居酒屋で一人で酒を飲んでいた私は、突然ヤクザの組長に「さっきからうるせえんだよ、ババア」と怒鳴られた。大人数の部下を連れて下品に騒ぎ、若いバイトの女の子にまで「今日は俺に付き合ってもらうぜ」と手を出し始めたのだ。我慢できずに注意したところ、今度は足を蹴られ、店の皆を守るために一人で立ちはだかって殴られ続けた。その時、店の電話が鳴り響いた。スピーカーから聞こえてきたのは、私の幼馴染みの声だった…

居酒屋で一人で酒を飲んでいた私は、突然ヤクザの組長に「さっきからうるせえんだよ、ババア」と怒鳴られた。大人数の部下を連れて下品に騒ぎ、若いバイトの女の子にまで「今日は俺に付き合ってもらうぜ」と手を出し始めたのだ。我慢できずに注意したところ、今度は足を蹴られ、店の皆を守るために一人で立ちはだかって殴られ続けた。その時、店の電話が鳴り響いた。スピーカーから聞こえてきたのは、私の幼馴染みの声だった...

さっきからうるせえんだよ、ババ。せっかく俺たちが気持ちよく飲んでいるのに、いちいち文句をつけてくるんじゃねえ。

片岡はそう言うと私を睨みつけた。私は行きつけの居酒屋で酒と食事を楽しんでいた。すると、ヤクザの組長である片岡が大勢の部下と共に下品に騒ぎ始めたのだ。うるさいと思いながらも様子を見ていると、片岡たちはまだ若いバイトの女の子にしつこく絡み始めた。私が注意したところ、片岡は今にも殴りかかるような勢いで私を怒鳴りつけてきた。この直後、片岡の運命は一気に転落していくことになるのだった。

私の名前はゆかり。大学生の息子がいる普通の主婦だ。子供の頃から社交的な性格だった私は、昔からたくさんの友達がいた。だが一番の親友は幼馴染みの伊藤り子だ。り子はヤクザの家の娘で、小さい頃は周囲から怖がられ、一人でポツンと過ごしていることが多かった。私はそんなり子を放っておくことができず、声をかけて遊んでいるうちに親友と呼べる間柄になっていたのだ。

卒業後、り子は家の跡を継ぐためヤクザになり、私は普通の会社員になって結婚をした。それでも私とり子は唯一無二の親友として付き合いが続いており、今は私が行きつけにしている居酒屋で顔を合わせて一緒に飲む仲だ。

その日、私がいつもの居酒屋に行くと、店長が困った様子で声をかけてきた。

「川口さん、今日は伊藤さんと一緒じゃないんだね。」

「ええ。別にり子と待ち合わせして来てるわけじゃないもの。私、週末関係なくこの店に来てて、り子とはいつも偶然店で会うってだけなの。店長、り子に何か用があったの?」

「実は最近この店にヤクザらしい連中が来るようになってね。金を支払わないとか、シノギを請求されるようなことはないんだが、酒癖も悪ければマナーも悪くて、どうしたもんかと困っているんだよ。」

「それは大変ね。分かったわ。ヤクザが相手なら、り子に話を通した方が良さそうだし。私からり子に連絡しておくわね。」

私たちがそんな話をしていると、居酒屋のドアが乱暴に開かれた。

「ああ、邪魔するぜ。」

そう言いながら現れたのは、いかにもヤクザといった風体の男と、50人近い部下らしい集団だった。男たちは若い者を連れて広い席に陣取り、ふんぞり返ってメニューを眺める。その様子を見た他の客たちは、明らかに迷惑そうな顔をすると、早々に会計を済ませ全員が出ていってしまった。

「川口さん、さっき話したヤクザのような連中ってのは、あいつらのことだよ。真ん中で一番偉そうにしている男が片岡で、周囲から組長と呼ばれている。他の奴らは多分片岡の部下だろうな。」

「なるほど。確かに彼にも普通じゃなさそうな雰囲気ね。しかも組長なんて呼ばれているなら、ヤクザで確定よ。」

「やっぱりそうだよな。あいつらいつも大人数で押しかけてくる上、散々騒ぐから、他の客たちはあいつらを見るとすぐに帰っちまうんだ。このままじゃ常連客が離れちまうよ。」

店長は男たちを見ながら小声でそう告げた。一方の片岡はと言うと、早くも部下たちと大声で騒いでいた。

「おい、この店には綺麗な姉ちゃんはいねえのか? 誰か俺たちに酌をしてくれよなあ。そっちの姉ちゃん、若くて美人じゃねえか。ほら、もっとこっちに来てビールをついでくれよ。」

