私はアミ。幼い頃に母に捨てられ、父と二人で暮らしてきた。大学を卒業後、地元を離れて会社員として働き、歯科クリニックで出会った信吾と結婚。翌年には双子の息子、ケントとハルトが生まれ、幸せな日々を送っていた。そんな時、父から高級マンションを購入したから一緒に住まないかと提案があり、夫と共に地元へ戻ることに。私はフリーのイラストレーターに、夫は念願の歯科クリニックを独立開業した。しかし、父が亡くなり、それから数年後、人生最悪の出来事が訪れる。20年ぶりに、私たちを捨てた母が突然現れたのだ。
母は私の財布から金を抜き取り、好き勝手に行動。夫も母を迎え入れると言い出し、私は孤立していく。さらに夫の浮気が発覚し、呆れて注意すらしなくなった頃、衝撃的な事実を知る。夫と母が不倫し、子供まで作っていたのだ。開き直った夫は離婚届を突きつけ、息子たちを私に押し付けた。絶望の淵に立たされた私は、父が残してくれた借金の証書と調査報告書を突きつけ、夫と母の欺瞞を暴いていく。
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「ケントとハルトはお前が引き取れよ。俺はち恵みさんと幸せな家庭を築くから離婚な。」
夫は双子の息子たちを私に押し付けた上に、自分は幸せな家庭を築くとまで言ってのけた。幸せな家庭を築く相手とは、私の実の母。母との同居を開始した直後から、夫と母は不倫関係になり、さらに夫の子供まで出産していた。夫は自分の名前が記入済みの離婚届を私に突きつけてきた。
「まあ、あんたの代わりに幸せになってあげるわ。心配しないで。」
私は思わず二人を睨みつけた。それを見た母が、自分の抱く子供に言い放つ。
「あら、怖いわね。あみおばちゃん、本当に怖いわね。一体誰に似たのかしらね。」
私を悪人呼ばわりする母。その様子を見ていた息子たちが口を開いた。息子たちの衝撃的な告白に、夫と母は目が点になっている。
「え、なぜだ? どういうことなんだ? 」
夫の秘密を暴露した息子たちのおかげで、夫と母はそれまでの勢いを失い、押し黙ってしまった。私の名前はアミ。今はフリーのイラストレーターをやっている。私が幼い頃、母のち恵みが離婚届けを置いて、とある男と駆け落ちして家を出て行ったため、私は父と二人で暮らしていた。その後、地元の大学を卒業し、地元を離れて就職。会社員として働いていた。そんな時、運命の出会いがあった。当時通っていた歯科クリニックの担当医が、今の夫となる信吾だった。通っていくうちに私たちは意気投合し、結婚に至った。その翌年には双子の息子のケントとハルトが生まれ、家族共々幸せになった。
双子の息子が生まれた後、父からこんな連絡が入った。
「双子の息子が誕生したようだが、一度地元に帰って一緒に住まないか。実はお父さん、高級マンションの一室を購入したんだ。どうせならお前の家族も一緒に来るといい。歓迎するぞ。」
なんと、父から一緒に住まないかとの提案。しかも父は高級マンションの一室を購入したらしい。父は夫も一緒に来ていいと言っていたため、夫に相談したところ、即座に了承に至る。私は勤めていた会社を退職し、夫も当時勤めていたクリニックを退職して、一家で地元に住む父のマンションへと引っ越した。
マンションの質を見た私は、思わず腰が抜けてしまった。
「こ、こんなマンション、とんでもない出費ね。お父さん。」
「ははは。びっくりしたか。」
広々とした空間に豪華な内装。夫も私同様に腰が抜けてしまっていた。父の住むマンションに引っ越してからは、私は趣味であった絵描きを生かしてフリーのイラストレーターに。夫は自信がついた上にやる気が満ち溢れたのか、独立して自分の歯科クリニックを設立した。何もかもが順風満帆だった。
しかし、住んで3年が経った頃、父が他界した。
「アミ、お父さん。」
これから幸せな生活が訪れるだろうと思った矢先の突然の不幸。私はくじけそうになったが、そんな私を支えてくれたのは夫だった。
「アミ、今は言葉も見つからないほど辛いよね。でも俺がいつでも支えになるから。」
夫からの励ましをもらい、私はなんとか心を持ち直すことができた。そうだ。私にはまだ夫と息子たちがいるのだから。父が亡くなってからも私たちの生活は安定していた。しかし、息子たちが10歳になった頃、私にとって最悪の出来事が訪れてしまった。それは突然の来客だった。インターホンが鳴ったため、私は対応した。少し派手目の服装に若作りした女性だ。
「はーい。あみちゃん、お久しぶり。」
私はその人物を見て寒気が走った。だって、そこにいた人物は20年も前に私と父を捨てた母だったのだから。
「え、お母さん、なんでこんなところに? 今更何しに来たのよ。」
「ちょっと、久々の再会なのにそんな言い方はないでしょ。ねえ、それよりもあなたの旦那さんって司会なんでしょ?

