「お前のとこ、更新はキャンセルな。今日は参加しなくて構わないぞ」
遠藤は妙に上から目線で笑った。
俺の名前は池神、35歳。フリーランスのエンジニアだ。テーマパークの駐車場誘導と行列回避システムを開発し、特許を取得。その特許使用料として年間1200万円を受け取っている。このテーマパークとは2年ごとの更新契約を結んでいた。
2年前のオープン以来、このテーマパークは連日大盛況だった。駐車場の誘導がスムーズで、人が多いのに長時間並ばないと評判を呼び、俺のシステムがしっかりと役立っていることを実感していた。
ところが、2年後の更新を前にした合同会議で、取引先の社長が交代した。前任の社長は「お客様を喜ばせたい」という人だったが、新社長の遠藤はどこか方向性が違うようだった。会議後、俺だけが呼び出され、遠藤は言った。
「特許使用料ってもっと安くできるでしょ」
「それはできません」
はっきり断ると、遠藤は舌打ちをして言い放った。
「そういう態度を取るのなら、こっちにも考えがあるんだからな」
数日後、別のテーマパーク建設中の業者から連絡が来た。入り口が細い道なので渋滞を回避できないか、俺のシステムを知って問い合わせてきたのだ。現地に向かい、社長の岡本さんと会った。頼んでいた業者が倒産し、代わりが見つからず計画がストップしているという。俺はシステムを検討するため、一旦持ち帰ることにした。
そして契約更新の日。俺は早めに会議室に着くと、遠藤とその部下たちがいた。挨拶をすると、遠藤は部下に向かって「誰がゴミ企業を呼んだ」と言った。俺は嫌がらせかと納得したが、遠藤はとんでもないことを言い放った。
「お前のとこ、更新はキャンセルな。高が人の居場所が分かるだけのシステムに年間1200万は払えん。うちにもシステム管理の部署ができてな。自社で開発する。もう実装の段階に入っているから、君は不要というわけだ」
頭に血が登りかけたが、ここで感情的になっても何も変わらない。それよりも、すぐにやるべきことが頭に浮かんでいた。岡本さんの顔だ。まだ業者が決まっていないと言っていた。特許の独占契約。そのピースが、今ここで揃おうとしていた。
「了解です。では契約は更新しないということで」
俺がそう言うと、織田さんが慌てて入ってきた。
「ちょっと、どういうことですか」
遠藤は「ああ、君がこいつを紹介したんだっけ? これからは自社でシステムを構築するから外部のシステム屋は不要なんだよ」と笑い、俺に向かって手を払った。俺は織田さんに頭を下げ、その場を去った。
会社を出ると、すぐに岡本さんに連絡した。
「そちらのテーマパーク用のシステム構築できますよ」
岡本さんは大喜びしたが、すぐにトーンを落とした。
「すみません。まだ他の業者が決まっていなくて」
「その件ですが、なんとかなるかもしれません」
電話を切ると、今度は織田さんから着信があった。呼び出され、その場で待つと、織田さんが慌ててやってきた。
「池神君のシステムがなければ契約は更新できないって、11社が契約を保留したんだ」
織田さんは続けた。
「池神君のシステムはうちの警備配置の根幹でもある。みんな、あのシステムがなくなれば仕事の質が落ちることを分かっているんだ。一緒に動いた」
俺は「相談したいことがあるんですが、皆さんを集めることはできますか?」と言い、織田さんが近くの会議室を抑え、10社の参加者を集めてくれた。
集まった会議室で、俺は遠藤に言われたことを正直に話した。すると、みんなが俺の味方になってくれた。
「なんだよそれ。そんなのおかしいだろ」
そこで俺は提案した。岡本さんのテーマパークの話をすると、みんなが乗り気になった。参加者の1人が「あの遠藤って社長には一言文句言わないと気が済まないよ」と言って電話をかけ始め、他の参加者たちも続々と遠藤に電話をかけ始めた。最初こそ強気だった遠藤も、最後の方は鬼電に驚いていたようだ。
結局、11社が契約を更新しなかった。1週間後、契約が切れた遠藤の会社のシステムは、遠藤の言う通りゴミとなった。契約書には明記してある。「期間終了後はシステムの稼働を停止すると」。それがビジネスというものだ。俺は祝杯を上げてシステムをオフにした。
朝を迎えると、とんでもないニュースが舞い込んできた。遠藤のテーマパークは駐車場に入れず大渋滞。待ち時間が300分になっているとか、レストランの予約も取れなくて最悪だという口コミがSNSで拡散された。自社のシステムに切り替えたのだろうけど、現場を知らない人間が作ったシステムでは話にならない。俺のシステムは、実際に駐車場で誘導員として働いた経験をもとに、車の流れ、来園者の行動パターン、時間帯ごとの混雑の波を何百時間も観察して設計したアルゴリズムが根幹だ。しかも今日は3連休の初日。最悪なタイミングだろう。
ちょうど織田さんと打ち合わせをしていたので、テレビに映し出されたニュースを見ながら「うわあ」と2人で呟いた。すると俺の電話が鳴る。もちろん遠藤からだった。
「池神君か。園内が大変なことになっている。駐車場の渋滞もひどく、近隣住民からはクレームの嵐。助けてくれ」
「ゴミ企業に頼るなんて、そっちこそゴミですね」
俺がそう言い放つと、織田さんは思わず吹き出した。遠藤は謝り、自社のシステムでは全く歯が立たないと慌てている。だが俺は言った。
「そうですか。大変ですね。でもうちはもう契約していませんし、何よりこの特許システムは別のテーマパークと独占契約したので、今後の対応は一切できません」
遠藤はさらに慌てた。
「独占契約? 他のテーマパークって何だ?」
「あなたに教える必要はありません。では」
そう言って電話を切った。
すると次に織田さんの携帯が鳴る。遠藤からだ。織田さんはため息をつきながら電話を取り、冷たく言い放った。
「契約切れてますよね。それに池神君のシステムがなくなればそうなることは目に見えていました。ご自慢の自社のシステムはどうなったんです? 現場も知らない先も読めない社長だなんて、社員がかわいそうですね。では失礼」
しばらくして他の会社の人たちが集まってきた。遠藤から連絡が来たが、もちろん断ったと口々に言っている。
「やっぱり池神さんのシステムは最強だったんだな。さすがだよ」
こうして俺たちは、今度は岡本さんのテーマパークの指導に向けて動き出した。一方、遠藤のテーマパークはその日を境にクレームが殺到。SNS上では「もう行かない」「最悪」と叩かれ、翌日から来園数が激減した。1ヶ月もすると話題にも上がらなくなり、冷やかしの動画配信者が「廃墟寸前の泣けるテーマパークに行ってみた」という動画を投稿していた。メディアが遠藤を追いかけることもあったが、遠藤は疲弊した顔で「申し訳ありません」と繰り返すだけだった。
織田さんはそれを見て「本当にバカだな、この社長は」と息をつき、俺に頭を下げた。
「こんなことになってすまなかった」
「いえ、このことがあったから岡本さんのテーマパークの話も来たんです。システムを向上させたとはいえ、年間契約量は今までの倍ですよ。それにまた織田さんと仕事ができて嬉しいです」
それから半年後。遠藤のテーマパークは相変わらず廃墟寸前で、中にあったレストランやキッチンカーはなくなり、何度かイベントを打っていたようだが不発に終わっている。織田さんは言った。
「まだ運営しているのは、これを閉鎖したら社長でいられなくなるからかもしれないな」
それとは対照的に、満を持してオープンしたのは岡本さんのテーマパークだ。オープン前から地元で話題になり、渋滞を心配する声もあったが、実際にオープンすると駐車場もスムーズで、長い行列もなく快適に楽しめたと肯定的な意見が続いた。岡本さんは俺たちに頭を下げた。
「皆さん本当にありがとうございます。業者が倒産して諦めかけていた時、池神さんが来てくれた。諦めなくて本当に良かった」
テーマパークで楽しんでいる人たちの顔を見ると、頑張ってよかったと心から思える。
「お前、中卒の元課長か。バチ外だ。消えろ」
大企業への特許契約の打ち合わせで、偶然同級生に再会した。順調に契約できそうだったのに、この男から追い払われそうになったのだ。当時から変わっていない態度に、俺はふつふつと怒りが湧いてきた。
俺の名前は山口、65歳で先日定年退職をした。少し前までは工場勤務の課長職に就いていた。わけあって中卒なのだが、研究や技術を磨くのが趣味みたいなもので、実力主義の社内で課長まで登り詰めた。中卒では異例だと言われている。定年を迎えてもシニアスタッフとして働く道もあったが、俺はもう少し自分なりに研究をしたくて退職を選んだ。というのは建前で、本当はシニアスタッフとして働けば「なんで中卒が」という連中に下に見られるのが分かっていたからだ。
俺が中卒なのは家庭の経済事情だ。父は工場で働いていて、俺の原点は父の仕事場にある。ただ、俺が中学在学中に病気で倒れてしまい、母が代わりに働きに出た。俺の下に弟がいて、弟には大学に行く夢があった。それを叶えてやりたいと、俺は中学を卒業すると働き始めたのだ。その時、小学校の頃からのクラスメートである田中という男には随分と馬鹿にされたものだ。田中は度々俺に突っかかってきた。親の実家が金持ちで、生活に困っている俺の暮らしなんて想像できなかったのだろう。「貧乏人が」とよく笑っていた。今思えば、俺は成績がそれなりによく、いつも田中より少し上の順位にいたので、自分よりも下に見ている俺に成績で抜かされたのが気に入らなかったのだろう。