片岡はアルバイトの女子大生を見ると、ニヤニヤしながら声をかけた。店長はすぐさまバイトの子を下げた。

「お酌なら私がしますよ。はい、どうぞ。」

そう言ってバイトの子の代わりに片岡たちの対応をする。

「なんだよ。店長が酌してもつまらねえだろうが。さっきの可愛い子はどこ行った?」

「まあ、そう言わずに。どうぞ。ビールだけでいいですか? 他のお酒も注文しますか?」

「そうだな。今日はブカたちもいるからな。ビールをたっぷり持ってきてくれ。それからつまみもたんまり寄越せよな。他の客なんて後でいい。俺たちを最優先にしろ。」

片岡たちはその後も大声で騒ぎながら酒を飲む。そうしておよそ一時間ほど経った頃だろうか。

「すいませんが、ちょっと席を外しますね。すぐに戻ってきますから。」

店長がそう告げ、店から出る。店長の代わりにバイトの子がフロアに戻った途端、片岡たちは下卑た笑みを浮かべながらバイトの子を呼び止めた。

「姉ちゃん本当に可愛いな。今日は何時頃にバイトが終わるんだ? バイトが終わったらちょっと俺たちに付き合ってくれねえかな? 何? 怖いことなんか何もしねえよ。姉ちゃんが今まで体験できなかったような面白い遊びを俺たちが教えてやるぜ。」

片岡は部下たち数人でバイトの子を取り囲み、下心丸出しの口説き文句で迫る。さすがに見ていられなくなった私は、片岡たちに向かって声を上げた。

「ちょっと、あなたたち、いい加減にしなさい。その子は明らかに困っているでしょ。大の男が一人の女の子に強引に迫るなんて、見苦しいわよ。」

「なんだよババア。若い子がモテてるからって嫉妬してんのか? ババアの嫉妬は見苦しいぜ。」

「嫉妬じゃないわよ。明らかにその子が迷惑そうにしているから注意してあげたの。それとも、あなた、女の子が嫌がってるのが分からないほど空気読めないのかしら? だとしたら、あなたってよっぽど持てない男ね。」

「うるせえ、ババア。余計なこと言うんじゃねえよ。せっかくこっちはいい気分で飲んでるってのに、ババアのせいで台無しだぜ。」

片岡は怒りの形相で私を睨みつける。そこに戻ってきた店長が慌てて私たちの間に入ってくれた。

「落ち着いてください。店内で喧嘩されたら困りますから。」

「止めるんじゃねえ。あのババアが余計な因縁つけてきたから、こっちはむしゃくしゃしてんだよ。一発ぶん殴ってやらないと腹の虫が収まらねえ。」

「それは申し訳ありませんでした。お酒を一本サービスしますから、どうか無事に済ませてはくれませんか?」

「はっ、だったら一番いい酒を頼むぜ。」

片岡は吐き捨てるように言うと席に戻った。私はすぐに店長へ頭を下げた。

「ごめんなさい店長。私が余計なことを言ったから大事になっちゃったわね。」

「川口さんがバイトの子をかばおうとしてくれたんだろう。川口さんのせいじゃないよ。それにしても、本当に質の悪い連中だよなあ。」

店長がサービスに出す酒を吟味している間も、片岡はバイトの子にしつこく絡んでいた。

「それにしても、あのババアの態度、本当にむかつくぜ。おい姉ちゃん。このイライラを解消するため、今日は俺に付き合ってもらうぜ。」

片岡はそう言うとバイトの子の腕を強引に掴んだ。

「怖がらなくても、たっぷり俺たちが可愛がってやるよ。」

まったく反省していないその態度に腹が立った私は、再度声を上げた。

「やめなさい。バイトの子が困っているって、さっきも言ったでしょう。もう、そんなに女の子からサービスして欲しいなら、ちゃんとそういうお店に行きなさいよ。それとも、そういうお店に行くほどお金がないから、居酒屋でだべってるわけ?」

「うるせえんだよ、ババア。下衆な顔で睨みやがって。お前、さっきから一言多いんだよ。わざと俺たちを怒らせてんのか。」

片岡は私を怒鳴ると、私の足を蹴りつけた。とっさに避けようとしたが、太ももにあたり、じんじんと痛んだ。

「何するのよ。」

危険を感じた私は、とっさに近くにあったお皿を手に取ると、つい片岡を叩いてしまった。

「痛えじゃねえか。そっちこそ何するんだ、クソババア。」

片岡の額からじわりと血が滲む。私たちの険悪な雰囲気に気づいた他の従業員たちが片岡と私の間に入って止めようとしたが、片岡はバイトの子を掴むと、彼女を強引に引き寄せた。

