「お前、今月末で家から出てけよ」 朝帰りしてきた夫は、「ただいま」の代わりに、そう言い放った。理由を聞けば、愛人が男の子を妊娠したから、家事も介護も文句ばかりの私は邪魔だと言う。しかも、その言葉を聞いても、義両親は笑顔で夫を祝福した。男の子を望んでいた彼らは、最初から娘しか産まなかった私を、ただの家事要因として扱っていたのだ。 「これは今の俺たちに一番必要なものだろ?」…

「お前、今月末で家から出てけよ」 朝帰りしてきた夫は、「ただいま」の代わりに、そう言い放った。理由を聞けば、愛人が男の子を妊娠したから、家事も介護も文句ばかりの私は邪魔だと言う。しかも、その言葉を聞いても、義両親は笑顔で夫を祝福した。男の子を望んでいた彼らは、最初から娘しか産まなかった私を、ただの家事要因として扱っていたのだ。 「これは今の俺たちに一番必要なものだろ?」...

「もう離婚届、書いておいたから」
義父がそう言って、私の目の前に書類を突き出した。夫のかずは、愛人を妊娠させたことを満面の笑みで報告した翌日だった。

「お前、今月末で家から出てけよ」
朝帰りしてきた夫、かずは「ただいま」も言わずに、最初からそう切り出した。私は何が何だか分からず、口を開けたまま固まってしまった。

「彼女が男の子妊娠したんだ。しかも、お前は家事も介護も文句ばっかりで邪魔だからさ。出ていってくれ」

あっけらかんと、浮気していた事実を明かす夫。それどころか、私の存在を全否定する言葉に、私はただ呆然とするしかなかった。

私たちは結婚して5年も経っていない。娘のカノンとリオンはまだ幼稚園にも通い始めたばかりの双子だ。育てるので精一杯なのに、夫は外で女を作り、子どもまで作ってきた。

しかも、よりによって義両親はそれを歓迎していた。

「よくやったぞ! さすがは我が息子だ!」
「これでやっと家の後継ぎ問題が解決するわね」

義両親は満面の笑顔で、かずと抱き合っている。彼らは前々から、かずに「男の子を産んでくれる女性」を求めていたようだ。私が双子の女の子を産んだことなど、最初から気に入っていなかった。義父は私が話しかけても無視をするし、義母は家事のやり方ひとつとっては文句を言い、祖父の介護まで全て私に押し付けていた。

ここでの生活を思い出すだけで、胃が痛くなる。
朝、目が覚めてから寝るまで、私は家事と育児と介護に追われていた。義父は寝たきりに近く、介護ヘルパーに頼むと言っていたのに、結局「お金がもったいない」と私に押し付けた。義母はテレビの前から動かず、口だけ出す。夫は「俺は外で働いてるんだ」と一切家のことを手伝わない。

そんな日々に、私はもう限界だった。
だから、かずが離婚届を差し出した時、私はむしろ清々しい気持ちだった。

「これ、今の俺たちには一番必要なものだろ?」
かずはそう言って、既に自分の欄が記入された離婚届を差し出した。どうやら、前々から準備していたらしい。私はそれを受け取り、一言も言わずに娘たちを連れて、この家を出ることにした。

「ママ、どこに行くの?」
状況が分かっていないカノンとリオンに、私は優しく言った。
「もうこんな家じゃなくて、ママと3人で暮らすのよ」

実家に連絡すると、両親はすぐに迎えに来てくれた。10年ぶりに顔を合わせた父は、最初は私を見て顔をしかめたが、事情を話すと、かずたちに対して怒り始めた。

「何だと? そんなことが許されるわけがないだろう!」
「まさか、子供の性別を理由に浮気だなんて……頭がおかしいわよ」

両親は私を責めなかった。むしろ、「もうあの家に戻らなくていい」と言ってくれた。就職してからずっと連絡を絶っていた私に対しても、ちゃんと話を聞いてくれて、怒ってくれた。その姿に、私は改めて家族の大切さを思い出した。

それから私は、家事代行サービスのパートの仕事を見つけ、両親のサポートを受けながら、カノンとリオンを育てる日々を送っていた。

そんなある日、突然かずが実家に現れた。

「頼む! まどか! 俺が悪かった! もう一度やり直してくれないか?」

彼は別人のように痩せ細り、ボロボロの姿だった。聞けば、愛人は家事や介護の話を聞いてすぐに出ていってしまい、義母が代わりに家事をすることになったが、体を壊してしまったらしい。家はゴミ屋敷のように荒れ果て、義両親とかずの間では、毎日のように喧嘩が絶えないという。

「戻ってきてくれたら、あの家はお前にやる! 父さんたちももう年だ。いつ動けなくなってもおかしくない。そうなったら、家の権利を譲るから!」

かずはそう叫びながら、頭を下げた。
家の権利を餌に、私を奴隷のようにこき使おうとしているのだ。私はあきれて、一言だけ言った。

「もう私たちに近づかないで。あなたに求めるのは慰謝料と養育費だけよ」

そう言って、私はかずを追い返した。母が言っていた通りだった。
「いい? きっとあの人は、あなたとよりを戻そうと言ってくるわ。でも、何を言われても応じてはいけないよ。人間、そんなにすぐに変われない。調子がいいのは最初だけよ」

かずはまだ諦めなかった。
1年後、今度は「一生の願いだ。助けてくれ」と、泣きながら私の服にすがりついてきた。愛人からも慰謝料と養育費を請求され、首が回らなくなったらしい。

「自分の問題は、自分でなんとかして」
私は冷たく言い放ち、警察を呼ぶと脅して追い払った。

あれからさらに数年が経った。
カノンとリオンはすくすくと成長し、私も仕事に慣れて、今では指名してくれるお客様もできた。元愛人の女性は、私と同じようにパートで働きながら、子供をしっかりと育てているらしい。

かずと義両親は、実家を売却し、狭く古いアパートで暮らしていると弁護士から聞いた。それでも私は、慰謝料と養育費の支払いを猶予するつもりはない。ここで優しくすれば、きっとまた調子に乗るからだ。

「カノン、リオン! 幼稚園に遅れるわよ! 早くしなさい!」

今日も私は、娘たちの笑顔を守るために、一日を全力で生きていく。

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