嫁を五年間も納屋に閉じ込め、冷たい飯だけを毎日差し出す。それが姑の、深すぎる愛の形だったとは――あの盆の裏に隠されていた小さな紙切れと、目かけの正体が暴かれた夜、私はすべてを知った。

嫁を五年間も納屋に閉じ込め、冷たい飯だけを毎日差し出す。それが姑の、深すぎる愛の形だったとは――あの盆の裏に隠されていた小さな紙切れと、目かけの正体が暴かれた夜、私はすべてを知った。

梅雨がこの家に第一歩を踏み入れた日、姑の滝はその細い目を見た瞬間にすべてを見抜いていた。あれは目かけなどではない。抜け目のない盗すっとだと。だが証拠もなく、息子はすっかり惑わされて何を言っても聞く耳を持たない。迂闊に追い出そうとすれば、盗すっととはさらに深く身を隠すだけだ。

滝は真正面から立ち向かう代わりに、最も困難で孤独な道を選んだ。嫁にさえその胸の内を一言も漏らさず、理不尽な誤解に一人で耐えながら、盗すっとが尻尾を伸ばし切るのをじっと待ち続けたのだ。しかも滝はその道を一人だけで歩んできたわけではなかった。お千こそが滝が密かに手足として使ってきた者だった。お千は千鶴の身の回りの世話をするふりをしながら、梅雨の一挙手一投足を欠かさず滝に告げ知らせ、夜な夜な裏木戸を出入りする梅雨の様子まで探り出していた。

あの夜、千鶴が一旦家を出て実家へ戻ろうとした時、お千がにわかに真剣な面持ちで押しとどめたのも、まさに梅雨が何かを企てようとしていた矢先だったからに他ならなかった。

滝はその書面を胸に抱きながら低く呟いた。「今宵じゃ。梅雨が何もかも持ち出して逃げる日と見定めたのには訳があった」滝は兼ねてより、梅雨が夜更けに裏木戸を出入りしているのに目をつけていた。お千に命じて梅雨を密かに見張らせていたのだ。お千は物陰の向こうで交わされる密会の言葉をすっかり聞き取り、三日後の夜に梅雨が罪のすべてを書き集めて逃げ出す段取りであることまで、余すところなく知らせていた。滝はすでに数日前からすべての手を整えていた。村の大肝煎の役人に密かに人を使わし、梅雨の罪を告げておいたのだ。

さらに、あの朝、梅雨が仏間まで落とした小さな袋を、掃除の折にお千がいち早く見つけ出し、誰にも気づかれぬよう隠して滝の元へと届けていた。滝はそれをいよいよの時まで大切に取っておいた。

夜が更け、千鶴が納屋の中でうとうとと目を閉じかけた時、外にただならぬ気配が満ちてきた。いくつもの足音が土を踏み鳴らし、松明の焼ける匂いが漂い、「ご用だ! 取り囲め! 」という太い声がいくつも重なって聞こえた。千鶴は闇の中で身を起こし、耳を済ませた。何が起こっているのか分からぬまま、ただ胸の鼓動だけが早まっていった。

その頃、梅雨と達蔵が動き始めていた。梅雨はこれまで集めてきた金目の物や銀の食器を包みに詰め、千鶴に罪を着せるために使い、また取り戻しておいた証文までもしっかりと括りつけた。達蔵は物陰の外でそれを受け取る支度をしていた。

「これでこの家ともお別れですこと。姑上様も本妻様も皆々様、ご機嫌よう」梅雨は最後に奥座敷の方へ嘲るような笑みを浮かべ、包みを抱えて裏庭へと向かった。物陰の向こうに達蔵の影が揺れていた。梅雨が包みを垣根の上へ投げ上げようとした、まさにその瞬間だった。

「そこで何をしておる? 」とお言うような声が闇を切り裂いた。梅雨が驚いて振り向くと、そこには滝が立っていた。その背後には松明を掲げた村人たち、そして大肝煎の役人と捕り方たちが並んでいた。梅雨の顔がみるみる青ざめた。

「母上様、これはその…」と梅雨は口を開いた。
「その口で私を母上様と呼ぶとは、誠に憚(はばか)られることじゃ」滝は一歩前へ進み出て、手にした小さな書面を開いた。「十五日の夜、米五俵。二十日、金の簪十本。二十一日、和服と揃いの帯。全てそなたが盗み出して、あの物陰の外の達蔵とやらに渡したものじゃ」と読み上げた。「ネズミが食い荒らした祭祀に使う米。その月には祭祀などなかったぞ」滝はそう畳みかけた。梅雨の唇が震えた。

「そ、それは言いがかりにございます!

