昼休憩の社員食堂で、俺は一人で弁当を食べていた。女性だらけの職場で働く男は、こういう時間が唯一の安らぎだ。仕事は暇だったし、のんびりとした金曜日だった。
「ああ、見つけた」
後ろから聞こえた声で、誰だかすぐに分かった。特徴的な、よく通る可愛らしい声。振り返ると、さおりさんが笑顔で立っていた。彼女はこの職場で一番可愛い女性だ。39歳で、ずっと女子校育ちだから男性経験がなく、マッチングアプリでも良い出会いがないと嘆いていた。
「ねえ、一緒にご飯食べようよ」
断る理由もなく、俺は頷いた。すると彼女が他の女性たちも呼び寄せ、6人ほどの女性が俺の周りに集まった。その中には印象的な二人もいる。男性より女性にモテるという綾さん、そして夜の知識だけはやたら豊富な知識人の知夏さん。みんな男性経験がないらしい。
昼食は和やかに進んだが、ふとさおりさんが切り出した。
「今日って時間ある? 実は、ちょっとしたお願いがあるの。だからみんなで飲みに行かない?」
「お願いですか? 残業ならできますけど」
「残業のお願いじゃあないの。今日は居酒屋じゃなくて、私の家で飲みたいの」
何だか不自然な雰囲気だったが、特に断る理由も見つからない。俺は首を縦に振った。金曜日だし、たまには飲み会も悪くない。下ネタはほどほどにしてくれればいい。
定時で上がり、みんなで酒とつまみを買ってさおりさんの家へ向かった。家は会社から近く、歩いてすぐだった。乾杯して和やかに飲み始めて30分ほど経った頃、俺は気になっていたことを聞いた。
「そういえば、お願いって何なんですか?」
その瞬間、女性たちの間に一瞬緊張の空気が流れた。さおりさんは姿勢を正し、真剣な顔で俺を見た。
「かずや君の……見せてくれませんか?」
「え?」
意味が分からず間抜けな声が出た。
「勉強させてください」
今度は綾さんが頭を下げる。
「知識だけじゃなくて、実践してみたいの。お願いします」
知夏さんまでもがそう言う。他の女性たちも口々に「お願い」と言って頭を下げた。
客観的に見れば異様な光景だった。俺は混乱しながらもなんとか言葉を絞り出す。
「ま、待ってください。俺のでいいんですか? こんな大勢の前で見せるなんてやばいですって」
しかし彼女たちは真剣そのものだった。
「他に頼める人がいないの。どうしても経験したいの。かずや君ならいつも笑って付き合ってくれるじゃない。経験豊富で優しそうだからお願いできるかなって思ったの」
綾さんがそう言う。俺は心の中で苦笑した。あれは苦笑いだったんだが。
どう断れば角が立たないか。俺は必死に考えた。確かに男としては嬉しいチャンスなのかもしれない。でも、こんな大勢と一気にどうにかなるなんて、経験がないし恥ずかしい。
それに何より、俺のものはバカでかい。初心者向けじゃない。絶対に俺は適任じゃないと分かっていた。初めては好きな人としてほしい。感情が伴った方が本人のためだ。
しかしなかなか断る言葉が浮かばない。するとさおりさんが少し近寄ってきた。
「かずや君、一生のお願い。最後までしてとは言わないから、見るだけとか、ちょっと触るだけでもいいの。とにかく一歩前に進みたいの。それに、私たち準備してきたんだよ」
「準備?」
「うん。少し前にこういうお願いをしてみるって話になって、かずや君なら優しいからオッケーしてくれるかもしれないねってみんなで言ってたの。でもネットとかで“初めての女はめんどくさい”って言われてるから、せめて迷惑かけないように、それぞれが練習してきたの」
俺は驚いた。ここまで真剣に考えての行動だったのか。彼女たちの思いを知って、断る方向で考えるのを一旦やめた。
「……俺の、でかいんですよ」
俺は正直にカミングアウトした。全員が真剣な顔で頷く。分かっているのか分かっていないのか。知夏さん以外はきっと分かっていないだろう。
全員の顔があまりにも真剣で、結局断れなかった。
「と、とりあえず、見せるだけですよ。絶対に最後まで行くことはないだろうから」
そう予防線を張った。
「うん。ありがとう」
さおりさんが嬉しそうに言った。ゆっくりと見せると、歓声が上がり全員が近づいてきた。
「す、すごい。え、これが平常時?」
「ネットで見たのより大きい」
「やっぱりね」
それぞれが反応していた。あまりにもジロジロ見られると、変な気分になってしまう。少しずつ元気になり始めた。まるで栽培している山の恵でも見るように全員が注目している。
「うわ、恥ずかしい」
そう思えば思うほど成長してしまう。あっという間にかなり元気になり、女性たちは全員驚いていた。さおりさんが興味心身の様子で触れてくる。
「さおりさん」
