「チカ、お前には騙されたよ。今から言うことを聞け。俺はお前の妹・桃絵と再婚する。三日以内に息子と一緒に出て行け」…

「チカ、お前には騙されたよ。今から言うことを聞け。俺はお前の妹・桃絵と再婚する。三日以内に息子と一緒に出て行け」...

玄関の前に立った瞬間、私は夫・教一の顔をまっすぐ見据えた。彼は時間が止まったかのように固まっていたが、隣に立つ妹・桃は薄笑いを浮かべている。

「姉ちゃんたら、悔しいからって嘘つかないでよ。離婚届には教一さんのサインが必要なんだから」

そう、離婚届には夫のサインが必要だ。私が勝手に名前を書いて提出することはできない。黙っている私を見て、義母が便乗した。

「桃絵さんが言った通りね。嘘をつくならもっとマシな嘘にしたらどう?」

私は静かに口を開いた。

「お母さん、それは違います。離婚届を役所に提出したのは私ですが、用意したのは教一さんですから」

「また適当なこと。証拠もないのに」

「本当だよ、姉ちゃん。勘違いも大概にして」

普段なら黙り込んでしまう私が淡々と反論するものだから、三人は苛立った様子だった。私は黙って用意していたノートパソコンを開き、音声データを再生した。

「姉ちゃんには絶対内緒だよ」
「あいつとはもう終わりにするつもりだ。これを見てくれ」
「すごい、教一さんって行動が早い。名前まで書いてくるなんて。早く一緒になりたいな」
「まあ、しばらく隠しておくよ」

これは夫と妹の会話を記録したもの。夫が事前に離婚届を用意しており、妹もそれを知っていた。

義母が嫌そうな顔で私を見つめ、低い声で問いかける。

「千佳さん、なぜこんな音声を持っているの?」

その直後、私は小さな機械を取り出した。夫は露骨に顔色を失う。

「最近はこんなに小型のものが簡単に手に入るんです。これを一週間、教一さんの車に忍ばせておいたんです」

それは盗聴機だった。夫は口をパクパクさせて言葉を失っている。完璧なエリートとされてきた彼にしては無様な姿だ。

結婚当初、教一は周りから「優秀で完璧な夫」と称えられ、親族や友人からも羨望の的だった。だが実際の彼は私生活にだらしがなく、部屋は常に散らかり放題。車も外見は取り繕っているが、トランクの中は数年分のゴミで溢れていた。だからこそ、彼が無防備に眠っている間に、私はそのトランクに小さな盗聴機を仕掛けたのだ。

夫は焦りに満ちた表情で私から視線をそらした。しかし、その緊張を破るかのように、妹がにやりと笑って夫の肩を軽く叩いた。夫も何かを取り戻したかのように私を見返し、薄く笑った。

「これでショックを受けるとでも思ったのか? むしろ助かったよ。役所に行く手間が省けて、桃絵と晴れて結婚できるってわけだ」

「お前は寄生中みたいな無能な嫁だから、さっさと追い出してしまえばいいのよ。それに比べて桃絵さんは可愛いし仕事もできる。そんな素敵な方の方が教一にふさわしいわ」

確かに妹は私よりも賢く、親に可愛がられてきた。親はいつも妹ばかり目をかけ、私はその影にいた。大学に進学するために貯めておいたお金も、いつの間にか妹に持って行かれ、私は進学を諦めざるを得なかった。さらに夫は「忙しい」という理由で私に専業主婦を強要し、何年もの間「お前は寄生中だ」と侮辱の言葉を繰り返してきた。

限界はとっくに超えていた。だから私は証拠を掴んで離婚を突きつけてやると決意し、密かに準備を進めてきたのだ。

「さて、次はこれをご覧いただきましょう」

私はスマホを取り出し、ある写真を表示してみせた。それは夫がパチンコ店に出入りしている姿だった。義母は首をかしげ、妹も同じような顔をしている。

「この写真が何? ただのパチンコじゃないの」

「表向きには趣味のように見えるかもしれない。でも肝心なのはそこじゃない。教一さんはここ数ヶ月、毎日パチンコ店に通い詰めています。そしてその資金は全て私の通帳から引き出されていました」