お金がっぽり稼いでるんでしょ? 私、ここに住むわ。開けてちょうだい。」
何十年もどこをほっつき歩いていたのか知りたくもないが、正直こんな時に私の前に姿を表すなんて図々しいにも程がある。私は怒鳴り声を出して帰ってもらうよう追い返すも、全然応える様子がない。
「突然来て品のない会話ね。あなたには関係ないでしょ。今すぐ帰って。」
母は軽薄に笑いながら。
「いいから開けなさい。あみ、私たちは血の繋がりがあるのよ。少しは情けをかけてもいいじゃない。あなたと久しぶりにゆっくり話がしたいの。お父さんの遺産の話もあるしね。」
「情け。今更何を言っているの? 話すことは何もない。とにかく帰って。」
私は怒りをあらわにし、一方的にインターホンを切って母に帰ってもらうようにした。すると、騒ぎの様子を見に夫が私の元にやってきた。
「おい、どうした? アミ。」
私はその人物の詳細と、どうして騒いだのかという理由を夫に述べた。すると夫は驚くべきことを私に言ってきた。
「まあ、母親を養うのは当然だろう。受け入れてやったらどうだ?
」
なんと、こんな母親との同居をあっさり認めてしまったのだ。
「はあ。私は絶対に嫌よ。何考えているの? 」
「お前も冷静になれよ。実の母親だろ? いいか、今度お母さんが来られたら俺が迎え入れてやる。」
最悪だ。こんなことになった以上、再び母がやってきたとしても、絶対にインターホンに応答することはできない。絶対にだ。それからというもの、私はインターホンが鳴るたびにビクビクしていたのだが、ついに運悪く、母の訪問を夫が受け付けてしまったのだ。
「初めまして、信吾です。いやあ、お母さん、大人の魅力って感じで美しいですね。これからはここで自由に生活されてください。」
「あら、そう。では遠慮なくそうさせていただくわ。」
母はマンションに住むなり、家事や育児に追われる私の手伝いをしない上に、我が者顔で私の財布からお金を抜き取って勝手にブランド品を買ったり、旅行に行ったりするのだ。私が注意しても、もちろん本人は聞いてくれないし、そのことを夫に相談しても、全然聞き入れてもくれない。
「親なんだから水に流して許したらどうだ? 久々の再会なんだし、多めに見ろ。」
まるで許さない私が悪いみたいな言い方をしてきた。しかも、その頃から夫の様子もおかしくなってきた。
「ねえ、あみ、知ってる?