俺は触れるとまずいと思いながら彼女の名前を呼んだ。だが、そんな言葉は誰にも届いていないようで、全員がさおりさんに釣られて触れ始めた。お酒のせいもあって、自分を止められなくなっていた。
気付けば俺も触れ始めていた。誰に触れているのか分からない。優しく触れると、女性たちは甘い声を上げ、可愛い表情を見せていた。全員痛そうなそぶりすらなく、本当に準備してきたんだと感じた。
そして、いよいよという時。さすがに俺のは大きすぎて厳しいだろう。俺は改めてそう思い、なんとか理性を保った。
「もう、ここで終わりにしましょう」
そう言うと、みんなは「えっ」という反応をした。
「さすがに大きすぎて、みんなに辛い思いをさせてしまう」
俺はマックスの状態でそう説明した。だが、さおりさんは近づいてきて、改めて触れてくる。
「さおりさん、俺の話を聞いてください」
「うん。ちゃんと聞いてるよ。聞いてる上でこうしてるの」
彼女は小声でそう返した。
「そして、私、頑張りたいの。だからどうしても試してほしい」
真剣だけど色気のある表情で言われたら、心が揺れてしまう。
「……わかりました」
俺は思わず言ってしまった。他の女性たちは心配そうに見守っている。俺は優しくさおりさんに触れ、ゆっくりと一つになった。途中、苦しそうな顔をする彼女だったけれど。
「大丈夫。ずっと、したかったんだもん」
可愛い声でそう言う。俺としたいと思っていてくれたのだと思うと、どうしようもなくドキドキする。彼女が慣れるまでゆっくりと様子を見ながら、俺は彼女を愛した。漏れる声は高くなり、俺の耳に届く。
さおりさんの声に包まれながら、俺は果てた。終わった瞬間、周りから歓声と拍手が湧き上がった。
「大丈夫ですか?」
俺はすぐにさおりさんに声をかける。
「大丈夫。ありがとう」
彼女はゆっくりと微笑んでそう言った。だが、これで終わったわけじゃない。他の女性たちが列を作り、順番に俺の元へ来て頭を下げる。そして、俺とゆっくり一つになった。終わるたびに歓声と拍手が湧き上がる。
俺は6人の女性と順番に……してしまった。
「も、もう無理」
最後の方はそう漏らしていた。全員と終わると、みんな一列に並んで俺に頭を下げた。なんだか道場みたいだ。
「かずや君、本当にありがとう。これで経験者として生きていけるわ。恋愛にも積極的になれる気がするの」
「初めてってだけで踰えてたから。何か色々な未来が待ってる気がするわ」
綾さんも知夏さんもそんな風に言っていた。他の女性たちも自信が持てたとか、女に慣れた気がするとか言って笑顔を向けてくる。結果的には良かったのかもしれない。
その後は宅飲みが打ち上げに変わり、またみんなで飲んだ。
翌朝、俺はみんなより早く目が覚めた。周りを見渡すと、目覚めていたさおりさんと目が合った。
「おはよう」
小さな声でそう言って笑う彼女からは色気が漏れていた。一緒にコーヒーを飲もうと誘われ、リビングに移動する。
「昨日はありがとうね」
「いえ、改めてお礼を言われるのも変な気がしますね」
俺は少し笑ってそう返した。
「いつも下ネタに困った顔をしてるのは知ってたの」
「気づいてたんですか?」
「うん。でもかずや君優しいからさ。お願いすればもしかしたら経験できるかもって、そう話してたの。それで綾さんの提案もあって、お願いしてみようってことになったんだよね。巻き込んじゃってごめんね。疲れたでしょ? 本当にごめんね」
彼女は改まってそう言った。
「まあ確かに驚きましたね。でも最後の方はみんな新しい恋愛に進めそうな感じでしたから、結果オーライってことで」
俺は笑いながらそう答えた。しかしさおりさんは納得していないような顔で、遠くを見た。
「かずや君は恋愛する気はないの?」
そして、こう聞いてきたのだ。
「どうですかね? したいとは思いますが、彼女ができても、これがでかいせいで怖いって振られちゃうんですよね。こういうのを考えると、一歩踏み出す勇気は出ないです」
俺は過去を思い出しながら正直に答えた。
「そっか。じゃあ、勝手に思っているのはいい?」
彼女は俺をまっすぐに見てそう言った。
「へ?」
「元々、優しくていい人だなとは思ってたの。だから初めての相手がかずや君で、私は嬉しかった。昨日実際にしてみたら手付きが優しくて。私は初めてだから他の人がどうなのか分からないけど、すごく優しいなって思った。それがすごくドキドキしたの。かずや君と、したんだって思ったら、ドキドキしすぎて眠れなかったの。だから……勝手に思い続けてもいいかな?」
俺は驚いた。彼女に好かれているなんて、全く気づいていなかった。でも、嬉しかった。
「……素直に嬉しいです。デートとかもしたいですし、俺好みに染めてもいいですか?」
