家族のために尽くしてきた53歳の私。夫が定年退職した後、彼は競馬にのめり込み、私の年金まで使い込んだ。仕方なくパートで家計を支える中、腰を痛めて倒れた朝に起きた、夫のあまりに無情な行動。彼は私を助けるどころか、財布から金を抜き取り、家から追い出そうとした。離婚を決意した私は、息子を頼ることになる。しかし、息子の秘密と夫への倍返しを決意した結婚式で、思いもよらない一撃を彼に食らわせた。あの時の…

家族のために尽くしてきた53歳の私。夫が定年退職した後、彼は競馬にのめり込み、私の年金まで使い込んだ。仕方なくパートで家計を支える中、腰を痛めて倒れた朝に起きた、夫のあまりに無情な行動。彼は私を助けるどころか、財布から金を抜き取り、家から追い出そうとした。離婚を決意した私は、息子を頼ることになる。しかし、息子の秘密と夫への倍返しを決意した結婚式で、思いもよらない一撃を彼に食らわせた。あの時の...

朝、仕事に行こうと立ち上がった瞬間、足の力が抜けて床に倒れ込んだ。腰に激しい痛みが走り、体が言うことを聞かない。定年を過ぎても生活費のために無理をして働き続けたツケが、とうとう体に回ってきたのだ。

「あなた、体が動かないの。助けて」

必死に手を伸ばすと、ちょうどその時、夫の大輔が部屋に入ってきた。彼はいつものように無関心な顔で、片手に競馬新聞を抱えている。私の必死の表情を一瞥すると、にやりと笑い、私の財布から金を抜き出した。それだけして、助けるどころか何も言わずに家を出て行ってしまった。

「なんてひどい人なの……」

私は腰の痛みに耐えながら、這うようにして床を這った。この日、私は仕事を休むことになった。

私の名前はなお子。夫の大輔も私も最近定年退職し、年金暮らしをしている。息子の徹は社会人1年目。私は子どもが授かりにくく、高齢出産だった。その引け目から、いい妻、いい母でいようと必死に頑張ってきた。夫の言いなりになりながら、家事も育児もほとんど一人でこなしてきたのだ。

息子は会社勤めを始めたばかりで給料も少なく、私は自分の年金から仕送りをしていた。すると夫が鼻で笑って言った。

「社会人になったのにまだ仕送りか。徹は情けないな。お前が不出来なのを産んだから、いつまで経っても自立できないんだよ。俺が社会人1年目の時はもっと稼いでいた。不出来なのはお前の血だな」

夫はそう言って私を責める。確かに、社会人になった息子への仕送りは普通やめるべきなのかもしれない。しかし息子は何かやりたいことがあるらしく、お金を貯めているようだった。少しでも手助けしてやりたかったのだ。

「俺は一銭も出さないからな」

夫は本当に自分の年金すら生活費に入れず、自分のためだけに使い始めた。私が「生活費を出してくれない? 」と訴えても、「聞こえません」と言って馬鹿にした態度を取る。何度言っても無視されるようになり、私もまともな会話を諦めた。

それから3年が経ったある日、私の年金が引き落とせないことに気づいた。問い詰めると、夫が全額引き下ろしていたのだ。

「まさかギャンブルに使ったの? 勝手なことしないで。これからの生活どうするのよ」

「そんなに起こるなよ。俺の退職金がまだあるんだから、それを使えばいいだろう」

「退職金は私たちの介護や老人ホームの費用に当てようって話したでしょう」

しかし夫は聞く耳を持たなかった。年金もないし、生活するためには仕方なく退職金を使うしかなかった。

そんなある日、息子から連絡があった。彼が結婚することになったというのだ。

「おめでとう。結婚式はするんでしょ? 」

「ああ、やろうとは思っているよ」

私は嬉しい反面、心配になった。息子の稼ぎは多くない。結婚にはお金がかかるから、少し援助できないかと考えた。夫に退職金から出せないか相談すると、夫は平然と言った。

「退職金は使った」

「使った?

