最終面接の椅子に座った瞬間、人事部長は私の履歴書をゴミ箱に放り込み、「片親の無能は負債よ。お前の母親、どうせ男に捨てられたんだろ」と嘲笑った。必死に働いて私を大学まで行かせてくれた母を侮辱され、拳を握りしめた。私は胸ポケットのスマホを意識しながら、静かに言った。「では、親の顔を見ていただきましょう」。部長は鼻で笑ったが、私が告げた内線番号に、その顔色は一瞬で変わった。五分後、面接室のドアが開…

最終面接の椅子に座った瞬間、人事部長は私の履歴書をゴミ箱に放り込み、「片親の無能は負債よ。お前の母親、どうせ男に捨てられたんだろ」と嘲笑った。必死に働いて私を大学まで行かせてくれた母を侮辱され、拳を握りしめた。私は胸ポケットのスマホを意識しながら、静かに言った。「では、親の顔を見ていただきましょう」。部長は鼻で笑ったが、私が告げた内線番号に、その顔色は一瞬で変わった。五分後、面接室のドアが開...

最終面接の部屋で、人事部長は俺の履歴書をゴミ箱に投げ入れた。
「片親の無能は負債よ」
その言葉が、俺の二十年間の努力を全て否定した。
俺は立花優一、二十二歳。大手電気メーカーの最終面接に臨んでいた。
この会社は業界トップで、誰もが憧れる企業だ。廊下には緊張した就活生たちが並んでいる。
俺の母は女手一つで俺を育ててくれた。朝から晩まで働き、決して弱音を吐かなかった母の背中を、俺はずっと見てきた。
母子家庭だからと後ろ指を刺されないように。中学生の頃、母は毎朝四時に起きて弁当を作ってくれたものだ。
「冷凍食品じゃ栄養が足りないから」
疲れた顔で台所に立つ母の姿を、俺は今でも覚えている。
高校受験の前日、母は夜遅くまで働いて帰ってきた。それでも俺に「頑張ってるね」と笑顔を見せる。その笑顔がどれだけ無理をして作られたものか、当時の俺には分からなかった。
その苦労を思えば、自分の疲れは些細なものだ。俺も母の苦労に報いるために必死で勉強し、一流大学に入った。
様々な困難を乗り越え、一次面接、二次面接を自分の実力で突破できた。そしてついに最終面接までたどり着く。母を安心させたい。その思いだけが俺を支えてきた。
名前を呼ばれ、面接へ向かう廊下を歩く。その瞬間、ふと別の企業の採用面接のことが頭をよぎる。中堅メーカーの面接で「お父さんはどんな仕事を?」と聞かれ、「父は亡くなっております」と答えた瞬間、面接官の目が明らかに冷たくなり、かなり侮辱的なことを言われたのだ。
一週間後、不採用通知が届いた。あの冷たい目、その後の侮辱的な発言を俺は忘れられない。だから今回は万が一に備えて録音を始めることにした。
俺はスマホを取り出し、録音機能をオンにして胸ポケットにそっとしまい込んだ。深呼吸をして緊張を抑え込む。そして面接のドアをノックした。
扉を開けると、テーブルの向こうに二人の面接官が座っていた。どちらも五十代後半で険しい表情だ。右側が人事部長の菱岡。左側が役員の金田と名乗る。
面接は最初形式通りに進んだ。俺は聞かれた通り自己紹介を述べる。
「御社の技術開発力に魅力を感じ志望いたしました」
菱岡がパラパラと履歴書を見ながら鼻で笑う。
「うーん。ありきたりだね。みんな同じようなことを言うんだよ」
金田も蔑むような視線を向けてくる。俺は違和感を覚える。しかし気にせず技術的な質問に完璧に答えていく。だが菱岡の表情は依然として冷たいままだ。金田に至っては興味なさそうに腕を組んでいる。
そして菱岡が訪ねてきた。
「ところで、ご両親は何の仕事をされているのかな?」
俺は仕方なく答える。
「家族は母だけで、仕事は――」
瞬間、面接の空気が変わった。俺の言葉を遮り切って菱岡が鼻で笑う。
「ああ、片親か」
金田が腕を組んだまま高圧的に言う。
「私も役員になって二十年だが、片親育ちで成功した奴を見たことがないな。ここは名門企業だ。家柄も重要な要素だよ」