俺は少し笑いながらそう言った。
「やった」
彼女は嬉しそうに微笑んで、小さな声でそう言った。その後、他の女性たちが目を覚ましてきたこともあって、二人でゆっくり話す時間はなかった。みんなで近くのファミレスで朝食を食べに行くと、全員から改めてお礼を言われた。なんだか部活の顧問にでもなった感じで、変な感覚だった。
こうして、波乱のお泊まり会は幕を閉じた。
家に帰った俺は、早速さおりさんにLINEを送った。来週あたりデートしませんか、と。彼女からはすぐに返事が来た。
「来週行けるよ。行きたい。楽しみ」
テンション高めの文面だった。俺も自然と頬が緩む。
週明け、会社に行くとさおりさんと目が合った。彼女はちょっと照れたような顔で笑っていて、その表情が可愛すぎる。他の女性たちは、本当に俺で初めてを捨てたという感覚なんだろう。俺を意識する様子もなく、変な雰囲気になることもない。下ネタの話題も経験したことで一気に減り、どのアプリなら出会える確率が高いとか、今度合コンやってみないとか、そんな話題ばかりになっていた。
俺は何度も思った。大人数でやって変な空気にならなくて、本当に良かったと。
その後も俺とさおりさんは毎日LINEで楽しい会話を楽しんだ。週末になり、車で彼女の家まで迎えに行って、二人でデートに出かけた。デートの後は、ゆっくりと二人で愛し合った。
「かずや君に喜んで欲しいから、色々教えて」
彼女はそんな言葉を漏らしながら触れてくれる。言葉で言い表せないほど可愛かった。体を重ねるたびに彼女はどんどん乱れるようになり、必死に求めてくれるようになった。俺は彼女にのめり込むように好きになっていった。
過去の恋愛では、こんなにしてもらえることはなかった。だから、何回も嬉しそうに求めてくれること自体が、最高に嬉しかった。
告白されてから1ヶ月半ほど経つ頃には、俺は完全に落ちていた。
「好きです」
俺は余計な言葉を並べずに直接伝えた。
「嬉しい。このまま体だけの関係になっちゃうんじゃないかって、不安だったの」
そう言って彼女は俺に抱きついてきた。彼女を不安にさせていたことに反省した。
「友達の関係なら、こんなに何度もしないですよ」
俺は彼女を優しく抱きしめながらそう伝えた。
こうして、俺たちは付き合い始めた。付き合ってからも、さおりさんの可愛さに癒され続けた。毎回毎回、彼女の可愛さに心をわし掴みにされて、愛しくて仕方なくなる。もう本当に、一生離したくないと思えるほどに、俺はさおりさんにのめり込んでいった。
そして、幸せな時間は過ぎていき、気が付けば交際を始めて1年が経過していた。この1年、俺たちは本当に仲良く付き合ってきた。好きがどんどん大きくなって、好きすぎて怖いくらいになっていく。愛される幸せを知って、拒絶されない安心感を知った。
俺はそんな日常を、もっともっと続けていきたい。そう思うようになった。要するに、結婚を意識するようになっていったんだ。
だから、俺は彼女に内緒でプロポーズの準備を始めた。こっそりサイズを測って、指輪を買って。
「さおりさん、俺と結婚してください。付き合ってから、いや付き合う前から、本当に幸せな気持ちになれた。もうさおりさんのいない人生は考えられない。それくらい好きなんです。ずっと一緒にいたい」
俺はそう本心を言葉にした。さおりさんは少し驚いている様子だったけど、すぐに満面の笑みを浮かべて幸せそうに笑ってくれた。
「嬉しい。私の方が多分勝ってるよ。好きの大きさが多分、私の方が勝ってる。本当に幸せなの。初めてしてくれた人と、そのまま付き合えて結婚までできるなんて、こんな嬉しいことはないわ。本当にありがとう。これからもずっと、かずや君の隣にいたい」
「こちらこそ、お願いします」
俺は幸せな気持ちになりながら、「いや、俺の方こそ勝ってるよ」と少しだけ彼女と張り合う。どっちの方が好きな気持ちが大きいかを競いながら、その日はたくさんの愛を伝え合った。
こうして俺のプロポーズは無事に成功し、あっという間に入籍した。俺たちが家族になるのは早かった。
あれから9年が経ち、今も俺たちは心から愛し合っている。一緒にいるだけで今も幸せだし、さおりの可愛さに今も心をわし掴みにされたまま。それくらい本当に可愛い人なんだ。
あの時の女性たちも、みんな結婚したり交際相手と順調に幸せな道を歩いている。みんなそれぞれ幸せそうで良かったと、心から思う。
俺とさおりの付き合い始めたきっかけは、世間に言わせればありえない強烈なものだったと思う。それでも俺は、さおりと結婚できて幸せだ。これからもずっと、ずっとさおりを愛していくつもりだ。



