韻に浸る余裕はなかったが、俺はその場で気持ちを伝えた。

「ナミさん、俺、ナミさんのことが好きです。こうなったから言ってるんじゃなくて、会った時からずっと気になってて…俺と付き合ってもらえませんか?」

完全に順番が逆になってしまったが、告白するなら今しかないと思った。

ナミさんは静かに頷いてくれた。

「ありがとう。私もずっと気になってた。掃除の時も、すごく丁寧に真面目にやってるカイト君に惹かれたの。お年寄りにも子供にも優しくしてるし、尊敬してるのよ」

ナミさんはそう言うと、もう一度そっとキスをした。

その後は何事もなかったかのように、俺たちはみんなの元に戻り、夕食のカレー作り、そしてキャンプファイヤーに参加した。ナミさんの息子の健太君と顔を合わせた時はさすがに気まずかったが、そんなことを知るよしもない健太君は無邪気に俺に抱きついてきた。その屈託のない笑顔がたまらなく可愛い。俺は全力で健太君と遊び、ナミさんはそんな俺たちを見て嬉しそうに笑っていた。

こうして、俺とナミさんは心を通じ合わせ、付き合うようになった。それからは、健太君とナミさんと俺の3人で、あちこちに遊びに行くようになった。

結婚の話が出たのは、それから1年ほど経った頃だ。健太君の一言が、迷っていた俺の背中を押してくれた。

「カイト君、僕のパパになってくれるの?」

健太君のキラキラした目が、俺を決意させた。

その頃の俺は、ようやく就職が決まったばかりで、自分に自信がなかった。2人を幸せにできると自信を持って言えるまで、プロポーズなんてできないと思っていた。でも、違う。俺は今、2人と一緒にいたいのだ。「幸せにしてあげよう」なんて傲慢な考えではなく、3人一緒に幸せになる努力をすればいい。そう思わせてくれたのは、ナミさんの優しい笑顔と、健太君の純粋な気持ちだった。

思い切って渡した指輪を、ナミさんは涙を流しながら受け取ってくれた。

実家に挨拶に来たナミさんに、母が何て言ったと思う?

「カイトにとって、ナミさんは人生最高のご褒美だね」

そう言って笑った母。

しぶしぶ参加した町内の掃除で、俺は人生最高のご褒美をもらえたわけだ。これからもナミと健太を大切に、真面目に生きていこうと思う。

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