取引先の社長が、懇親会の場で全取引先に俺の会社との契約解除を迫り、その場で「全商品を半額で納品しろ。嫌なら即刻契約終了だ」と高らかに宣言した。周りの取引先は誰も俺と目を合わせようとしない。彼は勝ち誇った顔で、俺が値下げに同意するのを待っている。だが、彼は知らなかった。俺が彼の企みを最初から知っていたことを。そして、この場で全てを終わらせる証拠を用意していたことを。彼が余裕の笑みを浮かべたまま…

取引先の社長が、懇親会の場で全取引先に俺の会社との契約解除を迫り、その場で「全商品を半額で納品しろ。嫌なら即刻契約終了だ」と高らかに宣言した。周りの取引先は誰も俺と目を合わせようとしない。彼は勝ち誇った顔で、俺が値下げに同意するのを待っている。だが、彼は知らなかった。俺が彼の企みを最初から知っていたことを。そして、この場で全てを終わらせる証拠を用意していたことを。彼が余裕の笑みを浮かべたまま...

「全車全商品を半額で納品しろ。嫌なら即刻、契約終了だ。」

取引先の社長が、懇親会の会場で堂々とそんな要求を突きつけてきた。その傲慢さに呆れる俺をよそに、彼は勝ち誇った表情を浮かべている。手渡された契約解除通知書の山。周りの取引先の面々は顔を伏せ、俺と目を合わせようとしない。その姿を見れば、彼らがこの状況に本心から同意しているわけではないことは明らかだった。

俺は深く息をつきながら、冷静に問いかけた。

「それ、本気で言ってますか?」

だが、彼の余裕たっぷりの笑みは消えない。その表情を目にした瞬間、俺の心にある決意が固まった。

「仕方ありませんね。」

彼の勝ち誇る姿を真正面から見据え、俺は静かに宣告した。

「では、全車、契約終了します。」

俺の名前は鈴木渡る。工業部品の製造会社で社長を務めている。幼い頃から手先が器用で、工作などの物作りが好きだった。高校時代には技術コンクールに積極的に参加し、いくつも賞をもらったものだ。将来はこの特技を生かした職に就きたいと思い、大学は工学部へ進学。そして大学卒業後は工業部品などを扱う企業へと就職した。

その会社では仕事の基礎などを教わり、それなりに成長できたが、思ったように研究開発できないことに徐々に不満を募らせていくようになった。そこで俺は一念発起して会社を辞め、自分で工業部品の製造会社を立ち上げたのである。

最初は資金繰りなどに苦労したが、俺が発明した部品が特許を取るようになってから経営は順調。俺の会社は小さいながらも技術力が確かな会社だと評価され、次第に取引先も増えていったのだった。

そんなある日、得意先の中村社長から電話がかかってきた。俺は嫌な予感に顔をしかめる。彼の会社は取引先の中でも規模の大きな会社で、中村社長はそれを傘に着て横柄な態度を取ることが多い。さらに無理な納期を設定することも日常茶飯事で、全くこちらの都合を考えてくれないのだ。最近では頻繁に値下げの要求をしてくるようになった。

今日の電話も、どうせその話だろう。このまま無視してしまいたい気持ちに駆られたが、これからも取引を続けていく以上、そういうわけにはいかない。俺は嫌な気持ちが声に出ないように気をつけながら、彼からの電話に出た。

「もしもし。鈴木です。」

「ああ、やっと出たか。何やってたんだ。あまりにも遅いから電話を切るところだったぞ。」

それほど待たせたつもりもないのだが、俺は素直に「すみません」と謝っておいた。

「まあいい。今日はこの前話した値下げの件で電話したんだ。どうだ?考えてくれたか?」

予想通りの話の内容に、俺はこっそりとため息をついた。

現在俺の会社では、ある特許部品を彼の会社に納めている。彼はその部品の値段を下げろとしつこく迫っているのだ。

「以前もお話しした通り、あの部品は特許部品である上に受注生産品です。他の部品に比べてコストもかかるため、はっきり言って値下げは厳しいんですよ。」

「何言ってんだ?お前の会社には十分儲けさせてやってるだろ。少しぐらい下げてくれてもいいじゃないか。」

まくし立てる中村社長に、俺は頭を抱える。そういう問題ではないのだが、全く話が通じないようだ。こちらは売り惜しみをしているわけではない。現在提示している値段でも、かなりギリギリの額まで下げている。これ以上下げてしまったら完全に赤字だ。いくら中村社長の会社が大量に発注してくれたとしても、利益が出なければ意味がない。

