手術室の扉が開き、俺は静かに一歩を踏み入れた。無影灯の下で心臓外科部長の大山が手を差し出してきた。
「さ、監視が遅い。何度言ったら分かるんだ?」
「申し訳ありません。すぐにお渡しします。」
俺は素早くメスを握らせた。大山は鼻で笑って手術に戻る。隣にいた若い研修医がちらりと俺を見て、小さく嘲笑を漏らしたのが分かった。
俺の名は佐山聡、42歳。この東都総合病院に赴任してきた医師だ。海外で長く働いていた経歴だけは履歴書に書いてある。だが、この病院に来てから任されているのは、器具の準備、カルテ整理、伝票記入、備品の発注。医者の仕事とは呼べない雑務ばかり。
手術が終わり、後片付けをしている俺の背中に大山の声が刺さる。
「おい、カルテの整理、昼までに終わらせておけよ。それから明日の手術の器具リストに漏れがないか確認しろ。」
「承知しました。」
短く返した。反論はしない。余計なことも言わない。大山が去った後、若い研修医たちの囁きが耳に入る。
「あの人、本当に医者なんですかね?海外帰りって聞いたけど、雑用しか任されてないし。」
「大山部長も呆れてたよ。『使えない』って。」
俺は聞こえないふりをしてカートを押し、廊下を進んだ。ナースステーションの前を通った時、心臓外科の医師・鈴木里子と目があった。35歳の彼女は患者第一を信念にしている真面目な医師だ。赴任してきた俺のことを、内心では役立たずだと思っているのが態度で分かる。
「さ、302号室の田村さんが少し気になるので、見てもらえますか?」
「分かりました。すぐに伺います。」
カートを置いて病室へ向かった。田村という患者は術後の経過観察中だった。ベッドの上で穏やかに眠っているように見えるが、俺は枕元のモニターに目を止めた。
心電図の波形、血圧の推移、わずかな呼吸の乱れ。
「鈴木先生、心タンポナーデでの初期症状が出ている可能性があります。心嚢液の貯留を疑って、エコーをお願いします。」
鈴木は目を見開いた。
「え?でもバイタルは安定しているように見えますけど。」
「奇脈と脈圧の増強があります。すぐに確認した方がいい。」
鈴木は慌ててエコーの準備を指示した。数分後、俺の指摘通り心嚢液が溜まり始めていることが確認された。処置が早かったおかげで、田村は命を取り留めた。
処置を終えた後、鈴木は俺の背中をじっと見ていた。雑用ばかりしている医師が、どうしてあれほど早く異変に気づいたのか。その違和感が、彼女の中で小さく灯り始めていた。
俺は何も言わず、カートを押して廊下の奥へ消えていった。
夜、控室の隣の小さな部屋で俺は一人になった。白衣の内ポケットから色あせた一枚の写真を取り出す。二人の男が並んで映っている。一人は若い頃の俺。もう一人は、俺より六つ年上の兄・孝太だ。兄は白衣を着て優しく微笑んでいる。十年前、この東都総合病院で心臓外科医として活躍していた男。
「兄さん、俺は帰ってきた。必ずあんたの名前を取り戻す。」
十年前、兄は大手術で医療事故を起こしたとされ、その直後に忽然と姿を消した。世間では責任から逃げた卑怯な医師として、その名が刻まれた。母は病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
母の最後の言葉が、今も耳の奥から離れない。
「孝太はそんなことする子じゃない。どうか本当のことを明らかにしてあげて。」
俺は写真をそっと胸に押し当てた。海外での修行をすべて使って、この病院への赴任を勝ち取った。雑用でも構わない。内部に入り込むこと、それが何より重要だったのだ。
控室を出た俺は、廊下の隅で立ち話をしている看護師たちの声を耳にした。
「そういえば、十年前のあの手術のこと覚えてます?」