あなたの旦那さん、女癖が悪いみたいなの。」
女友達から聞いた情報によると、夫は司会としてもモテるため、歯科衛生士や事務スタッフ、患者さんなどの複数の女性に手を出しているとのこと。情報提供をした女友達も夫に口説かれたことがあるらしい。私は夫に対してそれを問い詰めた。
「稼ぎ頭の亭主が浮気して何が悪いんだ。俺のおかげで生活できてると思ってるんだ。」
自分が浮気するのは当然のことだと言い張る始末だった。正直、この時を境に、私は夫、そして母に注意することを諦めてしまった。それからしばらくすると、あれだけ我が家に住ませろとうるさかった母が外をするようになり、ついには数ヶ月も帰ってこなくなった。さすがに心配はしたものの、元々私と父を捨ててどこかへフラフラと出ていった母だ。また同じようにふらっと帰ってくるだろうと思い、特に探すこともしなかった。母のいない元の生活に戻るのだから、私としてはありがたいと感じていた。
しかし、そんなある日、女友達から衝撃的な情報を知る。
「あみ、あなたの旦那が、年上の女性と一緒に歩いてたのよ。」
「はあ、そうなんだ。今度は熟女にも手を出したのね。」
私は夫がついに熟女にまで手を出したのかと呆れてしまったが、その女友達が実際にその現場を撮影したらしく、画像を私に見せた。
「全く、証拠もない。え、嘘でしょ? なんで、これ、私の母親なんだけど。」
夫と一緒に歩いていた年配女性の正体は、なんと母だった。しかも母は見知らぬ赤ん坊を抱いていたのだ。
「初めはただの知り合い同士だと思ったの。でも二人の会話がどう聞いてもカップルのような内容で、多分、旦那さんとお母さんの子供みたい。」
信じられなかった。夫と不倫していたどころか、子供まで作っていたことに。信じられなかった私は、しばらく放心状態となっていた。それから1ヶ月後、夫が家に帰宅してくるが、なんと母と堂々と手をつないで帰宅してきたのだ。
「アミ、ただいま。」
「ただいま、あみちゃん。」
夫と母がラブラブな様子を見せつけられて、気分が悪くなる。そんな二人に、私は例の画像を突きつけて問い詰めた。
「これはどういうことなの? なんで二人が? この子供は誰の子なのか、説明して。」
疑問に思っていたことを二人にぶつけ、説明してもらうようにお願いした。
「なんだ、そんなことかよ。だったら話は早いな。」
夫は開き直ったかのように笑い出す。話は早いと言ってきたことからも、浮気に関して悪びれる様子は全く感じられなかった。しかも、それに便乗して母まで私に対してこんなことを言い出す。
「あらあら、怖いわ。やっぱり信吾の言った通りね。本当に鬼みたいな人ね。」
問い詰めた私のことを、まるで悪人のように言ってくる母。
「まあ、言わなくても分かるだろう。俺はち恵みさんと付き合っている。子供も俺の子だ。それじゃ、そういうわけだから。ほらよ、離婚届け。」
夫は自分の名前がすでに記入されている離婚届を私に突きつけてきた。
「ケントとハルトはお前が引き取れよ。俺はち恵みさんと幸せな家庭を築くから。」
双子の息子たちを私に引き取るように押し付けた上に、自分たちは幸せな家庭を築くと言ってきた。私はそんな二人を睨みつけると、それを見た母が、自分の抱いている子供に対してこんなことを言い出した。
「あら、怖いわね。あみおばちゃん、本当に怖いわね。一体、どこの誰に似たのかしらね。」
そう言うと、ちらりと父の仏壇の方に目線をやった。私を怖いもの呼ばわりしてきた上に、遠回しに親のことまで馬鹿にされたような言い回しである。
「これまで色んな女と付き合ってきたが、彼女こそ俺の運命の人だ。そういうわけだ。お前はもういらない。」
夫は母が運命の人だと言い、私と完全に別れて母と新たな生活をスタートさせようとしていた。しかし、そんな騒ぎが気になったのか、突然息子たちがやってきた。
「ねえ、お母さん、本当にお父さんと離れ離れになるの?