そんな嫌な奴は地元でも有名な進学校に入り、何年か浪人した後、大学に入ったという。そして5年前の同窓会で「大企業の役員になった」と自慢していた。興味がなかったのでどこの企業だかは知らないが、とにかく役員という上の立場だと吹聴していた。俺は中小企業の課長。立場は雲泥の差だが、俺は俺で幸せな生活を築いていたし、特に気にしてはいなかった。まあ、案の定、田中は俺のところに来て「中卒がよく働いてるな。お前の会社はそんなにろくなところじゃないんだろうな」と笑ったのだ。さらに「中卒は定年近くまで勤めても課長なんだな」などと煽る始末だ。当時は一緒になって笑っていた奴らも、さすがに「おいやめろよ」と田中を止める常識人になっていた。変わってないのは田中だけだ。
俺は定年退職をして会社を立ち上げた。技術的なサポートを支援する会社だ。定年が近づいた頃、業務外の時間を使って研究し、退職直前に個人で特許を取得していた。会社の業務とは無関係な研究だったので、権利は完全に俺個人のものだ。この特許というのは、簡単に言うとめちゃくちゃ硬い合金だ。この硬さであればトンネルの掘削機にも使用できる画期的な発明だ。俺は早速これを扱ってくれる会社はないかと、トンネル掘削機を扱う重工業メーカーに連絡をした。いきなり業界トップに連絡するのはどうなのかとも思ったが、断られたら断られたで他に売り込めばいい。そんな気持ちで電話をしたが、話してくれた人物は意外にも高職だった。俺の特許のことも業界で見たとのことで知っていて、俺に連絡しようと思っていたというのだ。話はトントン拍子に進み、2日後、俺はその企業のビルの前にいた。
受付を済ませ、案内された場所に座る。パーテーションで区切られた広々とした空間。俺が務めていた工場にはないおしゃれな場所だ。電話で話した人物は吉田という男だったが、担当者は役員の田中という人物らしい。俺は期待しながら目当ての人物が来るのを待っていた。この技術を知ってもらえればきっとこの企業の力になる。俺はそう確信していた。
しかし、待てども待てども相手は来ない。一度、別の社員が「もう少しお待ちください」と声をかけに来てくれたので、俺が来ていることは分かっているのだろう。だが、さすがに30分経つと俺も「そんなに待たせるのか」と不満が募っていく。だが、相手は大企業だ。こちらの都合など知ったことではないのだろう。俺は深呼吸をして資料を何度も確認した。
そんな時、「こちらです」と若手の社員に案内されて男がやってきた。ようやく担当者が来たかと思ったのも束の間、その顔を見てひっくり返りそうになる。相手は「お前、山口」と同じように驚いている。そう、田中という担当者は、俺の同級生で嫌味なあの田中だったのだ。田中がどこかの大手企業に務めているということしか知らず、実際に務めている企業がどこかは聞いたことがないし興味もない。田中は「なんだよ。ダイヤモンド並の強度としなやかさを兼ね備えた超高硬度合金だって言うから話を聞いてやろうと思ったのに、お前かよ」と息をつく。その言葉に俺は顔をしかめた。田中は冷笑を浮かべて言った。
「中卒のお前が何を作れるって言うんだ。どうせ既存技術の焼き直しだろう。大体、本当に価値があるなら大学の研究室やメーカーが先に目をつけているはずだ。こんなわけのわからん売り込みに時間を割いている暇はないんだよ。帰れ帰れ」
田中は「しっしっ」と俺を追い払う仕草を見せた。すると、田中を案内してきた社員が口を挟んだ。
「あの、これはトンネル掘削機に使える素晴らしい技術です。この技術は我が社に必要です。あのプロジェクト、このままじゃ凍結してしまいますよ」
田中はその社員に向かって怒鳴った。
「吉田、お前ごときが口を挟める問題ではない」
吉田と呼ばれたことから、俺はこの男が最初の電話の人物かと気づく。吉田は唇を噛み、俺に申し訳なさそうな目を向けた。
「あのプロジェクトって何だ? 何か問題があるのか?」
吉田を助け舟を出そうと聞いてみた。しかし、田中は「お前には分からないようなプロジェクトを我が社ではいくつも受けているんだ」と嫌味な笑みを浮かべるだけだった。
「中卒の元課長はバチ外だ。全くもっとまともな売り込みだと思ったんだがな。お前みたいな奴はいらないよ。消えろ」
ここまで言われてさらに食い下がっても仕方がないだろう。田中の会社に技術を提供するなんて真っ平だ。俺は短く「わかりました」と言い、吉田に頭を下げて退出した。その足でもう1社アポを取っていた企業に向かう。こちらの企業は田中のところほど大きくはない。だが、最近力をつけている注目の企業といったところだ。社長の小泉さんは俺と同年代だそうで、電話で話をした時に社長自ら話を聞きたいと申し出てくれた。失礼のないように10分前には着いていたのだが、通された応接室にはすでに小泉社長がおり、笑顔で俺を迎えてくれる。俺が資料を出し説明を始めると、熱心に話を聞き、鋭い質問を飛ばしてきた。
「山口さん、これは素晴らしいですよ」
握手を求めてくる。なんともフレンドリーな人だ。俺は実物を持ってきていたのでそれを取り出し、小泉社長に手渡した。それを受け取った小泉社長は「山口さん、疑うわけではないのですが、一度試してみてもよろしいでしょうか」と提案してくる。俺は自信もあったので「ええ、ぜひ試してください」と前のめりで答えた。応接室を出て少し歩くと自社工場があった。
「この最新のドリルだが、これに勝てるかな」
小泉社長は少年がいたずらを考えついたような顔で俺を見てくる。
「言っておきますが、このドリルが壊れても私は弁償しませんよ」
俺も少年時代の喧嘩を思い出すように対抗した。小泉社長がスイッチを入れると、最新ドリルが爆音を立てて回転を始めた。社員たちが固唾を飲んで見守る中、ドリルの先端が俺の合金に触れる。キーンという金属音が響き渡り、火花が激しく散る。ドリルは全力で削ろうとするが合金はビクともしない。むしろドリルの歯が赤くなり始めた。10秒、20秒、そして30秒後。バキッと乾いた破砕音と共に、ドリルが粉々に砕け散った。破片が床に散らばり、合金だけが無傷のまま輝いている。
「おおっ!」
小泉社長のおたけびと同時に、社員たちからも「すげえ」「本物だ」「ドリルが負けた」と歓声が上がった。
「これはすごい」
宝物を発見した少年のように小泉社長はニヤリと笑う。
「山口さん、是非独占契約を結ばせてください。この素晴らしい技術で契約しますから」
俺は小泉社長の人柄に惚れ込み、すぐに大きく頷いた。その後、細かい内容を詰め、気がつけばすっかり時間が経ってしまう。
「山口さん、一杯どうですか?」
小泉社長の話に乗り、俺たちは居酒屋で話し込んだ。俺が昔の話をすると、「弟さんのために進学を諦めたんですか?」と質問される。俺は頷いた。
「ええ、でも後悔はしていません。弟は優秀なまま大学を出て、今も活躍しています。それに弟は俺に敬意を持ってくれているんですよ。俺は高校に行かなかった時間で人生経験を詰めましたし、こうして実力を認めてくれる小泉さんのような人とも巡り合いましたから」
すると小泉社長は「なんていいやつなんだ」と泣き出した。どうやら泣き上戸らしい。
数ヶ月後、開発していたトンネル掘削機が完成。俺は今後の展開について小泉社長と相談すべく応接室を訪れていた。そんな時、衝撃のニュースが流れた。地下トンネルの掘削中にメインシャフトが歪み、完全にストップしてしまったという。これは田中の会社のトンネル掘削機の話だ。責任者として、田中のインタビューが映し出されるが、「あ、まだ確認中でして、何も発表することはありません」と繰り返すだけだった。
「これ完全停止してますよね。前にも後ろにも進めない状況だとしたら」
俺はこの後に起こりうる悲劇を口にした。小泉社長も頷く。
「ああ、このまま掘削機が放置されれば、最悪、真上の道路が陥没するぞ」
そう言い、電話をかけ始めた。この事業の発注元への連絡だ。発注元の責任者は俺たちの新しい掘削機の導入をほぼ決めていたので、田中の会社には無理をするなと伝えていたらしい。だが、田中が身を張った結果、とんでもない事故になってしまったという。
「山口さん、こいつを持って今すぐ現場に行くぞ」
俺と小泉社長は、社員たちと一緒に新しいトンネル掘削機を運び、田中の会社の掘削機を救い出すつもりだ。今は復讐とかそんなことを言っている場合ではない。近隣住民もきっと不安に思っているだろう。とにかく今、俺たちにできることをやろう。俺と小泉社長の意見は一致していた。
2時間かけて現場に着くと、報道陣が群がっている。田中の姿もあるが、何もできないまま「確認中だ」と報道陣に説明しているようだ。俺の姿を見つけた田中は「お前、なんでここに」と吠えた。
「お前に突っぱねられた特許技術で新しいトンネル掘削機を開発した。これなら別ルートから最速で穴を掘り、お前のところのマシンを掘り出せる」
俺の説明に「ふざけるな。お前の手などを借りん」と田中は嫌悪感を露わにするが、俺は一喝した。
