昨日、電話が鳴った。相手は元受け先の新社長、かつて僕を「貧乏人」と見下していた男だった。「お前の会社だけ8キャンセルで。」完成前日、僕は特殊なカーテンを全て取り付けたばかりだった。仕方なく電話を切った後、僕はあることを思い立った。それから数時間後、僕は知り合いを総動員して、そのカーテンを全部外し、倉庫に運び込んだ。次の日、現場監督から「カーテンが全部ない」と怒鳴られた時、僕はある相手に電話を…

昨日、電話が鳴った。相手は元受け先の新社長、かつて僕を「貧乏人」と見下していた男だった。「お前の会社だけ8キャンセルで。」完成前日、僕は特殊なカーテンを全て取り付けたばかりだった。仕方なく電話を切った後、僕はあることを思い立った。それから数時間後、僕は知り合いを総動員して、そのカーテンを全部外し、倉庫に運び込んだ。次の日、現場監督から「カーテンが全部ない」と怒鳴られた時、僕はある相手に電話を...

完成前日の夜、電話が鳴った。相手は元受け先の新社長、沢田だった。

「お前の会社だけ8キャンセルで。」

頭に血が上るのを感じたが、何を言っても無駄だと思った。この男に何を言っても無理だろう。そう確信した俺は、ある人に連絡をすることにした。

「わかりました。またのご利用を。」

そう言って電話を切り、俺はすぐ行動を起こした。特注で取り付けたカーテンを、全部外してやったんだ。

俺の名前は川村ケト、37歳。祖父の代から続く川村設備という会社を継いでいる。幼い頃から父は祖父の会社で働き、母はそこで事務をしていた。近くに祖父母の家があり、俺は内弁慶で、ばあちゃん子だった。じいちゃんも俺をよく可愛がってくれた。

小学生の頃も俺は内弁慶が治らず、いつも一人だった。2年生の時、同じようにぽつりと座っているコウ太という子と同じクラスになり、俺たちはすぐに仲良くなった。コウ太の家は、お父さんがいなくて、お母さんが昼も夜も工場で働いていたらしい。だから俺はよくコウ太を連れて帰り、ばあちゃんがコウ太の分も夕飯を用意してくれていた。コウ太のお母さんは、よくお礼の品を持ってばあちゃんに会いに来ていた。

小学3年生の時、俺の父が突然、交通事故で亡くなった。俺は号泣した。コウ太もコウ太のお母さんも、葬式に来てくれた。しばらく学校を休んでいた俺に、コウ太は言いに来てくれた。

「僕のお父さんも、交通事故で天国へ行ったんだよ。僕が4歳の時だった。」

じいちゃんもばあちゃんも母も、深く落ち込んでいた。俺と母はじいちゃんの家に引っ越した。一番泣いていたのはばあちゃんだったが、それでも以前のように美味しい食事を用意してくれていた。

じいちゃんの会社にはシステムキッチンや洗面台があり、まるでホームセンターのようだった。俺とコウ太はそこで静かに鬼ごっこをして遊んでいた。ある夜、トイレに行くと、ばあちゃんがダイニングキッチンで一人、シクシクと泣いていた。いつも笑顔のばあちゃんも、一人息子を失った悲しみを抱えていたんだ。俺は見なかったことにして、部屋に戻った。

中学に進むと、沢田というボス的存在がいた。中学2年の時、沢田とコウ太と俺は同じクラスになる。ある日、沢田がコウ太にゲームをしようと誘ってきた。俺も行くと言って、コウ太の家に集まったのだが、沢田は取り巻きを3人も連れてきていた。コウ太の家はアパートで狭かった。

「なんだ、こんな狭いところじゃみんなで遊べないじゃないか。つまんね。おい、貧乏人の家は無理だ。帰るぜ。」

そう言って沢田たちは帰っていった。その次の日から、沢田はコウ太に「おい、貧乏人、あげるよ」と言って、いらないプリントを丸めたゴミをテーブルに置いてくるようになった。コウ太は黙ってそれをゴミ箱に捨てる。俺が「ゴミなら自分で捨てろよ」と言うと、沢田は「お前も覚えとけ」と脅してきた。それから俺とコウ太の上履きが隠されたり、俺も貧乏だと言われ始めた。中学3年まで、嫌がらせは続いた。

俺は中卒でじいちゃんの会社でコウ太と働くことになった。母は高校を進めたが、俺はコミュ障だし、コウ太と離れるのは嫌だと無理やりわがままを聞いてもらった。最初は工場で細かい部品を箱詰めする仕事をしていたが、ある時じいちゃんが出来上がったマンションの設備確認に連れて行ってくれた。洗面台の水道の点検だった。それを機に俺は建築に興味を持ち始め、仕事を終えてから建築の専門学校へ通い出した。コウ太も誘ってみると、一緒に勉強することになった。