どうして離れ離れになるの? 」
そんな息子たちに、夫はこう伝えてきた。
「そうなんだよ。実はママと離れ離れにならなきゃいけないんだよ。だから悪いな。これからはママと3人で住んでくれ。しばらくしたらお前たちを迎えに来るからな。」
夫は後で息子たちを迎えにやってくると言ってきたが、こんなのは嘘に決まってる。息子たちを迎えに来るなんてない。だが、息子たちはそんな夫に対してこう言った。
「え、そんなの無理だよね。」
「うん。離婚ってことでしょ? 離婚なんてまだ無理だよ。」
息子たちは離婚できないと夫に言い返したのだ。
「うん? なぜだ?
どうして離婚できない? 」
息子たちの思わぬ答えに驚いた夫は、焦った口調でその理由を私たちに聞いた。すると息子たちはその理由を夫に教えた。
「いやいや、だってお父さん、おじいちゃんから借金してるでしょ。」
「そうそう。この歯科クリニック建てるための。しかも1億もね。」
息子たちが述べた理由に食いついてきたのは母だった。
「え? どういうこと? 1億って?
」
母は信じられない様子だったが、それよりも夫の方が酷かった。顔を青ざめさせ、体を震わせながら母に聞かれる夫だが、一向に答える気配が見られない。そんな夫に変わって、私が答えた。
「実はね、この人、歯科クリニックを独立開業する際に、開業するための土地や建物、医療設備とかにお金が必要だったの。その費用の合計が1億円。」
私がその1億円の理由を述べていくと、母がここで私に聞いてきた。
「じゃあ、その1億円、出したのって。」
それは1億円の出所。もちろん、この人だって分かっているだろうが、私はその人物を教えた。
「もちろん、あなたが捨てた私の父さんよ。」
そう、この男の独立資金を出してくれたのは私の父だった。実は、息子たちが生まれた頃、夫は独立して歯科クリニックをやりたいと言い出したのだ。私は当然、そのことには反対した。子供が生まれたばかりで、独立する費用なんて馬鹿にならないからだ。
だが、それでも夫は諦めきれないのか、とうとう父のところにまでお願いに行った。
「お願いします。お父さん。どうか開業資金を出してください。お願いします。」
父にお願いするも、当然ながら父も反対だった。
「そんなこと、簡単に了承できるわけないだろう。君は少し甘く見てる。そもそも、その資金を作るまでの苦労を君は理解しているのか? 」
父は夫に対して、お金を貯める大変さを知っているのかと聞いた。
「それは重々承知しています。お金を稼ぐ大変さは分かっています。ですが、俺も開業の夢を簡単には諦められないんです。」
だが夫は、そんな父の言葉に対して、独立開業に対する熱い主張を繰り出した。あまりの熱意に、私も圧倒されてしまい、この時ばかりは夫が頼もしい人だと思ってしまった。それは父も同様だった。
「その心意気、大したものだ。よし。ならば開業資金は私が出そう。」
「ありがとうございます。」
夫の熱い思いに心を動かされてしまい、父はその開業資金を出すことに。開業できると知った夫は、父に感謝した。ただ、父は簡単に出すような人ではなかった。
「ただし、条件がある。その条件は少し立ってから教えておく。」
「え、わかりました。」