「あの話は内緒でしょ。部長から言われてるでしょ。」
「あ、そうでしたね。」
二人は口をつぐみ、足早に去っていった。俺はその場に立ち尽くした。十年前の医療事故。それはこの病院で確かに起きた出来事のはずだ。しかし、誰もそれを語らない。いや、語ることを禁じられている。
翌日、大山から資料整理を命じられた。古い診療記録の棚卸しだ。
「使えない資料は処分しろ。お前くらいしか手が空いている医者はいないからな。」
「承知しました。丁寧に確認しておきます。」
雑用と言われれば頷き、押し付けられれば引き受ける。俺にとってこれはむしろ好都合だった。
医局の奥、地下の資料室に足を踏み入れると、長年の誇りと埃の匂いが鼻をついた。ダンボール箱がいくつも積み上がっている。俺は一つ一つ、年代を追って確認していった。
しかし、十年前の箱だけがなかった。正確に言えば、その年の心臓外科の診療記録だけがごっそりと抜け落ちていた。棚の裏まで手を伸ばして探したが、一枚もない。十年前の心臓手術に関するカルテと手術記録だけが、この病院から消されている。
背筋に冷たいものが走った。その時、背後で足音がした。振り返ると、白い作業着姿の男が立っていた。臨床工学技士の羽部茂。ベテランだ。普段は医局でいつも一人、機械の点検をしている姿しか見たことがない。
羽部は俺をじっと見つめた。その目に、複雑な色が浮かんでいる。
「さ、先生。探し物ですか?」
「古い診療記録の整理を、部長から頼まれまして。」
「そうですか。」
羽部は少しの間黙り込んだ。やがて、絞り出すような声で言った。
「先生、この病院にはね、掘り返してはいけない場所があるんですよ。触れれば火傷じゃ済まない。あなたのような若い人が深入りする話じゃない。」
「羽部さん、それは忠告ですか?」
「忠告です。いや、頼みです。生きてここを出てほしいから。」
羽部はそれだけ言うと、俺に背を向けて資料室を出ていった。
消された過去、隠された記録、そして意味深な忠告。すべてが繋がっている。この病院は確かに何かを抱えている。それは、兄・孝太の失踪と無関係ではない。
俺は白衣のポケットの中で拳を握った。
「兄さん、やっと扉に手が届いたよ。」
俺は長い廊下を、一人で歩き出した。
数日後の深夜、俺は臨床工学室の扉を叩いた。中では羽部が一人、点検をしていた。
「来ると思っていましたよ。」
「羽部さん、あなたに聞きたいことがあります。十年前のあの手術のことです。」
羽部の手が止まった。
「先生、忠告したはずですよ。」
「聞けません。私はどうしても知らなければならないんです。」
俺は白衣の内ポケットからあの写真を取り出し、机の上に静かに置いた。羽部の視線が写真に落ちる。写真の中の兄を見つめる羽部の顔から、見る見るうちに血の気が引いていく。
「こ、これは……佐山先生。あなた、まさか」
「佐山孝太は私の兄です。私は兄の名誉を取り戻すために、この病院へ来ました。」
羽部は両手で顔を覆った。
「そうか、そうだったのか……。似ていると思ったんです。目元が。まさか弟さんだとは。」
「兄は本当に医療事故を起こしたんですか? 教えてください、羽部さん。」
羽部はしばらく沈黙していた。やがて、震える声で語り始めた。
「あの日、私は人工心肺装置を担当していました。手術は難しいものでしたが、孝太先生の腕なら乗り越えられるはずだったんです。ところが術中に、装置が異常な挙動を起こした。原因は装置の整備不良でした。」
「整備不良?」
「ええ。前日の整備記録には、確かに問題があった。私は気づいていた。だが、手術は強行された。そして事故が起きた後、その整備記録だけが書き換えられていたんです。」
