あの日、同窓会の席で同級生に渡されたのは、たった一本の霊水だけだった。「お前にはそれで十分だ。」と笑う彼の背後で、周りの連中もクスクスと嗤った。俺はその水を一気に飲み干し、会場を後にした。あの時、確かに、絶対に許さないと心に誓ったんだ。しかし、翌日、俺が取引先として迎えたのは、まさか、その新一が務める会社だった。しかも、五百億円規模の提携案件でな。俺がCEOだと知った瞬間の、彼の顔色が一瞬で…

あの日、同窓会の席で同級生に渡されたのは、たった一本の霊水だけだった。「お前にはそれで十分だ。」と笑う彼の背後で、周りの連中もクスクスと嗤った。俺はその水を一気に飲み干し、会場を後にした。あの時、確かに、絶対に許さないと心に誓ったんだ。しかし、翌日、俺が取引先として迎えたのは、まさか、その新一が務める会社だった。しかも、五百億円規模の提携案件でな。俺がCEOだと知った瞬間の、彼の顔色が一瞬で...

同窓会の会場で、運ばれてくる豪華な料理を横目に、俺の前に置かれたのは一本の霊水だけだった。

「お前にはそれで十分だ。」

そう言ってニヤニヤ笑う新一の背後で、かつてのクラスメイトたちがクスクスと笑い声を漏らす。俺の手が怒りで震えた。

「それを飲んでさっさと帰れ。」

怒りで爆発しそうになる感情を必死に抑え、俺は差し出された霊水を一気に飲み干した。そして「ご馳走様」とだけ言い残し、会場を後にした。

絶対に許さない。俺は新一への逆襲を心に誓った。

俺の名前は山口秀樹。現在はIT企業ネクストテックのCEOとして多忙な日々を送っている。成功者と呼ばれる今の自分があるが、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。

幼い頃に父を亡くし、母子家庭で育った俺は、母の苦労を目の当たりにしながら成長した。高校に入ると同時に、少しでも母の力になろうとアルバイトを始めた。学校が終わればすぐに仕事へ向かい、夜は勉強。遊びに興じる同級生たちとは違い、俺の高校生活は孤独と多忙に彩られていた。

同級生たちから孤立していくのは必然だった。心のどこかで寂しさを感じながらも、大切な母のためだと自分に言い聞かせて耐えた。毎月の給料のほとんどを母に渡し、自分の小遣いはわずかだったが、不満は一切なかった。そんな生活の中で、唯一俺を貶し続けたのが新一だった。貧乏だ、母子家庭だ、と何かにつけて俺を嘲笑い、優越感に浸っていた。その言葉の一つ一つに心を痛めながらも、俺は怒りを抑えてやり過ごす日々を送った。

高校卒業後、俺は以前から興味のあったIT業界に飛び込んだ。はじめはサポート業務しか任せてもらえなかったが、独学でプログラミングを学び、実力を磨いていった。そして二十代後半、仲間たちと共にネクストテックを起業した小さなオフィスから始まった会社は、AIやクラウド技術を駆使した最先端のソリューションで急速に成長し、今では大企業からも引っ張りだこの企業へと成り上がった話だ。直近では500億円規模の技術提携の話も進んでいた

そんなある日、高校時代の同窓会の招待状が届いたのは突然だった。その瞬間、孤独だった高校時代の記憶が蘇り、少しの不安を覚えたが、もう昔の俺ではない。成功を収めた自分の姿を見せてやるいい機会だと思い、参加を決めた