「何ですって?」
「姉ちゃん、それって冗談でしょ?」

「俺がお前の金を盗むわけがないだろう。俺はエリートだぞ。自分の金でパチンコに行こうが何の問題もないだろう」

「写真なんかで勝手に決めつけて。本当に千佳さんは性格が悪いわね」

三人は結束し、私の言葉を嘲るように振る舞う。しかし、彼らがそうやって嘘をつくことも全て折り込み済みだ。

「勝、霊のものを持ってきてくれる?」

「ああ、ちゃんと全部揃ってるよ」

そう言って、息子の勝が書類を差し出した。それはティファニー、高級ブランドの請求書の束だった。

「何これ? 千佳さん、専業主婦のくせにこんな無駄遣いをして一体どういうつもり?」

義母が声を上げて私を攻め立てる中、夫が沈黙し震え始めた。義母には見えていなかったようだが、書類の端に小さく夫の名前が記されていたのだ。そう、これらの請求書は全て夫のクレジットカードによる浪費の記録だった。

「私はこのようなブランド品を購入したことはないし、教一さんからもらったこともありません。桃絵、ピンと来ていると思うけど、あなたが夫にプレゼントしてもらったバッグやアクセサリーは私のお金で買ったものなのよ」

夫がパチンコ店に行き始めた時、貯金通帳の中身を確認すると、数回に分けて数万円ずつ引き出されていた。しかも一ヶ月ごとに大金がカード会社の名義で引き落とされていた。すぐに問い詰めても良かったが、しばらく泳がせた方が、ばらした時に大きなショックを与えられると考えたのだ。

「というわけで、寄生中は母さんじゃなくて、お前よ」

勝は冷たく夫を見て言った。勝は生まれつき落ち着いた性格だった。大学生を経て社会人になってもそれは続いている。義両親や親族の前でも従順でいい子だった。そんな勝が反抗しているなんて信じられないといった感じで、夫は見ている。

しかし、そこで義母が苦し紛れに反論した。

「教一、あなたは何も悪くないわ。ずっとエリート社員として頑張ってきているんだもの。別に嫁の金で遊んだっていいじゃない。悪いのはどう考えても千佳さんよ。そもそも嫁が夫に尽くすのは常識でしょ」

本当は義母も、教一が悪いことをしていると分かっているはずだ。しかし、一人息子を守ろうとする気持ちが勝っているのだろう。

「今更、何を言っても遅いわ。知ってると思うけど、今まで夫が使い込んできたお金は、実は息子が私に振り込んでくれていたものなの。勝の高校や大学に必要な費用は私のパート代や貯金から全て出していた。そのお礼として、勝は給料から毎月少しずつ私の口座に入れてくれていたのよ」

「子供のお金を親が使うのは常識なんですか?」

私に睨まれて、義母は一瞬怯むような動きをしたが、すぐに言い訳を始めた。

「何よ、そんなの大したお金じゃないでしょ。知っての通り、教一は成績優秀なエリート社員だから、あなたの何倍もお金を持ってるわよ。本当だったらお金を奪う理由なんかないはずなのよ。あなたがダメ嫁だから、ストレス解消のためにたくさんのお金が必要なの」

「お母さんの言う通りよ。あれ? まさか嫁のくせに教一さんの年収知らないの? 信用されてないのね」

「あなたたちは本当に何も分かってないわね。霊タに言い返すと、妹と義母は目をパチパチとさせた。夫には私のお金を使い込まなければならない、ちゃんとした理由があるのだ。

「夫の収入ぐらい知ってるけど、ゼロ円よね。教一さんは大口の取引先とトラブルを起こしちゃったんですよ。そればかりじゃない。実は以前から会社で不正をしていましてね。大口の取引先からの証言で、とんでもないことが発覚したんです」