Thumbnail

私は…」と言いかけたが、滝は懐からもう一つ、あの仏間で拾われた小さな袋を取り出した。「そなたが仏間に忍び込んだ折、落としていったものじゃ。これでもまだ言い逃れをするか」と突きつけた。梅雨の顔から血の気が引いた。

滝が合図をすると、捕り方たちが物陰の外で捉えた男を引き立ててきた。他ならぬ達蔵であった。逃げようとして、あらかじめ潜んでいた捕り方たちに取り押さえられたのだ。達蔵の手には梅雨がたった今渡した包みが握られていた。達蔵は命惜しさに地面にひれ伏して、次々と白状し始めた。

「お役人様、私めはただ言われた通りに致しただけにございます! 全てはあの梅雨が仕組んだことにございます! あの女が先にこの家の財を盗もうと持ちかけ、本妻様に罪を着せようと言い出したのも、あの女にございます! 」

「何をそのようなことを!

」と梅雨は達蔵に食ってかかったが、達蔵は己の命を守るために一層梅雨を売り渡した。共に逃げようと誓い合った二人も、いざ捉えられてみれば互いを罵り合うばかりであった。

滝は懐から黄ばんだ一枚の紙を取り出した。「これは亡き夫が最後に残した書き置きじゃ」その場の全ての者が息を飲んだ。滝は震える手でその書き置きを広げ、「ここにこう記されておる。『財よりも人を守れ。財は失うても再び得られようが、人を失えば家をも失う』と。我が夫はすでに全てを見通しておられたのじゃ。いつかこの家の財を狙う者が振りかかることを。それ故、何よりもまず人を、我らの家の者を守れと遺された」と読み上げた。滝の声が震えた。

「私はその遺言を守り、あえて厳しい姑となる道を選んだ。そなたのような盗すっとが本妻に罪を着せられぬよう、あの子から遠ざけ、台所で下働きする身の上とし、我が刃の先から逃れさせておいたのじゃ。私がいかに本妻に罪を着せようとしたところで、蔵にさえ出入りできぬ者が、どうして蔵の品を盗めようか」

梅雨はそこでようやく全てを悟った。滝が本妻を憎んでいたふりをしていたのは、本妻を守るための策略であったのだ。梅雨は歯を食いしばった。滝が最後に厳しく「我が罪は我が承知の上じゃ。盗みに濡れ衣、家を潰そうとした罪まで、どもこの罪人を捕らえよう」と言い放った。その瞬間、梅雨はもはや言い逃れのできぬことを悟った。捕り方たちが迫ると、梅雨は手にした包みさえも投げ捨てて、必死に逃げようとした。だが、今度は物陰の外にもあらかじめ見張りが廃されており、梅雨は数歩もいかぬうちに待ち構えていた捕り方に取り押さえられた。達蔵も縄を打たれ、大肝煎へと引き立てられていった。

後日、大肝煎からの沙汰が下った。達蔵は盗みと計らいの罪により牢屋行き。梅雨は所払いの刑に処されたと村人たちの間に伝わった。

夜が開けると、納屋に閉じ込められていた千鶴が解き放たれた。村人たちが納屋の戸を開き、千鶴を支えて奥座敷へと連れて行った。わけも分からず、千鶴はただ呆然とするばかりだった。「一体どうしたことじゃ? 私はどうして…」とそこへ置いたお千が駆け寄り、千鶴を抱きしめて声を上げて泣いた。

「奥様、奥様の潔白がすっかり明らかになりましてございます! あの狐のような女こそ盗すっとであったのです! 御隠居様が、御隠居様が全てを暴いてくださいました!