「田中、今はお前がどう思うかの問題じゃないんだよ。技術じゃなく見えだけで生きてきたお前に技術者の誇りは分からないかもしれないが、今はマシンを掘り出して、これ以上被害を大きくしないことが最優先だ」
その間に小泉社長は発注元の責任者と話し合い、段取りをつけてくれていた。
作業は緊迫した。報道陣が遠巻きに見守る中、俺たちの掘削機が唸りを上げて岩盤を削る。2時間が経過した時、「岩盤の向こうに空洞を確認!」と作業員の声が響いた。3時間後、田中の会社のマシンが1mmも進めずシャフトを歪ませた岩盤にたどり着く。田中は「無理に決まっている」と言っていたが、俺たちのマシンは難なく突き進んだ。こうして無事マシンを救出。道路の陥没という最悪の事態は免がれた。
だが、発注元の責任者は田中に対し言い放った。
「あなたの強硬な態度のせいで危うく大事故になるところでした。今回の損害賠償はもちろん、今後の全プロジェクトから貴社を外させていただきます」
田中は「申し訳ありません。今後はこのようなことのないように」と食い下がるが、俺は田中に言った。
「今後なんてないんだよ。俺の技術をバカ違いだと言ったが、お前の方がバカ違いだ」
小泉社長は俺の隣で頷いた。
「田中さん、山口さんに謝罪し、すぐさま賠償金の支払いに取りかかるべきですね」
その瞬間をテレビカメラが捉えていた。田中の情けない姿が全国放送されたのだ。その後、田中の会社の株価は暴落。田中は社内規定を無視して独断で工事を強行したということで、会社は田中個人に対しても損害賠償を請求する方針を固めたそうだ。そして、田中はこの業界から追放された。同級生から連絡が来た内容によると、田中は実家に戻ったそうだが、いつの間にか実家が売却されていたという。全てを投げ打って損害賠償に回したのだろう。その後の田中の行方は誰も知らない。
数日後、小泉社長と打ち合わせをしていると、珍しく弟から電話があった。弟は大学教授として忙しく働いているので、連絡が来ることなど滅多にない。何かあったのかと心配しながら出ると、弟は明るい声で話し出す。
「兄貴、すごいじゃないか。テレビ見たよ。兄貴は道路陥没から街を救ったヒーローだな。俺も同僚や生徒たちに自慢しちゃったよ。俺の兄貴はすごいだろって」
弟の素直な賞賛がなんだかくすぐったかった。弟は続ける。
「今の俺があるのは、大学まで行かせてくれた兄貴のおかげだ。改めてありがとうな」
その言葉が妙に照れ臭く、「バカ言うなよ。俺は勉強よりも早く社会に出たかっただけだ。お前に感謝されることなんて何もないんだよ」とはぐらかした。目頭が熱くなる。弟は「今度お祝いに飯行こうよ」と言って電話を切った。目頭を押さえる俺に、小泉社長が「弟さんですか? 素敵な兄弟ですね」と言うので、ますます泣けてきて俺は袖で涙を拭う。顔を上げると、小泉社長と目があった。
「世界中から依頼が来ていますよ。忙しくなりますね」
俺は大きく頷いた。これからもこの技術で世界中を助けていきたいと思う。
「誰がボロ工場を呼んだんだ? 台無しだから帰れ」
俺のことをボロ工場と馬鹿にしてきたのは、取引先の社長の息子だ。取引先だから何を言われても耐えていたが、そろそろ我慢の限界だ。そして社長の息子の言う通り、帰った結果、あの人は地獄に落ちることになった。
俺の名前は清水、40歳。医療機器に使われる精密部品を作っている町工場の2代目社長だ。初代社長の父から工場を継いだのは10年前。若干30歳で2代目社長になったのは、父が突然病気で亡くなってしまったからだ。俺は高校卒業後、父の会社で働き始め、いつか社長になるための修行を積んでいた。しかし、まさかこんな早く社長に就任するとは思っても見ず、周りに支えられなんとか仕事をこなしてきた。10年経った現在、なんとか社長も板についてきて、経営も徐々に上向きになっている。社員数は約20名の少ない会社だが、みんなで一丸となり今日も仕事に励んでいた。
12月の初め、今日は企業向けの展示会に参加する日だ。俺は社長でありながら他の社員に混じって働いているので、こういった仕事も当たり前のようにこなす。それに今回展示するものの中には、俺が作った新しい部品の試作品があるのだ。この試作品は駆動精度と耐久性を大幅に改善した画期的なものだ。制作者である俺が説明した方が試作品の魅力も伝わりやすいだろう。そういう思いもあり、展示会の担当者に立候補した。用意されたブースで手早く準備を進めていると、突然肩を乱暴に叩かれた。
「よう、お前も来てたのか。かずさん、こんにちは」
背筋に悪寒が走るが、すぐに笑顔を作った。この人は我が社の取引先の社長、西本さんだ。出会いは3年前。かずさんが我が社の工場を見学に来た時のことだ。
「今にも潰れそうなボロ工場だな」
かずさんは工場を見てせせら笑いながらそう言い放った。この時、俺はかずさんと初対面。初めて会う相手から罵倒の言葉を向けられて、かなり面食らったのを覚えている。かずさんはその後も俺の工場を馬鹿にし続けた。
「こんな古臭い設備で何が作れるんだ? ゴミでも作ってるのか?」
ニヤニヤと笑いながら俺の反応を見て楽しむかずさん。以前の担当者からそれとなく聞いた話では、かずさんは就職に失敗し、父の会社に入るもコネ入社と陰口を叩かれ続けているという。そのストレスを俺のような弱い立場の取引先にぶつけているらしい。俺はなんとか平静を保っていたが、この時からかずさんに対する印象は最悪だ。父親である元社長はとてもいい人なのに、どうして息子はこうなのか心底不思議だ。元社長との契約は父の代から続く10年来の取引で、我が社の売上の約3割を占める大口だ。かずさんが窓口担当になったのは1年前。これまでは問題なかったが、元社長に訴えることもできず、小さな工場にとってこの取引を失うわけにはいかなかった。かずさんは窓口担当になってから度々無理な値下げや無理な納期を押し付けてきた。なんとか我が社に不利益が生じないようにかわし続けているが、俺のストレスはたまる一方だ。
そんな相手に声をかけられ、気分が沈んでいく。
「俺もこの展示会に参加してるんだ。で、お前は何を展示するんだ? 世間様に見せられるような展示物があるのかよ」
いつものように俺を馬鹿にしてくる。展示会が始まると、かずさんは自分のブースへ戻った。その後はひっきりなしに来る見学者の相手をして、かずさんのことなんてすっかり忘れた。人の流れが落ち着き、我が社のブースも見学者がいなくなる。椅子に座り休んでいると、1人の女性が近づいてきた。
「すみません。この試作品についてお話を伺いたいのですが」
女性は黒縁メガネをかけていて、ボサボサの髪の毛が顔を覆っている。表情は分からないが口調から真剣な様子が伝わってきた。女性はこの分野にかなり詳しいようで、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。一通りの話を得ると、女性は満足げに頷き名刺交換をして去った。まだ若いのに熱心な人だ。
展示会から半年後、俺は市内にある高級ホテルの大ホールに向かっていた。今日はここでかずさんの会社主催の新製品発表会が行われるのだ。我が社も招待され、代表として俺が参加することになった。ところが、あれ、俺の席はどこだろう。会場の外に掲示されていた席順を見る。しかし、どこにも我が社の名前が書かれていなかった。よく見ると、1箇所だけ黒色で塗りつぶされている席がある。もしかして、嫌な予感がして塗りつぶされた箇所を見ていたら、背後から嫌な声が聞こえてきた。
「おい、誰がボロ工場を呼んだんだ?」
振り向くと予想通り、そこにはかずさんがいた。
「どうもこんにちは。かずさん、本日はご招待いただきありがとうございます」
そう言おうとしたが、途中でかずさんに遮られてしまう。
「俺はお前を呼んだ覚えはないぞ」
「え、招待は確かに受け取りましたが」
「それは担当者が勝手に送っただけだ。社長である俺は許可していない」
呆然としている俺を無視し、かずさんは好き勝手に喋り続ける。
「今回の新製品発表会は選ばれた会社だけが参加できるんだ。お前のところのボロ工場は参加資格すらないって、ちょっと考えれば分かるだろう。大体なんだそのスーツは? 貧乏臭いスーツなんか着てくるなよ。発表会の品格が下がるじゃないか」
俺が着ているスーツは確かに高級品ではないが、場にそぐわないというわけではない。かずさんは俺にイチャモンをつけて罵倒したいだけだ。取引継続のために強気に出られない俺を見て楽しんでいるのだ。俺が今までずっと耐えていたのは、父親から継いだ大切な会社と従業員を守るため。けれど、それがかずさんの傲慢さに拍車をかけてしまったらしい。
「というわけで、お前がいると発表会が台無しだからさっさと帰れ」
口の端を歪めて笑いながら、まるで虫でも追い払うように右手を振るかずさん。その瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。
「分かりました。では帰りますね」
無表情でそう言うと、踵を返して会場の外へ向かう。
「おい、なんだその態度は? 俺を舐めてるのか?」
帰れと言ったのはかずさんの方なのに。言う通りにしたらそれで気に入らないのか?