父の意味深な言葉から数週間後、父は夫にある書類を渡した。その書類に書かれていたのは、その開業資金に関する公正証書だった。内容は、決められた期間以内にその開業資金を返済していくこと。私と夫が離婚した場合でも返済は有効であること。もし返済に応じない場合は、債務者の財産から強制執行を認めるなどが書かれていた。
「これはどうしてですか? 」
夫はなぜこんなのを書かされるのかと疑問に思っていたが、父はそんな夫に対して淡々とその理由を述べた。
「君の熱意は素晴らしいが、だからと言って、そんな大金を簡単に出せるほど私は仏様ではない。逆の立場で考えてみたまえ。君はそんな大金を簡単に出せるのか? 」
その理由に夫は黙ってしまう。その表情から考えても、おそらく納得しているのだろう。
「それに、これは君の覚悟の証でもあるんだ。その覚悟があるのならば、署名と捺印するといい。」
父がそう言うと、夫は少しためらったものの、その公正証書に署名と捺印を行った。それからすぐに父は夫に開業資金の1億円を渡し、夫はそのお金を使って自分の歯科クリニックを開業したのだ。
「忘れたとは言わせないわよ。」
私は夫にそう言ったが、夫は開き直って私に言い返した。
「いやいや、親父さんは亡くなっただろう。だったら借金はチャラだろう。なんと言われようと、俺は返す気はさらさらないぜ。」
父が亡くなったから借金は帳消しだろうと言い出す夫。
「あの時、開業資金を出してくれると言った時は鳥肌が立ったね。俺の熱意に押された親父さんの顔ったらなかったぜ。どうせ親父さんが先に亡くなるのは分かりきった上で頼んだんだよ。案の定、言ってくれたから、借金はもう返さなくていいんだよ。」
腹を抱えて笑う夫の汚さに、ため息が出る。
「はあ。借金がチャラ。そんなわけないでしょ。」
私は例の公正証書を夫に見せた。
「なんだよ、それ。」
「この部分を見なさい。」
私は夫に公正証書のある部分を指し示した。
「うん。何だ。『債権者が死亡した場合は、債権は相続人に譲渡される』。」
「おい。どういうことだよ。」
夫が声を荒げて私に聞いてくるが、実は父の死亡後、債権者は私になっていたのだ。だが夫は何も知らないと言いたげだったが、それに関しては私が説明した。
「そもそも、これに関しては最初から書類に記載されているわよ。あなたの署名や捺印がしてあるということは、これを全て理解しているんでしょう。知らないとは言わせないわ。」
私が強い口調で夫に伝えると、夫は顔を曇らせて何やらぶつぶつと言い始める。
「ありえない。ありえない。ありえない。」
同じ言葉を繰り返していたが、そんな様子の夫を無視して、私はさらにとある書類を見せた。
「はい。これを確認しなさい。」
その書類は夫の調査報告書だった。実は夫は司会として軌道に乗ったものの、父からの借金を1円も返していなかったのだ。それどころか、夫は稼いだ収入のほとんどで高級車を購入したり、愛人の女たちに貢いだりしていたのだ。
「ちなみに、これも弁護士さんの許可を得てますから。たとえ訴えたとしても、あなたが負けるのは必須よ。」
この調査報告書も弁護士の許可を得ているのだから、これは違法でも何でもない。それを聞いた夫は絶望し、床に崩れ落ちていく。
「まあ、何よりもこの公正証書によれば、返済期限はあと1年ほどね。果たして返せるのかしらね。」
夫に容赦ない事実を突きつけていく私。すると、そんな状況に、母が私にこんなことを聞いてきた。
「ええ、聞きたいんだけど、お父さんはどうして1億円を持っていたの?