「じゃあ、それってもしかして……そうよ。教一さんは一ヶ月前に仕事を首になったの」

義母と妹は顔を見合わせ、同様を隠しきれない。

「まさか、真面目な教一に限って!」

「何かの間違いよ。誰かが教一さんをはめたんだわ。こんなの不当解雇に違いない。そうでしょ、教一さん?」

夫は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに平静を装って笑ってみせた。

「そうだよ。母さんと桃絵の言う通りだ。俺が首になるなんてありえない。そもそも俺は部下の不正をチェックする立場にいるんだし、取引先からも信頼されてる」

夫は自信満々に言い放った。その言葉の裏には、お前みたいな無能な専業主婦が会社の事情を知るわけがないだろうという軽蔑の態度が透けて見えた。

私は冷静さを取り戻し、スマホを手に取ると、先ほど通話した相手にもう一度電話をかけた。

「お待たせしました。中にどうぞ」

数分後、玄関をノックする音が聞こえ、ドアが開くと、そこに現れたのは50代の落ち着いた男性だった。

「中のところ申し訳ないね。お邪魔させてもらいます」

深く頭を下げて室内に入る彼に、夫の表情が一瞬で凍りついた。

「田、田中さん! ご無沙汰しております。でも、なぜここに?」

夫は目を大きく見開き、声が震え始めた。無理もない。この男性、田中宗さんは、夫が長年担当していた取引先の重役なのだから。

「久しぶりだな、山田教一君」

田中さんは穏やかな笑みを浮かべつつも、その目の奥には静かな怒りが宿っていた。

「君が首になったのは実に残念なことだが、私の部下や関係者からアイデアを盗み、自分の手柄にしていたことの責任はしっかり取ってもらわないと困るよ」

夫は反論する言葉を失った。長年エリート社員として振る舞い続けた彼が、実際には他人のアイデアを盗むことで成功を収めていたのだ。田中さんがその事実を義母にもはっきりと伝えると、義母の表情は一気に困惑に変わり、信じられないといった様子で彼を見つめていた。

ここで夫はようやくある疑問を抱いたようだ。どうして妻が田中さんと繋がりを持っているのか、という疑問だ。その疑問に答えるかのように、田中さんは一瞬私に目をやり、ゆっくりと口を開いた。

「実は、ある日を境に私の妻の様子がおかしくなったんだ。外出が増えて、今まで興味のなかったブランド品が部屋からたくさん見つかった。私はそんなもの一切買ってあげたことはないのに。もしかしたら浮気でもしているのではないかと思い、調査を始めたんだ」

「お母さんは何も知らされていないから驚くのも無理はありませんね。結論から申し上げますと、私の妻と浮気をしていたのは、あなたの息子である教一君だからです」

義母は息子の不貞、しかも取引先の重役の妻を寝取っていたという事実を突きつけられ、言葉を失った。

「調査の結果、教一君には千佳さんという妻がいることが分かった。どうしても千佳さんに謝りたくて、教一君には悪いけど、千佳さんに直接コンタクトを取ったんだ。最初に伝えた、車の中に盗聴機を仕掛けたのも田中さんの助言だ」

「田中さん、さっきから何かおかしいですよ。不正をしたことは、首を受け入れたことで責任は取りました。しかし、田中さんの奥さんなんて私は知りません」

「そうよ。あなたの奥さんのことなんて、教一から聞いたことないわ」

「お母さん、この話の流れにまだ気づかないんですか? 妹が震えている理由が分からないんですか? 私のこと散々役立たずとか言っているくせに、鈍いですね。田中さんの奥さんというのは、私の妹のことですよ」

私の爆弾発言に、義母と夫の動きが一瞬止まった。

「え、それ嘘だろ? だって桃絵は独身って言ってたし」

「そうよ。私も親戚の人には同じように言っていたわ」

「私の妻・桃絵が嘘をついていたということですよ。しかも私には家族がいないと言っていたんです。でも実際は、千佳さんというお姉さんがいるじゃないですか。両親も健在だ」

「嘘だ。全て何かの間違いだ。桃絵、そうなんだろ?」

慌てふためく夫に詰め寄られても、妹は黙ったままだ。夫は何度も妹の方を激しく揺さぶろうとする。

「乱暴はやめてよ。桃絵のお腹の中には赤ちゃんがいるんだから」

夫は顔面を蒼白させた。お腹の子が田中さんのものだと察したのだろう。

「この小悪女、俺を騙して!」

夫は妹に激しくつっかかった。しかし、妹は大きなお腹を抱えながらうずくまり、そして泣きながら土下座をした。

「ごめんなさい。妊娠中で気分が不安定だったの。それで寂しくなって教一さんと浮気した。宗さんは多忙で、相談もできなかった。このまま夫婦を続けられるか心配で仕方なかったの。仕事が忙しい宗さんに冷たくされて、耐えられなくなって教一さんとの浮気に走ってしまったんです」