「いえ、そんなつもりはありません」
「はっ。ボロ工場のくせに生意気な言い方だな。俺の一存で取引を中断してもいいんだぞ」
「どうぞご自由に」
ずっと溜め込んだものが、この瞬間爆発した。もうこの男のために頭を下げる気はなかった。
会社に戻る道すがら、だんだんと冷静さを取り戻し、途中で立ち止まり、思わず頭を抱えた。
「ど、どうしよう」
頭に来ていたとはいえ、取引先の社長相手に大口を叩いてしまった。場合によっては本当に取引中止もありえる。失うには惜しい取引先だ。悩んでる暇はない。新しい取引先を見つけるしか方法はなさそうだ。最悪の場合に備えて今から動かなければ、社員にも迷惑をかけることになるだろう。
会社に到着すると、我が社には見慣れない黒塗りの高級車が止まっているのが視界に入った。運転席が急に開いて、30代くらいの綺麗な女性が姿を表した。
「突然すみません。清水社長でしょうか?」
女性は上から下までビシッと決まっている。明らかに只者ではないと身構えていると、女性が名刺を取り出し、改めて自己紹介をした。
「私、星野と申します。以前名刺交換させていただきました」
星野さんが差し出した名刺には、業界以外の人も名前を知っている有名な会社の名前が書かれている。業界1位と言ってもいいだろう。そして星野という苗字を聞いて、あることを思い出す。
「もしかして、社長のご息女で?」
「ご存知ですね。私、表にはあまり顔を出さないのですが」
「半年前の展示会ですよ。あの時は残業で髪の毛はボサボサ、黒縁メガネをかけてましたが」
そこまで言われて、あっ、と声をあげる。あの時熱心に質問してきた女性が星野さんだったのだ。
「それから、先ほども目があったことに気づきましたか? 私も西本産業の発表会に招待されていたんです」
まさかさっきの女性か。もう一度星野さんの顔を見る。
「はい。かずさんとのやり取り、見ていました。ひどい扱いを受けていましたね」
星野さんの表情が少し曇る。
「正直に言うと、あの場面を見るまでは少し迷っていたんです。御社の技術は素晴らしいけれど、小規模な工場との大型契約にはリスクもある。でもあなたの対応を見て確信しました」
「俺の対応ですか?」
「ええ、あれだけの侮辱を受けながら、最後まで冷静さと品位を保っていた。感情的にならず、毅然とした態度で対応されていましたね。その姿を見て確信したんです。こういう方となら、長期的な信頼関係を築けると」
星野さんは少し身を乗り出して続けた。
「技術力が高くても、人間性に問題がある企業とは組めません。御社と仕事の話をしたくて、急いで先回りして伺いました。可能であれば、今すぐうちと5年間の独占契約をして欲しいんです。技術力と今日見た人間性、その両方を評価しての申し出です」
まさか業界1位の企業から声をかけてもらえるとは。飛び上がりそうになるほど驚く俺に、星野さんは真剣な表情で続けた。
「弊社でも開発を試みましたが断念しました。他社にも依頼しましたが、御社の技術は群を抜いています。展示会で見た試作品の精度と耐久性は圧倒的です。独占契約して、開発中の新製品に使わせていただきたいのです」
星野さんはボロボロの工場を見ても、かずさんみたいに馬鹿にしない。こちらの条件もきちんと聞きつつ、お互いにとって最良の形で契約できるよう話を進めてくれた。そして無事に契約合意に至ったのだ。
発表会の翌日、予想通りかずさんから連絡があった。
「自分の立場も弁えない底辺工場とは取引中断だ。すでに依頼済みの部品を納品したら契約は終了。そういう形でお互い合意し、取引関係に幕を閉じた。社長である元さんからは特に連絡はない。おそらくかずさんが自分に有利になるような理由を用意して、取引終了について説明したのだろう。かずさんは「部品なんて他の会社でも作れる」と高をくっているようだった。しかし、星野さんの会社との契約のおかげで我が社の経営は安定していて、平穏な日々が続いていた。
それから1ヶ月後、事務作業を終えた俺は工場エリアへ向かうために席を立つ。その瞬間、机のスマホから着信音が聞こえてきた。相手の名前を確認し、首をかしげる。表示されていたのはかずさんの名前だ。すでに取引は終了し、手続きも終わっている。今更互いに話すことはないはずだが、わざわざ電話をかけてくるくらいだから重要な要件なのだろう。電話に出ると、かずさんの悲鳴のような声が響いた。
「おい、今すぐうちと再契約しろ」
「何があったんですか?」
一瞬の沈黙。かずさんは絞り出すように事情を話し始めた。
「一昨前の新製品発表会でお披露目した医療機器なんだが、好評で量産体制に入ることになったんだ。でもあの機器の心臓部に、お前の会社で作った部品が使われてたんだろう」
「ええ、そうですね」
俺は冷めた声で返す。そう、あの新商品には我が社の部品が使われていたのだ。それなのに、かずさんは俺の席を用意せず、会場から追い出した。取引先だから強く出られないとかずさんは理解していた。それを悪用して、我が社が作った部品を自社の功績に仕上げ、発表会でお披露目したのだ。後から確認したところ、新商品の協力企業に我が社は掲載されていなかった。かずさんは社内資料を改ざんし、我が社の貢献を意図的に隠蔽していたらしい。この件を問い詰めると、かずさんは「ボロ工場の貢献なんか認めねえよ。部品は別の会社に依頼済みだ。取引終了にしても別に困らない。売上が落ちて困るのはお前だけだ」と勝ち誇ったように言い放った。俺はそれ以上何も言わず電話を切った。
過去の出来事を思い出していると、電話の向こうからヘラヘラとした態度のかずさんの声が聞こえてくる。
「実はあの部品、他の業者が作ると品質が落ちるんだ。このレベルじゃ量産はできなくてさ。だからお前の会社に生産を依頼したいんだ」
「なるほど。そういう理由だったんですか」
「悪い話じゃないだろ。契約がなくなって、お前の会社も困っているはずだ」
しかし、俺はあっけらかんと回答した。
「いえ、困ってません」
「はあ? なんでだよ」
「実はうち、業界1位企業と契約済みでして。売上は落ちるどころかアップしてます」
かずさんが言葉を失う。次の瞬間、信じられないと言いたげな声が聞こえてきた。
「ど、どうしてボロ工場が業界1位と契約できるんだよ」
「まあ色々と事情がありまして」
淡々と経緯を話すと、かずさんが小さく「嘘だろ」と呟く。
「星野さんからの依頼はかなり大量でして、仮に契約がなかったとしても、かずさんの会社と新規契約する余裕はありません」
「え、そ、それは困る。親父から何としても契約をもぎ取って来いって言われてるんだ」
弱々しい声になり、かずさんは事情を話し始めた。
「あの部品は自社で作ったものだって嘘が親父にバレて、俺めちゃくちゃ怒られたんだよ。取り返しがつかないと、俺は会社から追い出されるかもしれない」
「そうですか。でも、それ俺には関係ない話ですよね」
かずさんの身の上話などぶっちゃけ知ったことではない。むしろ俺を散々苦しめてきた相手がしっぺ返しを食らい、バチが当たったなとしか思えなかった。
「今更再契約を迫るなんて。今まで俺に何をしてきたか、もう忘れたんですか? ボロ工場と散々馬鹿にして、挙げ句に俺を利用した。そんな相手と2度と仕事する気はありません」
「今までのことはちゃんと謝る。悪かったよ。心から反省しているし、2度と同じ過ちは繰り返さない。だから」
「その言葉を信じられると思いますか? あなたと俺の間には一切の信頼関係がない。そんな相手から反省しているなんて言われても、薄っぺらい言葉にしか聞こえませんよ」
かずさんの声が震え、絶望の感情が伝わってくる。
「た、頼む。俺の話を聞いてくれ」
「お断りします。時間の無駄なので。では失礼します」
「お願いだ。待ってくれ」
かずさんが叫んでいる途中だったが、容赦なく電話を切る。もう2度とあの人と関わることはないだろう。そう判断し、かずさんの連絡先を着信拒否設定にした。
この出来事から数週間後、なんと我が社に元社長がやってきて、かずさんのしたことについて謝罪をしてくれた。
「本当に申し訳ございませんでした」
元社長は謝罪と共に、かずさんのその後について教えてくれたのだ。かずさんのせいで新商品の量産は一旦中止となり、見直しが進められているとのこと。調査したところ、息子が部品の製造を偽っていたことが分かった。さらに星野様から直接ご連絡をいただき、発表会での一部始終についてもお聞きしました。星野さんが元社長に真実を伝えてくれたのだ。かずさんは嘘をついていた件と新製品の製造中止の責任を問われ、会社を追い出されたらしい。仕事を失ったかずさんは、高級マンションの家賃を払う余裕なんてないだろう。父親に見捨てられ、大慌てで再就職を探しているが、未だに見つからず。正直、かずさんがどんなに辛い目にあったとしても自業自得だなとしか思えない。一方、我が社は星野さんの会社との仕事が好調だ。この調子で売上を伸ばし、工場の建て替えやボーナスアップで従業員に還元していくつもりだ。
「なんだよ、この田舎は。周りにコンビニ1つないじゃないか」
文句を言いながら入ってきたのは取引先の新社長。第一印象から最悪だ。うちの工場に入ってきてから文句しか言わないこの男に、俺はいい加減腹が立っていた。そしてついにこの男はとんでもないことを言い出したのだ。だから俺はこの男に地獄を見せることにした。
