両親と温泉旅行に行くと言って家を出た夫。その日の午後、近所のケーキ屋で義母と偶然会い、彼女の口から「あら?…

両親と温泉旅行に行くと言って家を出た夫。その日の午後、近所のケーキ屋で義母と偶然会い、彼女の口から「あら?...

電話の向こうから、夫以外の声が聞こえた瞬間、世界が止まった気がした。

「ねえ、誰と話してるの?」

若い女の声だった。甘ったるくて、夫を「なおくん」なんて呼ぶ声。私はスピーカー越しに、夫が浮気していることを確信した。

私はあき子。夫の直人と結婚して2年になる。今は第一子を妊娠している。夫への愛情は、いつの間にかすり減っていた。それでも、この子のためにも、家族を壊さないようにと思っていたのに。

夫が出張という名の旅行に出かける前、義母と偶然会った。

「あら、あき子さんじゃないの。直人がね、私たちに温泉旅行をプレゼントしてくれたのよ。夫婦水入らずで楽しんでこいって。でも、パートのシフトが変わっちゃって、一週間後にずらしてもらったの」

夫は私に「家族旅行だ」と言って出かけていたのに。義両親と行くはずの温泉旅行は、義母が行かないことになっている。じゃあ、夫は誰とどこにいるの?

私は義母の前で、夫に電話をかけた。

「旅行はどう? 楽しい?」

「うん。両親と楽しんでるよ」

目の前の義母がギョッとして口を押さえる。私は義母に、黙っているようにお願いした。

「今、ここにあなたのお母さんいるけど」

沈黙。そして、あの声。夫の浮気相手の声。私はその場で吐き気を覚えた。義母は優しく私の背中を撫でてくれた。

「浮気する男が悪いのよ」

義母は私の味方になってくれた。義両親は私の妊娠も知らなかった。夫は私が体調不良で行けないのだと嘘をつき、義両親に私と連絡を取らないように頼んでいた。私が義両親に嫌われているのだと思い込んでいたのは、夫が仕組んだことだった。

義母に相談し、私は離婚を決意した。彼女は「私に任せて」と言い、夫が戻ってくるまで私を休ませてくれた。

翌日の昼、夫が帰ってきた。予定より早い帰宅は、私が義両親に何か言ったのか確認するためだろう。

「告げ口してないだろうな。そんなことしたら離婚だぞ」

離婚? 浮気された挙句に離婚をちらつかせる? 私は心の中で冷笑した。

「いつからなの?」

「去年入社した同僚だよ。お前と違って素直で可愛いし、口うるさくない。お前は仕事を理由に家事を後回しにするし、風呂を先に入れろとか、自分の思い通りにしようとする。嫁として最悪だよ」

私はスマホを操作し、録音を止めた。そして部屋のドアを開けた。

「お母さん、録音オッケーです」

義母と義父が部屋から現れた。夫の顔色が変わる。

「な、なんで二人がいるんだよ!」

「あら、騙したのはあんたでしょ。昨日の電話はスピーカーで全部聞いてたのよ」

義母はそう言うと、夫の頬を平手打ちにした。義父は落ち着いた声で言った。

「お前はいつからそうなったんだ。妊娠中の妻を労われないのか。子供の命を、俺の孫を、浮気のために利用するなんて、人間としてどうなんだ」

父の言葉にも、夫は「全部あき子が悪いんだ!」とわめき散らした。私は我慢の限界だった。

「悪いのはあんただろ? この最低野郎!」

思わず出た言葉に、周りはポカンとしていた。

「妊婦が吐いて何が悪いの? あんたは夫としても男としても人間としても最低よ! 離婚でもなんでもしてやるわ!」

多分、生涯で一番大きな声だった。

後日、離婚はあっさり成立した。私が録音していた浮気の告白が決め手になった。慰謝料200万円と養育費をもらい、財産分与も完了した。浮気相手には、奥さんがいることを知らなかったなどと言い訳されたが、私は強くなっていた。「奥さんがいるのを知らない?」などと甘いことを言う相手に、150万円の慰謝料を請求した。最初は逆切れしていた彼女も、最後には謝ってきたが、私は受け取らなかった。

元夫は、私の給料を失ったことでマンションの家賃が払えなくなり、自分の慰謝料でも苦しかった。会社でも浮気がバレて解雇され、その後も複数の女性と関係を持っていたことが発覚し、その女性の一人に子供がいたことで慌てて会社を去ったらしい。復縁を求めてきたが、私はきっぱりと断った。

「あなたと結婚したのは間違いだったの。もう二度と同じ過ちは繰り返さないわ」

電話番号も変えた。もう連絡は来ない。

私はお腹の子供と二人で、新たな人生を始める。今はただ、その一歩を踏み出すことだけを考えている。

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