俺は息を飲んだ。
「私は何度も声を上げようとしました。だが、上から圧力がかかった。家族もいる。生活もある。私は黙るしかなかったんです。孝太先生は、すべての責任を一人で背負って姿を消した。あの人は逃げたんじゃない。守ったんですよ。この病院を、私たちを。」
羽部の目に涙が滲んでいた。
改ざんされた整備記録、隠蔽された事故。すべての糸が、一本につながっていく。
「当時の整備記録の原本、どこかに残っていませんか?」
「先生、それを言ったら、私は本当に殺されるかもしれない。」
「それでも、聞かせてください。」
羽部は俺を見つめた。
「少し、考えさせてください。」
俺は頷き、部屋を出た。廊下の窓から、夜の町の明かりが見える。十年前、兄が見ていたであろう景色だ。
翌朝から、病院の空気が微妙に変わり始めた。大山部長は俺の姿を見るたびに、視線を鋭く走らせる。いつもの叱責の代わりに、無言の圧力が飛んでくるようになった。医局で書類を書いていると、院長の篠原高晴が扉を開けて入ってきた。普段はにこやかな院長が、今日は様子がおかしい。
「佐山先生、少しいいですか?」
「はい、院長。」
「聞くところによると、先生は最近、古い資料を随分熱心に調べておられるようですね。」
「整理を命じられておりますので。」
「ああ、そうですか。あまり無理をなさらぬように。古いものには埃も溜まっていますからね。体を壊しますよ。」
穏やかな言い方だったが、言葉の端々に棘があった。
「ご忠告ありがとうございます。気をつけます。」
篠原が去った後、俺は書類にペンを置いた。大山と篠原。二人が動き始めている。
その夜、俺は再び羽部を尋ねようと臨床工学室へ向かった。扉の前で、看護師たちが慌ただしく走り回っている。
「救急外来に運ばれたって。頭を強く打って。」
「誰なの、それ?」
「羽部さんですよ。臨床工学の。」
俺は駆け出した。救急外来のベッドに、羽部が横たわっていた。頭に包帯が巻かれ、意識は朦朧としている。
「羽部さん、誰にやられたんですか?」
俺がベッドの脇に膝をつくと、羽部の唇がわずかに動いた。
「先生……ロッカーの、二段目の奥に……」
そこまで言って、羽部は目を閉じた。医師たちが処置に入る。俺は一歩下がり、拳を握った。
羽部は帰宅途中の路地で襲われたという。財布は残されていた。強盗ではない。
その頃、鈴木里子が救急外来の入り口に立っていた。俺の背中をじっと見つめている。
「佐山先生、少しお話してもいいですか? ここではなく、別の場所で。」
俺たちは病院の裏手にある小さな休憩スペースに移動した。
「先生、私、ずっと気になっていたんです。田村さんの心タンポナーデの時も、この前の若い患者さんの心音の指摘もそう。先生の判断は、私よりずっと正確です。それに、先生が使う医学用語や知識は、日本の一般的な病院で得られるものじゃない。」
「そんなことないですよ。ただ海外で少し長く働いていただけです。」
「先生、私、一つだけ聞かせてください。あなたは本当は、何者なんですか?」
俺は答えなかった。鈴木の瞳が揺れる。
「鈴木先生、今は答えられません。ですが、必ず話せる日が来ます。」
鈴木は唇を噛み、小さく頷いた。
事件は、それから三日後に起きた。
昼下がり、救急外来にヘリコプターの音が響いた。搬送されてきたのは、政界の重鎮として名高い70歳の男性。急性大動脈解離、スタンフォードA型。しかも上行大動脈から弓部にかけて、広範囲に及んでいる。放置すれば数時間の命だ。
執刀は当然、心臓外科部長である大山が担当することになる。しかし、CT画像を見た大山の額に、脂汗が浮いていた。視線が画像から泳ぎ、モニターの端に止まる。