「せっかく楽しく飲みに来たっていうのに、あのババアのせいで最悪の気分だぜ。イライラして仕方がねえ。おい、お前、今日はバイトを切り上げて俺の相手をしろ。この店を出たらすぐに可愛がってやるよ。」

片岡はそう言うとバイトの子を店から連れ出そうとする。さすがにまずいと思った私は、出入り口の前に立ちはだかると、なんとか片岡をなだめようとした。

「ごめんなさい。つい手を出した私も悪かったわ。それは謝るから、その子は許してあげて。悪いのは私でしょ。その子はお店のバイトで、何の関係もないんだから。」

「うるせえ。だったらお前が相手するってのか。お前みたいなババアなんて願い下げなんだよ。とっとと俺の前から消えやがる。」

私と片岡がやり合う姿を見た店長は、密かにバックヤードへ向かった。するとすぐに片岡は店長の姿が見えないのに気づいた。

「おい、店長はどこ行った? まさか警察に連絡してるんじゃないだろうな。」

片岡はそう言うと部下と共に店内を探し始める。そしてバックヤードに入り電話をしていた店長を無理やりフロアに引きずり出した。

「おい店長。俺に隠れて電話なんかしやがって。一体どこに連絡してたんだ? まさか警察に通報したんじゃねえだろうな。」

「い、いえ。警察に通報はしていません。」

「だったら誰に連絡してたんだ? もし警察を呼んでたら、この店を二度と営業できないようにめちゃくちゃにしてやるからな。」

その時、片岡のポケットから着信音が聞こえる。片岡は面倒そうにスマホを取り出した。

「なんだ? 事務所からじゃねえか。もしもし。どうした? 一体何の用だ? おい、後ろがうるさくて何を言ってるのかさっぱり分からねえぞ。一体何があったんだ?」

「どうしたんですか、組長?」

「いや、事務所から電話が来たんだが、夜中にうるさくて声が聞き取れねえんだよ。誰からか分からねえが、その居酒屋から逃げてくれと聞こえたところで電話も切れちまったんだ。事務所に何かあったんじゃないですか?」