どう答えようかと悩んでいると、中村社長はしびれを切らしたようだ。

「とにかく、今のままの値段じゃ、このまま取引を続けるのも難しいからな。よく考えておけよ。」

彼はまるで脅しのようなことを言うと、こちらの返事も待たずに電話を切る。俺は受話器を戻しながら、今度こそ誰にはばかることなく大きなため息をついた。彼の横暴な態度と無茶な要求にはいつも腹が立たせられる。だが、それでも長年取引を続けてきた会社だ。対話で解決できるのなら、そうしたい。さて、どう説得したものかな。

俺は中村社長への対応に頭を悩ませながら、仕事へと戻った。

それからしばらくして、俺の元に一通の手紙が届く。どうやら中村社長の会社主催の懇親会が開かれることになり、その招待が送られてきたようだ。俺はその招待を手に、どうしたものかと眉間にしわを寄せる。懇親会のような場は嫌いではないのだが、中村社長と顔を合わせるのが憂鬱だったのだ。

とはいえ、他の得意先の社長たちも大勢やってくるだろうし、俺だけ欠席するわけにもいかないだろう。あまり気は進まないが、出席することにして、俺は覚悟を決めて懇親会の日を待った。

そして迎えた懇親会当日。俺は普段滅多に着ないスーツに袖を通し、会場となるホテルに向かう。今回の懇親会はホテルの宴会場を借り切ったもので、広い会場にはすでに多くの招待客たちが集まっていた。すると、俺に気づいたその中の一人が片手を上げ、足早にこちらに近づいてくる。

「やあ、林さん。」

俺は笑顔になり、スーツ姿のすらりとした青年に声をかけた。彼は取引先の社長の息子で、現在は副社長として父親の社長をサポートしている。林さんの父親の会社とは先代の頃から良好な関係を築いており、彼とも長い付き合いだ。

「鈴木さん、こんにちは。」

林さんはいつも笑顔が素敵な青年なのだが、今日はどこか緊張したような顔をしている。彼は俺に軽く挨拶をすると、周囲にちらりと目配せをした。それに気づいた他の取引先の人間たちが、俺の周りにぞろぞろと集まってくる。彼らが揃ったのを確かめた林さんは、申し訳なさそうな顔で俺に書類の束を差し出した。

「こういうことになってしまいました。」

そして、深々と頭を下げる。受け取ったその紙には「契約解除通知書」と書かれていた。紙の量から察するに、この場に集まっている取引先全ての通知書があるようだ。俺は書類から目を離すと、取引先の面々をゆっくりと見回した。

「これは、どういうことですか?」

冷静にそう尋ねると、その場にいた者たちが居心地悪そうに目をそらした。林さんは困った顔で「これは、その…」と答えを濁す。

その時、俺の後ろから一番会いたくない人物の声が聞こえてきた。

「林さんの会社からも契約解除を持ちかけられるとは。お前の会社はよほど不満に思われていたらしいな。」

顔をしかめて振り返ると、そこには勝ち誇ったような顔でふんぞり返る中村社長の姿があった。彼は嫌な笑みを浮かべながら近づいてくると、俺が手にしている書類の束に目をやった。

「随分嫌われてるようじゃないか。彼らが一斉に手を引いたら、君の小さな会社なんか立ち行かなくなるんじゃないか?」

俺が契約解除を突きつけられたことがよほど嬉しいのだろう。彼は目を爛々と輝かせている。だが、俺は特に焦ることもなく、軽く肩をすくめて平然と答えた。

「そうかもしれませんね。」

俺のその態度が気に食わなかったのだろう。中村社長はむっとしてこちらを睨んだ。

「やけに余裕じゃないか。」

俺が黙っていると、中村社長はふんと鼻を鳴らし、傲慢な態度で高々と宣言する。

「契約を切られたくなければ、ここにいる全社の全商品を半額で納品しろ。嫌なら契約終了だ。」

そのむちゃくちゃな要求に、俺はさすがに呆れた様子を隠すことができなかった。彼に冷たい視線を送りながら、冷静に訪ねる。

「それ、本気で言ってますか?」

しかし、勝ち誇っている中村社長は俺の冷ややかな目にも気づかないのか、「もちろんです」と胸を張って答えた。周りの者たちは俺と視線を合わせられないようで、ひたすら俯いている。