「これは範囲が広すぎる。弓部に加えて、冠動脈への影響も……我が病院の設備では困難だ。他院への転送を検討するべきじゃないか。」
院長が駆けつける。
「大山先生、今から搬送すれば、確実に間に合わない。この病院で執刀するしかないんだ。」
「院長、私には荷が重すぎます。」
大山はCT画像から目をそらし、椅子に腰を落とした。その肩が、小さく震えている。医師たちは互いに顔を見合わせるが、誰も口を開かない。手術室の準備は進んでいるが、執刀が決まらない。患者の家族は待合室で、祈るように手を組んでいる。
そのざわめきの中、俺は静かに一歩前に出た。
「院長、私に執刀させてください。」
一斉に視線が集まった。若い研修医が息を飲む音が聞こえる。大山が顔を上げた。
「佐山、お前は器具洗いしかできない男だろう。何を言っている?」
「大山先生、時間がありません。私がやります。」
「佐山先生、あなたはこの手術の意味が分かっているんですか? 極めて高難度なんですよ。」
「弓部大動脈置換に、オープンステントグラフトと内視鏡術を併用します。脳分離体外循環で、中等度低体温を維持。所要時間は六時間を見込みます。」
医局が静まり返った。鈴木里子が俺の顔をじっと見つめている。院長の唇が動いた。
「佐山先生……あなたは一体」
「時間がありません。院長、判断をお願いします。」
篠原は苦しげに目を閉じ、やがて絞り出すように言った。
「執刀、佐山先生に一任します。」
俺は手術着に着替えるため更衣室へ向かった。背後で、大山が椅子に沈み込むのが視界の端に映る。
更衣室のロッカーの前で、俺は白衣の内ポケットから写真を取り出した。兄の顔を静かに見つめ、そっと胸元に押し当てる。写真をロッカーに戻し、俺は手術着の袖に腕を通した。
手術室の扉が開いた。無影灯の白い光が、俺の顔を照らす。看護師たちの視線が一斉に俺に集まる。第一助手席に立つのは、鈴木里子だった。
「佐山先生、よろしくお願いします。」
「鈴木先生、私の手技をよく見てください。あなたの目が、この手術の証人になる。」
俺は患者の胸元に視線を落とした。切開ラインを指でそっとなぞる。
「メスをお願いします。」
看護師の手からメスが差し出された。その瞬間、手術室の空気が変わった。
十年の年月と、海外の戦場のような現場で磨き抜かれた指先。メスの入り方に迷いが一切ない。一つ一つの動作に無駄がない。俺の指はまるで、大動脈の内部を透視しているかのように動いた。
「体外循環開始。遮断鉗子確認。」
羽部の代わりに座った若い技師の額に、汗が滲んでいた。
「中等度低体温28度、脳分離体外循環に切り替えます。」
助手席の鈴木は、俺の指示のスピードについていくのがやっとだった。俺は人工血管の吻合に入った。針の運び方、糸の張り方が、他の医師とはまるで違う。鈴木は息をするのも忘れて、俺の手元を見つめていた。
「弓部三分枝再建に入ります。オープンステントグラフト挿入。」
俺の宣言に、手術室にいた全員の背筋が伸びた。これは日本国内でも指折りの施設でしか行われない術式である。
雑用専門と決めつけられた男が、最高難度の技術を迷いなく施行している。手術室のガラス越しに、研修医がその光景を見ていた。その口がぽかんと開いたままになっている。
「嘘でしょ……あの人、あの佐山先生ですよね?」
「なんだあの手技……見たことないぞ。」
「ありえない……」
六時間。俺は一度も椅子に座らず、一度も水を口にしなかった。心臓の鼓動が静かに戻ってくる。モニターの波形が、規則正しいリズムを刻み始めた。
「吻合完了。人工心肺離脱。」
技師の声が震えていた。
「離脱成功しました。」