」
どうやら父がどうして1億円もの大金を持っていたのか、気になったらしい。
「ええ、実はね。あなたが家を出ていった後に、父の投資がうまくいってね。実は私の父は投資事業で身を立てていたの。もちろん最初はうまくいかなかったものの、徐々に資産を増やしていくことに成功した。そのおかげで膨大な資産を持つことができたため、夫に1億円ものお金を渡すことができたんだ。」
「あ、そうそう。これに関しては残念だけど、あなたには1円も入らないと思った方がいいわ。」
私は先に、母に対して母の元には1円も入らないと伝えた。母は信じられない様子だったが、私はその理由を母に教えた。
「お母さんがまだお父さんと一緒に生活していた頃、喧嘩した勢いで記入した離婚届を突きつけてたでしょう。お父さんはそれをしっかり保管していたの。そして、お母さんが出ていった後に、ちゃんと記入して提出したわ。どういう意味か分かるかしら? 」
母は自分がやってしまった失敗を理解し、唇を震わせている。
「お父さんが巨万の富を得たのは、お母さんとの離婚が成立した後なの。つまり、今ある財産は夫婦共同のものじゃないから、お母さんにはびた一文入らないわ。」
その事実を聞かされた母は絶望した表情だったが、すぐに開き直って平気そうな表情へと変わった。
「ふふーん。まあ、別にいいけどね。」
何も感じていない様子の母。それを見るだけでも腹が立ちそうだったが、私は冷静だった。すると、私と母のやり取りの最中、夫は突然顔をあげるなり、母に対してこんなことを言い出す。
「な、なあ、ち恵みさん、頼みがある。当分、無駄遣いは我慢しよう。」
「はあ? 何言ってんの? 無理に決まってるでしょ。」
突然無駄遣いをやめろと言われた母に、夫は言う。
「だって、こんなことになって、色々変える状況じゃないだろう。」
「あっそ。そういうことなら悪いけど、あなたのような借金まみれの貧乏男は無理よ。さよなら。」
母は子供を連れてマンションを出ようとしたが、夫に引き止められてしまう。
「待ってくれよ、ち恵みさん、俺を捨てないでくれ。話しなさいよ。」
見苦しいやり取りをしている二人の騒ぎで、母の抱いていた子供が泣き出した。そんな中、私はとある一枚の写真を見せた。その写真は、赤ちゃんを抱いた母が、男性と高級マンションから出てくる様子だった。
「ほら、この写真をよく見なさい。」
写真を見た二人の反応は面白かった。夫の方はいまいち理解できていない様子だったが、母の方は目を背けていた。私はこの写真の真実を語った。
「実はこの写真は、お母さんの不倫の写真よ。実は、母と夫の不倫を知った私は、1ヶ月かけて母のことを探偵に調べさせていたの。その結果、母はホスト経営の男性と長年にわたって交際していたことが判明したの。」
「はあ?
意外にも男がいたのか。」
夫は母の浮気に対して呆れるが、そんな夫に私は言う。
「人のこと言えないでしょ。自分だって何人も女がいるくせに。」
私の言葉に、夫は反論しようとするが、母が反撃する。
「そうよ。人のこと言えないでしょ。」
それを機に二人の言い争いが始まったが、その声があまりにも煩かったのか、またも母の子供が泣き出した。そんな二人に対して、私はこんなことを言ってやった。
「あら、お互い同じことしてたんだから、それくらい許したらどうなの? 自分のことを棚にあげて、人のことを指摘する前に、自分の行動を見直したら? 」
かつて二人に言われた言葉を、見苦しい争いをする二人に言ってやると、先ほどまでの言い争いが嘘のように止まったが、母の子供は一向に泣き止まなかった。そんな様子を見て、私はさらに二人に言った。
「自分は良くて相手はダメ。そんな理屈、どこから生まれるの? そもそもお互い様でしょ。互いに浮気者同士なら、それくらい認めたらどうなの?
