夫は寿司を6人分だけ頼めと言った。正月に親族7人が集まるのに、だ。私は夫の「他人」だから数に入らないらしい。専業主婦は計算もできないのか、とまで言われた。
だから私は7人分頼んだ。夫がキレるのは目に見えていたが、私はもう黙っていられなかった。夫が言う。「お前を抜いたら家族は6人だろう。なぜ7人分頼むんだ」
私は笑って返した。「私を抜いても7人分必要でしょ。あなたのもう一人の嫁の分がいるから」
夫は動揺した。でも、ここが肝心だ。周りには親族たちがいて、夫は彼らの前ではいい顔をしている。私をいびるのはいつも二人きりの時だけの卑怯者だ。だから私は親族の集まる部屋へ行くと言い張り、夫を連れて行った。
両親や義兄夫婦が楽しそうに話している。私は皆の前で切り出した。「皆さん、大切なお話があります」夫は「ただの夫婦喧嘩だ」と取りなそうとしたが、義父の一言で引き下がった。「話があるというなら、まずは聞こう」
私はゆっくりと話し始めた。夫が二人きりの時だけ私をひどく扱うこと。今日のお寿司も6人分、つまり私を家族ではない他人として数えていないこと。すると義兄が言った。「その理屈で行くと、俺の妻も他人ってことになるな」
室内が騒がしくなった。義母も義兄嫁も嫁の身だ。他人事ではないのだろう。
「それに、お寿司は7人分あるわね」と義母が言う。「その通りです。これは京介さんのもう一人の奥さんの分です」
私は鞄から浮気の証拠写真を取り出した。1年ほど前から夫が家にいる時間が減り、スマホばかり触っているのを不審に思って調べたのだ。写真には、私以外の女性と腕を組んでホテルへ入る夫が写っている。
「この人に結婚を迫っているらしいの。だから未来の嫁ってことよね」
夫は「知らない。そんな女は知らない」と叫んだ。しまいには机を叩いて隠し撮りが卑怯だと怒り出した。
私は冷静に答えた。「私は隠し撮りしていないわ。私の協力者が撮影してくれたの」
その時、私は電話をかけた。するとすぐにインターホンが鳴り、入ってきたのは夫が勤める会社の取引先であるゴ田社長だった。夫の顔色が変わった。
「まち子さんは私の命の恩人なんです」とゴ田社長は言った。「昔、彼女が就職活動の面接に大遅刻したことを京介君から聞きましたね。あの遅刻の理由は、倒れている私を助けたからです。私はその後、彼女を探し続けていました」
さらにゴ田社長は続けた。「私には娘がいます。最近、既婚者の男にしつこく言い寄られているという噂を耳にしました。その男というのが、この写真に映っている人物です」そう言って、彼は私が配った浮気写真を指さした。
夫は真っ青になり、ついに土下座した。「申し訳ありませんでした。ゴ田社長の娘さんだとは知らなかったんです。どうかお許しください」
ゴ田社長は怒りで顔を歪めた。「許さないと言ったはずだ」
さらに私は追い打ちをかけた。「実は、私が浮気に気づいたのは、この女性だけがきっかけじゃないの。京介さんには、この方とは別に、もう一人浮気相手がいたんです」
夫は「嘘だ!」と叫んで私に飛びかかろうとしたが、義兄たちに押さえられた。私は離婚届を差し出した。「あなたのお望み通り、私はあなたにとっての他人になるわ。これにサインして」
結局、夫は私と離婚し、慰謝料を払った。会社も首になり、実家からも追い出された。夫の悪行は業界中に知れ渡り、再就職もできず、親族にも絶縁されて、孤独に暮らしていくことになった。
一方、私はゴ田社長にお礼を言われた。彼は言った。「人は一人では生きていけない。支え合って暮らしている。だからいつだって感謝の気持ちを忘れてはいけないんだ。それが京介君を許さなかった理由だよ」
私はもう一度立ち上がり、感謝の気持ちを持って前へ進もうと思った。