妹は床に額を擦りつけながら謝罪と後悔を口にした。しかし、田中さんは妹を許すどころか、冷たい視線で睨みつけていた。

そこで私はとどめを刺すべく、一枚の書類を妹に突きつけた。

「何これ? DNA鑑定の結果?」
「そうよ。お腹の子が誰の子かを調べたわ」
「なんで……なんで姉ちゃんにそんなことができるの?」
「あなたが寝ている間に検体を取らせてもらったの。まさかとは思ったけど、父親は教一でも田中さんでもないのね」

確かに夫と妹に夫婦生活がなかったわけではない。しかし、その回数は少なく、妊娠するタイミングが一般的な計算と合わなかったのだ。

「桃絵には大本命の男がいるっていうことも確認済みよ。そして、その大本命こそが、その子の父親なの。ちなみに桃絵の計画も知ってるわよ。妊娠を理由に、教一から出産費用を騙し取ろうとしていたんでしょ」

妹は全身が濡れてしまうほどの汗を流している。しかし、それでも妹は認めようとしない。

「大本命って誰よ? 私にはそんな人いない。信じてよ。証拠もないんだからさ」

泣き叫ぶ妹の前で、田中さんは大きな封筒を取り出した。中から写真を取り出し、妹はそれを震える手で見つめている。写真は全て、妹が男とホテルに入っていく様子が映されている。それも全て違う男だ。しかし、ある男との写真だけは複数枚ある。

「桃絵が教一君と関係を持ち始めたのは最近の話なんだ。それまでは、桃絵は他の男たちと遊んでいたんだよ」

ここまで徹底した証拠を準備されては、もう言い逃れはできない。妹は頭を抱えながら、その場に崩れ落ちた。

私は心の中で思った。ここで妹が本気で謝罪してくれたなら、それでいいと。私は妹に告げた。

「桃絵、今すぐ本気で謝って。私ではなくて、今まで嘘をついていたみんなに。今すぐ謝罪しなさい。そうでもしないと、後悔することになるわよ」

しかし、次の瞬間、妹の行動は最悪なものだった。

「あんたたち、バッカじゃないの? 誰が好き好んで、50過ぎのおっさんとか42の中年親父と一生添い遂げなきゃいけないのよ。私はね、抱くだけでお金を使える方法を探していただけよ。田中さんとなら、しばらく遊んで暮らせると思ったからよ。方や教一さんやお母さんには、亡くなったお父さんの遺産があった。そんな理由でもなきゃ、あんたたちと一緒にいる意味はないわ。そもそも姉ちゃんの不幸に本気になるわけないでしょ。それに比べて彼氏のエ太は金持ちの上にイケメンで高学歴。あんたたちとは住む世界が違うんだから」

妹は本命で付き合っている男の名前を口にした。仕事はIT系の会社の若き社長らしい。

「そう。それが桃絵の本音なのね」

「当たり前でしょ。私はエ太と結婚できればそれでいいの。騙された方、浮気される方が悪いに決まってるでしょ。そんなことも分からないなんて、あんたって予想以上のバカね」

妹はそう言い放つと、そのまま実家を飛び出してしまった。田中さんは妹を追いかけようとしたが、私は止めた。

「今は、放っておきましょう」

一方、義母と夫は、騙された悔しさを嘆いている。そこで田中さんは夫と義母を睨んで言い放った。

「教一君、お母さん、桃絵に騙されたことばかりに頭がいっていて、大事なことを忘れているようだね。千佳さんに全部話は聞いている。浮気だけではなく、普段から千佳さんをいびったり、勝也君のお金を使い込んだこともね。千佳さんは一生懸命家を守っているし、勝也君は真面目に働いているのに、君たちはそれを踏みにじったんだ。こんなことに気づけない人に、奥さんや子供を馬鹿にする資格はない」