いい年して恥ずかしくないの? しかも、その子を泣かせるほど見苦しい争いをして。」
今までの鬱憤を晴らすため、私は二人に容赦ない言葉を浴びせる。先ほどまでの言い争いをしていた二人の表情は、徐々に沈んだ表情へと変わっていく。
「おばあちゃんもお父さんも同じようなことをしているのに、なんでそれが許せないんだろうね。」
「本当だよ。こんな大人にはなりたくない。だっせえ。」
双子の息子たちからの容赦ない言葉に、二人の表情はさらに沈む。10歳の子供からの純粋なこの言葉は、二人の心に多大なるダメージを与えたのだろう。
「そうそう。残念なお知らせだけど、お母さんも逃げられると思わないでね。」
母は私の言葉が理解できなかったのか、口を開けたまま茫然とした表情となっていたが、私はそんな母に教えてやった。
「実はね、この男性に直接教えたの。お母さんが夫と不倫していること。それを知ったら、この人すごい怒り出して、お母さんに慰謝料請求をすると言い出したのよ。」
思わぬ暴露に、母の表情はつい先ほどとは違い、青ざめた表情へと変わっていた。私はお構いなしに、さらに衝撃的な事実を二人に教えてやった。
「ちなみに、DNA鑑定も行ったわ。その結果、お母さんが産んだ赤ちゃんと信吾のDNAは一致しなかったみたいよ。」
二人は信じられない表情でこちらを見つめるなり、夫が母に向かってこう言い出す。
「なあ、その子、俺の子供だよなあ。」
「知らないわよ。誰の子だなんて、私は知らないわ。」
母は知らないとの一点張りだ。まあ、そんな話に関しては、私はどうでもよかった。
「ずれにしても、お母さんにとってあなたはただの金づるだったようね。最初から偽りの愛だったのよ。」
皮肉たっぷりに言ってやるも、二人はもうそれどころではなかったようだ。夫は母に対して「自分の子供だよな」と連呼していくも、母は「知らない、知らない」と言って逃げ回る。
「もう私に近づかないで。」
そんな捨て台詞を吐いて、母は一目散にマンションを出てしまった。取り残された夫は、絶望した状態のまま、玄関前でうずくまっていた。
「ほら、どうしたの? 言ったらどうなの? 」
私は夫に冷たく、追いかけるように言う。
「なんでこんなことをするんだよ。俺が何したんだよ。」
夫は私に対し、この仕打ちに文句を言い出したのだ。
「何言ってるの?
全て、身から出た錆じゃない? 」
「だからって、ここまでしなくても。」
こんな目にあってもなおも反省もせずに、私の仕打ちに納得がいかない夫。息子たちも夫に対して無慈悲な意見を言う。
「お父さんってさ、親としても失格だよね。だって、お母さんは僕たちのために自分の時間を削ってるのに、お父さんは自分のために遊んでるんだから。」
「そうだね。学校の先生が言ってたけど、子は親の背中を見て育つって。僕、こんなお父さんの背中を見て育ちたくないな。だって、お父さんは僕たちよりも子供みたいだもん。」
「カイトの言う通りだよ。こんな父親、いらないよ。」
息子たちの非情かつ純粋な言葉は、夫の父親としての威厳がないことを証明してしまったようだ。思わぬダブルパンチで相当なダメージだったのか、彼の表情は魂が抜けたかのような無表情となっていた。
「まあ、息子たちからこんなこと言われたら、もう父親として見られないわね。」
そんな夫に、私は容赦ない言葉を浴びせる。もうこの男に対しての感情はマイナスでしかなかった。
「どうするの? 離婚協議の裁判でも行う? いいわよ。不倫の証拠は全部揃ってるし、慰謝料もたんまり請求しますから。」
私は玄関前にいる魂の抜け切った夫にそう言い、玄関のドアを閉めて鍵をかけてやった。鍵をかけた後、私は満面の表情を浮かべた。ようやく長い長い仕打ちから解放された上に、苦しめられた二人に今までの鬱憤を晴らせたのだから。そう思ったら、思わず涙が出てきてしまう。
「あれ?