「大体、お前のとこの製品はどれも高すぎるんだ。俺が忠告してやった時に大人しく値下げしていれば、他の会社からも見限られずに済んだというのに。」

あの値下げ交渉のどこが忠告だったのかは知らないが、俺が要求を飲まなかったことで彼の怒りを買ったことはよくわかった。

「こうなったのも、いつまでも値段を下げようとしなかったお前のせいだからな。契約を切られたくなかったら、さっさと値下げに同意しろ。」

中村社長は俺が値下げをすると思い込んでいるのか、余裕の笑みを浮かべている。俺は大きく息をつき、諦めたような声で言った。

「そうですか。仕方ありませんね。」

街を確信し、にやりと笑う中村社長。次の瞬間、俺はそんな彼の顔を真正面から見据え、揺るぎない口調で言った。

「では、全車、契約終了します。」

俺の言葉がよほど意外だったのか。中村社長は目をぱちくりとさせて驚いた。それから顔を引きつらせ、目に見えて動揺し始める。

「な、何を言ってるんだ?全社だぞ。」

「はい。全車で結構です。」

「全社と契約を切られてやっていけるわけないだろうが。強がるのもいい加減にしろ。」

真っ赤な顔で怒鳴る中村社長に、俺は涼しい顔で言った。

「こちらの要求通り全社との契約を終了しただけなのに、何をそんなに怒っているんですか?それに、我が社のことは心配していただかなくても大丈夫です。最近、海外との取引が増えてきましたので、ちょうどそちらをメインにやっていこうかと思っていたところなんです。」

中村社長は俺の言葉に目を見開くと、呆然としたように呟いた。

「海外だと…」

「ええ。確かに数年前なら、ここにいる取引先全ての契約がなくなるのは痛手でしたが、今は海外の取引先が増えているのでどうとでもなるんです。これまで俺の会社の製品は国内の企業でしか使われていなかったが、数年前に海外のとある企業からうちの特許部品についての問い合わせが来た。この企業と契約を結んだことをきっかけに、うちの製品は海外でも知られるようになり、現在では国内シェアを凌いで需要が伸びている。だからこそ、これだけの数の取引先に一気に契約解除を申し出られても困ることはないんですよ。国内企業にしがみつく理由もありませんしね。国内で不当な値下げをさせられるくらいなら、これからは海外メインにシフトしますよ。」

俺がそう言った途端、周りの得意先たちが慌てたように声をあげた。

「うちは本当は契約解除なんてしたくないんです。」

「うちもです。契約解除は撤回させてください。」

次々と似たようなことを言い始める得意先の面々に、中村社長がぎょっとしたような顔をする。そんな様子を眺めながら、俺は「当然だな」と思った。得意先の会社の製品には、俺の会社の特許部品がなければ生産できないものが数多くある。うちとの契約がなくなれば、それこそ死活問題だ。進んで契約解除しようなどと思うはずがない。

取引先の必死の訴えがひとまず落ち着いたところで、それまでずっと黙っていた林さんが静かに口を開いた。

「これは、中村さんの発案です。」

その言葉と同時に、そこにいる全ての人間の視線が中村社長に集まった。彼は全員の視線を浴びながら、引きつった笑みを浮かべる。

「林さん、いきなり何を言い出すんだ?」

「あなたは大口の取引先を盾にして、鈴木さんに契約解除通知書を出すようにと迫りましたよね。」

「そんな身に覚えのないことを言われても困るな。俺は何もしていない。」

動揺を隠しながら、なんとか白を切ろうとする中村社長。

「俺が林さんを脅したなんて証拠はどこにもないし。ましてや、その通知書を作ったのは皆さん自身でしょ。俺に責任転嫁しないでくれないか?」

図々しいまでにふてぶてしい態度で、中村社長は林さんたちを脅すように言った。しかし、このまま逃げ切れると思ったら大間違いだ。

「証拠なら、ありますよ。」

「んだと…」

俺の言葉に、彼の顔から笑みが消える。いぶかしげな顔をしている中村社長を一瞥すると、俺は林さんへと目線を送った。彼は俺の合図に一つ頷くと、スーツのポケットからスマホを取り出し、素早くそれを操作する。そして、ある録音音声を流した。