菱岡が金田に向かって話しかける。
「金田さん、前にいたでしょ?母子家庭育ちの若手」
金田が頷く。
「いたいた。使い物にならなかった奴だ」
菱岡が聞こえよがしに続ける。
「やっぱり家庭環境って大事ですよね。私も金田さんも、両親揃った裕福な家庭で育ったからこうして出世できた。家柄がいい人間を採用すれば会社の品格も上がるというのが私の持論でしてね」
「そうそう。金銭的な余裕があれば、きちんとした教育を受けられる。それが社会人として成功する秘訣だ」
二人は俺を見ずに会話を続ける。俺は拳を握りしめる。菱岡が俺の方を向いた。その目はそれまでの冷たさとは違う、明らかな侮りに満ちていた。
「母子家庭のガキは根性がないからな。お前の母親、どうせ男に捨てられたんだろ」
金田が笑いながら相槌を打つ。
「こんな女に育てられたお前も、所詮その程度なんだよ」
俺の中で何かが燃え上がる。母の顔が浮かぶ。毎朝四時に起きて弁当を作ってくれた母。受験前日、疲れた顔で「頑張ってるね」と笑顔を見せてくれた。その笑顔を侮辱された。
拳を握ると爪が手のひらに食い込んでいく。立ち上がって怒鳴りたい衝動を必死で抑え込む。違う。ここで感情的になったら負けだ。冷静に。冷静に。
俺は深呼吸をして冷静さを保とうとする。
「片親の無能は負債よ」
そう言いながら菱岡は俺の履歴書をゴミ箱に放り投げた。
「最初から期待してなかったけどな。ああ、でも親の顔が見てみたいよ。どうせ碌でもない女なんだろうけど、男好きなんだろうし。ちょっと優しくすれば簡単に――」
金田が下卑た笑いを浮かべた。
俺は立ち上がろうとして止まる。急速に頭が冷えてきた。このまま帰るわけにはいかない。
俺は椅子に座り直し、静かに告げる。
「今のご発言、全て録音させていただきました」
菱岡が顔色を変える。
「なんだと?」
金田も動揺した様子だ。俺は胸ポケットからスマホを取り出し、画面を見せた。録音時間が表示されている。
菱岡が睨みつける。
「勝手に録音するとは非常識な」
俺は冷静に返す。
「実は以前、別の企業の採用面接でも家庭環境を理由に不当な扱いを受けました。そのため今回は万が一に備えて、面接に入る前から録音していました」
菱岡が目を剥いて反論する。
「そことうちの企業とは関係ないだろう」
「はい。そうですね。では内線一番につないでください」
面接室が静まり、菱岡が驚いた顔で訊く。
「内線一番だと。なぜお前がそれを知っている?それは社長直通の、役員でも知らない者がいる極秘番号だぞ」
菱岡が疑念に満ちた目で俺を睨む。
「どこでそれを知った?」
俺は淡々と答える。
「先ほど『親の顔が見てみたい』とおっしゃっていたので、実際に見ていただこうと思いまして」
金田が怒る。
「ふざけるのもいい加減にしろ」
「ふざけているわけではありません。親の顔が見たいとおっしゃったので、その機会を作ろうとしているだけです」
菱岡が嘲る。
「はあ。いいだろう。お前が社長に何を言おうと、相手にされないだろうがな」
菱岡は内線電話に手を伸ばし、一番を押す。
「社長、失礼いたします。最終面接中の応募者が、社長とお話ししたいと申しておりまして――」
電話の向こうから女性の声がかすかに聞こえてくる。菱岡が困惑した表情で受話器を俺に差し出す。俺は受話器を受け取る。
「もしもし」
すると電話の向こうから聞き慣れた声が響く。
「優一なの?」
母の声だ。
「はい」
長い沈黙が続く。
「今どこにいるの?」
「最終面接の部屋です」
受話器の向こうで何かを考えている気配がする。
「五分で行く。そこを動かないで」
「わかりました」
通話が切れた。俺は受話器を置く。菱岡と金田を見ながら静かに言った。
「五分で来るそうです」
金田が声を上げる。
「社長がここに来る?まさか」
