「ごめん、遅くなっちゃった。久しぶりだね」
そう言って車から降りてきたのは、かつての盟友・まなみだった。彼女の後ろには、いかつい男たちが続々と続いている。どうやら彼女は夫の部下たちを連れてきてくれたらしい。
「あんた、一人で片付けてたの?私も久々に暴れたかったのに」
「ふふ、あんたたちが来る前にだいたい終わらせちゃったわ」
私がそう答えると、まなみはニヤリと笑った。彼女は昔から勘が鋭い。この場の状況を瞬時に理解したようだ。
「それで?こいつらがあなたの家族を襲った連中なんでしょ?」
「そう。私の大事な夫と娘を傷つけたんだから、許せないわ」
まなみは夫の部下たちに指示を出し、残っていたヤザ集団を袋叩きにさせた。情けないことに、彼らは本当のヤザではなく、ヤザに憧れるチンピラだったようだ。
「お前たち、マジで弱すぎてびっくりよ。全然相手にならないわね」
そう言って笑う私たちをよそに、次々と倒れていく男たち。すると、リーダー格の男・近藤が必死に叫んだ。
「もういいだろ!旦那と子供は解放するから勘弁してくれ!金もいらないから!」
「金って、まさか身代金も要求してたの?」
「そうなのよ。お年玉払えば解放するって言われたの。完全に舐められてたみたい」
「今時のヤザってそんなことまでするのね。本当に呆れるわ」
私とまなみは顔を見合わせ、どうやって彼らをさらに後悔させてやろうかと考え始めた。しかし近藤が突然立ち上がり、ポケットから銃を取り出した。
「てめえら、どこまで俺を舐めてんだよ!」
彼は銃を私の胸元に突きつけた。夫と娘が息を呑むのがわかった。
「大丈夫よ、あなた。どうせ打てやしないんだから」
「本当にそう思ってるのか?この銃はおもちゃじゃねえんだぞ!」
次の瞬間、まなみが後ろから近藤に拳を叩き込んだ。地面に膝をつく近藤から落ちた銃を拾い上げ、私は彼の頭部に突きつけた。
「な、何してんだよ!早く下ろせ!」
「いやよ。だってあなたは私の大事な夫と娘を傷つけたんだもの。あなたには消えてほしいの」
「ま、待ってくれ!やめてくれ!」
その時、また車が近づいてきて私たちはライトで照らされた。またしてもヤザのような風貌の男たちが降りてくる。
「あら、姉貴が来たみたいね。あんた、救われたわね」
やってきたのは、私が幼い頃から知っている姉貴こと、峰岸組の組長だった。彼女は私がまだ子どもだった頃、知らない土地で孤独に苛まれていた私を本当の姉のように守ってくれてきた人物だ。
「遅くなったわね。こいつがアズサを困らせてるやつ?」
「そうなの。この人たちには思い知らせてあげてって言ってあるの」
「おい、まだそんなこと言ってんのかよ!もう十分やられただろ!」
「何言ってるの?私が今来たばかりなのに、もう帰るつもり?こっちは部下たちも連れてきたんだから。あんたらが相手して楽しませてやりなさいよ」
姉貴の一言で、部下たちがヤザ集団に襲いかかった。彼らは立ち上がっては倒れ、立ち上がっては倒れ、を繰り返す。近藤は何とか逃げ出そうと画策していたが、姉貴に見つかってしまった。
「あんた、どこへ行くつもり?私の相手がいないんだけど。もちろん、あんたが相手してくれるんでしょ?」
「な、なぜ俺が相手をしなきゃいけないんだ!」
「そうね。じゃあこうしましょう。あんたが私に勝ったら助けてあげる。もちろん、あんたのお願いも何でも聞いてあげるわ。悪い話じゃないでしょう?」
「本当に俺が勝ったら見逃してくれるんだな!」
「ええ、いいわよ。私に勝てたらの話だけどね」
近藤は意気揚々と姉貴に立ち向かったが、その動きは素人同然。姉貴は冷静に攻撃をかわし続ける。
「てめえ、逃げ回ってるだけじゃねえか!本当は弱いんだろ!」
「あんた、さっきからうるさいわね。いいわ、あんたも疲れてるみたいだからここらで終わりにしてあげる」