「な、なんでこれが…」

その音声を聞いた中村社長が、氷づけに目を見開く。スマホから流れてきたのは、林さんと中村社長の二人による会話だった。中村社長はその会話の中では、林さんに契約解除通知書を作るよう指示し、さらに断ろうとする林さんに対し、「うちとの大口の取引がなくなってもいいんですか」などと言って脅している。

林さんが音声の停止ボタンを押すと同時に、青い顔をした中村社長が大きな声で叫んだ。

「偽造だ!そんなこと、俺は言ってない!」

冷や汗を浮かべながらも、往生際悪く責任逃れをしようとする中村社長。

「どう聞いてもあなたの声だと思いますが。」

「今時、こんな音声だって作れるだろう。」

「そうですか。では、こちらの証拠はどうですか?」

慌てふためく中村社長とは対照的に、俺はどこまでも冷静だった。用意していた書類を取り出し、彼の前で広げて見せる。

「これは、林さんに送信したメールを写したものです。ここには今日の計画の詳細が書かれていますが、これでも何も知らないと?」

すると、中村社長が何か言う前に、一緒になってこの書類を見ていた他の取引先たちが大声をあげた。

「うちに来たメールもまだ残ってるから証拠になるぞ!」

「うちもだ!うちもだ!」

次々に上がる声に顔を引きつらせながら、中村社長は林さんのことを悔しそうな顔で睨んだ。

「裏切ったのか?」

「最初から乗る気はなかったということです。鈴木さんは大切な取引先ですから。」

林さんは涼しい顔でしれっと答える。

実は林さんは、中村社長からこの計画を持ちかけられた時点で、すぐに俺に相談していたのだ。林さんの話を聞いた俺は、中村社長の卑怯なやり方に呆れたが、それ以上に彼のやりかねないとも思った。実際、俺にも脅すようなことを言っていたのだ。他の取引先を脅すくらいのこと、いくらでもするだろう。しかし、ただ中村社長を問い詰めたところで、のらりくらりと言い逃れされるのは目に見えている。そこで俺は、確かな証拠を掴むまで彼を泳がせることにし、林さんに協力をお願いしたのである。

「林さんには、できるだけ証拠を残しておいてくださいとお願いしたんですよ。おかげであなたのくだらない企みを阻止することができました。」

「一時的にでも、この人の味方のふりをするのは辛かったですけどね。でも、うまくいって良かったです。」

にこやかに話す俺たちを呆然としながら眺めていた中村社長だったが、これ以上の悪あがきは無駄だと悟ったか、膝から崩れ落ちるようにして床にへたり込んだ。

この様子を見ていた得意先一同が、一斉に俺に向かって頭を下げる。

「申し訳ありませんでした。」

彼らは声を合わせて謝罪の言葉を口にすると、そのうちの一人が居心地が悪そうに顔を上げた。

「脅されていたとはいえ、本当にバカなことをしてしまいました。万が一にも、そちらとの契約がなくなればどうなるか、考えなくても分かるというのに。」

彼らは程度の違いはあれど、大体林さんの時と同じような手口で中村社長から脅しを受けていたらしい。もちろん彼らもすぐに中村社長の計画に乗ったわけではないが、脅された上に、うまくいけば安い値段で仕入れができると甘言を弄され、最終的には彼に従ってしまったようだ。

「非常に厚かましいお願いだということは分かっているのですが、どうか先ほどの契約解除通知書は破棄していただけないでしょうか。」

「我が社からもお願いいたします。どうか…」

彼らは口々に契約継続を懇願し、再び深く頭を下げた。今回の首謀者は中村社長であり、彼らがいやいや従っていたことは分かっている。しかし、最終的に中村社長の計画に乗ると決めたのは彼ら自身であり、本来であれば彼らはその責任を取る必要があるだろう。とはいえ、俺も彼らとの契約を切りたいわけではない。心から謝罪していることもよくわかるので、今回に限り大目に見ることにした。

「わかりました。」

俺の言葉に、彼らはパッと顔を上げる。

「それでは、先ほどの通知書は見なかったことにします。」

「ありがとうございます!」

彼らは顔を明るくすると、目に涙まで浮かべながら何度も感謝の言葉を述べた。お互いに手を取り合い、「よかった、よかった」と喜び合う。丸く収まったことは確かに喜ばしいことではあるが、彼らにはしっかりと反省もしてもらわなくてはならない。そこで俺は、あえて厳しい顔で彼らにビシッと釘を刺した。