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一体何に? 」

「競馬だ。定年退職した後に一度大穴を当てたことがあってな。それが気持ちよくて、そこから毎日競馬場に通っているんだ」

夫はなぜか胸を張ってそう言った。最近負けが続いていたので、取り返すために大穴狙いで資金を注ぎ込んでいるという。つまり、ただのギャンブル依存症だ。

「今すぐにギャンブルなんてやめて。援助どころか生活費がなくなるわ」

「だったらお前が働けばいいだろう。俺は今まで働いてきたんだ。これからは自由に生きる権利がある」

夫は言い放つと、部屋から出て行ってしまった。

仕方なく、私は生活費と結婚資金を稼ぐためにパートに出始めた。近所のスーパーでフルタイムで必死に働いた。しかしもう若くない。無理を重ねるうちに、体に負担がかかり始めていた。そして、あの朝の出来事だ。

腰を痛めてからは、パートに出る頻度も減り、家事も十分にこなせなくなった。夫は私にイライラを募らせ、ついに言った。

「仕事もできない、家事もできない。役立たず。そんなやつはいらない。出ていけ」

私もついに我慢の限界だった。今までは縁があって結婚したんだから、とか長年の情があるから、とか思いながら一緒にいたけど、もう限界だ。

「じゃあ、離婚しましょう。それなら出ていくわ」

「離婚? ああ、いいだろう。その代わり、お前の通帳はもらうからな」

夫は私の通帳を奪った。さらに、私が荷物をまとめていると、わざわざやってきて「なんで他人がうちにいるんですか」と馬鹿にしてくる。私は笑った。

「喜んでいられるのも今のうちよ」

実は、私は通帳を2つ持っていた。夫が奪った通帳にはほとんどお金が入っていない。でも、もう1つの通帳にも一人暮らしをするには心細い金額しか入っていなかった。私は息子に相談した。

「母さん、心配しなくていいよ。うちにおいでよ」

息子にそう言われ、少しの間お世話になろうと決めた。離婚届を出し、夫に別れを告げて家を出た。

息子に連れて来られたのは、高級マンションだった。

「え、徹さん、ここに住んでいるの? 」

「ああ、実は俺、3年前に起業して社長になったんだ」

「え?

社長? そんな話、聞いていないわよ」

息子は社会人になりたての頃から給料が少ないと思っていたが、実はずっと起業準備をしていたせいだった。起業には成功したが、私から父の話を聞いていたので、自分の稼ぎも父に取られるのではと考え、なかなか言い出せなかったらしい。

「これ、母さんから仕送りしてもらったお金、全額返すよ。今後の生活に当ててほしい」

息子は私からの仕送り金額を全てメモしていたらしく、渡された通帳には同じ金額が入っていた。さらに、結婚資金に用意していたお金も「母さんが使って」と受け取らなかった。

こうして息子のそばで穏やかに暮らし始めて1ヶ月後、息子の結婚式を数日後に控えたある日、欠席予定だった元夫から結婚式に出席すると連絡があった。どうせ結婚式の料理やお酒を無料で飲みたいだけだろう。お金の無心をされるのではと断ろうとした。しかし、私は考えた。

「そうだ。いい考えがあるわ。今まで散々な目に遭ってきたんだもの。大輔にはそれを思い知らせないといけないわ。見てなさい。倍返ししてやる」

私は息子に元夫の出席を進めた。

結婚式当日、元夫が式場にやってきた。稼ぎが少ない息子が立派な式などできるはずがないと思い込んで、ラフな服装で現れたのだ。しかも急に出席を決めた元夫は招待状を持っていない。

「だから、俺は新郎の父親だって言ってるだろう」

「だったら招待状があるはずです。本当にお父様なんですか? 」

「そうだって言っているだろう。疑うなら息子を連れてこい」

不審者扱いされた元夫が焦って周囲を見渡すと、そこへ私が通りかかった。

「なお子。ちょうどいいところに来た。俺が徹の父親だって説明してくれ」

「あなた、どちら様ですか? 」

私が首をかしげると、元夫の顔が驚きに染まった。

「何言ってるんだよ。俺だよ。大輔だ。変な冗談やめてくれよ」

「大輔?