そう言って姉貴が放った一発が、近藤の顔面に炸裂した。その場にいた全員が息を呑む。たった一撃で、近藤は完全に沈黙した。
「どうしたの?悔しすぎて言葉も出ないの?」
姉貴は部下に近藤たちの身元を調べさせ、彼らが「一ヶ谷組」という組に所属していることを突き止めた。最初は否定していた近藤も、姉貴がタバコの火を目に近づけると、あっさり白状した。
「わかった!わかった!俺は一ヶ谷組だ!もうやめてくれ!」
「最初からそう認めればいいのよ。どうせ分かることなんだから」
泣きじゃくる近藤の姿は、もはや威風堂々としたヤザの面影など微塵もなかった。
「じゃあ、あんたらも一ヶ谷組って認めたことだし、全員その組を潰すわよ。当然のことよね」
「お前に何の権限があってそんなこと言えるんだ!組の人間でもねえくせに!」
「ええ、そうよ。私は峰岸組の組長をしているの。一ヶ谷の組長なら会ったことあるし。私が言えば従うしかないと思うけど」
峰岸組の名前に、近藤たちの顔色が一瞬で青ざめた。
「そ、そんなまさか…」
「自業自得でしょ。こんな日にこんなことをするからバチが当たったのよ。私はあんたらが苦しんでくれればそれでいいの」
そうして姉貴は近藤たちに夫と娘の治療費、そして友人たちに来てもらったお礼として合計5000万円を支払うよう要求した。しかし近藤は激怒して拒否する。
「てめえの旦那が勝手に手を出してきたからこうなったんだろ!治療費なんか払うつもりはねえ!」
「あんた、まだ自分の状況がわかってないようね。お金も払わないって言うなら、やっぱり消えてもらうしかないわ」
そう言って私は再び銃を手に取り、近藤の後頭部に突きつけた。夫と娘が見ている前で、本当に撃つつもりだった。
「ま、まさか本気でやる気か!旦那も娘も見てるんだぞ!」
「全員消すから問題ないわ。もちろん、誰にもバレないように処理もしてあげる」
こいつらだけは本当に許せない。そう思った私は、引き金に指をかけた。
「助けてください!俺が悪かった!お願いだ!命だけは!」
命の危険を悟った近藤は、声を震わせて泣きながら許しを乞うてきた。ようやく本気が伝わったようだ。私は銃を置き、彼を投げ捨てた。
「お前ら、こいつら全員連れて行きな。処分は任せておくわ。金もきっちり回収するから」
姉貴とまなみ、そして部下たちがゾロゾロと帰っていく。近藤たちがどこへ連れて行かれるのか、私は知らないし、知る必要もない。
「助けてくれるんじゃなかったのか…」
近藤のその言葉を最後に、ヤザ集団は夜道へと消えていった。
その後、一ヶ谷組は解散こそ免れたものの、峰岸組の監視下に置かれることとなった。近藤たちは貯金をかき集めても5000万円には届かず、組に借金を背負うことになった。表の世界に出ることも許されず、命がけの仕事を休みなく課せられる、生き地獄のような日々を送っているらしい。
私は荷物をまとめ、離婚届を夫と娘の前に差し出した。
「どうしたの?こんな書類を持ってきて。それに、そんな大荷物でどこかに行くつもり?」
「ずっと隠し事していてごめんなさい。私、ヤザの元女若頭だったの。離婚されても当然だと思ったから」
「なんだ、そんなことを気にしていたのか。君にどんな過去があろうと、君が僕の妻であり、娘のお母さんであることに変わりはないんだ。君がいてこその僕たち家族だよ」
そう言って夫は、目の前で離婚届を破り捨てた。私は涙が止まらなかった。
その後、私たちは近藤たちから支払われた5000万円から治療費を差し引いた3000万円で旅館の宴会場を貸し切り、まなみや姉貴、その部下たちを招いて新年会を開いた。夫と娘は、まなみや姉貴から聞いた私の過去の話を面白おかしく聞かされている。もう、家族に秘密はない。今日も私は晴れやかな一日を過ごしている。