当日、同級生に馬鹿にされないよう小綺麗な服を身にまとい、会場へ足を運んだ。そして早々に、聞き覚えのある声に呼び止められる

「おい、お前秀だろ? 」

振り向くと、嫌な笑みを浮かべた新一が立っていた

「今回は俺が幹事でな。みんなに声をかけて回ってるんだよ。」

俺は心の中でため息をついた。こいつに絡まれなければいいが、と思っていたのに、早々にそれが叶わなくなった

「みんないい年になって、大人になったはずだと思ってたが。」

変わらず失礼な新一は、自分から話し始める

「高卒底辺がよく来れたな。無理してそんな格好までして。」

「別に無理してるわけじゃないよ。」と返すが、新一は聞いていない

「俺はな、大手製薬会社グローバルファーマの部長をしてるんだよ。お前とは違ってな、エリートなんだよ。」

どうやら会社と役職でマウントを取りたいらしい。俺は不快な気持ちを抑え、「大手じゃないか。そりゃすごいな。」と適当に流したかなり気分を良くしたのか、新一はその場を離れてくれた

会はそれなりに格式の高いホテルで開かれていた。高級な料理が次々と運ばれてくるはずだった“““`しかし、俺に手渡されたのは霊水だけ“`。“`

「なんで俺には料理が出ないんだ。」

不思議に思っていると、満足げな表情の新一が口を開いた

「お前にはそれで十分だ。」

周囲のクラスメイトたちが、クスクスと笑う。俺はようやく全てを悟った。これはホテルの手違いではない。新一の仕業だ。そして、クラスメイトの多くが新一の味方なのだ

「お前の仕業か。俺が一体何をしたって言うんだよ。」

他の同級生と同じ会費を払っているのに、水だけしか出ないのはありえない。俺は抗議したが、新一は鼻で笑うだけだった

「お前ごときに水を出してやったんだから感謝して欲しいくらいだ。それを飲んでさっさと帰れ。」

ここまで言われて、腹が立たないわけがない。手が震えるほどの怒りが込み上げてきただが、ここで爆発しても何もいいことはないと、ぐっとこらえたそして、霊水を一気に流し込んだ

「ご馳走様。じゃあ俺は帰るわ。」

冷静に言い放つと、新一は腹を抱えて笑った恍惚の表情だった。んな中、俺は心に固く誓った

ここまでコケにされて、そのままなんてできるか,

翌日から、俺は予定されていた五百億円規模の技術提携の相談に臨んでいた。高級なスーツを身にまとい、我が社の会議室へと足を運ぶ。時間五分前になり、相談相手が会議室へ入ってきた。

先頭で、ふんぞり返って歩いてくるのは、新一だった

そう、今回取引する相手は、新一が務めるグローバルファーマだったのだ。

俺は昨日新一の話を聞いた時、この取引の相手だと気づいていたが、新一はまさか俺が対面相手のCEOだとは夢にも思っていないらしい

「ひ、秀、なんでお前がここに? 」

動揺する新一を、俺は穏やかな目で見つめる

「昨日はどうも。ネクストテックCEOの山口秀樹です。」

俺が自己紹介をすると、新一は信じられないとでも言いたげに目を見開いた

「あれ? もしかして、グローバルファーマの部長ともあろう方が、取引相手である会社のCEOが誰かも把握していなかったんですか?

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俺が嫌味を言うと、新一は顔を引きつらせたのだろうか。取引に当たっては、事前交渉が何度も行われていたが、部長である新一が一度も姿を見せていないことは、担当者から聞いて知っていたのだろうか。わゆる「仕事を全て部下に押し付けていた」というわけだ。だからこそ、俺がCEOであることを知る由もなかった

プライドが高く短気な新一のことだ、この屈辱は相当なものだろう人に言い返せないからといって、部下に怒鳴り散らしてストレスを発散している様子を見て、呆れを通り越して情けなくなる。本当に器の小さい男だ

「ちょっと待ってください。」

俺の言葉に、その場の全員が固まった

「心変わりしました。五百億円の提携は、破談にしたいと思います。」

俺の爆弾発言に、会議室が騒然とする

「破談だって? 何をふざけたことを。」

「ビジネスにおいて、取引先との信頼関係はとても重要だと思います。しかし、あなたの昨日の態度を見て、私たちの間に信頼関係が築けるとお思いですか? 私はそうは思いません。」