ああ、そうだったわね。ごめんなさい。最近忘れっぽくて」

「全く、しっかりしてくれよ」

もちろん、私は物忘れなんかしていない。わざとボケたふりをしたのだ。受付に説明して、元夫を会場へ入れた。結婚式はビュッフェ形式で、食事は自分たちで取りに行く。受付で恥をかいた元夫は、私に自分の料理を取りに行かせた。

「はい、あなたの分よ」

「おい、なんだよ、これは」

皿には、元夫の嫌いな食べ物ばかりが乗っていた。

「何って、あなたの分の食事だけど? 」

「どういうことだ? どれもこれも俺の嫌いなものばかりだろう」

「あら、そうだったかしら。あなたの嫌いなものって何だったっけ? 」

元夫は怒り出した。

「お前、いい加減にしろよ。ふざけるのも大概にしろ。俺が嫌いなものも覚えていないっていうのか」

大きな声を上げる元夫に、私は冷静に言った。

「大きな声を出さないで。みんなが見ているわ。コーヒーでも飲んで落ち着いて」

元夫は気まずそうにコーヒーを飲み、むせた。

「なんだこれ?

しょっぱいぞ」

「お砂糖を入れたはずよ。あら、やだ。お砂糖と塩を間違えちゃったわ」

「何してんだよ。それに俺はブラック派だって知っているだろう」

「そうだったかしら。覚えてないわ」

私のとぼけた様子に元夫は顔をしかめる。すると、元夫は私の顔をじっと見つめ、怪しむような表情をした。

「お前、俺に通帳を奪われて金がないはずなのに、痩せてもいないし顔色がいいな」

どうやら私の健康そうな顔を見て、お金があると察したらしい。元夫はにやりと笑って、優しく言った。

「なあ、俺と復縁しないか? 」

私は驚かなかった。そう言われるだろうと想定していた。

「復縁? 何それ? 美味しいお菓子の名前かしら?

「え? 何言ってるんだよ」

「私、美味しいお菓子が大好きよ。その復縁っていうのも食べてみたいわ。花だんごかしら? ああ、それとも新しい飲み物の話? ごめんなさいね。私、新しいものに疎くて」

「あら、あなた、どちら様?

ここはどこかしら? 」

私の意味不明な言葉に、元夫はたじたじになった。

「ど、どういうことだよ。お前、本当にボケたのか? 」

「ボケたって何?

それも食べ物かしら。ああ、お腹空いた。私、朝から何も食べていないのよ」

そう言って私は食事を取りに行った。もちろん、食べていないなんて嘘だ。さっきまで目の前でパクパク食べていた。私の奇妙な発言に、元夫はイライラしながら「マジかよ」とつぶやく。私はそれを横目に見ながらほくそ笑んだ。

式も終盤になり、私が息子に手紙を読む場面になった。マイクの前に立つと、形式的な挨拶をした後、息子に向けてこんな話をした。

「こんな夫にはなるなという話をします。妻に偉そうな態度を取ってはいけません。常に思いやりと感謝の気持ちを持ちましょう。ああ、定年後にギャンブルにはまるのもダメですよ。特に競馬で大穴を当てたからと言って、それが続くわけではありません。お金がなくなるだけです。それに、妻の年金も勝手に引き落として使ってはいけませんよ」

一般論として聞いているが、あまりにもありえない夫像に笑いが起きた。しかし元夫は自分が言われていると気づき、笑われたことで顔を真っ赤にして怒りで震えていた。

「おい、お前、いい加減にしろ」

激怒した元夫は私に掴みかかろうとした。それを会場スタッフが止めに入る。元夫は「どけ」と大暴れして、スタッフを殴って怪我をさせてしまった。他のスタッフが警察を呼び、あっという間に元夫は警察に連れて行かれた。

こうして元夫は式場スタッフに対する傷害事件として逮捕された。私は弁護士を雇い、元夫へ私の年金の使い込みの返金を請求した。式場スタッフへの慰謝料や私への返金のため、元夫は朝から晩まで働き詰めらしい。しかし競馬への熱はやめられないようで、生活は困窮しているそうだ。

私はお嫁さんやその親族には事前に話して承諾を得ていたが、式を壊してしまったことは深く謝罪した。すると息子と嫁は笑って言った。

「これでお父さんと縁が切れて、お母さんも私たちも安心して生活ができるなら、これで良かったんですよ」

いいお嫁さんをもらったと思う。意外と豪快なタイプの嫁で、息子は尻に敷かれるかもしれない。でも、意外とそれもありなのだろう。

私は元夫からの返金と、息子から返してもらった仕送り金で、余裕のある生活を送ることができている。息子夫婦や生まれた孫もいて、充実した毎日を送っている。