「すぐに事務所の連中に連絡を取ってみましょう。」

片岡と部下は各々スマホを取り出し、事務所や他の組員へ連絡を始める。だが誰とも連絡はつかなかったようで、全員が顔を合わせ首をかしげていた。

「組長、誰とも連絡がつかないのは、さすがにおかしいですよ。組に何かあったんじゃないですか? 様子を見に行った方がいいのではないでしょうか?」

「そうだなあ。だが、なんでわざわざ居酒屋から逃げるよう伝えたんだ? まるでこの居酒屋にヤバイ奴が来るみたいな言い方だよな。」

片岡たちが話し合っている間に、居酒屋の電話が鳴り出す。片岡は電話と店長を交互に見た。

「おい、店長、その電話を取れ。相手が誰であっても余計なことを言うなよ。念のため俺たちにも内容が分かるようスピーカーにしておくんだ。いいな。」

「は、はい。分かりました。」

片岡に言われた通り、店長はスピーカーにして電話を取る。すると、私の親友であるり子の声が店内に響き渡った。

「ああ、店長かい。そこに片岡ってやつがいるだろ。ちょっとそいつと代わってくれないかい?」

「代わらなくても聞こえてるぜ。お前、一体何者だ?」

「そうか。まだそこにいるのか。部下が親切に逃げろと忠告したのに。度胸があるのか鈍感なのか。そうじゃなきゃ頭が悪いんだろうね。」

「こっちはお前は誰かって聞いてるんだよ。質問に答えろ。」

「私なら今からそっちに行くつもりさ。誰かだなんて、すぐに分かるからわざわざ名乗る必要なんてないだろう。それよりも、もっと自分の組のことを心配したらどうだい?」

「何だって?」

「あんたの組なら私の部下が襲撃したよ。もうあんたたちが帰っても、ボロボロになった事務所しか残ってないだろうね。」

「何だと? 一体どういうことだ。」

「さあて、もうすぐその居酒屋に着くよ。あんたたちがまだ居酒屋に残っているようなら、全員二度と立てないくらいボコボコにしてやるから、覚悟しておくんだね。」

電話はそこでぶつりと切れた。片岡は部下たちと顔を見合わせた。

「一体どういうことだ? まさか本当に、事務所に残っていた連中全員がやられたっていうのか?」

「組長。もしあいつの言ってることが本当なら、かなりヤバい相手なんじゃないですか? 今のうちに逃げた方がいいのでは?」

「バカ言うんじゃねえ。今の電話、明らかに女だっただろうが。俺たちが負けるわけねえだろ。それに女相手に逃げたなんて知られたら、組長としての面目が丸つぶれだ。」

片岡は部下と逃げるべきか留まるべきか言い合いをしている。

電話の主がり子だと分かっていた私は、り子が来るまでこの店と従業員を守ろうと心に誓う。そして片岡たちが話しているうちに、店長たち全員を食品庫に逃げ込ませた。

「店長、バイトの子もみんな、ここに入って。今のうちにここに隠れて、しっかり鍵をかけておいて。もうすぐり子が来るから、あいつらのことも片付けてくれるはずよ。」

「分かりました。でも川口さんはどうするんですか?」

「私はり子が到着するまで、店長たちを守るわ。」

「ま、待ってください川口さん。さすがにお客さんの、しかも女性の川口さんにそんなことをさせるわけにはいきません。」

止めようとする店長を無視して食品庫のドアを閉めると、私はドアの前に立ちはだかった。片岡たちは私が店長たちを避難させたのに気づき、私を怒鳴りつけてきた。

「このババア、店の連中をかばってヒーローか? 元はと言えば、てめえが妙な言いがかりをつけてきたからこんなことになったんだろうが。」

「人のせいにしないで。あなたたちがマナーも何もない下品な飲み方をしているから悪いのよ。」

「本当に生意気な奴だな。てめえら、このババアに少しばかり世間の常識ってのを分からせてやれ。」

片岡は部下たちに声をかけ、私を散々殴りつける。だが私は必死に暴力に耐え、前に立ち続けた。私さえ倒れなければ店長や従業員を守れるのだ。そう思い、殴られても必死に耐える。

「ババアのくせに随分とタフじゃねえか。てめえら、もっと痛めつけてやれ。」

片岡たちは一切手を休めず私を殴り続ける。あまりに殴られすぎて意識が遠のき始めたその時、店のドアが開いた。

「ヤクザがやんちゃしてるってのは、この店かい。」

り子が姿を表した。そして目の前にいる片岡の部下たちを容赦なく叩きのめすと、私に肩を貸してくれる。

「ゆかり、ひどい怪我してるじゃないのさ。あのクズどもにやられたのかい。どうしてあいつらをぶん殴ってやらなかったのさ。あいつら、一応ヤクザでしょ。」

「私が手を出して大事になったら、この店に迷惑がかかると思ったの。」

「確かにその通りだね。でも安心していいよ。あいつはヤクザで、これはヤクザ同士のいざこざだ。私が責任取ってあいつらを地獄に叩き落としてやるから、ゆかりも好きに暴れてやりな。」

「そう。それなら、もう我慢することはないわね。」

私はり子に笑顔を向けると、それまで散々私のことを殴りつけていた男たちを思い切り殴り返す。片岡の部下は悲鳴のような声を上げると、その場に倒れした。

「なんだ、ババアのくせにやるじゃねえか。」

「あら、女だから喧嘩なんてしたことないとでも思った? これでも若い頃はそれなりに喧嘩をしてたの。それに今はり子がいるもの。」

あっという間に片岡の部下たちを全て倒し、残ったのは片岡ただ一人になる。片岡は忌々しそうにり子を睨みつけた。

「くそ。てめえ、その強さ、只者じゃねえな。どこかの組のヤクザか。」

「私のことを知らないってのかい。私もまだまだ知名度が低いってことかね。私は伊藤組の伊藤り子ってもんだよ。一応組長の娘で、次期組長候補さ。」

「い、伊藤組だって。あ、俺の組を支配しているあの伊藤組か。」

「その通りさ。あんたもうちの系列なら、せめて本家の組にいる幹部たちの顔と名前くらいちゃんと覚えておくのが礼儀じゃないかね。」

り子が伊藤組の人間だと知った片岡は真っ青になり、私を指差す。

「す、すいません。伊藤さん。でも今回の件は俺たちのせいじゃないんです。あの女が妙な言いがかりをつけてきて、それで少し騒ぎになっただけ。俺たちは巻き込まれただけで、全部あの女が原因なんですよ。」

「待って。私が悪いって言うの?」

「そうじゃねえか。お前が妙な言いがかりをつけてきたのは本当だろう。しかも俺に怪我までさせたじゃねえか。ほら、ここ。俺の額、血が出てるだろ。」

「確かにその傷は私がつけたものだけど、あなたが蹴飛ばしたから危ないと思って、つい手が出ちゃっただけよ。先に蹴飛ばしたのはあなたじゃない。殴ってきたのは事実だ。それに俺たちに文句をつけてきたのもお前だ。」