俺の名前は江原、50歳で工場を経営している。うちは特殊素材を製造できる機械を扱っていて、高い技術を誇っているのだ。特定の合金や特殊な樹脂を高精度で生成する機械を特注で作り、取引先の製品の耐久性向上や軽量化のために不可欠な技術が詰まっている。俺がこの道に進んだのは、高校時代の同級生、森の存在があった。公務員の家庭に生まれた俺は、親と同じ公務員の道を進むよう言われ、1度は公務員として勤務したもののとにかくつまらない。俺は機械の設計に興味があり、独学で高校生の頃から設計をしていて、本当は機械を設計するエンジニアになりたかったのだ。公務員を辞め、親の反対を押し切り、ほとんど勘当状態で家を出て、この土地で工場の経営を始めた。この時背中を押してくれたのが親友の森だ。森は父親の会社で医療機器を作っていた。森は俺に新しく医療機器を製造するため欲しい素材があると相談を受けていた。その素材を詳しく聞いてみると、俺の頭の中にその機械の設計図が浮かんだ。俺は夢中でそのアイデアを森に話した。森も乗り気になってくれ、森が父親を説得。森の父親の会社に機械を設置し、メンテナンスすることから俺の工場経営は始まったのだ。森と森の父親のおかげで今の俺があるのだ。ちなみに、俺の両親とは工場が軌道に乗った頃に和解して、今では俺のことを認めてくれている。
俺の工場はかなり田舎にあり、工場の周辺は何もない。コンビニは車で20分。こういった場所がいいというわけではなかったが、ちょうどいい廃工場があったのだ。今から10年前、森の父親は引退し、それを森が継いだ。だが、今から3年前、世界的な感染症がきっかけで森の会社は海外から仕入れていた特殊な原材料の供給が完全にストップした。これで医療機器が作れなくなり、森の会社の経営は傾いていったのだ。その頃、俺はチタン合金が作れる機械を設計していた。特殊合金で、下手をすれば従来の医療機器よりもいいものが作れる。森に話すと食いついたのだが、森は申し訳なさそうに言った。
「うちの経営は傾いていて、もうこれ以上は無理かもしれない。江原の機械は是非うちで使いたかったけど、もう経営できるだけの資金が残っていないんだ」
だが、この特殊な素材は超精密医療機器に使用でき、市場規模としては3億円。やり方次第ではそれ以上にもなるだろう。俺は言った。
「じゃあ、半年間無償でレンタルするよ。ただし、この機械の製造データは全てこちらで取らせてもらう。きっちり半年。それでダメなら回収する。これでどうだ」
森は「半年、いいのか?」と聞き返す。こうして俺たちの新しい挑戦が始まったのだ。そして半年後、森の会社は劇的な業績回復を見せる。森は「江原のおかげだよ。お前はうちの危機を救ってくれたんだ」と泣いて喜んだ。俺は照れ隠しをして笑った。森の会社は経営危機を脱出し、業績も回復していった。
しかし、数ヶ月前、うちの特注機械を使って新しい医療機器の開発を始めた矢先、大変なことが起こった。
「江原、申し訳ない」
いきなり頭を下げる森。なんと専務である川田という男が会社を乗っ取ったという。森によると、川田はずっと社長の座を狙っていて、周りの役員や社員たちに取り入って、森を社長の座から引きずり下ろそうと画策していたそうだ。俺には言えなかったが、実は森の味方の社員は定年退職や自主退職が続いたという。これも川田の作戦だったらしい。森はこの裏切りに落胆し、もう未練はないと会社を去った。森自身はもう諦めがついたようだが、俺は川田の裏切り行為が許せなかった。しかし、ビジネスはビジネスだ。俺も自分の会社の社員たちを守るため、自分の好き嫌いで契約を切るわけにはいかなかった。
そんなある日、川田から俺のところに連絡が来て、これから挨拶に来るという。うちの機械で作る素材が新しい医療機器には必要不可欠。それも踏まえて挨拶に来るのだろうと思っていた。しかし、うちの工場に着いた川田はこう呟いた。
「こんな田舎の工場、大丈夫か? ボロボロじゃないか」
俺は聞こえなかったふりをして挨拶をした。
「それで、本日のご要件は?」
「ああ、オタクの機械のレンタル料が高すぎてな。どんなところでこの機械が作られたのか、きちんと視察しようと思って」
俺は今まで川田と話したことはほとんどない。ほぼ初対面同様で、社長という立場は同じだけど丁寧語なのは俺だけで、川田はタメ口なのだ。俺は確信した。ああ、俺、見下されてるんだ。川田はその後も続けた。
「以前は発生していなかったレンタル料が突然発生している。これはいわゆるぼったくりというやつか。うちの会社が利益になると思って吹っかけたんだろう」
俺が説明しようとしても、「言い訳はいらないから」と川田は上から目線で言ってきた。
「とにかく0円で使えていた機械が突然数百万になって、納得する経営者はいないんだよ。これ、0円に戻してくれよ」
俺は怒りが募った。俺は森だから無料で貸し出したんだ。しかも半年という条件で、森はきっちりとその約束を守っただけ。そんな事情も知らないで何を言うんだ。だが川田は俺の話を聞こうとはしない。
「それはできません。医療機器の製造に必要な特殊な素材を作る特殊機械ですよ。それをただでレンタルしろというのは」
俺がはっきりと言うと、川田は笑い出した。
「オタク、自分の立場を分かっていないようだね。こんな田舎の底辺工場じゃ話にならん。私がこの会社に来たからには、海外とのパイプも使える。わざわざこんなボロ工場の機械を使わなくても、海外の工場でいくらでも安く作れるんだ」
自信満々な川田の態度に俺が呆れていると、川田は追い打ちをかけるように言い放った。
「もういいわ。これからの製造は海外のハイテク工場に変える。オタクは終わりだ」
俺は「助かります」と言いながら鼻で笑う。レンタル料を0円にしてまで関係を続けようとは思わないからだ。
「じゃあ、オタクに貸してる特注機械、耳を揃えて返せ」
関係を切ってしまうなら、俺も丁寧語を使い続ける必要はないだろう。すると川田は立ち上がる。
「ああ、どうせ大したことない機械だろうからな。あんなでかいだけの機械、邪魔だし」
そう言い笑いながら去っていった。俺はすぐに手配をして、翌日あの特注機械を撤去したのだ。これがなければ新しい医療機器は作れないのだが、川田は全く気づいていないようだ。
俺がその話を森にすると、森はまた頭を下げる。でも別に森のせいでもないし、川田の態度に腹が立ったことを誰かに聞いて欲しかっただけだ。俺には森を責めるつもりは少しもない。森は少し考え込んだ後、こう言った。
「ちょっと協力してくれないか」
森には息子がいて、息子はベンチャー企業を立ち上げているのだが、森はその息子の会社で経営の手伝いを始めたという。実は森の味方だった社員たちもこの会社で働いているそうだ。そこでロボットの製造を行っている。今、大手メーカーと組んで災害用救助ロボットの開発を始めたらしい。素材選びが難航しているという。そこで森はうちの特注機械のことを思い出したのだ。
「医療機器に使う素材は軽くて丈夫。これはロボットの素材にも転用できるかもしれない」
早速、森とその息子のケントと会い、話を聞くことに。ケントは中学生の頃に何度も会っていたが、大人になってからは初めてだ。随分立派な青年に成長していた。ケントから災害用救助ロボットに関する資料を見せてもらい、これならうちの機械で作れる素材が使えるんじゃないかという結論に至った。商談は順調に進み、この特注機械をケントの会社が提携している大手メーカーに設置し、俺が定期的にメンテナンスに行くことになったのだ。もちろんレンタル料は適正金額で契約した。1ヶ月ほどで試作品が完成し、この素材で行けると判断される。そこから改良を重ね、半年ほどで製品化できる見通しだという。俺はその完成をワクワクしながら待っていた。
そんな時、ニュースで川田の会社の名前が流れてきた。何だろうと思い顔を上げ、ニュースを見る。すると新しく開発した医療器具が原因で医療ミスが起こったという。幸い命に別状はなかったらしいが、大変な事故であることは間違いない。その原因は、当初の予定と違う海外の素材を使ったことにより不具合が生じた。しかもこの開発のスポンサーには、海外の素材を使うという変更点を全く話していなかったらしく、スポンサーは大激怒。話が違うと訴訟問題に発展しそうだという。大変だなという感情よりも、あの時見下されたことが蘇り、ざまあ見ろと思ったのだ。だが、話はこれで終わらなかった。
森がたまたまうちの工場に来ている時に、川田がやってきたのだ。
「何の用ですか?」
疑問をぶつけると、川田は言い放った。
「オタクの機械、やっぱりうちで使うことにしたから、なるべく早く導入してくれる? レンタルじゃなく買い取りにするから、金額は勉強してくれよ」
またしても上から目線だ。俺より先に森が前に出て言った。
「おい、あんた、何様のつもりだ」
川田は森に気づき、「あれ、追い出された社長じゃないか」と笑う。俺はその言葉にカチンと来て、森よりも先に口を開いた。
「不況に陥ったのは、あんたが森から会社を乗っ取って落とし入れたからだろう。あんたの裏切りは最悪だったよ。スポンサーから訴えられそうになっているあんたに、森を笑う資格なんて微塵もない」
すると川田はピクリと眉を動かした。だが口は開かなかったので、俺は続ける。
「海外のハイテク工場に変えた結果はどうだった? 新しい精密機械だけじゃなく、今まで森が開発して製造してきた医療機器もその海外製に変えたんだろう。だったら質が下がるのは当然のこと。この間気になって調べたけど、あんたのところの製品、かなり信用度が落ちてるらしいな」
そう言うと、川田は俺を睨みつけた。そこで森が言った。
