数年前、私は元旦那とその実家の人間関係に心底うんざりしていた。そして、義兄の妻であるエリさんと二人で、彼らに制裁を下すことを決意した。私たちは、やられたことをそのままやり返したのだ。
私は専業主婦。元旦那の名前は友之。新婚当初から、私が想像していた結婚生活とは全く違っていた。彼は仕事から帰るとすぐに寝てしまい、唯一話せる時間はご飯の時だけだった。それなのに「ゆっくり食べさせて」と言われたことがきっかけで、会話はさらに減っていった。
「今日は何時に帰る」「仕事が遅くなるからご飯はいらない」そんな業務連絡のようなやり取りだけが夫婦の会話だった。結婚ってこんなものなのかな、と思い始めた頃、旦那を含めた義実家の人たちの非常識な行動を目の当たりにする。
私の父が3年前に亡くなった。しかし、お葬式に義母や義父、義兄、そしてなんと旦那も参列しなかったのだ。あまりにも急な出来事でバタバタしており、「参列するのが普通だ」と指摘することはできなかった。そんな中、唯一義兄の嫁であるエリさんだけが参列してくれて、色々と手伝ってくれた。
不幸は続き、2年前にはエリさんのお母さんが亡くなった。しかし、そのお葬式にも義兄はもちろん、義実家の人たちは参列しなかった。にも関わらず、なぜか私だけが参列することに。私は参列することに不満があるわけではなかった。父のお葬式でエリさんに助けてもらった記憶が新しく、何か手助けしたいと思っていたからだ。
では、なぜ義兄や義家族はお葬式に参加しなかったのか。理由は呆れるものだった。お葬式の日は、元々義実家の人たちも含めて家族旅行に行く予定だったのだ。さすがに旅行はキャンセルするだろうと思っていたが、参列しない家族だけで予定通り旅行に行ったのだ。
私だけにエリさんのお母さんの葬式を任せて、思い出すとどんどん怒りが込み上げてくる。3年前、私の父の葬式に義両親や義兄が参列しなかったのは100歩譲って許せたとしても、夫である旦那が参列しなかったのが許せなかった。
年末年始には挨拶に行き、数回だが一緒に旅行したこともある。私が一人っ子だったこともあり、父は旦那のことを息子のように可愛がっていたのを知っていた。義兄にしても、エリさんのお母さんはとてもいい人で、私にまでよくしてくれていた。なぜ旦那家族はお葬式に参列しないのか、疑問に思うのも当然だった。
私は旦那と義兄に直接質問したことがある。
「お葬式に参列しない理由は何? 」
「だって、血が繋がってないし」
私は耳を疑ったが、確かにそう言ったのだ。
「血は繋がってないけど結婚してるんだから関わりはあるよね。嫁の両親なんだから家族には変わりないよ」
そう言っても、二人とも聞く耳を持たなかった。いくら説得しても「何が悪いの?」という態度だった。
「本当の家族じゃないんだから、わざわざ行く必要ないだろう」
そう平気で言う。もう何を言ってもダメだと思い、私は諦めた。私がおかしいのかとまで思うようになり、エリさんに相談してみることにした。
旦那と義兄が言っていたことをそのまま伝えると、エリさんは「そんな理由だったのか」と驚いていた。そして、旦那の家族たちに対して不満や怒りもあると言う。
「私本当に許せなくて、どうしたらいいか色々考えたの。それでいいこと思いついたんだけど、よかったらあみさんも一緒にしない? 」
そう笑うエリさん。私はその提案を聞いて大賛成だった。その時が来たら一緒に実行することを決める。結婚した相手の家族を大切にしないような人たちに、私たちはもううんざりしていたのだ。
エリさんは本当に素晴らしい人だった。料理も上手で、いつも家の中も綺麗にしていて、尊敬することばかり。おまけに美人でスタイルもいい。義兄にはもったいないくらいだ。私を本当の妹のように可愛がってくれて、私はエリさんのことが大好きで、何かあるとすぐ相談していたほどだ。よく気がつく人で、父のお葬式の時もエリさんがいなければ無事に終わらなかったと思う。
それから私は仕返しをする日を待ちわびながら、今までと変わらず夫婦生活を過ごすことにした。元々夫婦の会話もなかったのでそこまで苦痛ではなく、ただの同居人だと思うようにしていた。
仕返しできる日は思っていたよりも早くやってきた。朝方、義父から電話があった。義母が倒れてそのまま亡くなったとのこと。ゴミ出しから帰ってこないと思い、義父が外に出ると道端で倒れていたらしい。朝早く人通りも少ない場所だったため発見が遅れてしまった。死因は心臓発作だった。
私は旦那を起こし、すぐに病院へ向かわせた。そして急いでエリさんに連絡をする。ついに私たちが味わったことをやり返せる。私は不謹慎ながらそう思っていた。
エリさんと約束していた仕返しは全部で3つあった。まず1つ目、旦那の家族の葬式には参列しないこと。2つ目のために、私は準備を始めた。まず自分の荷物を全てまとめ、私名義で買った車に詰め始める。そしてコツコツ貯めていた自分名義の通帳をバッグに入れた。旦那の家族たちを不審に思い始めてから、いざという時のために貯金を開始していたのだ。
服や小物もあまりなかったので準備はすぐに完了。家に残っているのは旦那のものと大型家具や家電、そして記入済みの離婚届。2つ目の仕返しは、この日に離婚届を渡すことだった。エリさんもこの日をずっと待ちわびていたそうだ。
私は準備を終え、そのままエリさんを迎えに行った。私たちはお互いの荷物を見て笑い合う。