どうして? 私、私。」
私が泣いているのを見た息子たちが、私を心配して駆け寄ってきた。
「お母さん、大変だったね。でも、僕たち、将来お母さんの迷惑にならない立派な大人になるよ。」
「うん。あんなお父さんやおばあちゃんみたいなひどい大人にならないように約束するよ。だから、元気出して。僕たちはお母さんと一緒にいるから。」
息子たちからの慰めと激励に加えて、あんな大人にならないと約束までしてくれた。それを聞かされた私はさらに涙が出た。いい年をしたおばさんが、10歳の息子たちを抱きながら、子供のように声を出して泣き続けた。子供たちが私の味方でいてくれることが、本当に嬉しかった。息子たちに「よしよし」とされながら、その日は涙が枯れるまで私は泣き続けた。
それからというもの、夫は借金を返せる目途がないと感じたのか、購入した高級車、医療機器、そして自分の夢であったクリニックも土地ごと全て売却し、全額を返済することに成功した。
「これでいいんだろう? 慰謝料請求はしないよな。」
「いいえ。もちろんします。」
「嘘だろ? どうしてもう金なんてないんだよ。」
「知ったこっちゃないわよ。私への慰謝料。それからケントとハルトの養育費も、きっちり払ってもらうわよ。」
私は離婚届を提出し、慰謝料と養育費もしっかり請求した。
「じゃあね。お母さんと末永く幸せにね。」
皮肉混じりにそう言って、私は夫を送り出した。しかし、半年後、夫はボロボロの状態になりながら私の住むマンションにやってきた。
「俺は何のためにクリニックを捨てたんだ?
このままじゃ暮らしていけないよ。頼む。アミ、俺とよりを戻してくれ。」
自分の念願だった夢を捨てて情緒不安定になっている上に、私とよりを戻そうとまで言い出す。ここまで醜態を晒す夫に、私は呆れてしまう。もうこんな男の顔すらも見たくない。私は警察に通報した。
「アミ、俺とよりを戻してくれよ。俺の人生を助けてくれよ。」
結果、夫は駆けつけた警察官によって連行されるが、それでも懲りずにまだ私とよりを戻して欲しいと言っていた。そんな男に言い返す。
「いろんな女と浮気した挙げ句、私の母とも浮気しておいて、困ったらよりを戻そうとか、都合良すぎないかしら? そんなことも分からないで泣くあなたは、幼稚園児以下ね。復縁なんて願い下げよ。」
私のその言葉で、信吾はついに逆上し、完全に錯乱した状態で警察に連れて行かれた。一方で、母の方はまだ金づるとなる男を探し回っているようだが、子連れの初老女性と付き合う男は見つからないようだ。そんなこともあってか、母が私の元を訪れることがあった。
「ねえ、あみちゃん、お願い。お母さんを養って欲しいの。お願い。」
図々しくも自分を養って欲しいだのと助けを求めてくるが、私は丁重にお断りし、そんな母に言ってやった。
「私や父のことを捨てておきながら、何が養って欲しいよ。笑わせないで。そもそも、あなたが招いたことでしょう。自分でどうにかしたら。」
あまりにも都合が良すぎる母の身勝手な考えに、私は辛辣な言葉を送ってやった。元々神経の図太い母だ。中々帰る気配がなく迷惑だった私は、すぐに警察に通報して母を連行してもらった。そして、私は弁護士にお願いして、元夫と母に対して接触禁止命令を出してもらい、さらに接触を図った場合は30万円の支払いを命じるという念書までサインさせたのだ。その徹底ぶりのおかげか、二人は一切私に近づかなくなった。
ようやく夫と母との決着もつき、落ち着いた生活を送れるようになった。私は趣味で続けていたイラストの仕事をこなし続けたおかげで、その仕事ぶりが口コミやSNSで評判を呼んだ。この前に至っては一流ホテルで個展が開かれたりもしたため、今ではイラストの仕事だけで食べていくほどに稼げるようになったのだ。双子の息子たちも私を応援してくれている。新しい作品のアイデアを出す時には、二人は楽しそうに絵のコンセプトを一緒に考えてくれた。
「このキャラクターはもっと笑顔にしたらどうかな。」
「こっちの背景に星を描いたら、もっとキラキラして素敵になるよ。」
彼らの純粋な発想が私の創作意欲を刺激し、さらに良い作品を生み出す力となった。今では父の残したマンションに住みながら、双子の息子と共に幸せな日々を築いていこうと心に誓った。