新一は顔面蒼白になり、弁解を始めた

「いやいや、昨日のことは本当に申し訳なかった。昨日は酒が回っていただけで、普段はあんなことはしない。どうか水に流してほしい。」

「酒のせいにしようというのか。いい大人が自分を制御できないんですか? なおさら、そんな人間と信頼関係なんて築けませんよ。」

追い詰められた新一は、今度は脅しに転じた

「五百億円の提携だぞ。破談になれば、そっちにだってかなりの打撃になるはずだ。」

しかし、俺は臆しない。この提携がどれほど我が社にとって重要かは理解しているが、取引を望んでいる相手は何もグローバルファーマだけではない

「うちと取引を望む相手が、御社だけだと思ってるんですか?

その言葉に、新一の顔色がさらに変わる

「それはどういうことだ。」

「弊社のご心配は無用、ということですよ。」

俺は笑みを浮かべて説明した我が社のAI技術は、多くの製薬会社の注目を集めている人工。新薬開発を加速させるためには、我が社の技術が必要不可欠だと、どこの製薬会社も考えているなのであれば、当然のように複数社が名乗りを上げてくる。実際、グローバルファーマのライバル会社も接触してきていたのだろうか

「もしもの時のために、グローバルファーマと同じ条件を提示してきたライバル会社と提携する準備も進めていました。」

その事実を告げると、新一はその場に膝をつき、頭を抱えた

「ライバル会社と… マジかよ…. 俺は一体、どうなるんだ。」

ブツブツと呟く様子は、正視できない有様だ。この提携破談の責任を取らされることになるだろう彼は自身の保身で手一杯なのだろうが、同情の余地は一切ない

俺は新一という人間を信用できないしていない熱量のない人間と、一緒に仕事をしたいとは思わない

「どうぞ、お帰りください。」

死刑宣告にも似た一言を告げると、今まで大人しくしていた新一がいきなり激昂した

「この俺が頭を下げてるんだぞぼうふざけるな公允この貧乏人が、偉そうに。」

叫びながら立ち上がり、俺に掴みかかろうとした欣喜が、暴れたところで状況は覆らないするや新一の部下たちと我が社の社員たちが彼を押さえ込む。騒ぎを聞きつけた警備員が駆けつけ、彼はその場から引きずり出された

「おい秀ふざけるな! 相談をしろ俺を誰だと思ってるんだ。」

警備員に引きずられながらも、新一は悪態を吐き続けたが、そのまま会社の外へと放り出された

ふう、疲れたな.

新一が追い出され、会議室に静寂が戻る匙新一に付き添ってきたグローバルファーマの社員たちも、これ以上この場には居られないと、俺に何度も頭を下げて、逃げるようにして会社を去っていった

これだけの目撃者がいれば、わざわざ直接トップに連絡を入れなくても、今回の一件はあっという間に業界に広まるだろうと思ったが、果たして翌日には、焦ったグローバルファーマ社長から謝罪と提携継続の懇願の連絡が入った過し、俺は「破談の決定は覆りません」とはっきり伝え、電話を切った

結局、我が社はグローバルファーマのライバル会社と提携を結ぶこととなった嫌疑その結果、グローバルファーマは業界における競争力を大幅に失い、トップの座から転落した

一方新一は、社内で提携破談の責任を問われた挙句、横領の疑いまで発覚した忽ち彼は逮捕されたというニュースが、ワイドショーを賑わせることとなったう「有名企業のエリート部長、横領の容疑で逮捕」という見出しは、全国に配信され、多くの人々の知るところとなった

俺の方はと言えば、新たな提携によりネクストテックはさらに飛躍し、業績は右肩上がりだ忧今、新たな技術開発にも着手している

今の自分があるのも、一女手一つで育ててくれた母のおかげだとう誰への感謝の気持ちを忘れずに、今後も仕事を通じて多くの人に貢献していきたいと、そう思いながら、今日も技術開発に全力を注ぐのである