「ただし、今回だけです。二度目はないですからね。」

すると、彼らは途端に真顔になり、直立不動でこくこくと頷いた。この様子なら、もう二度とこのような騒ぎを起こすことはないだろう。元々彼らの会社とは良い取引を行ってきたのだ。これからも変わらぬ付き合いをしていきたいと思う。

取引先との問題が一段落したところで、残る問題は中村社長だけだ。彼は未だに床に座り込んで項垂れていたが、俺が近づくと我に返ったように顔を上げた。

「このようなことになってしまい、残念です。俺はなんとか話し合いで解決しようと思っていたんですが…」

中村社長は返す言葉もないようで、口をつぐんだまま視線をそらした。不貞腐れたような顔で黙り込んでいるところを見ると、彼が今回の件に関して全く反省していないことがわかる。これで反省するような人間なら、最初からこんな愚かな行動には出ていないだろう。

開き直ったように床にあぐらをかく中村社長を見下ろしながら、俺は静かに口を開いた。

「これ以上、あなたの会社と取引を続けることはできません。今日限りで、全ての契約を終了させてもらいます。」

そう言うと、彼は驚いた表情で慌てて立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。他の取引先のことは許してたじゃないか。なんで俺たちだけ?」

まさか彼は、自分も許されると思っていたのだろうか。もしそうだとすれば、その図太い神経には関心するほどだ。確かに他の取引先に関しては許したが、首謀者である中村社長は全く事情が異なる。いくつもの会社を脅して言うことを聞かせ、その上で俺に圧力をかけてきた彼を、なぜ許さなければならないというのか。

「他の皆さんはあなたに脅されて、いやいや従っていただけですし、誠心誠意謝ってくれましたからね。」

「謝ればいいのか?謝る。土下座でも何でもするから、契約解除だけは考え直してくれ!」

そう言って、彼は本当に土下座をしようと再び床に膝をつく。しかし、彼が本格的に土下座の体制に入る前に、俺はそれを制した。

「土下座をしようが何をしようが、契約解除を撤回するつもりはありませんよ。信用を失った相手とは取引できないので。」

「そ、そこをなんとか…」

「無理です。今までお世話になりました。」

俺は冷たく言い放つと、がっくりと肩を落とす中村社長を残して懇親会の会場を後にした。

それから数日後、俺は証拠集めに協力してくれたお礼がしたくて、林さんを食事に誘った。

「今日は俺のおごりだから、好きなものを頼んでくれ。」

「そんな、お礼を言わなきゃならないのは、むしろこっちなのに。」

林さんはだいぶ遠慮していたが、最終的には俺に押し切られる形でビールとつまみを何品か頼んだ。注文してすぐにビールが運ばれてきて、俺たちは「お疲れ様」の意味を込めて乾杯する。

「そういえば、あの後どうなったんだい?」

「もう、大騒ぎでしたよ。」

俺の質問に、林さんが苦笑しながら答える。彼の話によれば、俺が帰った後に懇親会は結局中止となり、中村社長は招待客たちから散々詰められたようだ。中には、その場で契約解消を申し出た会社もあったという。

「ただでさえ鈴木さんのところの部品が使えなくなって大変だっていうのに、他の取引先まで撤退しちゃったら、どうなるんでしょうね。」

「まあ、かなり苦労することは間違いないだろうな。」

俺たちの予想通り、それから中村社長の会社の経営は急激に悪化した。俺が開発した特許部品を供給できなくなり、生産に大きな支障をきたすようになったのだ。さらに、懇親会での騒動が尾を引き、離れていく取引先も後を絶たないとか。社内では中村社長の責任を問う声が日に日に大きくなり、彼は最終的に会社を追われることとなった。噂では、家族や親族からも見限られ、一人寂しく暮らしているという。

会社の方は新たな社長が就任し、立て直しを図っているようだ。その新社長からは、もう一度契約をしてもらえないかという話をもらったが、俺は「すぐには決められない」と返事をした。これからの新社長のやり方や会社の状況などをしっかり見極め、慎重に判断するつもりだ。

一方の俺は、今回の一件を教訓に、より強固な技術を築くべく研究開発に尽力し始めた。今でも特許部品という強みを持ってはいるが、これ以上大企業に侮られることのないよう、さらなる成長を目指さなくてはならない。また、今回の騒動を経たことで社員たちの結束が強まり、俺だけでなく会社全体の士気も高まったようだ。俺は技術者としての情熱を胸に、頼れる仲間たちと未来へ向けた新たな一歩を踏み出すのだった。

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