夫は目を大きく見開いて驚きの表情を浮かべた。ようやく自分の間違いに気づいたのか、夫は深く頭を下げた。それに続いて義母も謝罪を口にした。

「千佳、俺が全部間違ってた。ごめん。もう浮気も嫌がらせもしない。勝也も許してくれ」
「私もよ。千佳さんのことはもうバカにしない」

二人はこれまでにないくらい本気の謝罪をしている。頭を床につけて泣いている様子を見て、私は冷たく言い放った。

「今更謝ったって、もう遅いわよ。教一、あなたには慰謝料を請求するわ」

「今更だろう? 勝也にもお金は返すって言ってるだろう」

「そんな簡単に許してもらえると思っているの?」

私が言い返そうとしたら、今度は勝が前に出た。

「お金を使い込んだことはもういいです。でも、母さんを長年に渡っていじめていた上に浮気していた。それは絶対許さない」

「お前、父親の俺を捨てるのか?」

「お前のこと? 父親だと思ったことなんて一度もない。小さい頃から俺が話しかけても無視。学費なんて母さんが全部準備してくれた。俺が勉強部屋にこもっていたから気づいてないとでも思った? 声がでかいから普通に聞こえていたよ。あと、母さんが寝た後にこっそり外に出ていたこともね」

息子にとどめを刺された夫は、そのまま押し黙った。

田中さんは私と勝に謝罪をしてくれた。

「千佳さん、勝也君、あなたたちに嫌な思いをさせて申し訳ない。あいつには責任を取らせる。約束するから」

「田中さん、私たちのためにありがとうございます。でも、大丈夫です。何もしなくても、妹はもう終わりですから」

私はにっこりと微笑んだ。

勝と新居で生活を始めて数日後、予想通りスマホに着信がかかってきた。もう妹の声は聞きたくなかったが、深呼吸して電話に出る。

「もしもし。散々バカにしたくせに、今更何?」

「助けて。エ太が姿を消したの。電話も着信拒否。赤ちゃん生まれるのに」

「ふーん。それは大変だね。で、私にどうしろって言うの?」

「助けてって言ってんの。他の男からも追いかけられてるのよ」

これも全て私の予想通りだった。実は私は妹の浮気相手全員と接触していた。エ太にとっても、妹は金づるだった。会社が軌道に乗るまでお金を貸してほしい、いずれは結婚したいと妹を騙していたらしい。何も知らない妹は、夫や田中さんから騙し取ったお金をエ太に渡していたのだ。

「本当に助けて。頼れるのは姉ちゃんしかいないの」

「思い出しなさいよ。この前、私たちに言ったこと忘れた? 『騙される方が悪いんでしょ?』って。いい大人なんだから、自分の発言には責任を持つのね」

「何を言ってるのよ。家族なんだから助けるのが当たり前でしょ」

「家族だから何? じゃあ聞くけど、桃絵は今まで私や両親を助けてくれた? いつもしてもらってばっかりで、感謝の一言もない。私が貯めた学費を奪ったこともね。あんたのせいでたくさんの人が傷ついた。私が何より許せないのは、勝を傷つけたことよ。それに、私は言ったはずよ。『今まで嘘をついていたみんなに今すぐ謝罪しなさい。そうでもしないと後悔することになるわよ』って。その忠告を無視したのはあんたなんだからね。私も勝も、あんたを絶対に許さないから。じゃあね」

そう言い捨てて、私は電話を切った。

その後、風の噂によると、元夫は義母が住む実家に戻り仕事を探すが、再就職は困難を極めているそうだ。不正をしたことが業界全体に伝わっており、名前を出しただけで門前払いなのだという。義母も、これまでの暮らしを全て夫に頼っていたため、まともに働けない。二人の仲はどんどん悪くなり、ボロボロになってしまったらしい。

一方、妹は浮気相手全員に訴えられた上に見放された。新しい男を捕まえようにも、妊婦なんて相手にされるはずもなく、孤独になってしまった。田中さんは離婚したいと思っているみたいだが、お腹の子が気がかりであると言っている。

私はと言うと、新居で息子と楽しく暮らしている。専業主婦だった私を、田中さんが関係会社へ紹介してくれたのだ。正社員としてまた頑張ることができている。

そして、私が一番感謝しなければいけないのは息子だ。

「ずっと味方でいてくれてありがとう、勝」

すると息子は照れながら答えてくれた。

「家族なら助けるのは当然でしょ。それに母さんもずっと俺のこと守ってくれたんだしさ」

強くて優しい息子の目を見ながら誓った。どんなことがあっても、息子と幸せに生きていこうと。

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