千鶴にはまるで信じられなかった。あれほど自分に厳しく当たっていた姑が、自分の潔白を明らかにしたというのである。お千は涙を拭いながら、これまでの全ての経緯を千鶴に語って聞かせた。滝が梅雨を初日から盗すっと見抜いていたこと。千鶴を守るためにわざと厳しく扱ったこと。それが全て、梅雨の刃の先から千鶴を逃すための深い試案であったこと。一人蔵にこもっては嫁を守りたいと祈っていたこと。その全ての厳しい振る舞いが、嫁を生かすための孤独な戦いであったこと。

そして最後に、お千は声を落とし、少しばかりためらいがちに言った。「奥様、それにこのおい惚れも、実は御隠居様のお指図なくば、口を割っておりましたでしょう。梅雨の一挙手一投足を御隠居様にお知らせし、あの夜達蔵との密会を見つけたのもこのおい惚れにございます。奥様には黙っておりましたこと、どうかお許しくださいませ」

千鶴は驚きに目を見開いた。「そなたまでもが…」と千鶴が言うと、お千は「はい、奥様。それほどまでに御隠居様は奥様をお守りになりたかったのでございます」と答えた。千鶴の両の目から大粒の涙がこぼれ始めた。信じ切っていた者までもが、実は姑の深い謀計の一部であったと知って、千鶴の胸にはこれまでとは違う、一層深い驚きと安堵が同時に押し寄せた。

まさにその時、奥座敷の戸が開いて滝が入ってきた。滝はいつものように冷たい顔つきであったが、その手には何かが握られていた。小さな守り袋であった。滝はそれを千鶴の前にそっと置き、「開けてみよう」と言った。千鶴は震える手でその守り袋の口を開いた。その中には、幾重にも折りたたまれた紙切れが何枚も入っていた。紙を広げると、そこにはこう記されていた。

「この家の奥方はそなたじゃ。今しばらく耐えてくれ」

千鶴の手がわなわなと震えた。滝は背を向けたまま、震える声で言った。「そなたに飯を差し上げるたびに、あの盆の裏にこれを忍ばせておいたのじゃ。そなたが見て、気を確かに持ってくれればと。だが…そなたは悲しみに臍(へそ)を曲げるばかりで、一度として盆の裏を確かめようとしなかった。それで私はそれをまた取り戻し、こうして一つ一つ集めておいたのじゃ。言葉では伝えることができなんだ。誰かに聞かれて、梅に漏れてはと恐ろしかったゆえに」滝の方が震えていた。「すまなかった。そなたをあれほど厳しく扱わねば、そなたを生かすことができなんだのじゃ。厳しい姑になるより他に、頑なな息子からそなたを守る術がなかったのじゃ」

しばしの沈黙の後、滝はさらに続けた。「守るためとはいえ、そなたの心を傷つけた罪は消えぬ。許せとは言わぬ。ただ、生きていてくれてよかった」千鶴はそこでようやく全てを悟った。その冷たい飯の盆の裏に、それほどまでに温かい心が隠されていたこと。姑のあの厳しい言葉と振る舞いの全てが、自分を守るための情けであったこと。

「母上様! 」千鶴は滝に歩み寄り、その手を取って抱きしめた。「母上様、私は…私は母上様をお恨みいたしておりました。無情な方だと、そう恨んでおりました。それも知らずに…」千鶴はついに声を上げて泣き崩れた。これまで堪えしのんできた悲しみと、遅れて知った姑の深い愛情とが一度に溢れ出たのである。「ありがとうございます、母上様。誠にありがとうございます。この恩をどう返しすればよいのか」千鶴はそう繰り返した。滝もこれ以上冷たい顔を保つことができなかった。滝は嫁を抱きしめ返し、共に涙を流した。

「いいや、私の方こそ…。あの厳しい修行を耐えてくれたそなたこそ、あっぱれじゃ。良い子じゃ」滝はそう言った。五年の歳月を隔てていた氷が、その時二人の間で春の雪のように解け落ちていった。亡き夫が願って病まなかったとおり、血よりも濃い情けがついに二人を一つに結びつけたのであった。

その一部始終を部屋の片隅で見つめていた者が一人あった。他ならぬ夫の新之助である。新之助はとても顔をあげることができなかった。梅雨の偽りに惑わされ、五年連れ添った妻を盗すっと決めつけ、納屋に閉じ込めるところまでしてしまったのだ。母の深い試案にも気づかず、目かけの言いなりになった自分が限りなく恥ずかしく思われた。新之助は千鶴の前に歩み寄り、ゆっくりと膝をついた。妻は驚いて新之助を見つめた。

「旦那様、どうして膝を…」と千鶴が言うと、新之助は「わしは、取り返しのつかぬ過ちを犯した。愚かにも目かけの偽りに目が眩み、そなたの真心を疑うてしもうた。五年もの間、変わることなくこの家に尽くしてくれたそなたを盗すっと決めつけて、納屋まで閉じ込めるとは。一体どの面下げてそなたに会えようか」新之助の目から涙がこぼれた。「すまぬ。すまぬ。誠にすまぬ。どうか、この愚かな男を許してくれ」新之助は続けた。