仕事がだんだんきつくなり、建築中のマンションのシステムキッチンや空調設備の設置の仕事に回るようになった。疲れてヘトヘトになっても、シャワーを浴びて夜の専門学校へ通った。そして23歳で2級建築士、26歳で1級建築士の資格を2人で取得できた。俺とコウ太は事務所でシステムキッチンの設計をしたり、現場監督の仕事もした。仕事ばかりの毎日だったが、ある日コウ太が「なんだか俺たちさ、仕事ばっかりしていない? 今度、合コンでも行こうよ」と言い出した。俺もコウ太と一緒なら行ってみようかなと思い、合コンへ向かった。そこでお互い気の合う女性ができて、連絡先を交換した。その後お互いに交際を始め、休みの日はいつもデートになった。

やがて設計が得意なコウ太は設計士として独立し、俺は祖父の後を継ぐ予定だった。うちの元受けは沢田建設だったが、俺はまさかあの中学時代の沢田の父親の会社だとは全く知らなかった。コウ太と一緒に沢田建設に営業に向かい、注文住宅の設備を30件ほど請け負って、見事に成功させた。祖父は自分の家を改築し、1階に祖父母、2階に俺と母が住むことになった。俺は交際していた彼女と結婚し、いずれは同居するつもりで、母たちの近くのマンションで新婚生活を始めた。コウ太も自分で設計した家を建て、母親と完全世帯で新婚生活を始めた。お互い子供にも恵まれて、幸せに暮らしていた。

子供たちが幼稚園に行き始めた頃、沢田建設から高層ビル建設の大きな仕事が入った。俺は沢田社長にコウ太を紹介し、コウ太は設計に忙しんでいた。俺は設備の方の設計をしていた。システムキッチンや浴室、空調、そしてカーテンまで担当した。いわゆるタワーマンションの建築だ。35歳になった俺は、もう祖父から会社を任されていた。建築中、沢田社長が病気で亡くなってしまった。俺と祖父とコウ太は葬式に向かうと、そこにあの中学時代の沢田がいた。その時、俺とコウ太は初めて、奴が息子さんだったことに気づいた。

「なんだ、お前たちか。まだ仲良くやってるのか。貧乏人からわざわざ香典いらねえよ。」

そんな失礼なことを言われたが、俺たちは黙って香典を置いてきた。祖父は帰り道、ぶつぶつ怒っていた。

その後、祖父の話で、あの沢田が新社長になるとのことだった。一応挨拶に行かないと。嫌だったがこれだけは仕事だ。俺とコウ太は挨拶に行き、名刺を差し出した。

「沢田様、新社長ご就任おめでとうございます。今タワーマンションの設備を担当させていただいてます。」

「私は設計を担当させていただきました。」

それを聞くと、沢田は驚いていた。

「お前らが社長なのか。お前ら、中卒じゃなかったのか。」

「一応俺もコウ太も1級建築士ではありますので、ご安心ください。」

「へえ。お前らがね。」

俺は現場監督も任されていると挨拶だけして、新社長の元を後にした。その夜、久しぶりに2人で居酒屋に行った。

「まさかあいつが新社長だとはな。また中学の時のこと思い出したよ。なんであいつにぺこぺこしないといけないんだよ。」

「本当だな。これこそ本当の草園だよな。」

「まあ、今日は美味しいものでも食べて忘れようぜ。向こうはあの大手の社長だから、現場にはあまり来ないだろうし。」

そう言って楽しく飲むことにした。ビル建設には他の建築会社も入っていたが、俺は現場監督をしながら、各部屋の照明やシステムキッチン、浴室の設置状況を確認していた。全て順調だった。

内装が出来上がり、外壁などの工事が残る中、俺はコウ太家族と一緒に1泊の遊園地旅行を計画し、ゆっくり楽しんだ。そして完成前日、俺とコウ太はタワーマンションを外から見に行った。その時、俺のスマホに知らない番号から着信があった。不審に思いながら出ると、あの沢田だった。

「ああ、俺だ。沢田だ。今回のタワーマンション、お前の会社だけ発注キャンセルで。」

「なぜ連絡先を? 」

「ああ、お前のじいさんに聞いた。」

「そうですか。それで何か問題でも? 」

「問題だらけだ。だからキャンセルな。」

「わかりました。ではまたのご利用を。」

電話を切ると、コウ太が心配そうに聞いてきた。

「どうした?

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ひょっとして沢田か? 」

「うん。俺の会社だけキャンセルだそうだ。ちょっと俺に考えがある。よかったら手伝ってもらえるか? 」

「うん。今日なら大丈夫だけど。」

「ありがとう。助かるよ。」

俺は祖父にこのことを伝え、できるだけ知り合いの建築関係の人を集めて欲しいと頼んだ。俺が計画したのは、カーテンを全部外すことだった。作業は夜までかかるが、カーテンだけ全部外す予定だ。多くの人が集まり、夜中の2時までかかって、各部屋のカーテンを全て外した。念のためレンタカーを借りて、カーテンを何度も往復させ、うちの倉庫に大切に片付けた。コウ太には改めてお礼を言って帰ってもらった。

完成当日、沢田から電話がかかってきた。

「おい、今日見に行ったが、カーテンが全部ないじゃないか。」

「新社長がキャンセルとおっしゃいましたので。」

俺はすぐ電話を切り、ある人に連絡をした。それは祖父の友人である、沢田の祖父、沢田会長だった。

「沢田会長、お話があります。今よろしいですか? 」

「ああ、ケト君か。久しぶりだな。どうした?