「俺が開発してきた製品は、江原の機械で作れる特殊合金があって初めて完成する。他の素材じゃダメなんだよ。それくらい、こいつの設計する機械はすごいんだ。そんなことも分からないで社長か。会社の運命はもう決まったな」
川田はそこでようやく口を開いた。
「特殊な素材と言っても、別に特許を取っているわけでもあるまいし、オタクの機械じゃないと作れないなんてことはないだろう。今回の海外メーカーがダメだっただけ。ただ、他を探すのも時間がかかるから、オタクの機械を買い取りに来たんだ。1000万くらいでどうだ?」
「1000万?」
俺と森が口を揃えた。俺は「それじゃあ、レンタル料の3ヶ月分にもならんよ」と呆れる。だが川田は強気だ。
「メンテナンスなんてうちの社員がやる。どう考えてもレンタル料はぼったくりだからな。必要ない機械を1000万で買い取ってやろうって言ってるんだから、さっさと売ってくれ」
俺がため息をつくと、森が呆れながら川田に説教をする。
「あのなあ、他の社員がメンテナンスできるようなものじゃないんだよ。あんた、現場のことなんて何1つ知らないんだろう。現場の声を聞いたか? あの機械がある時に、社員の誰かがメンテナンスできたのかよ。できないからレンタル料払ってメンテナンスも頼んでんの。これを1000万なんかで買い取ろうって、どうかしてるわ」
しかし川田は「いらない機械を買い取ってやるって言ってるんだ。ありがたく思えよ」と興奮した顔で言った。そこで俺はきっぱりと言い放つ。
「無理だね。あの機械、今はとあるメーカーですでに使用していて、当然適正金額のレンタル料も支払ってもらってる。もうすぐ、あっと驚く製品が世に出てくるぞ」
川田は「ハッタリか」と言ったが、俺と森は揃って首を横に振った。川田はまた眉間にシワを寄せる。俺は沈黙を破り、言った。
「そういうわけなんで、どうぞお引き取りください」
出口を指差すと、川田はまだ何か言おうとしたが、森が言った。
「早く出ていけよ。このままいったらあんた、不法侵入だぞ。警察呼ぶけど」
すると川田は思いっきり俺たちを睨みつけ、工場から出ていったのだ。
その後、川田がどうしたのかは知らないが、会社が倒産したというニュースだけ耳にした。何がどうしてどうなったかなんて興味がないし、調べる気にもならなかった。ただ森は息をついた。
「あの素材に勝るものを見つけられなかったんだろう。規模は小さくても技術力の高い工場はたくさんあるけど、川田のあの傲慢な態度じゃ、どこもついていかないよ」
俺も続けた。
「工場の規模や外観で、なぜか自分の方が立場が上だと判断する。成功してきた人って、そうなっちゃうのかね」
森が「まあ、結果的に大失敗だけどな」と言うので、俺は思わず笑ってしまった。
それからしばらくして、ケントの開発した災害用救助ロボットがめでたく完成。このニュースは世間で話題になった。ケントのインタビューも放送されていて、うちの工場や機械のことも話している。川田はどこかでこれを見て悔しがっているかもしれない。このロボットは小型で軽量、さらに高密度な防水性を持ち、水中捜索も可能だ。俺の機械が作る特殊合金がこの機体に使用されている。森が言った。
「江原の設計する機械がなければ、この機体は完成しなかったよ。1度ならず2度までも、江原に助けられたな。お前は俺の恩人だよ」
俺は思わず照れてしまった。
「バカ言え。レンタルしてたこいつを衝動的に引き取ってきたけど、本当はこの後どうしようかって思ってたんだ。俺の方こそ感謝してるよ」
本音半分、照れ隠し半分の言葉を伝える。ケントからも散々お礼を言われたが、この親子がいなかったらうちの方こそどうなっていたか分からない。やっぱり俺は信用できる人たちと仕事をしていきたい。
「こんなボロ工場では信用ゼロだ。契約終了で」
うちをボロ工場と罵ったのは、取引先で新しく就任した専務だ。この人は初対面から俺の見た目だけで人を判定し、嫌な対応をしてきた。こんな相手は信用できないし、関わっていたらうちの工場のためにもならないだろう。そしてこの後、自分の愚かな言動を一生後悔するはめとなった。
俺の名前は伊藤、42歳。パッと見は冴えない40代だが、父親の代から続く町工場の経営者だ。初代経営者の父は引退し、母とのんびり田舎暮らしを満喫中。うちは見た目こそボロ工場だが、精密加工機械の細かい部品を作っている。意外と繊細な仕事なのだ。俺はその現場で工場の経営を担いつつ、時間があれば現場に出て作業服を汚しながら仕事をしている。
そんなある日のこと。来客室に入ってきたのは、父親の代から付き合いがある取引先の担当者で営業部の飯島さんだ。
「この度、うちの人事が一新したんですよ。上層部の面々も何人か入れ替わって、新しい社長と専務が就任しました。うちの部署も部長が別の人間になったんです」
飯島さんは何やら気にかかることがあるようだ。
「普通の人事変更ならいいんですが、社内の噂によると前の社長は派閥に負けて社長の座を追われたらしいんです」
え、いきなり生々しい話に思わず身構える。
「新しい社長は争い事に関しては強いんです。その能力だけでここまで登り詰めたと言われているくらいでして、社長としての器は期待できないと噂されてます」
飯島さんはさらに深いため息をつく。
「その上、今回の人事変更は社長の意向がかなり入っています。適任者が適切な役職についていないんです。うちの部署も営業経験が全くない人物が部長に就任して、かなり混乱していますよ」
「そ、それは大変ですね」
「ええ。特に新しい専務は完全に新社長の息がかかっています。新社長が昔から可愛がっている大学の後輩で、社内では以前からある意味有名人だったんですよ」
「ある意味とは?」
俺の反応を見た飯島さんが沈んだ顔で答えた。
「偏差値の高い大学出身で頭はいいんですけど、仕事のレベルはそこそこです。それはまあ別にいいとして、1度頭に血が登ると手がつけられないほど切れるんですよ」
「なるほど」
そんな人物が専務になったら、飯島さんや他の社員はかなり大変だろう。
数日後、飯島さんの会社へ部品を納品に行った時のこと。受け渡しは飯島さんの会社のエントランスで行う。いつも通り中身をチェックしてもらい、書類にサインしようとした瞬間。
「うわ、なんだお前。汚いな」
背後から突然大きな声が聞こえて驚き、振り返った。
「野村専務。こちらは取引先の伊藤さんです」
飯島さんが硬い声で返すと、野村専務と呼ばれた人物がヘラヘラとした笑みを浮かべながら口を開く。
「なんだよ、ビビらせんな。薄汚れた格好のせいで勘違いしたわ。っていうか、こんな格好で来るような失礼な奴がうちの取引先って?」
この人が噂の野村専務か。飯島さんから聞いていたより強烈な人だ。俺は椅子から立ち上がって素直に謝罪することにした。
「申し訳ございません。次回から気をつけます」
野村が満足げな笑みを浮かべる。しかし、素直な態度の俺になら何を言ってもいいと勘違いしたようで、続けて罵倒の言葉を向けてきた。
「汚い服で平然と我が社に来るような常識のない人間とは、正直関わりたくないね。お前が座ってた椅子、帰る前にちゃんと掃除しておけよ。次もそんな不労者みたいな格好で来たら追い出すからな」
「専務、その言い方はなんだ?」
「俺に逆らうつもりか? お前、確か営業だったな。営業部長は俺や社長と懇意の中だぞ。お前みたいな下っぱ、いつでも潰せるんだからな」
野村がいじめ抜く飯島さんに対し、眉を吊り上げる。これはまずいと思った俺は、とっさに飯島さんを庇う発言をした。
「あの、汚れた服で来た俺が悪いので」
しかし、これは逆効果だったらしい。
「今は俺とこいつが話してるんだ。お前は黙ってろ」
その後、俺と飯島さんは野村に数十分も怒鳴られた。切れると手がつけられないと言っていたが、まさかここまでとは。その上、社外の人間である俺にも見境なく切れるのはかなり問題があるだろう。
それから3日後、俺は夜遅くまで事務所に残り仕事を片付けていた。すると突然、事務所のチャイムが鳴った。こんな夜遅くに一体誰だと思いながら玄関に向かうと、そこにはなぜか野村がいた。
「え、ど、どうされたんですか?」
「たまたま仕事でこの近くに寄ったんだよ。あの失礼な営業に聞いたんだが、お前、この工場のトップなんだって?」
「ええ、まあ一応」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている野村。酒臭い息を撒き散らしながら、野村は俺に絡んできた。
「こんな夜遅くまでトップのお前が仕事をしているなんて、よほど儲かってないのか。まあ、このボロ工場を見れば納得だな」
その後も俺や工場を馬鹿にし続ける野村。酔った勢いで、他人を見下し馬鹿にするという最低の本性が全面的に出ていた。野村がこんなことを口にした。
「こんなボロ工場では信用ゼロだ。契約終了で」
いつの間にかうちの工場と契約を終了させる流れになっていたらしい。酔っ払いの戯れ言だと真面目に話を聞いていなかったので、気の抜けた声で返してしまう。
「は?」
そんな俺の反応が気に入らなかったようで、野村はムッとした顔になる。
「俺の話を聞いてなかったのか」
短すぎる怒りの導火線に火をつけてしまったようだ。まだ仕事が残っているし、これ以上面倒なことは避けたい。そこで俺はすぐに回答した。
「そうですか。同感です。契約終了にしましょう」
「は?」
