あの日、62人の前で専務は平然と言った。「代わりはいくらでもいる」。私は設備部長として40年、この工場の電気を守ってきた。6万6000ボルトを監督できる資格を持つのは私だけ。その私が、追い出されることになったのだ。だが、それ以上に衝撃だったのは、その翌日に起きた出来事だ。工場の配電盤に細工が施され、私が事故を起こしたと責任を押し付けられそうになった。私は誰も知らない証拠を握っている。それは、…

あの日、62人の前で専務は平然と言った。「代わりはいくらでもいる」。私は設備部長として40年、この工場の電気を守ってきた。6万6000ボルトを監督できる資格を持つのは私だけ。その私が、追い出されることになったのだ。だが、それ以上に衝撃だったのは、その翌日に起きた出来事だ。工場の配電盤に細工が施され、私が事故を起こしたと責任を押し付けられそうになった。私は誰も知らない証拠を握っている。それは、...

専務が62人を前に、平然と「お前は広角で移動だ」と言い放ったのは、3月の寒さがまだ残る昼下がりだった。代わりはいくらでもいる、とも。俺は設備部長の室井、58歳。工業高校からこの産業用部品メーカーに入って40年、工場の電気設備を一手に預かってきた。俺の仕事は朝7時に敷地の隅の立屋へ入ることから始まる。ここに電力会社から6万6000ボルトの総電線が一本引き込まれていて、変圧器で電圧を下げて工場全体へ配っている。系統は一本きりで、半分だけ止めて残りを動かすことはできない。止めるなら全部止まる。

この設備を監督する者を会社は国に届け出る。届け出のない工場は電気を使えない。監督に必要な国家資格には上限があり、5万ボルト未満までと、その上を監督できるものの二段階に分かれている。俺がこの資格の勉強を始めたのは25年前、夜勤明けに図書館へ通い、三度落ちて四度目で上の資格を取ったのが20年前だ。その年に前任の責任者が工場を去り、届け出に俺の名前が入った。本社からの誘いは三度あったが、全て断った。届け出者はその工場に常駐する必要があり、勤務地が変われば届け出も書き換えなければならない。しかし、書き換えようにも俺の代わりに入る名前がない。

車内で資格を持つ者は他にもいるが、全員が5万ボルト未満までで、その上を監督できる者はいない。設備部の係長である深沢にも上の資格を受けるよう言ってあるが、去年の秋に受けて落ちた。深沢が合格するまでは、この工場を監督できるのは俺一人だけだ。年に一度、工場の電気を全て止めて点検する日がある。止めなければ配電盤の蓋を開けて点検できないからだ。点検の間隔は国に届け出た保安規定にあり、前の点検から一年を超えてはならない。どの日に点検するかは俺が決め、各部署へ先に伝える。この20年、俺がこの工場を止めたのは点検の日だけだ。故障で止めたことは一度もない。褒められたこともないし、それでいいと思っていた。

今回の点検は前の年の秋に計画を作り、生産部へ渡した。点検日は3月の第3日曜に設定した。前の点検は3月20日で、今年はその日より前に来る日だ。毎年その週で日曜を選ぶのは、動いている製造ラインが最も少ない曜日だからだ。秋に計画を渡した時は何も言われなかった。しかし、その年の暮れから事情が変わる。大口の契約が決まり、ラインは日曜日も平日同様に稼働するようになったのだ。作業員も足りず、機間庫を入れることになった。採用と入行の手続きは総務の仕事で、年明けから本社で総務部長を務める岡島が工場へ通っている。

俺が渡した点検計画をもとに、生産管理部が点検日前後のラインの割振りを組み換え、年内には出来上がった稼働日程表をこちらへ戻してくるのが通例だった。しかし今年は年が開けても、点検日を反映した日程表が戻ってきていない。2月に入ってこちらから生産管理部に出向くと、担当者は機関工を組み込んだ稼働表を開いたまま言った。「この期間は1日もラインは止められません。どうしてもと言うなら、相談してください」

「点検は規則で決まっています。規則を破れというんですか?」

担当者は目を逸らした。日程を組み直すのではなく、組むものを変える。胸方は何も分かっていない。日程を組み直せる者がいるかどうかの話ではない。我が社で資格を持つ者のうち、工場で扱う6万6000ボルトを監督できるのは私だけだ。外部の業者に委託しようにも、7000ボルトまでの事業に限られる。俺が説明を続けると、会議室に小さくどよめきが起きた。

「法定点検を伸ばすなんてできるのか?」

その声に、答えを求めているのは腹の探り合いだと分かった。俺はゆっくりと席を立ち、全員を見渡した。

「点検を伸ばすことはできません。それは法律違反です。もし点検を伸ばしたなら、この工場は電気を使えなくなる。それはつまり、全ラインが止まることを意味します」

専務の顔色が変わった。俺は続けた。

「私はこの工場の設備を守る責任があります。規則を破ってまで、仕事を続けるわけにはいきません。どうしてもと言うなら、私はここを辞めるしかありません」

会議室は静まり返った。誰も口を開かない。この20年、俺は一度も会社を裏切ったことはない。しかし、それでも譲れないものがある。法律を破るわけにはいかないのだ。

その時、携帯が震えた。工場から緊急の連絡だ。

「室井部長!配電盤から異音がします!」

俺は会議室を飛び出した。走りながら、深沢に連絡を入れる。

「すぐに立屋へ来い。異常がある」

立屋に着くと、配電盤のメーターが振り切れていた。異音は確かに聞こえる。これは単なる故障ではない。何かが根本的に狂っている。

俺は深沢に指示を出した。

「系統を全部止めろ。今すぐだ」

深沢は驚いた顔をした。

「部長、止めたら全ラインが止まりますよ」

「止めるんだ。法律よりも、人の命が大事だ」

俺は必死で対応を進めた。しかし、その時点で深刻な事態になっていることは分かっていた。これは偶然ではない。誰かが意図的に何かを仕組んだのか?

その後、調査が始まり、原因が判明する。配電盤に細工がされていたのだ。誰かがわざと異常を起こさせようとした。その証拠を掴んだ。

俺は真実を突き止めるため、その日の夜も工場に残った。誰が何のためにこんなことをしたのか。思い当たるのは、この工場を止めようとしている者がいるということだ。もしかすると、専務の指示かもしれない。この工場を切り離して、俺を追い出そうとしているのか。

翌朝、俺は静かに決意を固めた。このまま黙って去るわけにはいかない。必ず真実を明らかにする。利益のために法律を破り、設備を壊してでも、この工場を止めようとした者を告発する。俺は資料をまとめ、国へ提出する準備を始めた。深沢には何も言わなかった。これは俺一人で戦うべきことだ。

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