菱岡も明らかに動揺している。
「お前、本当に社長と知り合いなのか?」
俺は静かに答える。
「さあ、どうでしょうね」
二人は顔を見合わせる。菱岡が金田に小声で話しかける。
「こんな若造のために、わざわざ来るはずがない」
金田も不安そうだ。
「冗談に決まっている」
面接に重い沈黙が落ちる。壁掛けの時計の秒針だけがカチカチと音を刻む。一分がまるで十分にも感じられる。
廊下から足音が聞こえてきた。菱岡と金田が同時に扉を見た瞬間、ドアをノックする音が響いた。
ドアが開くと、品格のある女性が入ってくる。スーツは仕立ての良いもので、その立ち振る舞いからは揺るぎない自信が感じられた。
菱岡と金田が慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。
「社長、突然お呼び立てして申し訳ありません」
菱岡の声が上ずっている。金田も同じように頭を下げたまま固まっている。
母は二人に軽く会釈し、俺と目を合わせた。俺は立ち上がる。しかし何も言わない。母も俺に対しては無言のままだ。でも俺には分かる。「よく耐えたわね」母は目でそう言っている。俺も目で答える。「大丈夫。俺は負けてない」
そして母は冷静な表情で菱岡に尋ねる。
「菱岡部長、まず状況を説明してください。なぜこの応募者が私に連絡を取ろうとしたのですか?」
菱岡が汗を拭きながら説明を始めた。
「それが、面接中に多少厳しい質問をしたところ、逆上して録音していると言い出しまして。挙げ句の果てに内線一番につなげなどと言い出したのです。最近の若者は、少し注意されただけで過剰反応するものでして――」
菱岡は一気にまくし立てる。母の表情は変わらない。ただ静かに説明を聞いている。そして俺を見た。
「では、あなたの説明を聞かせてください」
俺は静かに答える。
「面接中、家族構成について質問され、母子家庭だと答えました。その後、家庭環境を理由に侮辱的な発言を受けました」
菱岡が割って入る。
「侮辱などしておりません。ただ一般的な質問をしたまでです」
「そうでしょうか。実際の音声を聞いてもらえば分かるはずです」
母の表情が厳しくなる。二人の顔色が変わった。母が俺に言った。
「その録音を聞かせていただけますか?」
菱岡が慌てて前に出る。
「社長、これは誤解です。何か行き違いがあったのかと――」
母が手を上げて制する。
「まず事実を確認します」
その声には拒否を許さない強さがあった。俺はスマホを取り出し、録音の再生ボタンを押す。面接に先ほどの会話が流れ始めた。
「ああ、片親か」
「私も役員になって二十年だが、片親育ちで成功した奴を見たことがないな」
菱岡の顔が青ざめていく。金田は視線を落としている。
「母子家庭のガキは根性がないからな。お前の母親、どうせ男に捨てられたんだろう」
母の顔から血の気が引く。拳を握りしめているのが見えた。
「こんな女に育てられたお前も、所詮その程度なんだよ。片親の無能は負債よ」
そして履歴書がゴミ箱に落ちる音。
「最初から期待してなかったけどな。ああ、でも親の顔が見てみたいよ。どうせ碌でもない女なんだろうけど、男好きなんだろうし。ちょっと優しくすれば簡単に――」
俺は録音を止めた。面接が静まり返る。菱岡が震える声で弁解を始めた。
「社長。これはその、ストレス耐性を図るための手法でして。実際の業務では厳しい状況もありますから、その適正を見極めるためにやったものでありまして――」
必死に言葉を重ねる菱岡の横で、金田は俯いたまま黙っている。母が冷たい声で言った。
「どのような手法であっても、家庭環境を理由にした発言は許されません。厚生労働省の指針に明確に違反するどころか、名誉毀損として法的責任を問われる可能性があります」
菱岡の顔が真っ青になる。