今度は野村が間の抜けた声をあげる番だった。深く考えるより先に口が動いていたが、案外悪くない案だと考える。飯島さんには申し訳ないが、こんな人間が専務をしている会社は信用できない。いずれ大きな問題に発展するだろう。その時うちが関わっていたら何かしらの影響が出るかもしれない。そうなる前に先手を打っておくべきだ。
「改めて御社に伺って、契約終了の手続きをします。時間は10時でいいですかね? こういう話はちゃちゃっと終わらせた方がいいでしょうし。では、10時に伺いますので、よろしくお願いします。もう夜も遅いですし、帰った方がいいと思いますよ」
一方的に約束を取り付けながら、野村専務の背中を押して事務所から追い出す。契約終了と言えば、俺が慌てふためいて「それだけはやめてください」とすがりつくと思ったのだろうか。俺の返答が予想外で戸惑った野村は、促されるまま会社の敷地から外へ出た。
翌日、俺は約束の時間に野村部の会社を訪れていた。手に持っているのは契約終了の書類だ。案内された会議室に向かうと、野村専務がニタニタと笑みを浮かべて座っている。
「今更契約終了はなしなんて言わないよな」
歪んだ笑みを浮かべる専務。俺は頷いて返し、契約終了の書類を差し出した。
「大丈夫です。こちらにサインをお願いします」
「ちっ。はいはい」
ろくに書類の中身を確認せず、野村専務はサインをする。
「これでお前のボロ工場との関係は終わりだ。言っておくが、今後何があろうと再契約は絶対にしないからな。それとお前の工場の悪評を業界に広めてやる。俺に生意気な態度を取ったバツだ。今ここで土下座するなら、考え直してやらないこともないぞ」
しかし、俺はそれに答えず、専務がサインした書類をもう1度突きつける。
「念のため中身の確認をお願いします。特にこちらの記述はきちんと確認してください」
野村の顔が怒りで歪むが、俺が指差した内容を見ると、怒りが困惑の表情に変わった。
「なんだこれ? うちの精密加工機械に使っている部品の返却? なんでお前の会社に大切な部品を渡さないといけないんだ?」
「それ、俺が特許を取得した部品なんですよ。今までは格安で貸し出してましたが、御社との契約終了に伴い、貸し出しも終わりです」
野村の目と口が大きく開かれる。実はうちの工場は部品を下ろしているだけではなく、野村の会社で使っている精密機械の部品の大半を所有しているのだ。前社長の時代にこの精密機械が不具合を起こしたことがある。その際、俺が特許を取得した部品を使い窮地を救っていたのだ。この精密機械が動かなければ、野村部の会社はメイン商品の製造ができない。前社長には色々と良くしてもらったので、ちょっとした恩返しのつもりで部品を格安で貸し出し、利用料は部品のおろし値に上乗せという形で請求していた。そして、前社長と交わした契約書には「取引関係が終了する際には部品対応も終了し、部品の返却をする」と明記されている。
「ちょ、ちょっと待てよ。こんなの聞いてないぞ」
「サインする前にちゃんと書類を確認しておけばよかったですね」
あっけらかんとした俺の返答に、野村がブチ切れ寸前の顔になる。しかし、今ここで切れてもいいことがないと悟ったのか、怒りを飲み込んでこんな提案をしてきた。
「じ、じゃあ、再契約だ」
「先ほど、再契約は絶対にしないと言いましたよね」
「そんなこと言ってない」
白を切る野村専務に、俺はスマホを取り出し、ある音声を聞かせた。
「言っておくが、今後何があろうと再契約は絶対にしないからな」
それはここに来てからずっと録音していた音声データだ。
「言ってないは通用しませんよ」
野村は悔しそうに唇を噛み、ブルブル震えている。
「う、うちと契約がなくなったら困るのはお前らの方だろ」
「いえ、特に困りませんね。実はこの部品、御社のライバル会社がずっと使いたがってたんです。そこに来る前に話をしたら、5年間の独占契約を依頼されましたよ。そして御社には格安で提供してましたが、ライバル会社は適正価格を提示しています。困るどころか収益アップなので、むしろ契約中止はありがたいですね」
俺が明かした事実に、野村は顎が外れそうなほど口を大きく開いて呆然とした表情になった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。独占契約はやめてくれないか? うちも適正価格を払うから。今まで通り部品を使わせてくれよ」
今までの失礼な態度が嘘のように媚びた笑みを浮かべる野村。しかし、俺はきっぱりとその頼みを拒否した。
「取引先を特に理由もなく馬鹿にして見下す人とは、今後2度と一緒に仕事はしません。あと、あなた今まで1度も俺に謝ってないですよね。自分がしたことが悪いと思っていない証拠ですよ」
俺の指摘に野村がハッとした顔になる。
「あ、謝る。今までのことは全部謝るから」
「今更遅いですよ。これから何が起ころうと、あなたが自ら招いたことですので、自分の愚かな行いを一生後悔してくださいね」
すがりつこうとしてきた野村専務を振り払うと、足早に会議室を出ていき扉を閉める。この後、野村の会社は上を下への大騒ぎ。3日後には、なんと社長自らうちの工場にやってきて謝罪したが、この時点ですでにライバル会社と独占契約していた俺は、契約上それは無理だと改めて拒否。ちなみに、野村とのやり取りの後、俺はすぐさま飯島さんにことの次第を伝えた。
「分かりました。ありがとうございます。実は今の会社に愛想が尽きて転職活動を進めてたんですけど、今回の件で決定的になりましたね」
この後、飯島さんはすぐに転職先を決めて野村部の会社を去った。今回の件が明るみに出ると、他の社員も次々と転職。野村の会社は急激な人手不足とメイン製品の生産中止の対応で大混乱。一方、俺はボロボロの工場で今日も忙しくしている。ライバル社からの部品の貸し出しとは別に大きな仕事を依頼された。この対応でかなり慌ただしくしているが、おかげで来期の売上は期待できそうだ。
「中国の激安資材でコストカットする。3億円分、キャンセルで」
俺は建設資材製造会社の社長として、半年間かけて準備してきた過去最大の案件を、納品前日に一方的にキャンセルされた。元受けの担当者はキャンセル料の支払いにも応じようとしない。しかし俺は、事前に担当者の不審な動きを察知し、密かに打開策を練っていたのだ。そして俺は、この傲慢な裏切りに対して冷静に反撃を開始するのだった。
俺は木村、45歳。建設資材製造会社の社長をやっている。この半年間準備してきた大型案件が、いよいよ納品10日前を迎え忙しい日々を送っていた。この案件は大手建設会社が手掛ける商業施設建設プロジェクト向けに、3億円分の特殊鉄骨部材を供給するもので、俺の会社にとって過去最大の案件だった。工場では品質チェックを終えた鉄骨部材が並んでいる。
その時、元受けの大手建設会社から電話が入った。この建設プロジェクトを担当する営業部の堅場部長だ。
「木村さん、予定通り頼むよ。ところで木村さん、やっぱり単価が高すぎるな。もう2割は下げられるだろう。ここで協力してくれないと、次の案件はどうなるか分からないよ」
俺はやんわりと答えた。
「申し訳ありませんが、材料費や人件費を考慮すると、これ以上の単価引き下げは難しいです」
堅場は冷たく言い放った。
「まあ、品質に問題があったら全部君の責任だし。そういう態度なら、次の案件がなくても仕方ないよな」
慣れているとはいえ、堅場の高圧的な物言いに毎回不快な気分になる。それでも大型契約だけに我慢していた。堅場とのやり取りはいつもこんな調子だ。常に堅場は上から目線で威圧的な態度を取る。しかし、無事納品さえ進めばこれまでの苦労が報われる。
迎えた納品前日の夕方。堅場が突然、俺の会社に現れた。アポイントもなしに事務所に入ってきた堅場は、不敵な笑みを浮かべている。
「木村さん、急な話なんだけどさ」
その言葉に嫌な予感が背筋を走る。
「中国の激安資材でコストカットする。3億円分、キャンセルで」
堅場は予告もなく一方的にそう告げてきたのだ。俺は一瞬言葉を失った。半年間の準備、専用設備への投資、材料費、人件費。堅場の一言で全てが水の泡になる。
「前日キャンセルは契約違反では?」
俺は頬を引き締め、冷静に問いただした。堅場は鼻で笑うように答えた。
「まだ納品されてないから、大丈夫でしょう」
堅場は理不尽なことを言い放ち、さらに続けた。
「今の中国製の部材は優秀だし、何より格安だ。お前のところより全然いいよ」
俺がキャンセル料を要求すると、堅場の態度はさらに横柄になった。
「キャンセル料? 何それ? 契約書にそんなこと書いてないでしょ」
そんなわけはない。契約書にはキャンセル条項が確実に明記されているが、堅場は平然と無視し、嘘をついているのだ。さらに堅場は露骨に脅しをかけてきた。
「それより元受けのうちに逆らうつもりか。業界での君の立場、分かってるよね。契約したからって、お前の会社はただの下受けなんだからさ。今後も仕事が欲しいなら、大人しく引き下がることだね」
俺は表面上困惑したような表情を見せながら答えた。
「キャンセルなら仕方ないですね」
堅場は一瞬、拍子抜けしたような表情を見せた。あれ、もっと食い下がってくると思ったのに。堅場は立ち上がりながら続けた。
「まあ、話が早くて助かるよ」
そう言って堅場はさっさと帰っていった。
堅場が去った後、俺は工場の3億円分の資材を見つめた。半年間の努力と投資が一瞬で無駄になる状況。それでも俺は思いの他冷静だった。俺にはまだ堅場の知らない次の手があるのだ。堅場が去った後、俺は納品1週間前の出来事を振り返る。納品に向けて、いつものように堅場に品質チェックの確認を求めたところ、堅場は意外な反応を示した。