片岡の言い訳を聞いて、り子は大きくため息をついた。

「片岡って言ったね。悪いけど、今のあんたを信じる気はないよ。」

「なんでですか? 俺と伊藤さんは同じ組でしょ? そっちのババアは他人ですよ。」

「ゆかりをババア扱いするんじゃないよ。彼女は私と同い年なんだから、あんたにとっては私もババアってことかい?」

「い、いえ、そんな。」

「それにゆかりは私の幼馴染みで大親友なのさ。小さい頃からずっと仲良くしていたゆかりと、最近うちの系列になったあんたら、どっちを信用するかなんて分かりきったことだろう。」

「そ、そのババアが伊藤さんの幼馴染みで親友…。」

り子の言葉に片岡はその場に崩れ落ちる。

「それで、この店で何があったか説明してくれない?」

私はり子に言われ、片岡たちが居酒屋で散々騒いでいたことや、女子大生のバイトに手を出そうとしていたこと、私を散々殴ったことなどを話す。さすがに分が悪いと思ったのか、片岡はその場で土下座をし始めた。

「失礼しました。あなたが伊藤さんの親友とは知らず、ひどい口を聞いて本当に申し訳ございませんでした。もう二度とこの店には来ませんし、迷惑をかけた分の謝罪もいたします。だから、無事に済ませてはくれないでしょうか。」

片岡は額を床に擦りつけて必死になって謝る。だが、あまりにも反省するのが遅すぎた。

「邪魔するよ。」

店のドアが開き、中に伊藤組の組員たちが次々と入ってくる。その先頭に立っていたのは、り子の母親だった。

「あ、あなたは伊藤組の組長さん…。」

「おばさん、お久しぶりです。」

「母さんまで来たのかい? 私一人でも十分だったのに。」

「うちの系列の組が随分不始末な真似をしたようだからね。責任を持って、私も出てきたってわけさ。こいつらは事務所に連れて行って、しっかり落とし前をつけてもらうとするよ。」

伊藤組の組員は片岡を捉えると、そのままずるずる引きずっていった。

「す、すいませんでした。本当に二度としませんから、どうか許してください。お願いです。お願いですから。」

「心配しなくても、二度と悪さができなくなるよ。しっかり落とし前をつけてもらうからね。さあ、とっとと行きなさい。」

片岡とその部下たちを全員車に押し込むと、り子の母親は車で連れ去っていった。

「あいつらのことは母に任せときな。二度とゆかりの前にも、この店にも姿を表すことはないと思うよ。」

「そうね。ありがとう、り子。あ、そうだ。店長、もう開けて大丈夫ですよ。ヤクザたちはみんないなくなりましたから。」

私が食品庫のドアに声をかけると、ドアが開き、中から店長たちが出てくる。

「川口さん、なんて無茶をするんだ。血まみれじゃないか。大丈夫かい?」

「これは私の血じゃなくて、あいつらの血だから、全然大丈夫よ。それよりごめんなさい。結構暴れちゃったから、店がボロボロになってしまって。」

「女の川口さんが気にすることじゃないよ。助けてくれてありがとう。店はこれから直していくから。」

「でも私の気が済まないわ。せめて掃除くらいは手伝わせて。」

私が掃除用具を取り出すと、り子も一緒に掃除を始める。そして店内が片付いた頃、り子が言った。

「そろそろ休憩にしましょう。私、買い出しに行ってくるわね。」

り子は他の従業員を連れ、店の外に出ていった。店長と二人になった私は、改めて店長に頭を下げた。

「本当にごめんなさい、店長。よかれと思って口出しをしたから、かえって大事になっちゃって。」

「いいんだよ。川口さんが無事だったんだから。」

ところが店長は、大粒の涙をこぼした。

「え、店長、どうしたの? ど、どこか痛いところとかある?」

「す、すいません。川口さんが無事だったので安心したのと、ヤクザたちに散々脅されて恐ろしい目にあった気持ちが、急に一気に溢れてきて。」

「そうよね。怖かったわよね。」

「川口さん、こんな怖い思いをした店ですけど、また来てくれますか?」

不安そうに言う店長に、私は笑顔を向けた。

「当然よ。今度は私の家族を連れてくるわ。息子も二十歳を超えた大学生だから、お酒も飲めるようになったし、たまには家族で楽しむのもいいわよね。」

私の言葉に店長は安心したように頷いた。

それから三日後、私は夫と息子、そしてり子と一緒に居酒屋へと足を運んだ。

「いらっしゃいませ。」

店長も従業員さんもバイトの子も、みんないつも通りの笑顔を見せる。その姿を見て安心した私は、家族と親友と共に、お酒と食事を楽しむのだった。

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