「申し訳ございません。今後このようなことは――」
母が遮った。
「履歴書をゴミ箱に投げ入れたというのは、本当ですか?」
俺が答える。
「はい。そこにあります」
母がゴミ箱を見た。履歴書が無造作に捨てられている。母はゆっくりとゴミ箱に近づき、履歴書を拾い上げる。丁寧に埃を払い、折れた角を直した。そして菱岡と金田を見据えている。
「この応募者は、私の息子です」
面接の空気が凍りついた。菱岡は顔面蒼白。金田は口を開けたまま固まっている。母が続けた。
「息子には、私が社長であることを伏せて、自分の実力だけで最終面接まで来るように伝えていました。世襲ではなく、正当な評価を受けさせたかったからです。私自身も父の会社を継いだ時、『二代目の無能』と陰口を叩かれました。だから息子には、誰にも文句を言わせない実力を身につけて欲しかったのです。ただし、万が一今回のような不当な扱いを受けた場合に備えて、内線一番だけは教えていました」
母が一度言葉を切り、続ける。
「息子は旧姓である『立花』を名乗っています。私は結婚前の姓、『山田』で社長業を続けていますから、社内の誰も息子と私の関係に気づきません」
俺の方を向く。その目には慈愛と誇りが宿っていた。
「よくここまで来たわね」
そして母は再び二人に向き直った。菱岡が震える声で言う。
「申し訳ございませんでした。もし知っていれば――」
母が冷たく遮る。
「知っていれば、どうしたのですか?」
母の厳しい視線に、二人はただ立ち尽くすことしかできない。菱岡が震えながら弁解を続ける。
「社長のご子息だとは本当に知りませんでした。もし知っていれば、このような失礼な対応は決してしませんでした」
「では、知っていれば丁重に扱ったということですか?つまり、社長の息子でなければ、母子家庭の応募者を侮辱しても構わないと、そういう認識だったのですね」
金田が慌てて口を開く。
「そういう意味ではございません。ただ、その言葉が過ぎてしまっただけで――」
「言葉が過ぎたで済む問題ですか?では、具体的にどのような意図があって、あのような発言をしたのか説明してください」
二人は顔を見合わせるが答えられない。俺は母の姿を見ていた。これが経営者としての母の姿だ。言葉に重みがあり、相手の逃げ道を完全に塞いでいく。
母が二人を見据えている。
「私が怒りを感じているのは、あなたたちが『母子家庭』という家庭環境を理由に、一人の人間の価値を否定したからです」
菱岡が弁解しようとする。
「しかし、家庭環境も人物を判断する一つの要素ではないかと――」
母が手を上げて制した。
「先ほど説明した通り、本人に責任のない家族構成で採用を判断することは、明確な法令違反です。人事部のあなたがそれを知らないとは言わせません」
金田が小声で言う。
「しかし実際問題として、母子家庭の応募者は――」
「実際問題として、何ですか?母子家庭で育った人間は能力が劣ると、そう言いたいのですか?」
二人は黙り込む。俺はここで黙って見ているわけにはいかないと思った。母に任せきりにするのではなく、俺自身の言葉でこの二人に伝えなければならないことがある。
俺は立ち上がり、菱岡と金田を見据えた。
「お二人は、私の母を『男に捨てられた女』『碌でもない女』と言いました。しかし母は、誰よりも誇り高く強い人です。父を亡くした後、一人で借金を全て返済し、俺を大学まで行かせてくれました。そんな母を侮辱したあなたたちを、私は絶対に許しません」
菱岡が口を開こうとするが、俺は遮る。
「あなたたちは私を『片親の無能』と言いました。しかし私は自分の力でここまで来ています。一次面接も二次面接も、自分の実力だけで突破しました。それを否定する権利は、あなたたちにはありません」
俺は畳みかける。