最後の縫合を終え、俺は手袋を外した。手術室に、しんととした静寂が広がった。誰も声を発しない。鈴木の目に、涙が溜まっていた。
「皆さん、お疲れ様でした。患者さんを丁重にICUへ運んでください。」
俺はそう言い残し、手術室を静かに出ていった。背中で、看護師の一人が小さく啜り泣く声が聞こえた。
手術成功の知らせは、その日のうちに病院中を駆け巡った。政界の大物が奇跡の手術によって救われた。夕方にはテレビの速報が、病院名を報じた。
翌朝、医局の電話が鳴り止まなくなった。
「ボストンの大学病院からです。『ドクター・サヤマは戻ったのか』と。」
数分後、また電話が鳴った。今度はドイツから。国際心臓科学会の理事が、「ドクター・サヤマと話したい」と言っている。
「院長、これは一体どういうことなんですか?」
篠原院長は受話器を握ったまま、動けなくなっていた。その日、医局にはあらゆる媒体から取材の申し込みが殺到した。
判明したのは、驚くべき事実だった。佐山聡。海外の複数の大学病院で心臓外科部門の中心的存在として活躍し、大動脈疾患の分野で世界的な業績を残してきた医師。国際学会では、その手技を「サヤマ・メソッド」と呼ぶ論文まで存在していた。日本の医療界にはその名がほとんど知られていなかっただけだ。なぜなら、彼は本名を公にせず、静かに研鑽を積んできたからである。
鈴木里子はその新聞記事を見つめていた。写真の中の男は、白衣を着た若き日の俺だった。海外の学会の壇上で、大勢の医師たちに拍手されている。鈴木は、新聞を持つ指が震えているのに気づいた。
「この人が、私の隣でカルテを整理していたなんて……」
鈴木の頬を、一筋の涙が流れた。
それからしばらくして、羽部茂はICUのベッドで意識を取り戻した。俺は椅子を引き寄せて、枕元に座った。
「先生、あの中身、見ましたか?」
「見つけました。全部無事です。」
羽部の目に光が戻った。ロッカーの二段目の奥。そこには、十年前の整備記録の原本のコピーと、一本の古いICレコーダーが隠されていた。
レコーダーには、事故当日の医局での会話が録音されていた。大山部長と篠原院長。二人が声を潜めて相談する声が、はっきりと録音されていた。
「装置不良の事実を伏せる。責任は一人に負わせる。佐山にすべての罪を背負わせて、病院を守る。」
羽部は十年間、その証拠を命がけで守り続けてきたのだった。
証拠は警察と第三者調査委員会へ提出された。大山は解任され、篠原も院長の椅子を降りた。十年前の医療事故は隠蔽工作であったことが、正式に認められた。佐山孝太の名誉は、遺族の申し立てにより、公に回復された。
その報道の日、俺は病院の屋上に立っていた。白衣の内ポケットから、あの写真を取り出す。兄が優しく微笑んでいる。
「兄さん……遅くなった。本当に、遅くなった。」
風が写真を揺らした。母の声が聞こえた気がした。俺は写真をそっと胸に押し当てた。
背後で足音が聞こえ、振り返ると鈴木里子が立っていた。白衣の裾が、風に揺れている。
「佐山先生。」
「鈴木先生。」
「あなたは、何者なんですか?」
俺は少し笑った。
「ただの医者ですよ。兄と同じ、人を診る医者です。」
「先生、これからこの病院を立て直さなきゃいけません。手伝ってくれますか?」
「こちらこそ。一人じゃ何もできないです。」
数日後、俺は病院裏の坂道に足を運んだ。十年前、兄もこの道から同じ空を見上げていたのだろう。俺は立ち止まり、空を仰いだ。雲がゆっくりと流れていく。
「兄さん、俺はこの病院に残るよ。兄さんが守ろうとしたものを、俺が守っていくよ。」
どこかで兄は、今も元気にしているはずだ。いつかふらりと戻ってくる。そんな気がしてならなかった。
坂道を吹き抜ける風が、頬をそっと撫でていった。