「忙しいから、今回はいいよ」
堅場はそう言って品質チェックを拒否したのだ。それまでは欠かさずチェックしていたのに、なぜ急に? 俺は違和感を覚えた。その直後、同じプロジェクトで設備工事を担当している下受け業者の仲間から気になる情報が入った。下受け業者同士は、元受けとの上下関係に配慮するという同じ悩みを抱えているため結束が強い。しかも、その下受け業者は現場で堅場と顔を合わせることが多い。
「堅場さんが最近、中国の業者の人間と頻繁に接触を行っているらしいですよ」
俺はすぐさま堅場が品質チェックを拒否したことと、その情報が頭の中で結びついた。1つの仮説が浮かび上がる。俺はその中国の業者について調べてみることにした。すると、その業者は激安の建設資材を専門に扱っていることが判明する。しかし、さらに調べを進めると驚くべき事実が明らかになる。その業者が過去に日本国内で供給した資材が、建築基準法違反を問われた事例が複数あるのだ。規格不適合による施工不良や強度不足による安全性の問題が何度も報告されている。俺は万が一の事態を想定して準備を開始していたのだ。まず契約書の確認を行い、キャンセル条項を再点検した。そして最も重要なのは、信頼できる相手への情報共有だった。その相手は、今回の大型商業施設の建設プロジェクトで堅場の建設会社と競合していた大手建設会社の富岡だ。俺は富岡に堅場の行動についての情報を伝えに出向いた。
「もし堅場の会社が何か問題を起こせば、いずれ我々に話が回ってくる可能性もある。その時は、木村さんの資材で進めたい」
俺は静かに頷く。あくまでも可能性の話だったが、俺としては最悪の事態に備えた保険をかけていたのだ。
キャンセルから1ヶ月後、下受け業者仲間から興味深い情報が入ってきた。堅場の建設会社では中国の業者から調達した資材を使った工事が始まったものの、俺の予想通り問題が続出。現場は大混乱に陥っているらしい。
「木村さん、堅場の現場がえらいことになってますよ。中国から届いた資材が全く使い物にならないんです」
「どんな問題が起きているんですか?」
「まず規格がバラバラで設計図通りに組み立てられない。それに基礎工事の中間検査で強度測定をしたら、建築基準法の安全基準を満たさないことが判明したんです。現場監督がそれに気づき、堅場さんに報告したらしいんですが、『コストを優先するから黙って作業を続けろ』と言われたそうです」
俺が事前に調べた中国業者の過去の違反事例と全く同じパターンだ。基礎や主要構造部の検査で不適合となれば、工事は完全にストップですね。俺は冷静に答える。商業施設の建設なら、着工から1ヶ月程度で基礎工事の中間検査が実施されるのだ。その業者はさらに続けた。
「堅場さんも毎日現場に顔を出して、資材メーカーに電話をかけまくってるそうです。代替品はないのか、何か解決策はないのかと、片っ端から業者に連絡を取ってるらしいですよ」
堅場が俺に連絡をしてこないのは、おそらく自分から切り捨てた手前、今更頭を下げる気にもなれないのだろう。
業者との電話を終えると、今度は富岡から着信が入った。
「木村さん、君の予想通り問題が発覚したな。中間検査で建築基準法違反が発覚し、工事差し止めになりそうです。大型商業施設の施主である白石さんから緊急で相談を受けた。大体業者として我々が選ばれることになりそうだ。明日正式な打ち合わせをするんだが、木村さんにも同席してもらいたい」
俺は2つ返事で了承した。翌日、富岡の会社の会議室で白石と初めて対面した。白石は40代の女性で、商業施設オーナーとしての風格を備えていた。しかし、その表情には明らかに怒りが宿っている。
「堅場の会社との契約解除を決断しました。中間検査で建築基準法違反が発覚し、このまま工事を続けることは不可能です。工事差し止めの手続きを進めており、損害賠償も請求する予定です」
富岡が提案した。
「木村製作所の高品質な資材なら、中間検査も難なくクリアできます。工期短縮も可能です」
白石は俺を見つめた。
「本当に短期間で対応できるんですか?」
「すでに製造済みの資材がありますので、すぐにでも対応可能です。弊社の資材は建築基準法の安全基準を完全に満たしており、中間検査も問題なく通過できます」
俺は自信を持った表情で続けた。白石の表情が明らかに明るくなった。
「それは心強い。是非お願いします」
富岡が契約条件を説明した。
「緊急対応ということで、定価の1. 2倍での取引となりますが」
白石は即座に答えた。
「構いません。建築基準法に適合した品質と工期が確保できるなら、価格は問題ありません」
契約は定価の1. 2倍という条件で成立した。俺の資材は予想以上の高値で売れることになったのだ。堅場のキャンセルが、結果的に俺に大きな利益をもたらすことになった。
富岡の建設会社との契約が成立してから3日後、堅場が俺の会社に現れた。以前の傲慢な態度は影を潜め、明らかに憔悴しているように見える。スーツもシワだらけで、いつもなら完璧に整えられている髪も乱れている。
「木村さん、実は相談があって」
堅場の声は震えていた。俺は冷静に応じた。
「どのような相談でしょうか?」
堅場は椅子に座ると深いため息をついた。
「中国産資材の問題で工事が完全にストップしてしまった。中間検査での建築基準法違反により工事差し止め処分を受けた。会社は施主の白石さんから多額の損害賠償を求められているし、俺も発注元の責任者として厳しく追求されている。全て俺の判断ミスだった。会社での立場も危うい状況なんだ」
俺は黙って堅場の話を聞いていた。そして堅場は本題を切り出した。
「木村さん、お願いがある。当初の予定通り、君のところから資材を調達させてもらえないか?」
堅場は唇を震わせてそう言う。俺は冷静に答えた。
「堅場さん、覚えてますか? あなたは俺に何と言いましたっけ? 『中国の激安資材でコストカットする』とか『3億円分キャンセルだ』とか散々馬鹿にしましたよね。それに『中国は優秀で格段に安いから、俺のところより全然いい』とも言いましたね。さらに、元受けと下受けの関係を引き合いに出し、『業界での立場を分かっているのか』と俺のことを脅し、『今後の仕事が欲しいなら大人しく引き下がれ』とも言いましたよね」
俺は1つ1つ堅場の言葉を思い出させた。堅場は完全に沈黙してしまった。俺はさらに続ける。
「申し訳ありませんが、俺の資材は全て富岡さんの会社に売却済みです。しかも、定価の1.

2倍で買い取ってもらえました」
堅場の顔が真っ青になった。
「そんな。じゃあ、俺はどうすれば」
堅場は絶望的な表情を浮かべた。俺は机に肘をついて堅場を見つめた。
「堅場さんの言った通りですよ。中国の激安資材の方が全然いいんでしょ。そちらで何とかしてください。それに、俺のような下受け会社と今更付き合う必要もないでしょう。あなたの業界での立場なら、他にいくらでも選択肢があるはずです」
堅場の手が震えている。
「でも、木村さん、俺たちは昔から知り合いじゃないか」
堅場は最後の望みをかけるような声で言った。俺は首を振った。
「知り合いが一方的にキャンセルして脅しをかけてくるものでしょうか。知り合いなら相談してくれれば良かったのに、一方的に捨てましたよね。堅場さんは俺を下受けとして見下していただけです。『契約したからって、お前の会社はただの下受けなんだからさ』と言ったのを忘れましたか?」
堅場は顔を覆い肩が震えている。俺は立ち上がって堅場を見下ろした。
「堅場さん、今回の件で学んだことがあるでしょう。安易にコストカットに走ると、結果的にもっと大きな損失を招くということです。それに、相手を見下して横柄な態度を取ると、いざという時に助けてもらえないということも」
堅場は何も言えずに座り込んでいる。俺は事務所のドアに向かった。
「お帰りください。俺には堅場さんを助ける理由がありません」
俺は冷たく言い放った。堅場は椅子から立ち上がろうとしたが、よろけてしまった。
「木村さん、何でもする。何でもするから、資材を分けてくれないか?」
堅場は最後の懇願をした。俺は振り返った。
「何でもする? それなら、あなたが俺に言った言葉を全て撤回して、皆の前で謝罪してください」
堅場は困惑した表情を見せた。俺は冷たく続けた。
「でも、そんなことをしても、俺の資材はもうありませんから。無駄ですけどね」
堅場は完全に打ちひしがれ、膝から崩れ落ちそうになった。俺は最後に言った。
「堅場さん、これが現実です。あなたが俺にしたことが、そのまま自分に帰ってきただけです」
堅場は何も言えずに、うなだれたままとぼとぼと事務所から出ていく。俺は窓から堅場の後ろ姿を見送った。それから3ヶ月後、下請け業者仲間から堅場のその後について詳しい話を聞いた。堅場が務めていた建設会社は建築基準法違反で行政指導を受け、白石から多額の損害賠償を請求されたという。会社側は堅場を資材選定の責任者として多大な損害を与えたという理由で懲戒解雇した。堅場の業界内での評判も地に落ち、どこの建設会社も堅場を雇おうとしないらしい。一方、俺の会社は富岡との取引をきっかけに業界での評価が大きく向上していた。俺の会社の資材なら間違いないという評判が広まり、新規の大型案件の依頼が次々と舞い込んできた。堅場に脅されても屈服せず、品質にこだわり続けた結果、最高の形で報われたのだ。