「あなたたちは、家庭環境というレッテルだけで、私の努力も能力も見ようとしなかった。それどころか、同じように頑張ってきた他の応募者たちも、家庭環境だけで切り捨ててきたはずです。その罪は決して軽くはありません」
母が静かに俺を見ている。その目には誇らしげな光が宿っていた。母が二人の方を向く。
「あなたたちは、過去にも同じように家庭環境を理由に応募者を不当に扱ったことがあるのではありませんか?」
金田が視線を落とす。母が厳しく言った。
「人事記録を精査します。過去の面接で同様の対応がなかったか、徹底的に調査させていただきます」
二人の顔が蒼白になる。菱岡が膝から崩れ落ちた。
「申し訳ございません。どうか、どうかもう一度だけ――」
その声は震え、必死の懇願だった。二十年のキャリアが今崩れ去ろうとしている。金田も続いて土下座する。額を床に擦りつけて、何度も何度も謝罪を繰り返す。
俺は黙って二人を見下ろしていた。母は冷静な表情のまま二人に告げた。
「お二人の処分については、臨時役員会を招集し、そこで正式に決定します。ただし、今後一切採用業務に関わることは認めません。あなたたちが奪った機会は、息子からだけではありません。過去に同じ扱いを受けたであろう、全ての応募者からです」
金田が震える声で言う。
「どうか、もう一度だけ機会をいただけないでしょうか?」
母が首を振る。
「あなたたちは、自らその機会を放棄しました」
二人は何も言えず、ただ頭を下げ続ける。母が俺に視線を向けた。
「あなたが言っていた労働局への報告ですが、会社としても自主的に報告します。今回の件を真摯に受け止め、再発防止に努める姿勢を示します」
そして二人に向かって言った。
「労働局の調査には全面的に協力しなさい。もう退出して結構です」
二人は肩を落とし、うなだれたまま面接室を後にした。
面接室に俺と母だけが残った。母が俺に向き直る。
「あなたは、自分の力だけでここまで来ました。それを私はずっと見守っていました。ただし、今回の最終面接は公正な評価がなされたとは言えません。人事部を一新した上で、改めて面接を受けてもらいます」
俺は少し驚く。
「再面接ですか?」
母が微笑む。
「そうです。あなたが社長の息子だから採用する。そんな会社にはしたくありません。新しい面接官のもとで、正当な評価を受けてください。それがあなたへの敬意です」
俺は深く頷いた。
「わかりました」
母の目には俺への信頼と誇りが宿っている。俺は静かにその言葉を受け止めるのだった。
あれから三週間が経った。母から聞いた話では、臨時役員会で菱岡と金田の懲戒解雇が決定したという。録音という決定的な証拠に加え、過去の面接記録を調べたところ同様の事例が複数見つかったため、迅速な処分が下されたらしい。会社は労働局に自主的に報告し、改善計画書を提出することになる。人事部の体制は全面的に見直され、新しい部長が就任した。
その後、俺は再び採用面接を受け、無事合格することができた。
その夜、母と二人で食卓を囲んだ。
「よく頑張ったわね」
母は静かに微笑む。
「母さんこそ、ずっと頑張ってきたじゃないか。俺が大学に行けたのも、母さんのおかげだ」
母は何も言わず、ただ頷いた。
「これからは、俺が母さんを支える番だから」
母が小さく笑った。
「まだ早いわよ。あなたはこれから」
「いや、もう決めたんだ。いつか必ず、母さんに楽をさせる」
母の目から一筋の涙が頬を伝った。
今回の経験で学んだことは大きい。人は生まれた環境で判断されるべきではない。努力と能力こそが、その人の価値を証明する。そして何より、不当な扱いに対しては毅然と立ち向かう勇気が必要だ。この経験を忘れず、どんな立場になっても人を公正に見る人間でいたい。そう決意するのだった。

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