「今回のタワーマンションの建設の件ですが、沢田会長の大切なお孫さんにキャンセルだと言われました。なので申し訳ございませんが、外せるカーテンは外させていただきました。あとはキャンセル料をお願いしたいのです。」

「何? あいつが勝手にそんなことを? 」

「はい。うちの会社だけキャンセルだそうです。僕が見た限りでは悪いところはないと思うのですが。実は僕、お孫さんと中学の同級生でした。そしてお孫さんがある子に嫌がらせをしていたのですが、僕はその子をかばって、あの頃からお孫さんから嫌われていたんですよ。」

「事情は分かった。よかったら今日の昼過ぎにもう一度、カーテンを持ってきてくれないか? 」

「いいですが、それならキャンセルはわしがあいつに言い聞かすよ。」

「そうですか。わかりました。」

俺は運送会社に綺麗に梱包してもらって、全てのカーテンを現場に運ばせることにした。カーテンは高級品で、直射日光を防ぎ、防音・防寒効果もある。そして何より重要なのは、遮光性だ。外す作業にはかなりの時間と人件費がかかったので、その分は後で上乗せしてもらうつもりだ。

俺が現場に着くと、会長も来ていた。しかし新社長の沢田は、嫌な顔をして言った。

「ケト、今更何しに来た?

「あの会長に頼まれましたので、カーテンを持ってきました。」

「もういいよ。カーテンなんて、とりあえずキャンセルだから。」

その時、会長が沢田に怒鳴った。

「おい! 孫だからと思って甘く見ていたが、お前は勉強が足りない。そもそも高層ビルやタワーマンションには、火災の予防のためにも遮光カーテンは必須なんだぞ。そんなことも知らなかったのか。」

「え、じいちゃん、カーテンがなくても景色はいいし。」

「バカかお前は! これは消防法で決まっているんだ。お前の知り合いを全て探せ。すぐカーテンを取り付けるんだ。」

大変なことになった。新社長は俺に食ってかかった。

「ケト、なぜ言わなかったんだ? 」

「いや、キャンセルと言われましたので。その他のものは取り外しできませんから。それに今回のカーテンもかなりの高級品で、仕入れたのはうちですから。」

「ちっ、バカにしやがって。」

「お前も手伝え。」

「は?

なぜですか? 1度は私もカーテンをつけました。」

俺はそう言ってやった。すると会長が頭を下げた。

「ケト君、誠に申し訳ない。追加で工事費として出させていただく。こいつには謝罪させるので、どうかお願いできないか? 」

「わかりました。」

その後、会長は沢田に俺への謝罪を命じた。沢田は「どうもすみませんでした」と頭を下げた。カーテンを取り付け終わった後、会長は沢田に処分を下した。

「お前は、孫だからというだけで簡単に取り締まり役を任せてしまったが、沢田建設の社長としてはまだまだ修行が足りない。もう一度建築現場で働いて、1からやり直せ。」

「じいちゃん! そんな!

「ケト君はお前と同じ年じゃないか。なのに、とても苦労して工場で働き、その後建築士の免許も持っている。早くにお父様を亡くされて苦労しているんだ。それなのになんだ、お前は大学にも行かせてもらって、このざまは。本当に情けない。知り合いの建築会社へ頼んでおく。もう一度しっかり勉強しろ。」

新社長は会長に叱られて、感動したようだ。俺が「沢田、まあ頑張れよ」と嫌味を言うと、彼は半泣きでその場を去っていった。俺は思わずにやりとしてしまった。

設備費の売上はきちんと会長から入金された。カーテンの外しや取り付けの分も上乗せしてもらって、俺は会長と高級料亭で食事をした。

「ケト君、この度も素晴らしい設備をありがとう。あの孫があんなにバカだったとは、情けないよ。今は年下に怒鳴られて現場で頑張っているようだ。ははは。」

「いえいえ。こちらこそありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」

俺はそう頭を下げた。会長は昔話で盛り上がり、「遠慮しないでどんどん食べてくれ」と言ってくれた。美味しい和食を頂きながら、今度の結婚記念日には妻と子供を連れて来ようと思った。

その後、沢田はとうとう限界で現場をやめてしまったらしい。それからは離婚もされて、どこか知らない町へ行ってしまったようだ。

一方で俺は息子の入学式を迎え、満開の桜の中で家族写真を撮った。ランドセルは祖父からのプレゼントだ。祖母も元気で、仕事もとても順調だ。会長はもう一度社長に戻り、たくさんの仕事を回してくれている。コウ太の設計会社も順調で、会長から依頼を受けた家の設計などをしている。

学生時代は沢田のせいで嫌な思いもした俺たちだが、大人になってからそのおじい様のお世話になるとは、本当に思いもしなかったことだ。俺は祖父が作ったこの会社を、しっかり守っていこう。そう改めて思ったのだった。