「どうせボタンを押すだけの単純作業だろ」――有名企業から転職してきた新部長が、20年工場で技術を磨いてきた俺の仕事を鼻で笑った。見下す態度に我慢ならず意見したら、今度は嫌がらせが始まった。無理な注文を押し付け、工場の仲間たちにまでとばっちりが及ぶ。辞めるしかないのか…そう覚悟を決めた矢先、工場長が俺に意外な提案をした。「お前はすぐに辞める必要はない。あの原の嫌がらせを止める方法がある」――そ…

「どうせボタンを押すだけの単純作業だろ」――有名企業から転職してきた新部長が、20年工場で技術を磨いてきた俺の仕事を鼻で笑った。見下す態度に我慢ならず意見したら、今度は嫌がらせが始まった。無理な注文を押し付け、工場の仲間たちにまでとばっちりが及ぶ。辞めるしかないのか…そう覚悟を決めた矢先、工場長が俺に意外な提案をした。「お前はすぐに辞める必要はない。あの原の嫌がらせを止める方法がある」――そ...

「どうせボタンを押すだけの単純作業だろ。」
部長が鼻で笑った。有名企業から転職してきたという彼は、工場で働く俺たちを見下していた。その言葉に我慢ならず意見をしたのが間違いだった。次の日から、俺は部長の標的になった。

「おい、高野。お前の仕事なんて誰にでもできるんだ。さっさとやめろ。それが皆のためにもなるんだ。」

部長は様々な嫌がらせを始めた。工場に圧力をかけ、仕事を引っかき回す。そのせいでとばっちりを受け、体を壊す社員まで出てきた。

俺が工場にいる限り、部長の嫌がらせは続く。これ以上、工場の皆に辛い思いをさせるわけにはいかない。

「分かりました。私は退職させていただきます。」

「望むところだ。やっと分かってくれたか。お前なんかいなくても痛くも痒くもない。」

部長は満足そうに高笑いを響かせた。俺を辞めさせたことで、この男がどれほどの代償を払うことになるのか。そんなことは微塵も想像していないだろう。

俺は高野裕介。高校卒業後、工業用部品の製造会社に就職し、製造部の工場で働き始めて20年近くになる。ものづくりが好きで、休日も返上で技術を磨き、複数の特許商品を生み出してきた。工場長からの信頼も厚く、限られた者しか扱えない特殊機械の操作も任されている。

ある日、営業部の部長が定年退職し、後任として原部長が工場見学にやってきた。

「ふーん。もっと汚いところだと思っていたが、三流企業の工場にしてはマシな方だな。」

原部長は嫌味な薄笑いを浮かべ、工場の中をうろついている。

「工場の作業員さんたちはいいよな。ここでちまちま働いていれば給料がもらえるんだから。俺たち営業部はあちこち駆け回って契約を取り付けたり、苦労が絶えないよ。」

初めて来た工場だというのに、見下した態度を隠そうともしない。その場にいた全員が呆れた。

「なんだ、今度の営業部長は。うちの会社を三流だの、工場員はちまちま働いているだのと。随分失礼じゃないか。」

「ああ、全くだ。やり手の営業マンだという噂だが、人をバカにしていて感じが悪いな。」

「あれだけ会社や工場員を嘲笑ったんだ。当然だろう。」

原部長は工場見学もそこそこに、すぐに帰ってしまった。俺は彼の言葉がどうしても許せなかった。あの言葉は、俺自身の仕事人生を否定されているように聞こえた。

それから一ヶ月ほど経ったある日のこと。朝、電話が鳴った。

「注文が入ったぞ。自動車用パネルライトを今週中に2万個だ。注文書を送っておく。頼んだぞ。」

原部長からだった。明らかに無理のある納期だ。

「あの、突然2万個と言われましても、そんな短期間では無理ですが。」

「クライアントからの急ぎの注文だ。お前たちは俺たち営業がどれだけ大変な思いで注文を取り付けたか分かっているのか?」

無理を承知で押し付けられた注文。工場の皆は必死に働き、何とか納期に間に合わせた。だが、それで終わらなかった。原部長はその後も度々工場に現れては、無理な要求を繰り返すようになった。

「今日は工場の人数が少ないな。どうしたんだ? みんな高卒のお前に愛想を尽かしたか? まあ、いい。お前は俺の言うことを聞いていればいいんだ。」

耐えられなかった。俺は工場の皆を守るために辞めることを決めた。だが、退職の手続きをする前に、工場長が俺を呼び止めた。

「高野、ちょっと話がある。」

工場長の顔は真剣だった。俺は何か言われるのかと思ったが、工場長から出た言葉は予想外のものだった。

「お前はすぐに辞める必要はない。あの原の嫌がらせを止める方法がある。ただし、俺の言うことを聞いてくれ。」

その時はまだ、工場長の言葉が何を意味するのか分からなかった。ただ、これで終わらないことを予感した。

それから数日後、俺は再び工場に足を踏み入れていた。原部長は俺を見て驚いた顔をした。

「おい、まだいたのか。辞めたんじゃなかったのか?」

「申し訳ありません。やっぱり辞められなくなりました。工場長から辞令が出たので。」

俺が差し出した紙を見て、原部長の顔色が変わった。そこには「製造部 主任 高野裕介」と書かれていた。さらに、その下には「特別プロジェクト責任者」の文字。原部長は俺の昇進に衝撃を受けていた。

「な…何だこれは! お前が主任だと? ふざけるな!」

「工場長からの指示です。このプロジェクトは会社の命運を左右する大事な仕事です。他の誰にも任せられないと。」

俺は静かに告げた。原部長は顔を真っ赤にして怒鳴ったが、もう遅い。俺は正式に製造部の主任となり、特別プロジェクトの責任者に任命された。原部長の嫌がらせは続いたが、今の俺には立場があった。

そして、そのプロジェクトが会社に巨額の利益をもたらした時、原部長の立場が逆転した。営業部の数字が伸び悩む中、製造部が会社の収益を支える存在になったことで、社内の評価が大きく変わった。原部長は次第に孤立していき、俺への嫌がらせも鳴りを潜めていった。

数ヶ月後、原部長は別の会社へ転職していった。その噂を聞いた時、工場の皆はホッと息をついた。あの男がいなくなった工場は、以前の静かな日常を取り戻した。

だが、俺の心の中には、あの日の工場長の言葉が残っていた。

「高野、お前は技術だけでなく、人の心を動かす力がある。それを忘れるな。」

俺はこれからもこの工場で、ものづくりを続けていく。あの男に負けないためではなく、俺自身の信念を貫くために。

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