千鶴は何も言えなかった。胸のうちには様々な思いが渦を巻いていた。悲しみもあり、恨みもあった。だが、膝をついた夫の真心からの悔いを前にして、千鶴の心も揺れ動いた。新之助は顔をあげて千鶴を見つめ、「妻よ。わしはもう後継ぎのことも、この家のことも望まぬ。そのような血筋など、一体何であろうか。わしはただ、そなた一人がいてくれればそれで良いのじゃ。二度とそなたを寂しい思いにはさせぬ」と言った。思いもよらぬ言葉であった。後継ぎのためにと目かけを迎えたその人が、今や血筋すら望まぬというのであるから。千鶴はしばらく黙っていた。そしてやがて静かに「旦那様のお心はよくわかりました。ですが、私に今しばらく時をくださいませ。じっくりと考えてみます」と言った。新之助は頷いた。千鶴の心が一晩で解けるものではないことを、新之助自身よく承知していたのである。

数日の後、千鶴は新之助を前にして「今一度だけ、お疑いを信じます。ただし、三つだけ条件がございます」と切り出した。「まず、二度と目かけを置かぬこと。次に、この家の家計は今後私一人が差配すること。そして、疑わしきことがあれば、まず誰よりも先に私の言葉に耳を傾けること。この三つをお約束いただけますなら」千鶴は続けた。新之助は幾度も頷き、その全てを固く約束した。

その日から幾日もの間、新之助は言葉ではなく行いを持って千鶴に真心を尽くした。夜明けには千鶴より先に起きて火を起こし、水を汲み、千鶴が重いものを持てば真っ先に駆け寄って手を貸した。家の格式をかなぐり捨てて、ひたすら妻を大切にした。その姿に千鶴の固くなっていた心も、少しずつほどけていった。

こうして最上屋敷には再び穏やかな日々が戻ってきた。千鶴は奥方の座に戻り、姑とは実の母子よりも睦まじい間柄となった。二人は共に膳を整え、共に仏間を守った。もはや冷えた飯はなかった。同じ机で温かい飯を開け合うようになったのである。

新之助は約束を守り抜いた。一年が過ぎても、その真心は微塵も変わらなかった。妻を大切にし、母を敬い、己の愚かさを幾度も悔い改めた。

そうして一年が過ぎた、ある春の日のことであった。千鶴が朝の支度をしていて、にわかに吐き気を催した。傍にいたお千が驚いて千鶴の様子を確かめると、すぐに両手を握りしめて顔をほころばせた。「奥様、これは…これはおめでたにございますよ! 御子が宿ったのです!

」と言った。その知らせを聞いた滝が飛んでやってきた。あれほど厳しかった姑は、嫁の手を握りしめて涙ぐんだ。「よかった、よかった。千鶴は誠に立派じゃ。この家に慶事が訪れたぞ」と喜んだ。新之助は喜んで千鶴を抱きしめ、「妻よ、嬉しく思うぞ。だが、子がおらずともわしの気持ちは同じであったろう。わしにとっては、そなたこそ何よりの宝じゃ」と耳元で囁いた。だが、その子が授かる前から千鶴はすでにこの家の宝であった。こうなったからではなく、五年の間変わることなくこの家を支え続けてきたその真心の故に。千鶴の目に幸せの涙が浮かんだ。五年もの間、子がないという理由で辛い思いをしてきた女が、今や家中の慈しみを一心に受ける奥方となったのである。

後に千鶴は玉のような男子を生み、最上家の家計は耐えることなく続いていった。だが、人々が長く語り継いだのは、その絶えなかった血筋のことではなかった。あえて厳しい姑となり切って嫁を守り抜いた滝の深い知恵と、その理不尽な扱いを恨みにもせず耐え抜いた千鶴の真心であった。

歳月が流れたある日、年老いた姑が千鶴の手を取ってこう語ったという。「なあ、千鶴。わしがいつも言うておることを覚えておるか。『血は水よりも濃し。されど、情けは血よりも濃いものじゃ』。血筋で結ばれた者が家族ではなく、情けで結ばれた者こそ、誠の家族なのじゃ。そなたとわしのようにな」千鶴はその言葉に晴れやかに笑い、姑の手を一層固く握り返した。

膳を乗せた盆の裏に隠されていた温かい情けが、ついに一つの家族を救い、一つに結びつけた物語。これが日立の国のとある村に今も語り継がれている昔語りである。