「ねえ、2人とも荷物少なすぎない? 」
早く離婚して家を出たいという現れだったのだろうか。無意識のうちに、日々荷物を増やさないようにしていたのかもしれない。
ワクワクしながら、私たちは車であるところへ向かった。それは病院ではなく、自分たちの実家だ。母に今までのことを全て話し、今後しばらく厄介になることを謝罪した。母は、旦那が父のお葬式に参列しなかったことを「人としてありえない」と怒り、離婚には大賛成だと喜んでいた。エリさんの父も同じ反応だったようだ。
昼くらいになると、旦那から電話の嵐が来た。エリさんも同じだったようで、私たちは電話を着信拒否にした。そして夕方、エリさんと合流し、羽を伸ばしに近くの温泉宿へ。夜はお酒を飲んでカラオケ大会。翌日は普段行かない高級ランチをして買い物ざんまい。
今頃旦那たちは、一旦自宅に戻り、私たちの荷物がなくなりガランとした部屋と離婚届を見ただろう。もしかしたら、病院に嫁が来ないことに対して親戚に責められているかもしれない。お葬式が終わるまでは、私たちは何も考えずにひたすらのんびり過ごすことにした。
そしてお葬式が終わった頃に連絡をしてやった。電話では話したくなかったので、「義父も呼んでみんなで話そう」とだけメールをした。その数日後、義実家で集まることになった。
「母さんが亡くなったのにお前たちは何してるんだ? 」
それが旦那たちの第一声だった。
「葬式に出ないってどういうことだ? 親戚たちに変な目で見られたじゃないか」
そう怒鳴り続ける旦那と義父。
私たちは声を揃えてこう言った。
「お母さんと私たちは血が繋がってないので」
「は? 何言ってるんだ? 」
「そう。あなたたちが先に言ってましたよね。だから言われた通り、血が繋がってない人のお葬式には出なかっただけですが」
私は笑顔で一蹴した。
3人は驚きからか、口を開けたまま呆然としていた。すると義父が「君たちはこの家の嫁に来たんだから俺たちと状況が違うだろう」と屁理屈を言い出す。
「自分たちは良くて、私たちはダメなんですね。でももう嫁じゃなくなるので関係ないですよ。お父さんの葬式には出る必要はないですね。残念」
エリさんがお茶を飲みながら義父に言った。
「なんてことを言うんだ! 」と怒り出す旦那たち。
「じゃあ私たちの親が亡くなった時、何かしてくれた? どれだけ私たちが我慢してたと思うの? 嫁の家族も大事にできない人と一生添い遂げる気にはなれません。血の繋がってる家族だけで生きてくださいね」
私は言い放った。そして私たちは席を立ち、そのまま家を出た。
続けて3つ目の仕返しに移る。今の会話を全て録音していたのだ。それを親戚一同へ送信した。本文にはこう入力する。
「私たちの両親は旦那を可愛がっていました。それなのに血が繋がっていないという理由だけでお葬式にも参列せず旅行へ行ったことを許すべきなのでしょうか」
録音を聞いて、そして文を読んで、どう思ったのか。それは後々知ることになる。
その後、旦那一家とは直接関わるのが嫌だったので、あとは弁護士さんに任せて離婚に向けて動いてもらうことにした。やはりプロに任せるのが一番だ。旦那や義父はグチグチ言っていたそうだが、無事に離婚が成立。優秀な弁護士さんの力もあり、慰謝料も少しだがもらえることになった。私たち夫婦にも義兄夫婦にも子供はいなかったので、揉める要素もなく、思ったよりスムーズに離婚できたのは不幸中の幸いだった。
お世話になった義両親が亡くなっても楽しんで旅行に行ける人たちだったので、きっと私たちにもそこまで執着はなかったのだと思う。そう思うと少し悔しいけれど、無事に別れることができて私たちは清々した。
元旦那は私と離婚し、元々家事もろくにできなかったので家はゴミ屋敷状態。いつゴミを捨てればいいのかも分からないレベルだ。ご飯もコンビニで済ませることが多くなったようで、不摂生から体調を崩し職場で倒れてしまった。元義兄も同じ状態で、家を解約して義実家に戻ったと聞いた。いつか元旦那も義実家に戻ることになるだろう。
そして親戚に送った録音とメールが効果絶大だった。親戚みんなから批判の嵐だったようだ。
「人としてありえない」「親も親なら子も子だな」「そんな人たちと一生関わりたくない」
そう言われ、その後一切親戚の集まりには呼ばれなくなった。まさに自業自得だ。
離婚してからの私とエリさんは、今も変わらず仲良くしている。離婚してからの方が親密さが増して、さらに仲良くなったと思う。お互い仕事を始めて近くに住んではいるものの、頻繁に会うことはできていない。だが連絡は常に取っていて、近況報告は欠かさない。
「お互い絶対に幸せになろうね」
これが私たちの合言葉だ。焦っても良くないことは前回の結婚生活で実感している。いつかまたいい人に出会えたら嬉しい。それまで仕事と自分磨きを頑張ろうと意欲が湧いていた。
元旦那と結婚したことは後悔しかないが、エリさんと出会えたことは本当に幸運なことだと思っている。出会えていなかったら、私は今も元旦那家族たちに不満を抱きながらも結婚生活を続けていただろう。きっと離婚する勇気なんてなかった。離婚する決意をさせてくれて、今も応援してくれているエリさんを、私は一生大切にしていきたいと思う。
ちなみにエリさんは、就職先で学生時代に好きだった人と偶然再会したらしい。今後どうなるのか、私は楽しみで仕方がない。絶対に幸せになってほしいと願うばかりだ。



